4th_Future_『Non_skill_girl』_(7/19)
例えば、ここ。第八学区に存在する浄水場の管理棟が連なる平地。
管理棟といっても、ほとんど管理は
そんな管理棟近くで、火災が発生していた。
学園都市の頂点、
ワゴン車は爆発し、残骸がその辺りに散らばった。
一般人が立ち寄らない場所に、そういった闇の世界は存在する。
麦野沈利が攻撃したワゴン車は、この辺りに点在していたとある研究機関の重役が乗り込んでいた。
「これで終わりかしら?」
「まだ残党が超残っているようですが」
麦野の独り言に答えるようにして、絹旗最愛は研究員の一人を締めあげながら言った。
既に二人の周りには十数人の研究員が呻き声をあげて、蹲っている。
研究員の一人は、白衣の下から拳銃を取り出し、研究員を踏んづけながら麦野と会話する絹旗へ銃弾を放った。
だが。銃弾は通ることはなく、逆に銃弾のほうがぺちゃんこに潰れ、転がった。
これが絹旗最愛の能力。大能力の『
窒素を体に纏わせる能力で、銃弾やナイフなどでは傷もつけられない防御力を誇る。
「滝壺を置いてきたのは正解だったかしらね」
「それよりも、フレンダと上条が超気になります」
「……まぁ。フレンダはともかく、当麻がいるんなら問題はないでしょ」
その頃。管理棟に逃げ込んだ研究所の管理者を追い詰めるために、フレンダ=セイヴェルンと上条当麻が乗り込んでいた。
管理棟は意外と広く、それに管理者は有能なボディガードを雇っていたという話だ。
当然、二人はそれなりに手こずることになる。
フレンダは一度、管理者と遭遇したがボディガードによる攻撃で、肩に怪我を負ったらしく、電気の付かない倉庫で救急箱で応急手当をしていた。
無線でフレンダの今の状況をきいた上条当麻は、その怪我を負わせたボディガードの体を倒し、どこかに隠れた管理者を虱潰しで探している途中であった。
『結局、ドジッたってワケよ……』
「まさかボディガードが能力者とは思わなかったから、仕方ねえよ」
『情報収集不足ってワケね』
「まあ、そうだな。フレンダはそこで待機。管理者を見つけてから、そっちに行くよ」
上条は通信端末の位置情報検索機能で、フレンダの位置を確認すると、通信端末の電源を切った。
雇ったボディガードは二人。一人が、念動力系の能力者であったということは、もう一人もまた能力者であるということが予想できる。
慎重に進んでいると、若い女が目の前に現れた。
制服は、どこかの有名な進学校だったような気がするようなものだったが、その風貌は頭でっかちの進学校の生徒とは大きくかけ離れたものだった。
右腕は機械で出来ていた。左手首から先が無かった。
そして、右目から赤外線レーザーが照射されていた。
「サイボーグか」
「……実験動物よ」
そう言って、女は赤外線レーザーを、上条のすぐそばの壁に照射した。
照射された壁はやがて、真っ赤に染まり、そのうちマグマのようにどろりと溶け始める。
上条は標的の研究所を調査するなかで、この女の存在を知った。
研究所の最たる目的。『能力者に様々な補助装置を植え付けることで、能力の底上げを行い、最終的には絶対能力者に辿り着くこと』。
という荒唐無稽な目的だが、こんな馬鹿げたものにも金を出す
この女の能力は赤外線を熱量の存在するものへと変化させる『
それに赤外線は不可視光線だが、女自身が標準をあわせるためのプロジェクションマッピングのようなもので可視化しているのだろう。
「だけどな。お前は俺のことを知らないだろ?」
「?」
「俺はな」
そう言って、一歩踏み出した。二歩、三歩と歩みだしていくと、訝しげな表情を浮かべる女は上条の胸元に赤外線レーザーを照射した。
しかし、赤外線レーザーが熱量を持つことはない。
胸元には、上条の右手があった。いくら演算しても、その右手を赤外線レーザーは貫かない。
自分の能力が何らかの理由で無力化されたことに、テンパった女は、管理者がいると思われる部屋に逃げていった。
上条は笑顔を浮かべ、その部屋を二回ほどノックして、入室する。
その部屋の中では、管理者だけではなく、数人の仲間が机を囲んで話をしていた。
「こんばんわ」
「おい、お前のせいで居場所がバレてしまったではないか!? く、くそ役立たずめ。だからいつまでたっても強能力者なんだお前は!」
「どうしますか、所長! ほ、他の暗部を要請してその間に……」
やらせると思うか、と上条が管理者の胸元を掴もうとしたそのとき、佇んでいたサイボーグの女は赤外線レーザーを使って、管理者の首を焼き切った。
サイボーグの女は軽く笑顔を作って、残る研究員を溶かし、そして、最後に、
「もうこんな人生懲り懲りだよ」
そう言って、鏡の前に立って、赤外線レーザーを自分に向け自害しようとする。
「やめろ」
「?」
「サイボーグ。俺の知り合いにな、すげえ名医が居るんだ。そこは面倒見がいい、紹介してやるよ」
「……」
「お前にだって、まだ生きるくらいの道はあるはずだ。簡単に生命を絶つなんて、絶対やっちゃいけねえんだ」
説教臭いか、なんて自嘲しながら上条は踵を返す。
