とある木原の幻想殺し   作:TinaTora

7 / 8
タイトル通り、『超能力者』たちがメインです。


7th_Struggle_『Began_to_move』_(7/20)

『聖人』とは、魔術におけるわりとポピュラーな現象である『偶像の理論』によってもたらされるものである。

簡単にいえば、類似したものは互いに干渉しあうという魔術理論のひとつ。

生まれた時から神の子に似た身体的特徴であるとか、魔術的記号を持った場合に『偶像の理論』によって神の力を宿す人間となる。

聖痕(スティグマ)』を開放した時にのみ、人間を超えた力を行使することができるのだという。

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

パトリシア=バードウェイは一瞬、何が起きたかを理解することができなかった。

セブンスミストの一角が忽然と消えてしまったのだ。

二人は姿はもうどこにもない。焼け焦げた常盤台の薄茶色のベストが空中にひらひらと舞っているだけだ。

パトリシアは急いで姉であるレイヴィニアに電話をかけて事の顛末を伝えた。

 

                     *

 

 

そのころ、御坂美琴は『聖人』と名乗る長身の女性と熾烈な攻防戦を繰り広げていた。

空間移動(テレポート)とは違う。目の前から消えては、すぐに背後に現れる。

それ自体はなんら変わりないのだが、空間移動のように消えてから現れるまでのタイムラグが存在しない。

実質、空間移動よりも早いことになる。

 

「そんなもので、なんとかなるとでも?」

 

突然、御坂の体が切り刻まれた。滞空させていた砂鉄もまたバラバラに切断されている。

一瞬の出来事でなにがなんだかわからなかった御坂は、体に磁力をまとわせ、十数メートル先に停車しているクレーン車まで後退する。

あの女の能力なのかどうか、御坂には判断がつかない。

あの日本刀によるものなのは大体想像がつくのだが、あれを抜いたところを見ていないし、抜いたとしてこんな傷のつき方はしない。

まるでワイヤーか何かに切り刻まれたかのような……、そこまで考えて御坂はピンときた。

 

(ワイヤー……! あの女の周りに、電磁波を照射して……)

 

超電磁砲は副産物的なものとして、電磁波を常に体から放射している。

動物が近寄らないというデメリットもあるが、逆に電磁波がセンサーとして働くというメリットもある。

意図的に電磁波を照射すれば、サーチ能力も使えるという実に汎用性の高い能力なのである。

あの女の手元には、ワイヤーが張り巡らされており、あの刀はワイヤーだということを気付かせないための偽物(フェイク)

タネがわかれば、簡単に攻めていけるというもの。

そう確信した御坂は、砂鉄を固めて剣を作り出し、一気に畳み掛ける。

 

しかし御坂は失念していたのだ。たとえワイヤーというタネが割れても、あの女には超スピードが存在することに。

 

「やっぱりワイヤー……ッ!」

 

微細な振動を繰り返す砂鉄の剣はチェーンソーのように切れ味を鋭くしており、ワイヤーを次々と切り払っていく。

しかし、女は目元を閉じて、まるで御坂の動向など気にも留めていないようであった。

そして、御坂が女の近くまでやってきたときにはすでに、御坂の腹部には考えられないほどの激痛がほとばしっていた。

カウンターと呼ばれるもので、勢い良く突っ込んでくる御坂の勢いを利用して、驚異的なパンチを腹部にお見舞いする。

まるで反応できなかった御坂は、うめき声をあげながら地面でのたうち回る。

 

「あがっ……ぐあぁぁっ……!!」

 

「……私に魔法名を名乗らせないでください」

 

「な、ッ……なに」

 

「少しの間、眠ってていてください」

 

ゆっくりと御坂へと近づく長身の女。

御坂の体を軽々と持ち上げて、首もとへと手刀を叩き込もうとしたそのとき。

がしっ、と御坂はその手を掴んで、不敵に笑った。

 

