とある木原の幻想殺し   作:TinaTora

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以前投稿していたものの、リメイク版です。


過去編
1st_Ticket_『Prologue』


今日は雨が降っていた。珍しく、百発百中と謳う『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』が予報を外した。

天気予報士は言い訳がましく、学園都市郊外で行われた新型爆弾の実験で天候が変化したなど言っていたが、本当かどうかは定かではない。笠も持たず飛び出してきたことに若干後悔しながら、コンビニを出ると、雨宿りでもしているのか4、5歳程度の幼子が佇んでいた。

幼子を一瞥して、どうでもよさげに視線をレジ袋の中のコーヒーに向けると、近くに居た幼子は木原数多に声をかけた。

 

「あぁ? なんだお前」

 

木原数多は、気がたっていた。それこそ、幼子に声をかけられた程度で、殺意を露わにするほどに。

同僚に馬鹿にされたという、単純な理由ではあったが、彼にとっては許し難いものだった。

そんな殺意を纏った木原数多に凄まれた幼子は、目に涙を浮かべ、声を上げることはなかったが、静かに涙を流し始める。木原数多は、そんな様子の幼子に一層腹が立ったが、ふと幼子の身なりに違和感を感じた。

この学園都市では珍しいぐらい服が汚い。例えるならば、戦場で物陰で息を潜める子供のような。

しかし、木原数多にはそんなことはどうでもよかった。

 

「つまんねぇ」

 

木原数多はそう呟くと、踵を返して歩いて行く。

とにかく、こんなガキに構ってる暇はない、と心のなかで呟きながらも、やはりどこかあの幼子が気になった。

相変わらずコンビニの外で佇んでいて、しかも幼子はコンビニから出る人出る人に声をかけている様子だった。

置き去り(チャイルドエラー)』か、何らかの事情があるのか、はたまた『外』から紛れ込んだのか。

そんな事を考えながら遠巻きに幼子を眺めていると、コンビニに停車した黒塗りのワゴン車から、数人の男たちが降りてきた。男たちは幼子を慣れた動きでワゴン車に乗せ、更には外で煙草を吸っていた男をサイレンサー付きのライフルで射殺して、その場から逃走する。

 

「なるほど、『暗部』か」

 

それにしても、無関係の目撃者をその場で射殺するとは、それをもみ消すほどの組織か、それともただの馬鹿か。

木原数多は、ポケットから携帯電話を取り出して、電話帳から世界で一番ムカつく女の電話番号を探した。

背に腹は変えられない――。あのガキがどこの誰だろうと、あんな光景を見れば助けなければならない。

『クソババア』と登録されているその女に、若干躊躇いながら、電話をかけた。

 

『はぁーい数多ちゃん! さっきは意気揚々と研究所を飛び出してったけど、何? 迷子?」

「うるせえよバカ野郎。ちょっと用が出来た。お前も手伝え」

『用? 何よ』

 

妙に声のトーンが下がり、女は面倒くさそうにため息を吐きながら、

 

『……どーせ『暗部』関係でしょ? そんなの放っておきなさいよメンド臭い。あのね、『希釈』もそんなに暇じゃないわけ』

「……チッ」

 

この女は木原希釈という、『心理操作系』に関しては右に出るものは居ないほどの研究者、らしい。

らしい、というのはあくまで自称であるからである。しかし、能力を持たないにも関わらず、読心する事ができる特技を持つ。それは『機械』でも作っているのか、本当にそういう特技なのかは知らないが、それはさておき。

『暗部』という単語が、希釈の口から出たということは、やはり読心されているのだろう。

 

『数多ちゃんはまだ16のガキだからわかんないかもしれないけど、大人には大人の世界があるのよ、あんまりそういうのには関わらないほうがいいわよん?』

 

丁度、背後で電車が通りいまいち聞こえなかったが、とにかく説教されていることはわかり、なんとなくさっきの怒りが戻ってきた。

青筋を立てながら、数多はものすごい剣幕で、

 

「もう二度とお前には頼まねえクソババア!」

『ちょっ、私はまだ23歳だ! ババアなんて失礼なクソガキね!』

 

そう言ったところで、数多は電話を切った。

他の『木原』……と思ってはみるが、あまり頼れる人物が思いつかない。

木原唯一は優秀とはいえまだまだガキだし、木原脳幹はゴールデンレトリバーだし、木原病理とはなんとなく折り合いが悪いし、とにかく想像する限りでは居ない。はァ、と溜息を吐いて、とりあえず頼れそうな男のもとへ向かう。数多自身、それほど交流があるわけではないが、思いついた中では一番頼れそうだった。

研究所は各地にあるが、最寄りの研究所にいるかどうか。なんせ、神出鬼没で、用意周到かつ、もはや疑心暗鬼のレベルで疑り深いクソオヤジだからだ。

その男の電話番号を探し出し、電話をかけると、そのオヤジはすぐに出た。

 

『数多くんか』

「……木原幻生。頼みがある」

『君が僕に頼みとは珍しいねぇ?』

「簡単な話だ。とある暗部を探してくれ」

『暗部とは、もしかして『上条当麻』くんの誘拐のことかな?』

「なんでお前が知ってるんだ?」

『僕が命令したからね。まあ……まさか目撃者まで殺すとは思わなかったけど』

 

