Fate/reverse alternative   作:アンドリュースプーン

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第41話  剣の丘

 新都にある新興住宅街へセイバーと共に向かっていた時、それは唐突に発生した。

 街中に奔る業火。人間の存在を真っ向から否定するような悪意の念が滲み出たそれは明らかにただの天災では有り得ない。

 

「マスター!」

 

 驚きセイバーが切嗣を守ろうと手を伸ばす。しかし間に合わない。

 発生した炎はまるで意志をもつかのようにセイバーと切嗣の間に奔り、二人を分断する。どうにかセイバーに近付こうとするが炎の火力が高すぎた。

 

「…………っ」

 

 ふと街に意識を向ければ――――様相は一変していた。

 つい数分前まで何もなく、数日前の爆破テロに恐怖しながらも安穏とした平和を享受していた人々。そんななんの罪もない人々の街が焼けていた。

 灰と人の焼ける匂いがする。何が起きたのかも分からず、生きながら身を焼かれる幼子や女性の苦悶の絶叫が耳に響く。

 衛宮切嗣が何度も聞いて来た――――地獄の気配が充満していた。

 助けを求める声を切嗣は訊く。だが敢えてそれを無視した。己は恒久的世界平和のため。六十億の命を救う為にこそここにいる。であれば目の前の命を救い、時間を浪費している暇はなかった。

 それに仮に彼等を助けたところで、またあの炎が発生すればただの繰り返しだ。

 この場で切嗣がとるべき選択とは元凶の排除に他ならない。しかし、

 

「これは……英霊の、宝具なのか?」

 

 一つの街を一瞬にして地獄へ変貌させるほどの炎。こんなものがただの魔術師に操れるはずがない。

 となれば魔術師など及びもつかないほどの神秘の塊、サーヴァントの宝具による仕業と考えるのが妥当である。

 しかしそれは違う気がした。

 セイバーやランサーを例にすれば分かるが、英霊とは基本的に清純なものであり人々の祈りと信仰こそを糧とするものだ。

 対して街を覆い尽した炎からは明らかに人々の祈りを食いつぶす、ただ呪うためだけの悪意が垣間見えた。確証はないが、あんなものが英霊の宝具であるようには思えない。あれはもっとどす黒く最悪な代物だ。

 

(自分の直感を信じれば……これは英霊の宝具じゃないということになるが……そんなことは有り得ない。魔法使いならまだしも、聖杯戦争に参加した魔術師にこれだけのことをやれるほどの奴は一人としていないだろう)

 

 切嗣の殆ど確信に近い予測では残ったサーヴァントはアーチャー。

 アーチャーの宝具については今一掴めていないが……まさかこれがアーチャーの宝具だというのか。

 

「まあいい。この炎が英霊の宝具に相応しくないなんて関係ない。英霊には反英雄って連中もいる」

 

 例え相手がなんであれ、やることは変わらない。

 残る最後の一騎のサーヴァントを抹殺し聖杯を完成させる。そして聖杯を手にとり恒久平和を祈願する。それこそが衛宮切嗣にとっての唯一の勝利条件であり目的。ならばそれに邁進するのみだ。

 炎のせいで完全にセイバーとは分断されてしまった。恐らく炎の役目は切嗣とセイバーの分断にこそあったのだろう。ならばこの炎は実に効果的だった。セイバーと共闘するにあたり凝らしていた策が全て無為となった。

 しかもこの炎。ただ位置を分断するだけでなくサーヴァントとマスターのラインを使った思念通話すら妨害する効果があるらしい。つくづく厄介なものだ。

 

(この炎だ。合流するには令呪を使う必要があるが……駄目だ。最後の一角の令呪は温存するべきだ。ここは)

 

 セイバーとの合流を断念し、切嗣は先を急ぐ。

 炎で外観は完全に滅茶苦茶だが、地形は頭に叩き込んでいる。聖杯の降霊地たる冬木市市民会館へ行くのには支障はない。

 急ぎながらも慎重に進む。

 出遭うのが敵マスターならいいが、もしもサーヴァントならば……その時はやむを得ない。令呪を使うことになるだろう。

 切嗣とて自分がサーヴァントと真っ向勝負できると思うほど自惚れてはいない。

 

「――――――――」

 

 暫く歩いて、漸く人の気配を感じた。無論、炎に焼かれる人々とは異なる、歪でありながら猛々しい敵の気配だ。

 切嗣は固有時制御で自分の体内時間を半分にして気配を薄め、そして僅かな気配の淀みと同時に飛び出すとその敵へ発砲した。

 

「無粋な挨拶だな」

 

 だが敵はあっさりと黒鍵で弾丸を全て叩き落とすと、切嗣へと顔を向けた。

 まるで地獄で誕生したかのような虚無の瞳。それでありながら天界で生を受けたような清らかさ。聖職者として誰よりも正しく見えながら、その実誰よりも正しくないような男。

 切嗣はこの男を写真越しにのみ見た事がある。

 言峰綺礼。衛宮切嗣が直感的に『宿敵』だと感じた唯一人の敵対者だ。

 

