ストーカー事件から数日、亜美と隼は友好的な関係を築いていた。ただ、最近の隼には悩みが二つほどあった……まず一つ、弁当を大河・竜児・亜美・祐作・麻耶・奈々子・春田・能登・隼・実乃梨と大所帯で食べているのだが………亜美と大河の仲が非常に悪いのだ……。大抵、亜美が挑発→大河半ギレ→竜児が大河を宥める・実乃梨は二人を煽る・他の奴は事の成り行きを見守る→亜美さらに挑発→大河キレる→ケンカ勃発→あまりの騒がしさに隼キレる……といった感じである。一応その場はそれで収まるのだが時間がたつと再びケンカをするので大河と亜美の犬猿の仲はすでにこのクラスでは名物となっている節がある。一応お互いに本気でケンカはしてないので隼も最近はスルースキルを得て流している時が多い。そして、現在、登校中の隼にとってもっとも大きな悩みは………………
「……………………………暑い~……………暑い~…………」
「………聞いてるこっちが暑くなるからやめてほしいんだけど?」
「まだ夏は始まったばかりだぞ。お前、大丈夫なのか?」
「……………………無理……………死ぬ……………」
この暑さであった…。まだ初夏だが今年の夏は非常に暑いのだ……もともと、暑さや寒さといったものが駄目な隼にとってこれは地獄だった。亜美と実乃梨と大河と竜児と一緒に登校している隼は竜児に肩を借りながら学校へと向かっていた。
「ハヤ君、あと少しで学校だから頑張って!!」
「おうよ…………………実乃梨?………なにしてる?」
「いやぁ~、こんなに弱ってる隼君は滅多に見られないから写メでも撮っておこうかな~なんて♪」
「じゃあ、亜美ちゃんも撮っておこうっと」
「………………………てめぇら覚えとけよ………………」
学校に無事についた隼だがこの後、絶望を味わう事になるとは夢にも思わなかっただろう……。教室についてから感じた違和感…隼はそれを祐作に伝えると衝撃の事実を聞かされた。
「どうやらクーラーが故障中みたいだ。おそらく明日、明後日には直るだろう……………おい、どうした!! 沖田!!」
「なん…………………だと……………………」
隼は膝をつき目の前が真っ暗になった。……………余談だがもちろん所持金が半分になったとかいうのはない。その後、ホームルームが行われ一時間目の授業である体育が始まった。どうやら本日は男女合同でのバレーボールのようだ……そして、隼はというと……………
「はははははは!!!!! 俺の時代がやって来たぜ!!! 見せてやるぞ殺人スパイクをな!!!」
「……………ねぇ、高須君? さっきまでアイツ死んでたよね?」
「貧弱! 貧弱―――!!!! そんなスパイクでちょいとでも俺にかなうとでも思ったか!!?」
「アイツとは中学からの付き合いだがいつも言ってたぞ『体育は別腹に決まってんだろ!!!』って………」
「WRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!!!!!!」
「ハヤ君って本当に運動好きなんだね。」
「沖田はスポーツ全般が化け物みたいなスペックだからな……………………くっ、ぜひとも男子ソフトボール部に来てくれないだろうか?」
「ちょっと待ったーーーーーー!!!!!!!!!!! そいつは聞き捨てならねぇな~北村君よ~」
「むっ、どういうことだ櫛枝?」
「……なにか始まってない?あ、能登君が隼に吹っ飛ばされてる」
「……こういうのは気にしたら負けなのよバカチー、ホントだ」
「隼君には女子ソフトボール部に来てもらうのさ」
「いや…アイツは男だから試合には出れないだろう…春田も吹っ飛んだな」
「甘い!!! 甘いな~高須君………コップ一杯分のカフェオレにコップ一杯分の砂糖を入れるくらい甘い!!」
「ものすごい血糖値が上がるでしょうね…………」
「せめてコーヒーにしてほしいわね……」
「ならば何故、沖田を欲すのだ櫛枝よ。」
「ふっ……………………」
実乃梨は不敵な笑みを作った後、くわっと表情を変え言い放った。
「隼君にはマネージャーとして入ってもらうのさ!!!!」
「ま、マネージャー?」
「そう、マネージャーだよ、あーみん……隼君を見て私は思ったのだよ……コイツにはマネージャーの才能がある!!…とね。隼君なら世界を狙えるよ」