「あは……あはは。ゆ、油断しすぎじゃない? 私は、砂鉄を操る能力者じゃないんだけど」

 

その瞬間、夕陽が沈み、ようやく月が照らし始めた空に一つの電雷が迸る。

近くの送電線は大量の電気の奔流によってショートを起こし、学園都市の一区画で停電が発生。

御坂たちのいた場所は、ところどころ黒焦げになり、その電雷を直撃した女もまた相当のダメージを受けていた。

しかし御坂の見立てでは、これで倒せるはずだった。全力の10億ボルトを叩き込んだはずだった。

だが、女の意識はハッキリと鮮明で、多少のダメージを受けただけで致命傷には至っていない。

 

「……なるほど。今のは……まあまあ、効きました」

 

「化け、モノ……」

 

「――もう打つ手はありませんか?」

 

女の冷たい一言が御坂の敗北を明確化させる。実際、あれだけのことをして倒れないのなら、打つ手はないかもしれない。

しかし、ないわけでもなかった。御坂はこの一撃で倒れなくてもひとつの保険をかけていたのだ。

それは、全力を出し切ったと相手に信じませること。

相手は今までにないほど、油断している――

 

「私の能力って『超電磁砲』っていうんだけど。超電磁砲って知っているかしら」

 

「レールガン、ですか?」

 

「磁力を使って砲弾を超スピードで射出する装置。なんでこんなネーミングをしたのかっていうのはね」

 

御坂が意味深にそう言ったその時、女の目の前でコインが舞った。

これが御坂が超電磁砲たる所以。マッハ3で射出されるゲームセンターのコインは圧倒的な貫通力と、ソニックブームによる余波で副次的な攻撃力を獲得する。

女は完全に油断していた。聖人が本気になって移動すれば音速になるが、超電磁砲のマッハ3からはどう考えても逃れられない。

ゴッ、と腹部で空気が圧搾される。そうして、超電磁砲とともに女は数十メートル先の廃ビルに突っ込んでいった。

 

「やった……か……?」

 

しかし、瓦礫から何事もなかったかのように、女は飛び出してきた。

明らかにダメージは受けている。腹部は出血しているし、吐血や傷が点在しているからだ。

だが、あれでも倒れないあのタフさは一体?

10億ボルト全力の放電と、超電磁砲を叩き込んだ御坂にもうスタミナはほとんど残っていない。

さらに肋骨を数本やられているようで、さっきから呼吸のリズムが整えられない。

 

「……今のは危なかった。ですが、まだ……まだです」

 

「……無理、ね。これは……」

 

御坂がそう諦めかけた、その時だった。すぐ近くの廃ビルの屋上から若い男の声が聞こえてきた。

茶色がかった金髪の青年は、背中に妙な羽を生やし、まるで観戦者のように足を組んでビルの縁に腰掛けている。

 

「諦めるなよ超電磁砲。これでもだいぶサポートしてやってるんだぜ」

 

「――誰よ、あんた」

 

「俺か? 俺は垣根帝督。こう言ったらわかるか? 学園都市の超能力者。第二位の未元物質(ダークマター)って言ったら」

 

「あんたが、第二位の、未元物質……!?」

 

御坂は、自分以外の超能力者に出会うのはこれで二人目だ。

一人は同じ学校に通う第五位の超能力者、食蜂操祈。心理掌握(メンタルアウト)という、なんともゲスな能力を持った女である。

第一位の一方通行(アクセラレータ)、第四位の原子崩し(メルトダウナー)、第六位と第七位については能力名すら知りはしない。

どれもこれもキチガイ揃いだときいてはいるが、第二位の未元物質がこんなに似非ホスト風だとは思わなかった。

 

「それよりも、サポートって……?」

 

「ここ一帯の酸素量は通常の2分の1にしてる。超電磁砲、お前の周りだけは通常にしているが、そこの女は半分の酸素しか供給できてない」

 

「半分……ッ!? それで、あんなに動いてたってこと?」

 

