田中は大人の事情でグルメ番組のレポーターの代わりを
することになってしまったようです。
~とあるレストランの前~
「――というわけで話題のお店に来ていただいております。田中さ~ん?」
「はい、田中です。現在空中6000メートルからの中継です。私は今、後ろに見えるお店に入ろうとしているわけですが、あれをご覧下さい」
ビシリとスーツを決めた田中が、後ろに振り返って建物の入り口付近を指さす。とても綺麗な木造建築だ。
「なんと、店の象徴でもある名前が書かれた看板がないんですね。しかし、外に漂っているこの食欲をそそられる匂いのせいなのか、全くもって気になりません」
「それでは行ってまいります」
ガラガラ…
「うぃ、いらっすぃ」
中に入ると、田中の背丈の半分ほどのニャンコ星人が出迎えてくれた。
「このお店の人気の一つ…店長の喋り方とおかしな口調です。今日はよろしくお願いします」
「うぃ。冷やかしならかぅん、か、帰ってちょ」
「冷やかしじゃないですよ。滑舌の悪さと挙動不審な喋り方がかえってお客さんの笑いを誘う要因になっているようです」
左胸に『てんちょ』と可愛く書かれたネームプレートをガムテープで貼り付けたニャンコ星人。付け髭と似合わない三角サングラスがチャームポイントらしい。最近は、身長を伸ばすために牛乳を飲みながら、今日の振り返りを行うブログをしている。
「んでぃ、カメラさんも食うにょん?」
「いえ、私だけです。番組の尺もあるので」
「うぃ」
そう言うと、田中はカウンター席に静かに腰を下ろした。
「それでは、当店の人気No1料理をお願いします」
「うぃ」
店長は返事をすると、チョウチンアンコウ(!?)をズボンのポケットから取り出し、まな板の上にガムテープで固定した。
「さぁ、このお店の人気の一つ、調理風景です」
田中が言い終わると同時に、てんちょは調理器具が置いてある棚から、日本刀(!?)を取り出してきた。
「ん」
ズダダダダダダダダ
刀を持つ両手が見えなくなる程の高速調理。その早業に、田中は目を見開く。
(え、滅茶苦茶に切り刻んでるんだけど…)
田中の脳内に常連の方々から聞いた話がよぎる。
≪料理人の資格とか特許は持ってないけど、とりあえず調理中の刀さばきがすばらしいニャ。≫
田中の疑問は確信に変わる。そう、常連達は料理については一切語っていない。味もだ。従って料理は…
ヌチャリ
「…オゥエッ!」
スタッフの一人が吐いた。筆舌しがたい強烈な匂いが店内に漂っている。
「んぅ。でぃきた」
「これは…?」
「うぃ。チョウチンアンコウの滅多切りムニエル」
「そうですか…」
ムニエルかどうかは分からないが、店長がムニエルというのだからムニエルなのだろう。
「それでは、いただきます」
スプーンを貰い、チョウチンアンコウの切り身を掬う。何故かスプーンが変色し始め、床に溶け落ちた。
「「「「…。」」」
田中や店長、店内にいる全員に気まずい空気が流れる。田中は気にせずに新しいスプーンを手に取ると、切り身をさっと掬い上げて口に含んだ。
「…!」
まずやってきたのは、凄まじい塩っ辛さ。それを加速させるように、チョウチンアンコウの妙なぬめぬめが包み込む。咀嚼しようとするものの、なかなか舌が動かない。いや、動けないと言った方が正しいだろう。切り身に生命が宿ったかのように感じる。急にウネウネと動き出し、舌に絡みだしてきたのだ。それだけではない、鼻につんとくるような感覚を感じると匂いが分からなくなり、舌もビリビリと痛み出してなんだか味覚も麻痺してしまった。
「不思議な料理ですね。思わず天国に逝ってしまうほどのインパクトが………」
直後に、田中の視界は暗転。スタッフも何人か匂いで失神し、てんちょはこの後、この店をやめて駄菓子屋を営む決心をした。
実は自分、妄想をよくするんですよ。主にSFの戦争とか。
ところで、ムニエルっておいしいんですか?食べたことないです…。