「言峰、綺礼」

 

 宿敵の名を呟く。自然と切嗣は銃口を向けた。アサシンのサーヴァントが失われたというのにどうして言峰がここにいるかなど気にもならなかった。

 確実なのは言峰が自分の敵で、恒久平和の障害になるというだけだ。

 言峰はそんな切嗣に視線を向けると…………怒りを滲みだしながら、笑った。

 

「クッ、クックックっクッ。なんだというのだ衛宮切嗣、その不甲斐なさは」

 

 嗤いながら言峰は明らかに憤怒していた。他ならぬ切嗣に対して。

 言峰が黒鍵を投擲してくる。凄まじい速度で黒鍵がむかってくるが避けられない程ではない。弾丸を切っ先に当て軌道を逸らし防御した。

 

「私はお前のことを私の同類だと思っていた。だが違う。アーチャーとの話で勘付いてはいたが、やはりこうして直に目の当りにすると堪えるものだな。同時にあらゆる葛藤や疑問が氷解していく……妙な心地よさすらある。もしもお前が私であるのならば、例え"答え"を得ていたのだとしても聖杯を必死に欲するなどということは有り得ない」

 

「――――っ」

 

 言峰が喋る一言一句がどうしようもなく切嗣にとって不快だった。その口を閉ざさせるため発砲するが、言峰綺礼は容易くそれを回避してみせる。

 その言霊は止まることはない。

 

「然り。そうだったのだ。私がお前に注目したのは、私とお前が同じだからではなく――――お前が私と正反対だったからなのだ。大方お前は恒久的世界平和などという願いでも聖杯に託そうとしているのだろう?」

 

「ッ!」

 

「なんだそれは? 貴様はそんな下らんものの為に貴様を愛した妻を犠牲にしたのか! 私が求めても得られなかったもの。手を伸ばしても零れていった幸福を、そんな愚かな願いのために取りこぼしたというのならば―――――」

 

 言峰綺礼が二つの黒鍵を構える。

 彼が思い起こすのは、自らの目の前で自害し果てた女の記憶。女は彼を誰よりも理解していた。

 人の美しいものを醜いと感じ、醜いものを美しいと感じる破綻者。言峰綺礼が愛するのは天国ではなく地獄であり、花ではなく毒草だった。

 善人が人の幸福に至福を感じるのなら、言峰綺礼は人の不幸にこそ至福を感じた。

 生きる価値など微塵もない、間違った人間。だからこそ最大の理解者である女を妻としながらも、終ぞ言峰綺礼は当たり前の幸福など得ることはできなかったのだ。

 普通に愛したいという心はあった。間違って生まれたことを自覚していながらも、言峰綺礼は当たり前の幸せが欲しかった。しかし言峰綺礼の腸はどうしても当たり前の幸せというものを呑み込んでくれない。

 だからこそ"答え"を求めたのだ。

 人として誤りである己が精神。間違って生まれた無価値なる己。そんな己が存在する価値を知りたかった。そのために遠坂時臣を殺し、そのためにアーチャーを奪い、そのために衛宮切嗣との邂逅を果たした。

 しかし衛宮切嗣は言峰綺礼の同類ではなく――――真逆の男だった。

 想起するのは自分が捕えさせた衛宮切嗣の妻。銀髪の女アイリスフィール。

 確信をもっていえる。あの女は衛宮切嗣を愛していた。衛宮切嗣の内面を理解し、その上で深く愛していたのだ。

 そして恐らくは衛宮切嗣もあの女を愛していた。

 言峰綺礼が求めても得られなかった当たり前の幸福。それを衛宮切嗣は手に入れておきながら、手放したのだ。たかだか恒久平和如きのために。

 

 生まれながらの異常者は、主の教えを捨て当たり前を求めた。

 生まれながらの健常者は、当たり前の幸福を捨て理想を求めた。

 

 衛宮切嗣と言峰綺礼。

 この二人は決して相容れる事はない。二人は誰よりも似た者同士でありながら誰よりも正反対だ。

 同極に位置する異質の願望をもつが故にお互いはこの世の誰よりも互いを憎み合う。

 

「私はお前が許せない。お前のやること為す事が総て癇に障る。存在そのものが不愉快だ。故に私はお前の祈りを目の前で打ち砕こうと思う」

 

 それは切嗣とて同じだ。思えば最初から切嗣は言峰こそを仇敵と見定め、言峰は切嗣に目をつけていた。

 生まれも育ちも境遇も、何一つとして共通点のない二人であるが――――自分の天敵だけは直感的に感じ取っていたのだ。

 言峰綺礼は衛宮切嗣を殺し、願いを破壊し。

 衛宮切嗣は言峰綺礼を殺し、願いを叶える。

 二人はやはり同時に地を蹴った。目の前の相手を殺し尽くすために。

 