「なぁ、大河……………マネージャーの世界一とかあんのか?」
「私に聞かないでよバカ犬…」
そしてこの後も、テンションの上がった隼のスパイクの犠牲になった男子生徒が大勢いたとかいなかったとか…。体育が終わり次の時間は英語なのだが…………
「…………………………………………」
「おい、沖田。暑いのはわかるが少しは授業に集中しろ…ここの英文を読んでみろ」
「○×▼★■●◎△*×◇∴□☆…………………」
「地球の言語で話せ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
こういった調子で授業が進んでいき時間は流れ昼食の時間となった。昼食の時間となり竜児は隼を担いで他のメンバー達と共に屋上へと向かった。屋上に揃ったメンバーは弁当を広げるも隼だけは地面に突っ伏したままだった。
「…………ねぇ、沖田君。大丈夫?」
「『ファルコン』様、大丈夫ですか?」
「……………………………香椎………………………殺す……………」
「一応まだ言い返せるくらいの体力はあるみたいだな。」
「おい、隼。飯食えるか?」
「……………………無理……………………動かない…………」
「なにか水分を買ってきてやるから無理してでも起き上っとけ。」
「………………………わかった…」
隼はフラフラする体に鞭を打ちなんとか起き上った。それを確認した竜児は飲み物を買いに屋上から去って行った。
「さすがタカッちゃん!! ハヤッちゃんの扱い方をわかってる!! そこにしびれるあこがれるぅ!!!!」
「それにしても隼君、完全にグロッキーだね。今なら小学生にもやられるんじゃない?」
「みのりん………でも、今の状況を見るとなんか否定できないね……………」
「お~い、沖田。生徒会に入らないか!!」
「……………………入るか………ボケ………」
「ふむ…思考回路は正常なのか…………とりあえず頷いてくれれば後でどうにでもなったんだが…」
「あんたって手段を選ばないような奴だったっけ?…………隼、ご飯自分で食べれないんだよね?」
「…………………あい………」
「だったら~……亜美ちゃんが食べさせてあげようか?」
『!!!!!!????????』
亜美の発言を聞いた瞬間、能登と春田は飲んでいた物を噴き出し、祐作は含みのある笑みを浮かべ、麻耶はどこか不機嫌そうに、奈々子は笑顔だがどことなく黒っぽい感じがする、実乃梨はニコニコしているが何を考えているかは不明だ、大河は完全に敵意を亜美に向けていた。
「…………………………迷惑じゃないなら頼む…」
「それじゃあ、はい、あ~ん…」
亜美が隼の口へと唐揚げを持って行く瞬間だった。
「ふんっ!!」
大河がその唐揚げを奪い自分の口へと持って行った。それを見た亜美は呆然とした後、憤慨した。
「てめぇ何しやがる!!」
「ふん、バカチーの弁当のおかずなんて食べたらハヤ君が腹を壊すかもしれないから私が身代わりになってあげただけよ」
「………逢坂さんみたいに料理の作れない残念な子じゃないからご心配なく~」
『……………………………………』
そこからいつものように睨み合いが始まった。ちょうどそこに竜児が帰って来てこの状況を見て混乱した。
「え~っと……………何があった?」
「…………………そんなことより飯~…………」
この後、睨み合いから取っ組み合いに発生した二人を慌てて皆が止めるのに昼の時間を使ってしまい結局皆、ほとんど昼食をとれないまま授業に向かうこととなった。
授業も終わり放課後になった。気温も下がってきて隼はなんとか自力で動けるくらいには回復していた。しかし、隼が回復する頃にはすでに教室の中は空っぽになっていた。
「竜児たちを先に帰らせて正解だったな…………もう六時じゃねぇか…」
隼は時間を見て苦笑した後、カバンを持って教室から出た瞬間だった。隼の顔になにやら冷たいものが当てられたその方向に顔を向けると………
「やっほ~、隼君」
ソフトボールのユニフォームを着た実乃梨が眩しいほどの笑顔を浮かべてスポーツドリンクを隼におしつけていた。
「おぅ、実乃梨。部活帰りか?」
「うん、そうだよ。あ、これあげるね。隼君はようやく復活かい?」
