とある木原の幻想殺し   作:TinaTora

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過去編は一応、ここで一旦終了となります!
次回からは幻想御手編です!


3nd_Imagine_『Dead_End』_(9/30)

木原数多が石織慧里を匿ってからおおよそ一週間が経った。

今、数多は麦野沈利と上条当麻を連れ、近所の牛丼屋を訪れていた。

なぜ石織がいないかというと、もうそろそろ十日が過ぎようとしているが、流石に十日連続で学校を休むことはできない、と石織は学校へと向かったからだ。

数多はもともと自炊するタイプではなかったし、健康状態など時間短縮の二の次であった。

その反面、石織は料理好きらしく、カロリーなどを緻密に計算してはヘルシーな料理を作ったりして、麦野や上条の健康状態などにも煩かったのだが。

石織が学校に行ってからは料理ができない数多は、こうやって二人を連れて外食や、コンビニ弁当を食べさせていることが多い。

三人はカウンター席に腰掛け、数多と麦野は牛丼の並を、上条はミニ牛丼を頼んだ。

 

「数多ぁ、これからどーするわけ?」

 

牛丼を頬張る上条の横で、麦野は丼に箸を置いて数多にそう質問した。

数多は牛丼屋を出た後で何をするか、と訊かれたのだと勘違いして、

 

「あん? そうだな、ゲーセンでも行くか?」

「そーじゃなくて、慧里のこと」

「あぁ。この一週間、暗部に動きはなかった。俺たちの動きを監視していない限り、もう追ってくることはないだろうな」

「……じゃあ、慧里は?」

「そろそろあいつも、『日常(いつもどおり)』に戻るべきだろうな」

 

少し麦野は寂しそうな表情を浮かべて、再び箸に手を付けた。

麦野も暗部やそういった汚い大人の干渉を受けてきた子供だが、純粋な好意を向けてくれた石織慧里には多少懐いているらしい。

これから将来、そういった優しい人と出逢うことができれば麦野や上条もまた平和な世界を歩むことができるだろう。

数多はそんなことを考えながら、牛丼をかきこんだ。

 

そんなときだった。突然、テーブル席に座っていた女子高生が悲鳴をあげた。

数多の視線がその女子高生に向いた時には既に、後頭部に硬く冷たいものが押し付けられていた。

その正体は拳銃。数多は両手をあげて、拳銃を突きつけている男の姿を見る。

スキルアウト風の金髪の男で、白地のTシャツとだぼだぼのジーンズを穿く、その風貌でこの行為からして明らかに暗部の下部組織の人間だとわかる。

一緒に入ってきたその男の仲間もまた拳銃で、客や店員が逃げないように監視しているようであった。

 

「お前らは」

「『サークル』」

「あぁ? 『サークル』だと? そりゃあ、あのクソ野郎の差金か」

「お前が知る必要はねえな」

 

『サークル』と呼ばれる暗部は、木原数多がよく知る暗部組織の一つであった。

本来、能力者で構成される非公式暗部組織だが、この『サークル』だけは少し特殊な構成である。

全てがスキルアウトのあぶれ者で構成され、更には、格闘方面で結果を出した人間に『試作品(プロトタイプ)』を渡し、現場で試験として使わせる。

その『サークル』を管理するのが、木原一族というわけだ。厳密にいえば、木原病理がこの『サークル』の実質的な管理者だという。

これを差し向けてきたのは間違いなく、あのメギツネだ。そう確信していた数多は、

 

「麦野」

「おーけー」

 

麦野は全く警戒されていなかったらしい。男は、麦野と呼んだ木原に強く拳銃を押し付けたが、その瞬間に男の太ももに風穴が空いた。

こんな見た目でも、超能力者級と称されるほど。ほぼノーモーションで撃ち込んだ『原子崩し(メルトダウナー)』を、男の叫び声で一瞬体が固まった男たちに次々射出していく。

座りながらにして、数人の男たちを制圧した麦野は溜息を吐いて、カウンター席から降りた。

上条も眉一つ動かすことがない辺り、この三週間で『闇』というものに慣れたらしい。

 