 

 

 炎の海と化した街をセイバーは疾走する。

 この炎のせいで切嗣とは完全に分断されてしまった。ラインを通した通話もできないときている。

 唯一つ不幸中の幸いなのは、この炎が隠れ蓑になって戦いの邪魔が入らないことだろうか。

 あらゆる怨嗟、あらゆる悲鳴に背を向けてセイバーは走る。

 助けたいと思う感情がないわけではない。救いたいと思う心もある。本音を吐露すれば、聖杯戦争に背を向けて助けに行きたい。

 だがセイバーはあの選定の剣を抜いた日から、人々を救うために人々を救いたいという心を切り捨ててしまっている。

 それに切嗣は自分にそんなことは望まないだろう。だからただ走った。向かう先はサーヴァントの気配のある場所。

 残るサーヴァントは一騎。敵マスターの方は切嗣がなんとかするだろう。ならばセイバーの仕事は最後のサーヴァントの相手をすることだ。

 

「――――!」

 

 立ち止まる。炎の中、炎と同じ真っ赤な外套に身を包んだ騎士が、まるで何年もそこにいたかのようにセイバーを待っていた。

 両手はなにも武器をもたず、ぶらんとしている。それでも隙らしい隙が見当たらないのは彼の者がサーヴァントだからだろう。

 

「貴様は……アーチャーだな?」

 

「セイバー、か」

 

 感情を宿さなかった弓兵の両眼。しかしそれもセイバーを目にする前までの話。

 セイバーの姿を見咎めた途端、アーチャーの瞳に郷愁とも哀憫とも見えぬ不思議な色が宿った。

 

「余計な問答をするつもりはない。アーチャー、貴方はここで脱落しろ」

 

 セイバーが真っ直ぐに不可視の剣を向ける。

 しかしアーチャーはセイバーの宣戦布告に構えるでもなく、頭を抱え顔を隠すと笑い出した。

 

「くくく、あははははははははははははは!! 私を……殺すか。そうだな。否定する気はないとも。こんな私など死んでしまった方が世の為というものだ。しかし俺としてもここで死ぬことはできない。聖杯は要らんし、マスターが死のうが生きようがどうでもいいが……こちらも退くことはできん」

 

「聖杯が要らない。貴様もアサシンのように、戦いが望みという英雄か?」

 

「まさか。私は奴とは違う。俺が抱くのはあの侍などとは真逆の負の感情だ。それに願いがないわけではない。ただその願いが聖杯にかける類のものではないというだけ。いやもう一つあるな。俺の願いはお前のマスター、衛宮切嗣の願いを踏み躙ってやることだ」

 

「な、に?」

 

 思わぬ人物から出た思わぬ願いの形に、流石のセイバーも唖然とする。

 

「馬鹿な。どうしてそんな願いを抱く。お前と私のマスターになんの関係がある!?」

 

「クッ――――。それは言えんな。だがあの男はどうせ恒久的世界平和などという戯けた望みを抱き続けているんだろうよ。実に下らん。愚かなものだ。恒久的世界平和などこの世界には有り得ない。正義の味方なんて、誰も傷つかない世界なんてありえないんだよセイバー。そのことをあの男に見せつけてやりたかったのだがな。俺にはもうそれすら出来ない。俺はたった一つのつまらぬ八つ当たりの願いすらも叶えられなかった惨めな敗者だ」

 

 絞り出すような声だった。何度も何度も裏切られ、絶望した男の慟哭だった。 

 その慟哭の源泉がなんであるかをセイバーは知らない。しかし決してこのアーチャーはただの気紛れの感情でこの場に立っているわけではないのだ。そのことだけはセイバーにも理解できた。だが、

 

「貴方がなにに絶望しているかは知らぬし、我がマスターにどういう感情を抱いているのかも知らない。しかしお前にマスターの願いを否定する所以はない」

 

「私は衛宮切嗣のことだけを言ったのではない、セイバー、君もそうだ。お前はいつまで間違った望みを抱いているつもりだ」

 

「…………!」

 

 衛宮切嗣の名を出された時以上の驚愕がセイバーを襲った。

 セイバーの願いを知る者はセイバー自身を除けば切嗣だけだ。断じて他の者に自分の願いを喋ったことはない。だというのにこのアーチャーはまるでセイバーの願いを知るかのように、その願いを否定した。

 

「貴様は、何者だ――――?」

 

 聖杯戦争において問う意味のない問い。

 真名を隠すのがサーヴァントの鉄則なれば、サーヴァントが名前を尋ねられたところで馬鹿正直に名乗るはずがない。

 それでも訊かずにはいられないほどアーチャーの存在は埒外の極みだった。

 

「おや。先程の君自身の発言を忘れたのかな。余計な問答をするつもりはない。お前はここで脱落しろ……だったか。然り。もはや問答する意味はないし、俺にもそれをすることはできない。お前と今日この日、この場所で戦うことに運命の悪意すら感じるが良いだろう。いずれ追い付きたいとは思っていた壁だ」

