とある血涙の奇形変種(フリーク)   作:iとθ

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 シリアス続きだったので。


9話 愛

 俺は待ち合わせ場所の映画館でもうかれこれ1時間ほど彼女を待っている。けっして、彼女が来るのが遅いのではなく、俺がここに来るのが早すぎたのだ。ちなみに俺が到着した時にはまだ準備中だった。待ち合わせの10時が迫り、時計を見る頻度が上がる。といってもあと十分ほどあるが。スマホで自分の髪型を確認し少し直す。

ここ最近ワックスなんてつけていなかったので、セットの腕が鈍っていた。

 

「坂崎さーん!」

 

 振り返ると絹旗さんがこっちに手を振りながら走ってくるところだった。手に持っていたスマホをポケットにしまい込み、俺からも手を振り返した。

 

「遅れてすみません。待ちましたか?」

 

「いや、遅れてないし、俺も今来たところだから」

 

 ウソつけ、1時間まっただろ。だがそれを言ったら好感度下がりそうな気がする。デキる男はそれをあえて言って距離をグッと縮めるらしいが、そんな高等技術を俺は使えるはずもない。

 

「で、今日は何見るんだっけ?」

 

 その質問、待ってました!と言わんばかりに目をキラキラ輝かせて、語り始めた。

 

「今回はC級の中でもさらに超ひどそうな、ゴー、ストロボエッジをチョイスしてみました」

 

 パンフを見せてもらうといたって普通そうな恋愛映画のようだった。絹旗さんが『ゴー、ストロボエッジ』と途中で区切っていたそのタイトルは空白などで全く区切られていなくて読みにくかった。これもあってC級なのかなと思う。

 

 チケットを買いに行くと案の定俺ら二人の他に客はいなかった。前と同じように真ん中に陣取る。上映まで少しあったので売店を見て回った。有名な映画のキャラクターのキーホルダーとかクリアファイルとか、あとお菓子とかが売っていた。二人で並んで歩いてそれらを見る。すると隣にいる彼女はやっぱり小柄だなと改めて思った。

 

「あのさ、絹旗さんて何歳なんですか?」

 

 女性に歳を聞いてしまった。失礼なのかもしれない、てか失礼だよこれ。あれ?聞いちゃダメな乗って体重だっけ・・・?

 

 彼女が俺を見上げて、目が合う。この角度、めちゃくちゃ可愛いんですが。どうしよう。

 

「知りたいですか?」

 

 うん、と頷いてしまってからとある可能性が頭をよぎる。こんなこと考えたのは初めてだ。もしだ、万が一だ、彼女が年上だったら。そんなことはないとわかってるけど年上だったら嫌だな。初めて知った。俺は年下派だったようだ。

 

「じゃあ、超現役の中学生だ、とだけ言っておきましょうか」

 

 年下だという事実にホッと胸をなで下ろす。そして新たな疑問が芽を出す。中学生に恋をしてしまった俺はロリコンなのか?いや年の差3,4歳だし?大丈夫だろう。

 

「坂崎さんは?」

 

「俺?16歳。2週間もすれば17歳だよ」

 

「おお誕生日、超もうすぐですね!」

 

 誕生日。今まで祝ってきた誕生日はお母さんから生まれた感動の日だとばかり思っていた。だがそれは多分俺がオリジナルから作られた感動など皆無だったその日のことを指すのだろう。

 

 

「じゃあじゃあ、超盛大にお祝いしましょうよ」

 

「え?」

 

「だから、お誕生日パーティですよ。ケーキにロウソク立てるアレです。HAPPY BIRTHDAY TO YOU~のアレですよ」

 

 しばらく声が出なかった。正直、誕生日を迎えるということに複雑な想いを抱いていた。今まで16年間順調に成長してきました。ありがとうお母さん、と誕生日に意義を見出していたのにそれがなくなってしまったから。誕生日という口実でみんなで集まってわいわい騒ぐだけのモノになってしまうから。それを事情は知らないとは言えこの人は祝ってくれる。騒ぎたいからとか、ケーキ食べたいとかその為に誕生日を祝うのではなくて、純粋に俺におめでとうを伝えてくれる。俺が誕生日を迎えたというそれだけのことを。うぬぼれだって、半分以上妄想だって、要するに踊らされてるんだってわかってるけど。それでもやっぱり。

 

「坂崎さん?」

 

 彼女が俺の顔を覗き込む。しばらく黙ったままだったので心配してくれたのだろうか。

 

 俺は彼女の肩を掴んで今思ったことを一番簡単な言葉で伝えた。

 

 「スゲエ嬉しい!ホントありがとう」

 

 突然肩を掴まれてきょとんとしていた彼女も、笑って「プレゼント何がいいですか?」と楽しそうに聞いてきた。すごく、楽しみだ。

 

 ・     ・     ・     ・     ・

 

 上映が始まるというので3分前ぐらいに劇場に入った。

 

「どんなストーリーなんでしょうね・・・超ドキドキします」

 

「パンフには何も書いてなかったの?」

 

 それがですね、と絹旗さんはパンフレットを取り出し、タイトルの下のキャッチコピーを指さした。毒々しいピンクで『だれにも、この展開は読めない・・・あなたは耐えられるか?』とあった。

 

「ご覧のとおり、何もわかりません。ジャンルさえ・・・ね」

 

 パンフレットの写真を見る限りでは恋愛モノだと思われるが油断は大敵・・・らしい。どうか主人公たちには普通の恋をして、何事もなく幸せになってもらいたいものだ。 

 

 そんなこんなで上映が始まって、俺らはひとつ勘違いをしていたことがある。タイトルについてだ。

 

