この大空に、翼をひろげない   作:四季式

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主夫の覚醒。

 翌朝、僕はアラームが鳴る前の目覚まし時計を止めて目覚めた。

 今日から本格的に寮母の仕事が始まる。

 

「あー、かったりー」

 

 だが、引き受けてしまったものは仕方がない。

 僕の将来(引きニート生活)のために、いっちょ頑張りますか。

 

 時刻は午前5時。

 寝間着から制服に着替え、部屋を出る。

 大きな音を出さないように、ゆっくりと食堂に向かった。

 

「さて、朝飯だが……何にしようか」

 

 寮母になるために磨いた料理スキルはあるが、いかんせん、女の子受けする朝食のレパートリーは浮かんでこない。

 

「まあ、無難に和食かな」

 

 冷蔵庫の中身を見てとりあえず作れそうなのは、焼き鮭、ほうれん草のお浸し、ワカメと豆腐の味噌汁くらいだな。

 残りの食材が少ないから、今日のうちに買い足しておかなくては。

 僕は朝食の調理手順と買い物リストを考えながら、とりあえず米を研ぐ。

 本来なら前日の寝る前にセットしておくといいのだが、昨日は色々あって忘れてしまっていた。

 研ぎ終わった米を炊飯器にセットして炊飯スタート。

 

 次に味噌汁だ。

 まず鍋に水を入れ、火にかける。

 そこに乾燥昆布を入れて、沸騰直前まで中火にしておく。

 その間に乾燥ワカメを水で戻しておく。

 沸騰する前に昆布を取り出し、鰹節を一掴み入れて一煮立ちさせる。

 出汁が十分取れたら鰹節も取り出し、先ほど戻したワカメを入れる。

 沸騰させないように弱火にし、味噌を適量溶き入れる。

 最後に豆腐を切って入れて完成だ。

 

 焼き鮭は、冷蔵庫から鮭の切り身を人数分取り出し、グリルで順次焼いていく。

 焦げないように注意しながら、お浸し作りも同時進行する。

 さっきとは別の鍋で沸騰するまで水を火にかけ、根元の赤くなっている部分を切ったほうれん草を入れる。

 全体的にしんなりしてきたらお湯から取り出し、冷水に浸す。

 あとは手で握ってある程度水気をきり、食べやすい長さに切れば出来上がり。

 

 うーん、完全に主夫だな。

 手際よくできたので、寮生たちが起きてくる前に出来上がった。

 

「ふぁーあ。おはよー、碧くん」

 

「おはようございます、佳奈子さん。早いですね」

 

「二度寝しようとしたんだけど、いい匂いがするからつい起きちゃった☆」

 

 うん、☆がウザいな。

 この人はヒロインではないけど、来年現れる双子のヒロインに関わってくるから好感度は下げない方がいいな。

 

「あとはご飯が炊けたら朝食ができるので、席に着いて待っててください」

 

「はーい」

 

 その後、佳奈子さんと同じく匂いにつられたのか、続々と寮生たちが食堂に集まってきた。

 

 ピー、と炊飯器がご飯が炊けたことをアピールしてきたので、蓋を開けてシャモジで軽くかき混ぜる。

 炊きたてのご飯の香りが広がっていき、誰かの喉がゴクリと鳴った。

 

「さて皆さん。朝食の準備ができましたので配膳しますね。と言っても皆さんの茶碗や箸がどれかは分からないので、各自食器は自分で食器棚から出してください」

 

『はーい!』

 

 自分のご飯茶碗と箸を取り出し、炊飯器の前に並ぶ寮生たち。

 しかし、その中に羽々音さんはいなかった。

 

「佳奈子さん。羽々音さんはまだ起きてないんですかね?」

 

「あー、あの子はまだ起きないわね。学校休んでるから、その辺の時間はルーズなのよ」

 

 くっ、羨ましい生活してるな。

 

「じゃあ誰か起こしてきていただけますか?」

 

 と声をかけるが、返事をする人はいなかった。

 

「えっとね、碧くん。気を悪くしないでね。みんな羽々音さんが嫌いなわけじゃないのよ。なんというか、どう接すればいいかわからないの」

 

 足が動かず車椅子に乗り、いつも儚げな雰囲気を醸し出している。

 深窓の令嬢と言えば見栄えはいいが、それはつまりいつも独りだということだ。

 

「……では、僕が起こしてきます。寝ている女の子を起こすのは、ちょっと抵抗がありますが。皆さんは先に食べててください」

 

「あっ……」

 

 佳奈子さんが食堂から出て行く僕に一瞬手を伸ばすが、それはすぐに縮こまる。

 確か佳奈子さんは、初めの頃羽々音さんの心を開こうとしていたが上手くいかなかった、という描写があったはずだ。

 それが足を引っ張って一歩を踏み出せないのだろう。

 僕はそれに気づかないフリをして、食堂を後にした。

 

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