 

 アーチャーの手から陰と陽の夫婦剣が出現した。

 セイバーの聖剣と比べれば劣るものの、見る限り相当の強度をもつ宝具とみえる。

 

「良いだろう。もはや貴様の正体については気にはすまい。……そう、押し通らせて貰うぞ! アーチャー!」

 

 相手が双剣を握ったとはいえ、己はセイバーのサーヴァント。アサシンは例外として、剣においてならこちらの方が優位だろう。

 逆に弓兵を相手に距離をとることこそ愚の骨頂。

 故にセイバーは地面を蹴ると一気にアーチャーと距離を詰め剣を一閃。アーチャーはそれを双剣をもって受けるが何分、ステータスの差があり過ぎる。

 アーチャーは他の英雄たちとは違う。唯一つの才能を除けばただの人間だった。人間として埒外の筋力をもっていようと、サーヴァントの中にあれば平均以下。最優のセイバーと剣戟を交えるほどの力はない。

 ましてやセイバーの剣は不可視なのだ。

 

「はっ――――!」

 

 だがアーチャーはセイバーの剣を弾いてみせた。

 令呪によるバックアップもあるだろう。しかしそれ以上にアーチャーはまるでセイバーの剣を知っているかのように不可視を無意味とし、その剣術を熟知しているかのように先を読み受けたのだ。

 

「はぁぁぁあああッ!」

 

 が、一度防がれたところでセイバーが剣を振るうことを止めるはずがない。

 魔力炉心が生み出した莫大なる魔力が風王結界を高め、力を高め、刃を振り落す。力を前面に押し出しながらも、その切っ先は流麗にして清廉。

 力任せの暴風ではなく、才をもちながら才に溺れず極限にまで高めた芸術性すら感じさせる剣術だ。耐え凌ぐのは並大抵のことではない。

 やがてアーチャーの左下腹部に隙を見出す。セイバーは迷わずにそこに剣を打ち込んだ。

 

「!」

 

 だが隙に繰り出されたはずの一撃をアーチャーは読み切っていたように黒い刃で防御した。

 アーチャーにはセイバーと真っ向から戦う力はない。だが凡人には凡人なりの戦い方がある。アーチャーが行ったのは攻撃の誘導。意図的に隙を生みだし、敢えてそこに打ち込ませる。そして狙う場所の分かった一撃を防御し次に繋げる。

 口にするのは簡単だが、わざと隙を作り出すというのは危険極まる綱渡りだ。だがそんなリスクを冒さなければアーチャーはセイバーと戦うことはできない。剣の英霊は伊達ではないのだ。

 

「せいっ!」

 

 剣を防いだアーチャーはセイバーの左下腹部に回し蹴りを叩き込む。

 蹴り自体は鎧に阻まれてダメージは届かないが、衝撃は響く。セイバーがほんのわずかに両足を宙に浮かせた瞬間、アーチャーが攻勢に出た。

 陰と陽の夫婦剣。それを無骨な手つきで操り、セイバーの首級に振り落してきた。

 

(アサシンと同じく首狙いか!)

 

 直感で夫婦剣の狙いを読みとり躱す。そして逆襲の斬撃を叩き込んだ。アーチャーは風圧に圧され、三歩半下がった。

 そこを逃さずセイバーが追撃した。

 

(しかし弓兵でありながらこの剣技とは)

 

 アーチャーだけあって技量そのものはセイバーに及ばない。白兵戦ということならランサーにも及ばないだろう。

 しかしアーチャーは持ち前の戦上手さで最優のセイバー相手に曲がりなりにも戦っているのだ。ただそれは曲がりなりにも、に過ぎない。

 どれだけ取り繕うとアーチャーは所詮アーチャー。弓による狙撃なら兎も角、向かい合っての剣技でセイバーには敵わない。

 セイバーはアーチャーを仕留めるために再び距離を詰めようとするが、アーチャーも自分の不利は分かっているらしい。真っ向から双剣で打ち合うなんて愚策をとることはなかった。

 

「工程完了(ロールアウト)。全投影、待機(バレット クリア)」

 

「なっ!」

 

 アーチャーの周囲に無数の剣が現れた。

 その一つ一つにただの武器では考えられない魔力と神秘が込められている。

 

「停止解凍(フリーズアウト)、全投影連続層写(ソードバレルフルオープン)!」

 

 アーチャーの詠唱で宙に浮いていた剣が起動する。剣という魔弾は一斉にセイバーへと殺到してきた。

 魔弾は一つ一つがサーヴァントを殺すだけの力をもった魔弾である。だがセイバーとて王であった頃からこういった掃射は慣れていた。蛮族たちとの戦いでは数千の矢を掻い潜ったことすらある。その魔弾に驚きながらも、風王結界で全ての剣を叩き落としてみせた。

 それでも疑念は残る。

 