「んで、どこの馬鹿なわけ?」

「『サークル』。木原一族が管理する暗部組織だが……まあ、反抗の危険性を考えた創設者が、無能力者だけで固めたのが幸いしたな」

 

三人は立ち上がり、会計をしようとすると、足元でのたうち回っていた男は、奇妙に笑った。

 

「俺たちは……フェイクだよ。まあ、能力者が居るのは想定外、だが」

「フェイク?」

「本命は……石織慧里。そういう注文だよ」

「――まさか」

「木原病理はずっと、お前らのことを監視していた。もう少し、敏感になれよ木原数多」

 

 

                                     *

 

 

「今日は風が強いね」

 

今しがた雨が降り始め、さらには朝から風が強かった。台風が過ぎ去ったばかりだというのに、今度は台風がついさっき三宅島をかすめたらしい。

石織は憂鬱とした気分で帰宅する途中、バス停の前で困る男性を見つけた。

今日は風紀委員の仕事はないが、困っている人を見捨てるわけにはいかない、と石織は声をかけた。

 

「どうしました?」

「――かかったな」

「はい?」

 

そう言ったそのときだった。甲高い音がすぐ側できこえた。

金属と金属が思い切り接触するような、そんな音だ。

石織が振り返ると、スキルアウト風の男が拳銃を持って石畳道の上で立っていた。

その男性もまたスキルアウトの男の仲間らしく、下卑た笑みを浮かべながら頭部に拳銃を押し付ける。

 

「暴れるなよ?」

「……っ」

 

石織は指を軽く動かして、大きな風が吹くのを待った。

今日は、台風が近付いているためか、すぐに大きな風邪は来た。

その瞬間、男の体はズタズタに切り裂かれ、拳銃もまた部品が欠損するほどのダメージを受ける。

理解できなかった男は銃を投げ捨て、一歩下がるが、今度は十メートル以上離れた別の男もまた全身が切り裂かれ、その場に倒れこむ。

そう、石織の能力は『空気切断(エアロブレード)』。触れた空気の流れを操作し、さらに触れた空気を鋭利なナイフに変える能力。

彼女は異能力者だが、この能力の特殊なところは、環境によってその力が発揮できるかできないかが左右されるところだ。

今日みたいな台風時には大能力者に匹敵する攻撃力を持つが、無風の時、あるいは室内空間では無能力者に等しくなるということ。

 

「殺れッ」

 

さらに数人現れた男たちを軽く倒して、数多の家への帰路へつく。

しかし男たちはいくらでも現れる。終わりのない戦いに少し疲弊したところに、少し雰囲気が違う女がやってきた。

その女は、指をパチンと鳴らすと、そのまま石織に近付いて来る。

 

「やあ、石織サン?」

「……誰です」

「私? しがない超能力者だよ。ちなみに序列は『第四位』」

「レベル……5?」

「いえーす」

 

女は再び指を鳴らす。警戒するものの、そこから何の現象も起こらない。

訝しげな表情を浮かべる石織は、警戒しながら、指を動かした。

彼女は風下に居なかった。だから、風を操作する必要があった。

そして、強風を一気に、鋭利なナイフへと変化させる。

その女はなんの防御をすることもなく、石織の攻撃の餌食となる。

ズタズタに切り裂かれた女は苦痛の表情を浮かべながら、しかし倒れること無く指を鳴らし続ける。

 

(どういうこと? あいつは超能力者じゃないのか?)

「そろそろ……いい、かな。全く、話が違うじゃないか。私は、戦いには向かないって、のに」

 

そう言うと、女はライターをつけた。

そして、その時、石織は鼻につくある匂いに気が付いた。それは――。

ガソリンスタンドに行けば誰でもわかる、ガソリンが気化した気化ガソリンの匂い。

着けたその瞬間に、いつの間にか空気中に充満していたガソリンに引火し、周囲は大爆発を起こした。

空気の流れで危機一髪直撃を避けた石織でさえ、右腕を火傷し、もう使い物にはならなくなっている。

 

「ちっ、これぐらいじゃ死なんかー」

 

