SAO SS meet again,and…… 作:森山 大太
週一更新をノルマにやっていきたいと思うので、お付き合いいただければ幸いです。
「ねえ……アスナはさ、聞いたことある? 『
そう言って、私は唇に付いていたミートソースを舌でなめた。アスナはアスナでテーブルの脇に置かれた紙のナプキンに手を伸ばし、口元をさっと拭う。その一連の動作のかしこに彼女の育ちの良さが透けて見え、そのアインクラッド一と言っても差し支えない端麗な顔立ちと相まって、私は同性としてアスナが羨ましく、一種の憧憬の念すら覚えて、そのはしばみ色の瞳に思わず見入ってしまう。
「……ちょっとマコ、どうしたの?」
「あ、ううん、なんでもないよ」私は我に返り、慌てて頭を振る。「……もしかしてマコ、好きな人でもできたの? そういえば頬も少し赤いし……」「ちがうよ! ……アスナじゃないんだから」アスナに聞こえないようにぼそっと呟く。本当に、この、『浮遊城の女神』でも言うべき美女の想いを一身に受けるかの『黒の剣士』は罰当たりだと思わざるを得ない。
グラスに汲まれた赤ワインもどきを少し呷り、私は口を開く。
「……それで、話を戻すけど。知ってる? 『
「えー、と……」アスナは頤に手を添え、考え込む素振りを見せる。「訊いたことないかな。なんなの? その……えーと……」
「『
「そう。……エターナル・オレンジ、だから……耐久値無限の蜜柑、とか?」
「まさか。そんなほんわかしたものじゃないよ」私は少し、声のトーンを低くする。「ここ最近、下層を中心に広まってる噂話らしくて、私も今日、買い出しに行った店先で訊いたんだけどね。……PKer――人殺しの、話」
PKer――レッドプレイヤー。かつてアインクラッドでその名を、恐怖とともに広めたギルド『
まあ広義で言うならば、私もその「死者」の内の一人なのかもしれない。あくまで、広義で言うならば、だけれど。
「マコ。その話、詳しく聞かせてくれる?」
アスナの声で、私の思考は実世界に引き戻された。アスナはいつの間にか食べかけのスパゲティの乗った皿をどかせて、テーブルに身を乗り出していた。その瞳に宿る光は鋭く、昔戦場で見た時のそれと瓜二つだった。
「……詳しくって言われても」私は背もたれに体をあずける。「さっきも言ったけど、私だって今日、小耳にはさんだだけの話だから。詳しいことは分からないんだよ」
尻すぼみな声で言うと、アスナは小さく息を吐いて、腰をゆっくりと椅子に落ち着けた。脇の皿を体の正面にすべらせ、フォークにスパゲティをからめ、一口に食べ、嚥下する。「じゃあ、マコが知ってる限りでいいから、教えてくれる?」 柔い笑顔とともに。
私は少し、思慮をめぐらせる。
「……一言でいうなら、オレンジプレイヤーの無差別殺人者、なんだって」
アスナは一瞬呆けたような顔をして、目を瞬かせた。けれどそこは、さすが『血盟騎士団』副団長にして、かつての『攻略の鬼』。すぐに思考を回転させ、きれいな眉をひそめて私に問う。
「それは……オレンジプレイヤーを、見つけたそばから――殺していく人、ってこと?」
「そう。……そう、らしいんだ。別に、脅してレアアイテムを奪おうとするのでもなく、ただその剣筋で、一方的にオレンジを……虐殺、していく」
「グリーン……普通のプレイヤーには、一切手を出さないの?」
「出さないんだって。それどころか、何のかかわりも持とうとしないらしいんだ。中層の迷宮区で、オレンジギルドに襲われてたところを助けられた人も多いらしいんだけど、その中のだれも、その人と話して――というか、目すら、合わせてないんだって。だから、もちろん名前も分かってない。……ただ、なぜかわかんないけど、カーソルはいつもオレンジ」
一息に言い終えると、アスナは「ふう……」と、おそらく平素からため込んでいるのだろう何か重いものを吐き出した。私もつられて息を吐く。二つの白い吐息が肌寒い夜の空気に溶ける。
「……なんか、よく分からない話だね。オレンジプレイヤーだけを、監獄送りにせずその場で……なのにカーソルはオレンジ……だから、『
私は自嘲気味に笑って、首を振った。
「ゴメンアスナ。私が聞けたのはこれだけ。立ち聞きだったからさ……。あとは、情報屋のアルゴさんに聞いてみたら?」
アスナは聡い人間だから。多分、私の真意をくみ取ってくれたと思う。
「……うん。そうしてみる。場合によっては……直接会って、止めないといけないかもしれないね」
――『
アスナは神妙な面持ちでそう一人ごちた。私は小さくうなずいて、ずいぶん冷えてしまった食べかけの料理に手を伸ばす。
本来ならきっと、『
それに、そんな理屈は抜きにしても――なによりその人だって、心の中ではきっと泣いていて、誰かに止めてほしいはずだと、私は思うから。人間は人を一人殺すたびに、それがたとえどんな動機によるものだとしても、自分の中の何か大切なものを星の数ほど失ってしまう生き物なんだって、少し前に気付いたのはアスナでも他の誰でもない、この私だから。
……でも。
今の私には、できない。
剣を握ることすらできなくなった、
今の私には――