「…………まさか、こんなことが」

 

 アーチャーの正体について気になり、驚くのは何度目だろうか。

 信じ難いことだがアーチャーが放ってきた無数の剣は一つ一つが『宝具』だった。

 

「ありえない。英霊のもつ宝具は一人につき一つ。多くても二つ三つが精々だ。なのに……」

 

「喋っている暇があるのか!」

 

 今度はアーチャーが両手にもっていた夫婦剣をセイバー目掛けて投げてきた。

 ランサーのゲイボルクでもあるまいし、自分の得物を敵に投げつけるという愚行。本来であれば一蹴するところだが、このアーチャーはなにをするか分からない。

 警戒を緩めず、油断せず双剣を切り払った。

 

「鶴翼(しんぎ)、欠落ヲ不ラズ(むけつにしてばんじゃく)」

 

 セイバーが双剣を切り払おうと気にせず、アーチャーはまた同じ双剣を出現させると投げつけてきた。

 ただの魔術師なら双剣を投げつけるだけで殺せるかもしれないが、セイバーは闇雲に剣を投げつけるだけでやられるほどの愚図ではない。

 雑な投擲を再び同じように斬って捨てた。

 同じ双剣を出してきたことは気にかかるが、このアーチャーに対して一々驚いていても仕方ないと結論して接近を試みる。

 

「心技(ちから)、泰山ニ至リ(やまをぬき)」

 

 セイバーに接近されればアーチャーは後退しながら続いて三度目の正直とばかりに剣を投げつける。

 無骨な金属音が響く。三度目も二度目までと同じようにあっさりセイバーは防いだ。

 

「心技(つるぎ)、黄河ヲ渡ル(みずをわかつ)」

 

 四度目の双剣。また同じように投げつけてくるのかと思いきや、アーチャーは魔力を込めて双剣をより巨大かつ強力に肥大化させた。

 アーチャーは殺傷力を格段に上昇させた双剣を構え、セイバーに突っ込んできた。

 

「唯名(せいめい)、別天ニ納メ(りきゅうにとどめ)」

 

 そこでセイバーの直感力が警鐘を鳴らす。

 咄嗟に首を左に傾けると、そこに弾き飛ばしたはずの夫婦剣が向かってきたのだ。

 それだけではない。アーチャーにより投げつけられた三組の夫婦剣は今や宙を飛びながらくるくると舞い、セイバーを中心とした円の結界で取り囲んでいた。

 

「両雄、共ニ命ヲ別ツ……!」

 

(アーチャーの狙いはこれかっ!)

 

 陰と陽の夫婦剣。干将莫邪は離れた時に互いが互いに引きあうという特性をもつ。

 干将は莫邪を呼び寄せ、莫耶は干将を引き寄せる。故に宙に舞う三組の干将莫邪は終わりなきワルツを舞うことになるのだ。

 セイバーなら剣を粉々に破壊して円の結界を力ずくで突破することもできるだろう。だがそんなことをしていれば突っ込んできたアーチャーにより切られるだけ。

 これこそアーチャーが編み出した必殺剣、鶴翼三連。

 アサシンの必殺剣が回避不可能な魔剣であるのなら、アーチャーの必殺剣は敵を回避しないようにさせた上での必殺であった。

 もはやセイバーは円の結界に閉じ込められた囚人。アーチャーのオーバーエッジした干将莫邪による一撃を防ごうとすれば、結界を構成する双剣が喉元を切り裂き、結界を対処しようとすればアーチャーに両断される。

 故に必殺。もはや為す術などはない。

 

――――しかし常勝無敗の騎士王はこの程度で膝を屈することを良しとしない。

 

「風王鉄槌!」

 

 アーチャーの必殺剣の正体を見破ったセイバーの行動は早かった。

 聖剣を囲っている風王結界を解き放ち、暴風を吹き荒せる。干将莫邪は互いが互いを引き寄せる性質をもっているが、その力は風王鉄槌による暴風を超えられるものではない。

 暴風が干将莫邪を弾き―――剣の牢獄から、彼の王は解き放たれる。

 露わとなった聖剣が黄金の輝きを発し始める。

 

「はぁぁぁあああッッ!」

 

 気合一閃。黄金の刃が巨大化した干将莫邪と打ち合う。 

 拮抗は僅かな時間。聖剣における最上位に君臨する聖剣は巨大化した干将莫邪を粉砕してみせた。アーチャーは黄金の光に目を奪われたように目を細めると、このままではやられると悟ったらしく全力をもって後退した。

 

「逃がさん!」

 

 敵が逃げるのをみすみす許すほど愚かではない。必殺剣を真っ向から破りアーチャーは僅かなりとも狼狽えている。そこを見逃しはしない。

 セイバーは止めを刺すべくアーチャーに突進するが、アーチャーはにやりと笑い。

 

「壊れた幻想」

 

 投擲された三組の干将莫邪が内に秘められた魔力を炸裂され爆発した。

 

(上手い!)