そう軽く言う女はガソリンの引火で自爆した筈だった。

しかしなぜか、無傷で黒煙の中から姿を現した。それも、先ほど石織から受けたダメージもなく。

次は仕留める、そう指を動かしたが、なぜか風はなかった。

雨も止んでいた。

 

「ど、どうなって!」

「私の能力は『天候操作(ウェザーハンド)』」

「天候……操作? じゃああのガソリンは、一体……?」

「あれは私の仲間が用意したのよ……ってべらべら喋りすぎたか」

 

なに、ともう一度質問しようとした、その時、今度は『息ができなくなった』。

突然、酸素が奪われたのだ。

能力を使おうにも、風を生むわけではなく、流れを変え、さらに風を鋭利なナイフへ変えるだけの能力。風がなければ何も出来ないのだ。

しかし意識が断続的になってきた頃に、ようやく彼女の能力の正体を掴んだ。

あれは『天候操作』ではなく、明らかに気流操作である。あのガソリンは、どこかから気化したガソリンを気流で流してきたとみていい。

大爆発を防御したのは、空気の層。

だが、一つ疑問が残る。『空気切断』で切り刻んだはずの彼女の体は再生していた。

 

「苦しそ―ね」

 

万が一の時のため、研究者が石織に渡した道具がある。

石織はポケットの中にある小さなケースから、手榴弾より少し小さめの球体の道具を取り出すと、それを地面にたたきつけた。

それはその道具の中にある圧縮されている空気を一気に爆発させることで、万が一無風状態だった場合に武器にできるということだ。

空気の爆発によって吹き飛ばされた石織は、少し離れた場所に叩きつけられる。

痛みで咳き込む石織だが、酸素を手に入れることができた。

 

「そんな秘密兵器があったなんて」

「でも、勝てない」

「そうよね。……ネタバレすると、私の能力は単純な天候操作じゃない。気温や気流なんてのも操作できる。さっき攻撃を受けたのは蜃気楼で創りだした幻影」

「……蜃気楼か」

「あなたの起こした風に合わせて調整するの、面倒だったんだから」

「どうして蜃気楼なんか」

「あなたの能力を認知するため。あの『サークル』たちで見てたけど、あんまり参考にならなかったし」

 

女は軽く笑い、そしてポケットから拳銃を一丁取り出して、

 

「――ごめんね?」

「ッ!?」

 

ダンダンダンッ!、と連続で銃声が静かな街に響き渡る。

その場に倒れこんだ石織には三発の銃弾が、腹部と胸部、そして脚を貫いていた。

拳銃をポケットにしまいこんで、女は去り際に一言残していった。

 

「これも、『暗闇の五月計画』のため。そして、新たな『超能力者』のために」

 

その言葉は石織には届かなかった。

 

                                              *

 

 

倒れこんだ石織に気付いたのはこの街の住人で、すぐに病院に連れて行ったという。

連絡を受けて、数多と上条、麦野も石織がいる集中治療室へ向かうと、そこには医師が立っていた。

 

「危険な状態です。撃たれた部位は、幸い急所には達していませんでしたが、発見されるのが遅すぎた」

「助かるんですか!?」

「わかりません。ですが、全力を尽くします」

 

手術は七時間に及ぶ大手術であったが、結局――

 

「石織さんはこのまま、培養液の中で生命機能を補助して経過をみることになるね」

 

カエル顔の医者がそう告げた途端、数多はその場に膝をついた。

麦野はその言葉を聞いて眉をひそめ、泣き疲れて眠る上条を支えていた。

数多はあの後、木原病理を問い詰めた。

しばらく知らぬ存ぜぬだったが、そのうち笑い出して、白状した。

そして、その時には既に、任務は完了したと。

 

「上条、麦野……ごめんな……」

「数多……」

 

甘かったのだ。

あのまま外に出すんではなかった。

既に盗聴器が仕掛けられていたなんて、想像もしなかった。

それも同じ『木原』一族に。

 

培養液の中で静かに眠る石織を一瞥して、数多は、

 

「ごめんな、またくるよ」

 

そう言い残して、三人は病院を出たのだった。 

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