コンコンコン。
と、羽々音さんの部屋のドアをノックする。
「羽々音さん、朝ごはんの用意ができたので食堂に来てください」
しかし返事はない。
「羽々音さん」
少し大きめの声を出して呼んだが、やはり返事はない。
仕方ない。
もし羽々音さんが動けない状態だったらまずいので、強行突入します。
「寮母の切り札、合鍵!」
ガチャリ。
そーっとドアを開けると、車椅子でも移動しやすいようにか、物が少なめで整頓されている部屋であった。
そして車椅子が横付けされているベッドには、お腹の上にハットが乗っていて若干魘されている羽々音さんが寝ていた。
「羽々音さん、朝ですよ。起きてください」
「…うーん」
「…ぐわー」
双方一向に起きる気配がない。
……仕方ないなぁ。
ホントはこんなことしたくないんだけどなぁ。
僕はベッドにそっと近づき
両手を構えて
一気に揉みしだいた!
「ぐ、グワワーーー!!」
ハットのお腹を。
「な! ななな、何事!? 敵襲!?」
君は一体何と戦っているんだい?
寝ぼけている羽々音さんをよそに、ハットは僕を見るや否や即座にベッドから飛び降り、ドアの下部にあるハット専用の出入口から逃げていった。
「おはよう、羽々音さん。いい朝だね」
「み、みみみ、水瀬くん!? え、敵は水瀬くんなの!?」
「いや、勝手にエネミー判定されても。とりあえず僕は部屋から出るよ。寝起きの女の子を見続けるというのはいい趣味ではないからね」
と言うと、僕は返事を聞く前にそそくさと部屋から出てドアを閉めた。
「〜〜〜ッ!!??」
一拍置いて、羽々音さんの声にならない悲鳴が聞こえた。
まあ、知り合って間もない異性に寝起きの姿を見られたのだ。その恥ずかしさは想像に難くない。
5分後。
「み、水瀬くん。まだそこにいる…?」
「ええ、いますよ」
「お、起こしに来てくれたのね、ありがとう。もう身支度は整えたから入っても大丈夫よ」
「では、失礼」
ガチャリ、と再び。
今度は部屋主の許可を得て入室した。
そこには本人の言葉通り、一通りの身支度を整えた羽々音さんが車椅子に乗っていた。
頬が赤いのは優しさで無視する。
「羽々音さん、朝食ができたので冷めない内に一緒に食べましょう」
「えっ? ……せっかくだけど遠慮しておくわ。私がいると、皆に迷惑だから」
ふっ、と儚い笑みを浮かべる羽々音さん。
「そんなことないですよ。というか、羽々音さんが来ないと皆ご飯が食べられないんですよ。全員揃うまで『おあずけ』してきたので」
「ええっ!?」
嘘だけど。
「というわけで、皆のためにも食堂へ行きましょう。ほらほら」
「う〜〜、分かったわよ〜〜。行けばいいんでしょ!」
そう言うと羽々音さんは車椅子を器用に操作して、僕の脇をすり抜けて部屋を出た。
「…あれ? そういえばハットは?」
僕が後ろ手で部屋のドアを閉めたところで、羽々音さんはふと思い出したように呟いた。
「ああ、彼は羽々音さんの上で寝てたけど、僕が来たら一目散に逃げて行ったよ」
「ふーん。…水瀬くんって動物に好かれないタイプ?」
そういえば、と今までの動物との触れ合いを思い出してみると、懐かれたことは一度もなく触ったこともほとんどない。
うーん何故だろう…、と考えていると、
「あ、ご、ごめんなさい。水瀬くん、気にしてた?」
と、羽々音さんは僕の沈黙をショックを受けていたと勘違いしていた。
疑問には思うけど気にしているということは全くない。
が、この勘違いは利用させてもらおう。
「……うん、ちょっと気にしてた。どうしてなんだろうね…。ここで暮らすにあたっては、せめてハットだけでも懐いてもらいたいんだけどな…」
「水瀬くん……だ、大丈夫! ハットの同居人として私も協力するから! ハットはあれでも頭が良いの。だから水瀬くんがいい人だって分かれば、きっと懐いてくれるわ!」
「羽々音さん……ありがとう。これからよろしくね」
「ええ!」
「じゃ、そろそろ食堂に行きますよー」
「え”っ」
くるりと羽々音さんの背後に回り、車椅子のハンドルを握る。
「さあさあ、朝ごはんは焼き鮭ですよー」
「お、押さなくても自分で行けるわよ! ちょっと水瀬くん? 聞いてる!?」
「はいはい」
という感じで、羽々音さんを部屋から連れ出すことができた。
さて、次はどう攻めようか?