「あ、碧!?」
通学路のど真ん中で僕の名前を叫んだ女子は、僕には全く見覚えがなかった。
しかし、肩にかかるくらいの赤毛の子の活発そうな雰囲気はあまり好みではない。
「どうしたの、あげは?」
赤毛の子が一緒にいた友達に質問されていた。
ん? あげは?
どこかで聞いたことがある名前のような…。
「あんちゃんから聞いてたけど、ホントにこっちに帰ってきてたんだ!」
あんちゃん。
その人物の呼び名を聞いて合点がいった。
この赤毛、メインヒロインのひとりだ。
「おはようございます。久しぶりだね、あげは」
そう言うと僕はとびっきりの笑顔(嘘)を顔に貼り付けて赤毛の方を向いた。
「『久しぶり』じゃないでしょ! 今までどーしてたの!? あんちゃんにすらロクに連絡しないで!」
えー、だって苦手なんだもん、あの『あんちゃん』。
「ごめん、色々忙しくてさ。でもこれからは同じ学校だから、よろしく頼むよ」
「うー。言いたいことがたくさんあったのに、全部吹っ飛んじゃった! まあいいわ。碧! 今度こそ『守って』あげるから、安心して学園生活を楽しも!」
あー、そういえばこの赤毛は、僕がイジメられているフリをしてたのを完全に信じてたよなぁ。
そして僕をイジメたとされた哀れな生贄生徒をしばき倒してた。らしい。
それも『あんちゃん』経由で聞いた話だ。
「もう守られるほど弱くないし、逆に誰かを守れるくらい強くなったつもりなんだけどな」
「あ、あの。話がよく分からないんだけど…」
おっと。
近くで聞いていた羽々音さんが置いてきぼりをくらっている。
「ああ。ごめん、羽々音さん。この子は
ふたりはお互いを一瞬見て、すぐに目をそらした。
気まずい空気が流れる。
…ああ。そういえば、羽々音さんがクラスでハブられることになったのは赤毛がきっかけだったっけ。
「お、おはよう、羽々音さん」
「…ふん。行きましょ、水瀬くん」
赤毛は羽々音さんにぎこちなくも挨拶したが、羽々音さんはそれを無視して行ってしまった。
「悪い、あげは。話はまた後で」
「う、うん。分かった」
「ありがと。ーーー待ってよ、羽々音さん」
僕は車椅子で先に行ってしまった羽々音さんに追いつくため、歩調を早めた。
◾️◾️◾️◾️◾️◾️
「羽々音さん?」
「なにかしら、水瀬くん?」
「……いや、なんでも」
「そう」
君ハブられ過ぎぃ!
という言葉を喉元にとどめる。
教室に羽々音さんを送り届けに行って扉を開けた瞬間、教室内の視線が一斉に集まり、そして一斉に逸らされた。
ザワザワとした元の喧騒に戻りつつある中、僕はゆっくりと羽々音さんの車椅子を押して室内に入っていった。
「……ここまででいいわ。あとは自分で行くから」
「そうかい? じゃあ僕は職員室に行くから」
「ええ」
教室から廊下に出る。
「あ、碧……」
「あげは、か」
そこでばったり赤毛と出会う。
「……羽々音さんのこと、お願いね。なんでか知らないけど、碧には心を開いてるみたいだから。わたしには、
「分かった、任せて」
「うん! じゃあまた後で!」
さて、職員室に行って担任に挨拶してくるか。