涙を浮かべるサイボーグの女の顔を見ること無く、部屋を出て、フレンダの居る倉庫へと向かった。
フレンダを回収し、絹旗と麦野と合流した上条は、麦野から手渡された給与明細を見てどんよりしながら、家に帰るのだった。
というのも、管理人は生け捕りという契約だった。しかし、サイボーグの女が殺してしまったので、取り分が大幅にダウン、というわけだ。
*
上条は時々、『アイテム』の仕事を手伝ったりするのだが、主に何をしているかというと。
能力が上がらない、能力にコンプレックスがあるなどの相談を受けるカウンセラーをしていたり、あるいは実験室でこもって研究したりと、研究員の仕事をやっている。
というのも、上条が別名『木原数式』であるが故。
天才的な科学者の才能をもつ上条だが、他の木原のように科学に固執しているわけではなかった。
アレイスター=クロウリー曰く、『
そのためか上条にとっては、木原病理や木原幻生のようなマッドサイエンティストが理解できない。
そんな上条当麻は、風紀委員の詰所で年下の風紀委員に叱られていた。
「これからはこのようなことはお控えくださいな」
白井黒子。彼女はそう名乗った。
事の顛末は、スキルアウトと混じって女の子に絡んでいた『アイテム』の下部組織のバカ共に引導を渡していたら、見つかったというわけだ。
引導を渡すといっても、気絶させただけなのだが。どうせ、粛清は麦野や絹旗辺りがやるだろうし。
だが運悪くこの
本当なら、暴力沙汰で警備員に引き渡されるのだが、麦野の根回しのおかげでなんとか事なきを得た。
まだまだ終わりそうにない説教にうんざりしながら、白井黒子の背後で流れるテレビを見ていると、詰所に誰かやってきた。
黒髪の少女であった。制服はこの辺にある普通の中学、名前を柵川中学といった筈だ。
「ういはるーっ、て初春いないの?」
「初春は固法先輩と警邏中ですの」
「そうなんだ、ってあれ。もしかして、お仕事中?」
「ですの」
「あのー? なんで制服の上から白衣着てるんですか?」
「ちょっ、佐天さん!」
佐天と呼ばれた少女は、上条の少し風変わりな恰好に疑問を抱いたらしく、質問を投げかけた。
上条はつい先程まで自前の研究所で研究していたので、そのまま着替えずに外に出てきてしまったから白衣を着たままなのだ。
「俺、研究者なんだよ」
「ええっ、研究者?」
「AIM拡散力場とか、主に能力開発を分野にしてるけど、実のところそれだけじゃないな」
「能力開発、かあ」
佐天は表情を曇らせて呟いた。
上条は訝しげな表情を浮かべると、すぐに佐天は元気な表情に戻り、話を続ける。
その後佐天の話しをきいていた上条は、話をまとめた。
曰く、佐天は無能力者らしい。
『
もともと能力者になりたくて学園都市に来たのだが、無能力と判断されたのが辛かったという。
途中からカウンセリングのようになってしまったが、話を続けるなかで上条は昔、自分たちのせいで大怪我をしてしまった石織慧里を思い出した。
彼女も『空気使い』で、能力に対するコンプレックスがあった。
「……佐天さん、だっけ。俺に、能力開発を手伝わせてくれないか?」
「へっ?」
「いいお話ではありませんの、佐天さん。能力開発の専門家直々の能力開発なんて」
佐天は少し申し訳なさそうな顔をした。
しかしそんな顔をみて白井は、背中を押した。
白井の後押しを得た佐天は、やはり申し訳なさそうに、
「……そうかな。じゃあ、お願いしていいですか。ええっと……」
「上条、上条当麻。よろしく」
*
麦野沈利は、病院を訪れていた。
といっても麦野が病気や怪我をしたわけではなく、お見舞いだ。
そこは一般病棟ではなく、特別な患者がいる特別病棟である。
培養液の入ったカプセルの中に、胎児のように体を丸めて眠る少女に、会いに来た。
この少女は、10年以上前に出会った。もう、どんな声かも忘れてしまったが、上条、麦野、そして木原数多にとっての贖罪の象徴である。
カエル顔の医者曰く、木原数多も定期的にやってきては、彼女に声をかけているという。
「久しぶりね、石織慧里」
彼女は出血性ショックで、脳機能に重大な障害を負ってしまい、未だに目を覚まさない。
仮に覚ましても、話すことはおろか立つことすら出来ない状態だという。
今の学園都市の医学ですら、彼女を救うことは出来ない。
麦野は何も出来ない自分たちに歯痒さを覚えながら、パイプ椅子に腰掛ける。
「当麻ももう高校生。大きくなったでしょう?」
彼女は答えない。
彼女の年齢は未だにあの事件当時と変わらないらしく、今では麦野のほうが年上になってしまっている。
「じゃあまたくるわね」
麦野沈利は、病室を出ると、丁度そこにカエル顔の医者が居た。
麦野は軽く会釈をすると、カエル顔の医者は笑顔とも呆れ顔ともとれるような表情で、
「お節介かもしれないけど、あんまり危ないことをしていると、この子が目覚めたときに悲しむよ?」
「……ご忠告どうも」
カエル顔の医者は、麦野沈利が何者で、何をしているかを知っているような口振りだった。
只者ではないとはわかっていたが、いざそうだとわかると、凄く気味が悪かった。
自分たちの行動が、あんなただの医者にまで筒抜けだということに。