「あら、水瀬くん。遅かったわね」
「ごめんごめん、購買が混んでてさ。はい」
ミックスサンドとミルクティーを差し出す。
「ありがとう」
「どういたしまして。それで、話ってなに?」
昼食場所をわざわざこの中庭にしたのは、他人に話の内容を聞かれたくないためなので、少しばかり声をひそめる。
「うん……もう気づいていると思うけれど、私、クラスに馴染めてないの。朝は大船に乗ったつもりでいてなんて、水瀬くんに嘘ついたの。本当にごめんなさい!」
そう言って頭を下げる羽々音さん。
「頭を上げて、羽々音さん」
「…怒って、ないの?」
「怒ってはいないよ。それで、羽々音さんはどうしたいの? クラスメイトと打ち解けたい?」
「…私、こんな脚でしょ。入学当初からクラスに馴染めなかった。事務的な会話と義務的な行動をするだけだった。姫城さんはそんな私を気にして話しかけてきたわ。でも私、素直じゃないから『放っておいて』って言ったの。そしたら他のクラスメイトが怒り出して、あとは売り言葉に買い言葉の応酬。結果、見事にハブられたわ。…私だって仲のいい友達を作りたい。だけど、どうしても脚のことが気にかかって素直になれないの」
「…羽々音さんはさ、自分が不幸だと思う? 確かに不幸ではあるだろう。原因は知らないけど、聞いた感じだと先天性ではないんだろ。元気に動き回れた自由な身体を、突然奪われたんだろう。それは実際にそうなった羽々音さんしか分からない苦しみだ。ーーーだが、自分だけが不幸だと思っているのが気に入らない」
「…え?」
「言い方は悪いけど、まだ
「そ、そんな風に言わなくても!」
「ーーーだから、君はまだ間に合う。まだ取り返せる域にいる。それを自ら放棄するのは、君以上に不幸な人への冒涜だ」
そして僕は、今にも泣きそうな羽々音さんの頭を撫でた。
「今はまだ、自分の不幸を嘆いていい。でも明日からは少しでも前を向こう。ーーー今まで辛かったね。頑張ったね」
「う、うわぁああああーん!!」
羽々音さんは僕の胸に抱きついて、大声で泣いた。
この時ばかりは、僕も他人の視線を気にする余裕はなかった。
……ちょっとばかり本音を晒し過ぎたかな。
羽々音さんのいかにも『私、不幸です』的な雰囲気が気に食わなかったのは事実だ。
というか、発言の九割以上が本音である。
最後の励ましだけ取って付けた言葉だけど。
羽々音さんに抱きつかれながら昼休み終了のチャイムを聞いていたが、まあ、彼女を保健室に送ってから教室に戻っても大差ないだろう。
中庭から見上げた空は、嫌なほど澄んだ青空だった。
その後。
なんとか泣きやんだ羽々音さんを保健室まで送り届けてから教室に戻ると、赤毛が「羽々音さんを泣かせたって本当⁉︎」などと詰め寄って来たが、さすがに本人の許可なしに事の次第を話すわけにはいかないのでノーコメントを貫いた。
赤毛がしつこいので、放課後羽々音さんを交えて話すと言っておいた。