 

 セイバーはアーチャーの戦運びの上手さに舌を巻く。

 必殺剣を破り狼狽えたと思えば、円の結界に使用した干将莫邪を今度は盾として自分の後退用に利用したのだ。

 行動に無駄がなく、一つの攻撃が次の攻撃に繋がり、同時にもしもの保険にも働いている。この戦い方、何故だろうか。不思議と自分のマスター、衛宮切嗣と被って見えた。

 爆炎が止むと、セイバーは身構える。

 しかしそこにアーチャーの姿はない。

 

「逃げたか……? いや、まだ気配が近くにある」

 

 アーチャーは弓兵だ。セイバーの背後から弓で狙っているかもしれない。

 全包囲を警戒しながらセイバーがゆっくりと歩を進める。

 

「――――なるほど。相変わらずだな、セイバー」

 

「!」

 

 アーチャーの声がどこからか聞こえてくる。だが周りの炎が邪魔で上手く場所を探れない。

 

「勝ったところで俺には得るものなどない戦いだが、そういった戦いは慣れている。……それに、どうせなにも還らぬ戦いだというのなら一時の感情に流されるのも悪くない」

 

「…………っ!」

 

 背後になにかを感じ炎を切る。だがそこには誰もいない。

 

「征くぞ、セイバー。全ては遠き理想だが――――お前を超えてみよう」

 

 疑問が遂に臨界に達する。

 アーチャーの口調、それに戦い方といいまるでこちらのことを知っているかのようだ。これは確信である。アーチャーはセイバーを知っている。

 

「I am bone of my sword. 」

 

 いずこからか無骨なる声が鳴いている。 

 

「Steelis my body, and fireis my blood」

 

 それは唄であり歌であり、詩でもあった。

 他人に聞かせるためのものではなく、ただ男の生涯を歌い上げただけのもの。

 

「I have created over a thousand blades. 」

 

 赤い外套の騎士の歌は周りの炎に焼かれ消えていく。

 それでもセイバーは一言一句それに耳を傾けてしまう。

 

「Unknown to Death.」

 

 まるで呪いのように。

 

「Nor known to Life.」

 

 この唄を聞いていると、どうしてかアレを思い出してしまう。全ての理想と騎士とが死に絶えたカムランの丘。己があらゆるものを失った最期の土地を。

 セイバーは渾身の意志で迷いを振り払う。

 アーチャーの唱えるこれを完結させてはいけない。この土壇場で繰り出してくるものだ。恐らくこれがアーチャーにとっての切り札。

 しかしアーチャーを探せど炎が邪魔だ。衛宮切嗣とセイバーを分断するための炎は隠れ蓑としても有効だった。

「Have withstood pain to create many weapons.」

 

 だがその時、月の光が差し込みアーチャーの姿を露わにする。アーチャーは片膝を閉じ、祈るように目を閉じていた。

 

「どうやら月の女神の加護がなかったようだな。覚悟しろ、アーチャー!」

 

 見咎めた敵へセイバーが剣を振りかぶる。

 

「Yet, those hands will never hold anything.」

 

 セイバーがアーチャーに斬りかかる。けれどセイバーの刃がアーチャーを切り裂くよりも早く、

 

「So as I pray, unlimited blade works.」

 

 最後の一節が唱えられた途端、炎が奔り世界が変わる。

 炎のせいで目を晦ませられたセイバーが目を見開いて見せれば――――そこは異界となっていた。

 草木など一切生えていない赤い荒野。空には回転する巨大な歯車があった。

 なにより目につくのは荒野に突き刺さる剣だ。

 一つ一つが宝具と思わしき魔力を秘めた聖剣魔剣、それらが無造作に無限に連なり刺さっている。

 

「まさか固有、結界……?」

 

 魔法に最も近いとされる大魔術。魔術師にとっての一つの到達点であり大禁呪。世界を己の心象風景で塗りつぶす悪魔か精霊の御業。

 

「そうだ。俺は生前、聖剣も魔剣も持っていなかった。俺がもっていたのはこの世界だけ。それが剣であれば一度見ただけで複製し貯蔵する。それが英霊としての俺の能力」

 

 剣の丘の中心に赤い外套の騎士はいた。

 セイバーの疑問が氷解する。あらゆる剣を複製し貯蔵する。信じ難いがそれならアーチャーが数えきれないほどの宝具をもっていることにも説明がつく。

 つまりあれは本物ではなく、この騎士が生み出していた贋作だったのだ。

 固有結界"無限の剣製"。それがアーチャーの象徴にして宝具。

 

「お前の聖剣ほどの代物となるが完全に複製するのは不可能だが、真に迫ることはできる」

 

「それは!」

 

 アーチャーの隣に突き刺さっているのは眩い黄金の聖剣。セイバーのエクスカリバーだった。 

 だがどこか違う。他は完全にトレースしきれているのにエクスカリバーはどうにも偽物臭い。セイバーのエクスカリバーは人の願いによって生まれながら、人の意志とは関係なく生み出される神造兵器。神造兵器の投影はできないというのがアーチャーの『能力限界』なのだろう。