 GO STROBO EDGEではなくて、GOHOST ROBOT EDGEだったようだ。幽霊とロボのまさかのコラボに驚き、ああだからC級なのかと納得した。幽霊といっても全然怖くない。俺は多分幽霊より、生きてる人間のほうが怖いのだろう。

 

「これ全然怖くないね」

 

 横の絹旗さんに話しかける。彼女は無反応で、顔を手で覆ってその指の間からスクリーンを見ていた。

 

 ねえねえ、と肩を指でつつくと「ひゃん!」と変な声を出してゆっくり首を回してこっちを向いた。

 

「ちょ、超驚かさないでくださいよぉ・・・」

 

 ・・・もしかして怖いの苦手なのか?それを聞くと彼女は全力で否定した。

 

「わ、私がこんなの怖いわけないじゃないですか。こんな子供だまし・・・」

 

 スクリーンの中から大きな音がして絹旗さんの声を遮る。その瞬間、彼女は俺と腕を組んできた。

 

「怖いんだな?」

 

 頬を膨らませ「怖くなんてないです」と意地を張る絹旗さんがどうしようもなく可愛い。これは、別にいいよね。そういう雰囲気なんだから。空いている方の手で頭を撫でる。

 

「ちょ、ちょっと!こども扱いしないでください!」

 

 はいはい、と軽くあしらう。スクリーンは幽霊がたくさん出てきてロボットが大変なことになっていた。

 

「あの、もうちょっとこっちに寄ってください。超決して怖いわけじゃないですからね!」

 

 こんなにもシートの肘掛が邪魔だと思ったことはない。だが、それ越しだとは言えできるだけぴったりとくっつく。彼女の頭がちょうど鼻の下らへんに来てシャンプーのいい匂いがする。いや、シャンプーじゃなくて、なんつーか女の子の匂いがしてなんていうか、その、心拍数やばい。これ、絹旗さんに聞こえてんじゃないのって思うぐらいやばい。この体制であと30分耐久は俺死ねるよ、恥ずかしさで。

 

 映画が終わってシートを立ってもしばらく絹旗さんは俺の腕にくっついたままだった。歩きにくいことを我慢しながら映画館の自動ドアを目指す。ドアが開いたところで丁度絹旗さんの携帯が鳴った。彼女はフリーな方の手で歩きながら電話に出る。二言三言、相手と交わすと俺のほうを向いて言う。

 

「迎えが来てるみたいなのでここでお別れです」

 

 なるほど、映画館前の道にはワゴン車が止まっていた。運転席には金髪のお兄さんと後部座席には3人の女性が座っていた。その四人が俺と絹旗さんを同時に見る。横に居た絹旗さんの表情が陰ったように見えた。そして一番手前にいた金髪の少女が口を開いた。

 

「絹旗~それ彼氏なワケ?」

 

 おどけた調子で絹旗さんに話しかけているが、無理にそうしているのが見て取れた。絹旗さんは腕をはなして「別にそんなんじゃ・・・」と答えた。 

 

 ジャージを着た女の子が、その金髪少女の奥から顔を出した。

 

「きぬはた。その人はこっち側に連れてきちゃダメだよ」

 

 こっち側?ってどういうことだ。

 

「超わかってます。大丈夫ですよ」

 

 うつむきながら答えていた。こんな彼女の声、聞いたことがない。

 

「わかってねえよ絹旗。その人と、私やあんたじゃ住む・・・」

 

「超わかってます!それ以上言わないでください!」

 

 姐御肌の女性のその声を遮って絹旗さんは叫んだ。

 

 ワゴン車のドアを乱暴に開けて座る。助手席の男が振り返って絹旗さんに「いいのか?」と心配そうに声をかけた。

 

 「かまわないです。超早く車出してください!」

 

 でも・・・とためらう運転手も彼女の切羽詰まった声を聞いてやがて車を出した。

 

 彼女はその間、俺を見ることはなかった。

 

 泣いてたことぐらいバレバレだって。なあ、なんで泣いてんだよ。また会えるし、いいじゃないか。

 

・     ・      ・     ・

 

 その日の夜。絹旗さんからメールが来た。

 

『もう連絡取るの終わりにします。今までありがとうございました。超楽しかったです』

 

 涙で、スマホの画面が濡れていく。手がブルブル震えて、スマホを取り落とした。膝をついて思う。なんで、あれが最後なんだよ。最後ぐらい笑ってくれよ。涙ボロボロ落としてる俺に言えたものでないことはわかってるけど。

 

 なあ、なんでだよ。俺の誕生日、祝ってくれるんじゃなかったのかよ。ふざけんなよ。あんなに好きだったお前に祝ってもらえるってだけでどんなに嬉しかったか。

 

 お前は俺のこと、どう思ってたんだろう。

 

 拭いても拭いても流れ出てくる涙を止めることなどできない。頬を伝い落ちていく涙がカーペットを濡らしていくのを見つめながら俺はあの小説のあの一節を思い出した。

 

『人は人のためには泣けない』

 

 ああそうだよ。そのとおりだよ。俺は俺のためにしか泣けねえよ。俺が好きだった絹旗最愛にあんな別れ方させられた俺が可哀想すぎて泣けるよ。俺は今、絹旗さんがいなくなって、心が痛いから自分を慰めるために泣いてるんだよ。結局みんなそうなんだ。居なくなった人がかわいそうで泣いているんじゃなくて、その人がいなくなったことで傷ついた自分がかわいそうで泣いているんだ。

 

 あの別れ際。絹旗さんが車の中で流した涙と俺が今流しているこの涙が、同じだったら嬉しい。

 





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