「どうやらそのようだ。ん、サンキュー。これから帰るんだったら一緒に帰るか?」
「うん、一緒に帰ろう♪」
実乃梨が着替えるのを待った後、二人で下校した。帰り途中、何気ない会話をしていた二人だったが実乃梨は隼に思い切ってあることを聞くことにした。
「ねぇ、隼君」
「ん? どうかしたか実乃梨?」
「隼君と亜美ちゃんって………………付き合ってるの?」
「は?…………あははは、何言ってんだおm「ちゃんと答えて!!!」っ!!?」
隼はいつもの実乃梨と違う態度に驚くも実乃梨の真剣な表情を見て隼も実乃梨の目を見て言った。
「正直、なんでお前がそんなことを聞くのかは見当もつかねぇが俺は誰とも付き合ってねぇよ」
「ホントに? ホントにホント?」
「あぁ…………ってなんで嬉しそうな顔してんだよ!!!? あれか「隼君より異性と付き合うのが遅かったら自殺ものだもん」とかそういう事かコラ!!!!」
「や、そこまでは言わないと…………………思う」
「おいぃぃぃぃぃぃぃいいいいいい!!!!!!! 今の間はなんだ!!?」
「あはははははははは♪ ほら行こう隼くん!!」
「うおっ!!? いきなり引っ張んな!!」
実乃梨は隼の手を引いて走り出した。空の夕陽のせいなのか実乃梨の頬はほんのりと紅くなっていた。
Side実乃梨
私が隼君を知ったのは中学一年のときだった。あの頃の隼君は凄い刺々しくて今の高須君よりも恐れられてたらしい。そして、中学二年の頃、私はソフトボールの試合で2-3で最後に打たれてしまい負けてしまった。試合が終わった後、私は負けたショックで河原で寝転がっているといつの間にか隣に座っている人物に気がついた。右目に眼帯をつけて所々跳ねた黒髪………噂の人物、沖田 隼であるとこの時知った。
「……………なにかよう?」
「あ? てめぇなんかに用はねぇよ。俺はただここから見える夕焼けが好きなだけだ」
隼君はそれだけ言って沈んでいく夕陽を優しい目でずっと見ていた。私には隼君が何故あそこまで恐れられているのか理解が出来なかった。私がそう思ってじっと隼君を見ていると隼君は私の視線に気づいたのか不機嫌そうな顔で見てきた。
「……………なんだよ?」
「いやぁ~沖田 隼君だよね?」
「それがどうした? というかなんで俺の名前を知ってやがる?」
「噂の特徴と一緒だったからそうかなってね」
「はっ!! どうせロクな噂じゃねぇんだろ?」
「うん、薬をやってるとか人を殺したとかヤクザの一員とかそんなのばっかり」
私がそう言うと隼君はポカンと口を開けていたが急に大声をあげて笑い出した。
「あはははは!!!!!!!!!……くくく………お前みたいなストレートな奴は初めてだ。それを聞いてお前は俺が怖くねぇのか?」
「私は自分で見た物しか信じないタイプだから」
「…………………………そうか」
そう言う隼君は嬉しそうな、悲しそうな、懐かしそうな表情をしていた。いつの間にか夕日は沈み辺りは暗くなっていた。
「さて、帰るか」
「え………もう行っちゃうの?」
会って間もないのに私は何故か隼君に去って欲しくなかった。
「あぁ? 夕陽も沈んだんだしいる必要もねぇだろが」
「そっか…………そだよね……」
「………………………たく」
隼君はめんどくさそうにしながらも私の隣に黙って座ってくれていた。その後、私は隼君に試合で負けたことを話したが「んなくだらないことで落ち込むな。心まで負けちまったら本当の負け犬だぞ」となんだかんだで励ましてくれた。時間はすでに7時を越えていて隼君は「勘違いすんじゃねぇぞ………途中で変な奴に襲われたら寝ざめが悪いだけだからな///」と顔を紅くしながら送ってくれた。この時、私は改めて思った。やっぱり隼君は心の優しい人間だと…。それから隼君とは出会う事がなくなった………そして、大橋高校に入学して数日、隼君に会う事が出来た。久しぶりに会う隼君は前に会った時と比べ別人のように明るかった。それに隼君は一度しか会ってない私を覚えてくれていてそれが凄く嬉しかった。
それから大河と隼君と行動を共にしていて気がついた……………そっか………私は隼君のことが……………
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