「皆さんはじめまして。この度トビウオ荘の寮母をすることになりました、水瀬碧です。いたらない所もあるかと思いますが、よろしくお願いします」
…パチ、パチ…。
気休め程度の拍手が、約1名(痴女)から鳴った。
あとの住人からは戸惑いの視線が送られてきた。
「えー、皆さんの戸惑いは分かります。なんで男が〜とか、自分たちと同年代じゃないか〜とか。ですが、前の寮母さんが倒れてから生活が不便になっているでしょう。食事や寮内の設備など。また、前の寮母さんはご高齢でそれらの仕事も大変だったようですね」
そのせいで倒れた、というのもあるがそれは黙っておく。
「とにかく、早急に新しい寮母が必要なのは皆さん分かっていることと思います。ですがこの寮は古く、この際取り壊してしまう、なんて意見も出ていました」
寮生達がざわつく。
「そこで手を挙げたのが私の母でした。母は不動産関係の仕事をしているのですが、顔が広く、ここの寮母さんや恵風学園の学園長とも古くからの知り合いらしいです。そして寮母としての仕事ができる、手の空いている人材として私に白羽の矢が立ちました。この寮を存続させるには新しい寮母が必要です。性別や年齢など、皆さんが納得できないところもあるかと思いますが、この寮の存続のためにそこをなんとか収めていただきたいのです。ーーー話が長くなりましたが、皆さんに迷惑をかけないように努めますので、どうか新しい寮母として認めていただけませんでしょうか」
僕は立ち上がり、45度に腰を曲げてお辞儀をした。
口ではなんか良いことを言っていたが、本音を言えばこの寮が廃寮になろうがなんとも思わない。
だが、この先この寮と恵風学園が舞台の中心になっていくのは間違いない。
それをわざわざ潰して未来を不確定にするのは、あまり頭の良いことだとは言えない。
なのでここは、僕が将来引きニートになるために、という純粋な思いを乗せてお辞儀をした。
…パチ、パチパチパチパチ!!
思いが通じたのか、寮生たちはひとり、またひとりと拍手をしていき、ついには全員が拍手をしてくれた。
「ありがとうございます。それでは寮母としての最初のお仕事をしたいと思います。皆さんに自己紹介をしてもらい、顔を名前を覚えたいと思います。これから寝食を共にする皆さんと早く仲良くなりたいですしね」
「はいはーい。じゃああたしからするねー」
そう言って痴女が立ち上がった。
「
痴女 は 痴女(変態) に ランクアップ した!
「個性的な自己紹介ありがとうございます。では次の方どうぞ」
「あ、あれ? スルー? スルーなの? スルーしないでよ〜冗談なんだから〜」
いや、あんたが言うと冗談に聞こえないから…。
そこからは普通に自己紹介が始まり、ラストひとりーーー羽々音さんの番になった。
「羽々音小鳥、です。よろしくお願いします」
「小鳥ちゃーん、それだけー? もっとアピールしないと碧くん誰かに取られちゃうよー?」
黙れ痴女(変態)。
「っ!? えーと、えとえと、しゅ、趣味は読書です! ……こんな脚だから色々と迷惑かけると思うわ。ゴメンね、水瀬くん」
んー。
「そういう時は、さ。謝るんじゃなくて、『ありがとう』って言うといいと思うよ?」
そう言うと、羽々音さんは目を丸くして、次になぜか顔が赤くなって「そういうの、ズルい」と小声で呟いた後、
「そうね。『また』助けてくれるとありがたいわ。これからよろしくね、水瀬くん」
と、笑顔で言った。
「ああ、改めてよろしく、羽々音さん」
ここから、僕が再び引きニートになるための戦いは始まる。
せいぜい僕の(引きニートになりたいという)心のこもった言葉でときめくがいいさ。