電話の向こうで、やれやれと首を振っている幻生の姿が目に浮かぶ。

それにしてもあんな子供に誘拐するほどの価値があるというのか疑問だったが、幻生に指定された場所へと向かった。指定されたのは学園都市の旧型兵器、つまりは外へと売り出すためのスペックが抑えられた兵器たちが乱雑に置かれる『掃き溜め(ダストボックス)』と呼ばれる倉庫だった。

学園都市からすればゴミ同然の兵器であるからして、セキュリティもなく、正直小学生の秘密基地程度にはなるようなそんな倉庫だ。『掃き溜め(ダストボックス)』は第一六学区の端に存在し、更に辺りは木原一族でも感知しない『学園都市からぬ、科学というカテゴリにない研究所』が散在しているらしい。

たとえば、誕生日占いを膨大なデータの中から一定の法則性を見つけて、占いを『予知』のレベルに引き上げようとするものとか。

そんなゲテモノ科学や産業廃棄物が散財するこの第一六学区の端を『黒鉄地帯(ダストサークル)』と呼ぶ。

誰が名付けたかはわからないが、この黒鉄地帯はもう二○年以上前から存在するらしい。

そんな無法地帯に足を踏み込むのは多少勇気がいる。流石の数多でさえ、拳銃を一丁持ち出し、警戒しながら『掃き溜め(ダストボックス)』に向かう。

 

「……アンタが木原数多か?」

 

突然背後から声をかけられた。慌てて振り向くと、黒いマスクをした背丈の大きい男がそこには立っていた。

その身なりは私兵レベルだ。腰のホルダーには一丁の拳銃が、背負っている大きなバッグからは大型のライフルが顔を見せている。

さらに、両手には黒塗りのマシンガンと、そして太もも部分に巻かれたホルダーにはそのマシンガンのマガジンが二個ささっていた。

拳銃を握る手に汗がにじむ。そんな数多の焦りを察したのか、男は、

 

「あまり警戒するな。木原幻生から言われて、ガキを引き渡しに来た」

 

その男の背後から似たような恰好の男が出てきて、『上条当麻』という幼子を連れてきた。

この幼子になんの価値があるかはわからないが、木原幻生は意味のないことをする男ではない。

特殊な能力でも持っているか、はたまた特殊な環境に置かれているのか。何にせよ、興味は尽きない。

『上条当麻』を受け取ると、『黒鉄地帯(ダストサークル)』をすぐに抜け、第七学区のとある施設へと向かった。

 

「名前は?」

「……上条、上条当麻」

「上条当麻ねえ? ……歳は?」

「4歳」

「俺は色々忙しいからお前の面倒は見れねえが……、代わりに良い奴がいる。お前と歳もかわんねえ」

 

そういって、その施設を訪れた。その施設は一見、普通の幼稚園である。

実際、『置き去り(チャイルドエラー)』を多く保護する孤児院のようなものなのだが、この施設には大きな特徴があった。

『木原』が発現した子どもや、『置き去り(チャイルドエラー)』の中でも利用価値の高い高位能力者を主に保護する、つまるところ『闇』から子供を守る慈善団体である。

そこに超能力者になる可能性の女の子が一人居る。といってもまだ、強能力者だが、『素養各付』はその子の才能を示していた。

 

「あの子だ」

「?」

 

数多が指さしたのは、天真爛漫に遊ぶ他の子供とは明らかに雰囲気の違う、大人びた女の子。

まるで一国の女王のような佇まいで、椅子に腰掛けていた。

相変わらずだな、と数多は微笑して、上条当麻を紹介する。

 

「……なにこのガキ」

「こいつは上条当麻。よろしくしてやってくれ、麦野沈利」

「よ、よろしく」

「ふーん……ま、玩具(遊び相手)程度(ぐらい)には良いかもね」

 

麦野沈利はそう呟いて、椅子から降りた。

にこり、と笑顔を浮かべて右手を差し出すと、上条はうまく表情が作れないのか崩れた笑顔で握手を交わす。

 

「んじゃ俺は帰るわ」

「あっそ。人に押し付けるだけ押し付けといてその態度か」

「うっせえガキだな。わぁったよ、またなんか手土産持ってくっから」

 

そういって、踵を返すと、背後で突然上条が悲鳴をあげた。

悲鳴というよりかは、呻き声に近い。麦野もなにが起こったか理解できなかったらしく、突然の出来事に当惑していた。痛みなのか、上条は頭を抑えながらのたうち回った。

足元に転がっていたぬいぐるみを上条が触れた途端、その触れた部位が破れ綿が飛び出す。

壁を触れば、その壁には亀裂が入り、そして肩を掴んだ数多の腕にミシリ、とヒビが入った。

これが上条の能力か、数多は痛みで疼く腕を抑えながら、考える。

だが――。これは本当に能力なのか、そう疑う気持ちも存在するのだ。

これは『木原』に近かった。『木原』同士で通じ合う『何か』があっただけなのだが、確証はない。

 

「なるほど。幻生のクソオヤジは、これをわかってやがったってことか」

 

もし上条が『木原』なのだとすれば、早めに確保しておくのが良策。上条を同じ『木原』である数多に簡単に引き渡したのも、彼が『木原』だから故。

数多は推測する。今起きた様々な現象を起こしたとすれば、上条の『木原』は、物体を数値化し、物質のウィークポイントを着くという天性の力。

様々な『木原』が存在するが、またしも特異な『木原』が現出してしまった。

数多は研究者冥利に尽きないと、少し喜びながら大人しくなった上条を横目に立ち去った。

 

 

 

 

 

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