Persona Boyage 〜人生の航路〜 作:ラクダのコブ
細かいところは各話解説します。
更新速度はあまり期待しないでください。
先月20日...............海運の..........沈没........
負傷者は.........................原因を..................調査.......
〜4月6日 NR東日本 初岸線〜
電車で騒がしくする人間は好きじゃない。
自分は別にどうでもいいのだが、人に迷惑をかけて平気な顔をしている根性が気にくわない。
たとえそれが妹だったとしても。
青みがかった髪、平均より少し高い背丈、耳のホクロ、そしてジャックフロストを模したイヤフォン。
高校生の青年 久我 友輝(くが ゆうき)は、今まで聞いていたクラシックから気を背けてイヤフォンを外し、妹の朋奏(ほのか)をなだめようとした。
「もう、やめとけって」
「お兄ちゃんうるさい。こっちは人生かかってんの!」
朋奏は携帯でサッカーを見ていた。友輝がたしなめて、なんとかイヤフォンだけでも付けさせたが、さもなくば今頃朋奏は大音量でサポーターの叫び声を電車内で響かせていたろう。
「あなたが理解してないから説明してあげるけど、私はエクアドルに10口かけてるの。高校一年生でその値段賭けるのは人生レベルの大事よ!まさしく人生!」
友輝は頭を抱えた。
こんなに大音量で口答えされるなら初めから言わなければよかったという後悔、全く意味がわからない主張で逆に怒鳴られたという怒り、そもそも高校生でこの手のくじを買ってもいいのか、という困惑で頭の中が処理の限界を迎えたのだった。
朋奏は頭のいい子だ。電車で騒いではいけないことや、サッカーの試合の結果いかんはたかが日本の高校生が多重債務者になるはずがないことなんかわかりきっている。しかし自分が没入しているものとなると、こうして異常に熱中し、周囲を巻き込み、自分を曲げない。
「わかったわかった。わかったから、とにかく静かにしててくれ。」
友輝はさっさと話を切り上げ、また音楽に耽った。
友輝はなんでも聞く。クラシック、R&B、メタル、ジャズ、エスニック、雅楽......
高校二年生の青年にとって、もっとも手をつけやすい趣味である音楽を通して、転入先の高校でも話題を作っていこうという魂胆で、つい最近聴き始めた。
最初は目に入ったCDを適当に買ったが、どうも自分に合った音楽というものが見つからなかった。
それは「どれも自分の趣味に合わない」という傲慢な批評ではなく、「どのジャンルも等しくいいと思えて、どれか一つを『特別な好み』という枠に入れてしまうのが忍びない」という結論から来るものだった。
大体、好きな音楽なんて好きって思うから好きなのであって、そもそも好きだと思わなければそこから自分の趣味は生まれないのではないか。
そう思うと、趣味なんてもので無闇に自分の帰属先を決めず、どんな音楽も等しく愛したい、と友輝は思うのであった。
そんなことを考えているから、僕は友達が少ないのかもしれない。
正確には、あまり深い関係が気付けないのかもしれない。
そんなことを考えているうち、目的地の鳴海大原駅に到着する。
久我兄妹は、父親のみの家庭だ。母は、10年前に海難事故で亡くなった。
両親は海上自衛隊の隊員で、特に非公式の特命隊だった。母が調査活動で亡くなった後は、父が一人で兄妹を育てていた。
今回父が海外で発生した大震災の救護活動へ一年間出向することとなり、二人は鳴海市の祖母の家へ預けられることとなった。
鳴海市は海辺の港町である。地方の中枢都市の一つに数えられており、ビル街もあるにはあるが、名物は何と言っても海である。多くの船が出入りし、住民は海を見ながら生きてきた。カキがとれるらしい。友輝はさほど詳しくはないが、少なくない小説家や画家がこの町で育ち、そして政治家などいわゆる「上流階級」が別荘を構えているらしい。
「ちょっと飲み物買ってくるねー」
朋奏が駅の売店に向かう。
彼女がものを選ぶのに時間がかかることを知っていた友輝は、少し旅行代理店でも覗きに行くことにする。このくらい都会なら、駅の中に一つでもあるだろう。
せっかく一年間もここにいるのだ。観光名所くらい調べておきたいと思ったのだ。
友輝の予想通り、旅行代理店があった。
言い訳をすると、彼はこの日これからやることが多く、パンフレットの二、三冊でも取ってさっさと行こうと思っていたため、少し慌ただしくなっていて気づかなかったのだった。
よくある旅行会社の看板が、赤ではなく青になっていたことに。