 アーチャーはニヤリと笑うと、エクスカリバーではなく隣にある剣を手にとった。

 

「ご覧の通り、貴様が挑むのは無限の剣。剣戟の極地!  恐れずしてかかってこい!!」

 

「望むところだ。貴様が無限の剣ならば、私は至高なる一で迎え撃つッ!」

 

 アーチャーは無限の剣を、セイバーは究極の剣を武器に真っ向からぶつかり合う。

 しかし『無限の剣製』の担い手たるアーチャーにはこの宝具の弱点も熟知している。如何に無限の剣をもとうとも、それだけでは一つを極限に極めた英霊には及ばない。

 故にアーチャーはただの剣ではなく龍殺しの逸話をもつ剣を手にとった。

 セイバーは体に竜の因子を秘めている。そのため龍殺しの逸話をもつ剣はセイバーにとって天敵だ。

 

「くっ……!」

 

 間違ってもその剣を受けるわけにはいかない。ただの剣なら大した傷にならずとも、それが龍殺しの魔剣であれば一撃が致命傷になりかねない。

 セイバーは打ち合い、その龍殺しの魔剣をアーチャーの手から弾き飛ばす。しかしそんなことは無意味だ。ここは無限の剣のある場所。ならば一つをアーチャーの手から弾き飛ばしたところで意味などはない。アーチャーは直ぐに同じ龍殺しの逸話をもつ剣を抜くと、それでセイバーを切り裂く。

 今度は避けきれずセイバーの左肩から血が噴きだした。

 

「行け!!」

 

 アーチャーが一言命じると、突き刺さった剣が浮かび上がっていきセイバーに殺到した。

 無限の剣による一斉掃射。一つ一つは宝具とはいえ、セイバーなら楽々対処できる。しかしこの数は厄介だ。

 セイバーは自らの動体視力と直感を総動員して剣の雨を掻い潜っていく。

 そうしてセイバーが剣の雨に襲われている中、アーチャーは右手に身長ほどもある巨大な斧剣を構えていた。

 

「――――投影、装填」

 

 如何なアーチャーとはいえこの斧剣は扱い難い。それもそうだろう。この巨大な斧剣はアーチャーが振るうようなものではない。これは本来ならばギリシャ最大の英雄が白い少女を守るために振るったものだ。

 アーチャーはその時の記憶は摩耗して覚えていないが、彼の英雄の斧剣は確かにこの世界に記録されていた。記録された斧剣からアーチャーはそこに込められた経験をも自らに投影する。

 

「全工程投影完了――――是、射殺す百頭」

 

 九つの軌道を描きセイバーに迫る斧剣。超高速九連撃。豪快にして精密な剣技は驚嘆に値しよう。しかし所詮は憑依経験を降ろしただけのもの。本物の彼の大英雄の剣技と比べれば劣る。だがそれで十分。超高速で繰り出された九つの斬撃に完全とはいえずとも大英雄の筋力をも再現した攻撃だ。英霊とてこの一撃を前にすれば抗えはしないだろう。

 しかしセイバーからすればたかが超高速九連撃だ。

 セイバーはこれ以上のものをこの聖杯戦争で見ている。超高速なんてものではなく、完全同時に三つに分身して襲い掛かってくる必殺剣を。

 

「はぁぁ――――ッ!!」

 

 万力の力で黄金の剣を振るい斧剣を粉砕する。数こそ九つと多いが、所詮は超高速の連撃。最初の一撃を破壊してしまえば、次の二撃目はない。

 破壊された斧剣が砕けると、幻想は現実に押し潰され消滅する。

 

「ふっ!」

 

 アーチャーは斧剣による超高速九連撃を破壊されて尚、動じることはなかった。

 斧剣はなくアーチャーにはまた別の剣が握られている。

 この場において手元に武器がないことはなんの不利にもならない。得物を失ったのならば別の剣に持ちかえればいい。なにせここには無限の剣があるのだから。

 

「はっ――――どうしたセイバー、動きが鈍いぞ!」

 

 愚直ともいえるアーチャーの猛攻。次々と武器を変え得物を変え、その攻撃はセイバーに慣れさせるということを許さない。

 単純な剣技ならばセイバーはアーチャーより遥か上でも、アーチャーはセイバーの弱点となる宝具を的確に選定し、その都度、最も有利に戦いを進められる武器に持ち替えてくる。

 

「舐めないで貰おうかアーチャー!」

 

 けれどセイバーとて円卓を束ねた騎士達の王者。その練度は無銘の英霊に劣るものでは断じてない。

 自身の弱点となる剣と剣技。それらを持ち前の直感力と極めた剣技により互角以上に押し返していく。

 

「これで止めだっ!」

 

 セイバーがアーチャーの城塞のような防御を突破して、首級目掛けて刃を奔らせる。

 確実に討ち取った、と確信するほどの一撃。だがそれをアーチャーは手にとった黄金の剣で切り払う。

 

「っ! 勝利すべき黄金の剣(カリバーン)……私の剣を」

 

「そら。余所見をするなよセイバー。まだ戦いは終わってないぞ」

 

 どこか楽しさすら感じさせる口調でアーチャーは黄金の剣を振るう。

 不思議な感覚だった。

 勝利すべき黄金の剣――――カリバーン。

 それはセイバーが王となったあの日に抜いた選定の剣だ。

 嘗てセイバーが騎士道に反する戦いをした際に折れてしまい、永久に失った黄金の剣。

 権力と権威の象徴であり、美しい剣であることの代償として武器としての性能はエクスカリバーには及ばない。

 ただ失ったとはいえセイバーにとってはエクスカリバー以上に馴染み深い愛剣だ。

 そんな愛剣を贋作とはいえ誰とも知らぬ他人に扱われているのに、セイバーには不快感というものがまるでない。こんな感覚は初めての経験だった。

 

「せいッ!」

 

「はッ!」

 

 カリバーンとエクスカリバーがぶつかり合う。

 鍔迫り合いは一瞬で終わる。聖剣というカテゴリーにおいて頂点に君臨するエクスカリバーは一度の接触で贋作のカリバーンを砕いた。

 しかしアーチャーはそれで終わらない。

 後方に大きく跳躍したアーチャーは剣の丘から『ある剣』を抜いた。

 

「貴様、今度はエクスカリバーを……!」

 

「そうだ。だが偽物だ。どれだけ本物のように見せようと、やはり本物にはなれないのだろうな」

 

 男の独白は諦めにも似ていた。男が担う聖剣――――その形は寸分違わぬ黄金の剣そのもの。

 それは嘗てともいえるし、これより先ともいえる時代の話。五つを残しあらゆる魔法が追放された現代において、一つのちっぽけな英雄譚を築き上げた少年がいた。

 少年は終幕のゼロに生まれ、一人の男に憧れ、そして運命の夜に出会った少女に憧憬の念を抱き生きてきた。

 恐らくは一秒にも満たぬ刹那。されどその時の光景だけは、少年は地獄に堕ちようと忘れはしなかった。

 彼らしくもない愚かな選択だ。

 無限の剣では究極の一には敵わない。どれだけ宝具や技量を模倣しようと一つを極限に極めた英雄には及ばない。

 英霊達の宝具をいくつも記憶した上で、それらを効果的に運用し相手の弱点を衝くことで初めて彼は他の英雄達に対抗できるのだ。

 故にエクスカリバーに対して同じエクスカリバーをもって挑んだところで敗北は必至。

 

「振り払ったつもりなのだがな」

 

 そう。偽物が本物に敵わぬ道理はないのだ。

 今、少年は彼女と同じ英雄として、自らの一生を費やして投影した偽物の黄金を手に構え、あの日に見た本物の輝きへと挑む。

 

「いいだろう。受けてたつぞアーチャー」

 

 相手が聖剣をもってくるのならば、こちらも聖剣をもって相手する。

 アーチャーの正体をセイバーは知らない。その宝具を見せつけられてもセイバーにはその男の正体に皆目見当がつかない。アーチャーは自分を知っているが、セイバーは男のことをなにも知らなかった。これほどの使い手、忘れるはずはないというのに。

 だがもはやそのことを問いはすまい。

 セイバーがやるべきことは英霊として、アーチャーの生命を込めし一撃を迎え撃つことだけだ。

 

「「約束された――――」」

 

 言葉が重なる。本来なら有り得ぬ同じ宝具の同時解放。

 

「「――――――勝利の剣!!」」

 

 ぶつかり合う二つの黄金の輝き。

 圧倒的エネルギーの奔流の衝突は周囲に突き刺さる無限の剣をも巻き込み大地に皹を入れていく。

 拮抗は一瞬。されど那由多の感覚の後、本物の輝きが偽物の光を呑み込んでいく。まるで優しく包むように。 

 

「セイバー、いつか必ずお前を解放する者が現れる。その時もやはり関わるのは私なのだろうよ。……ありがとう。お前に何度も助けられた」

 

 光がアーチャーをも飲み尽くす。アーチャーの最期の独白も光と消える。

 主を失ったからだろう。剣の丘が――――固有結界が消え去っていく。

 セイバーは再び地獄の業火に包まれた戦場へと戻ってきた。そこにアーチャーの姿はない。

 

「行こう。マスターが待っている」

 

 アーチャーは斃した。残るサーヴァントはもはや自分一人。後は聖杯を確保するだけだ。

 セイバーは己が主の助力のためにも、なにより聖杯を手に入れるために聖杯の気配のする場所に向かった。

 

 

 

【アーチャー 脱落】

【残りサーヴァント:1騎】


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