「そういうわけだ。あの女は通常の半分程度の力しか出せていないだろうな」

 

ここまで大きなハンデがあるのにも関わらず、その実力の差は歴然としたものだ。

ダメージを与えられたのも、女の油断や隙をついたもので、本気の実力を出せばすでに負けていたのだろう。

垣根帝督は六枚の羽を大きく羽ばたかせて、御坂の近くまでやってくると、

 

「俺なら倒せる」

 

「でも、……あいつはどんだけダメージをくらっても!」

 

「倒れないだろうな。だが、俺に常識は通用しねえよ」

 

                *

 

「ねえあなた、大丈夫?」

 

そこは暗く冷たい場所だった。陽が当たらないせいか湿っており、夜も近いせいか少し肌寒いくらいだった。

麦野沈利は節々の痛みに顔を歪めながら、寝かされていたソファから起き上がる。

辺りを見回すと、心配そうに顔を覗き込む謎のシスターさんが一人居るだけで滝壺やフレンダ、絹旗の姿はなかった。

 

「ここは……」

 

魔術師(あいつら)の隠れ家だよ」

 

「そっか。私、あの女に……。ねえ、黒髪のショートカット、それから金髪のセミロングの女、あとは茶髪にショートボブ、ここには居ない?」

 

「ショートボブの子はいないけど、他の子は別室に居るかも。さっき様子を見に行った時は、まだ眠ってたよ」

 

「そうか。……それであなたはこんなところでなにを?」

 

「私は……私も魔術師(あいつら)に連れて来られたの。ここは魔術で封鎖されてるから逃げられなくて」

 

麦野はぴくり、と魔術という単語に反応した。

普通ならよくある黒魔術だとか、そういうものを連想させるが麦野の場合は違う。

五年ほど前、上条の不幸を治すために十字教系の教会に行ったことがある。

神の加護だとか天使の力(テレズマ)だのと、言い回しをしていた神父がぽろりと『魔術』と零したことを憶えているのだ。

それ以来、上条の不幸は多少マシになり、半信半疑ながらも魔術と呼ばれる現象を心の何処かで信用していた節がある。

 

「魔術……それは本当にあるの?」

 

「あるよ?」

 

「……んで、ここに幽閉されてるのはなんで?」

 

「私が、禁書目録(Index-Librorum-Prohibitorum)だから。頭のなかの10万3000冊の魔導書を狙ってるのかも」

 

「頭のなかの……10万3000冊の魔導書? 頭のなかにICチップでも埋め込まれてるの?」

 

「ううん」

 

禁書目録と自称した少女は首を振って、

 

「私は、見たものを全て記憶する『完全記憶能力』を持っているの」

 

「……完全記憶能力? なるほど、世界でも極稀に生まれる先天的な脳障害のひとつね」

 

「魔導書は誰にも見られてはだめなの。これは、魔術によって汚染されているから。見た者はたちまち精神がばらばらに崩れ去っていく」

 

「……ふふっ」

 

麦野は思わず吹き出してしまった。

それは何が面白いというわけではないが、この学園都市に存在する全ての能力者の境遇にバカバカしさを感じたからだ。

この学園都市の能力者は、井の中の蛙大海を知らず、というわけだ。

魔術だとか、魔導書だとか、そんなものを知らずに自分たちは特別だと、そう思っているのだから。

 

「フレンダと滝壺が目を覚まし次第、ここからでるわよ」

 

「え、でもここは魔術によって外界とは隔離されて……」

 

「知るか。私の『原子崩し(メルトダウナー)』で魔術だろうとなんだろうとぶっ潰す」

 

このままでは麦野のプライドが許さなかった。自分の知らない世界が、こんなにも大きく広がっていることに。

それに、まだテロリストたちは学園都市に野放しにされている。豪華な報酬目当てではなくなった。自分のプライドをかけた戦い。

麦野はそんなことを考えながら、上条当麻という男に感化されているのだとわかり、自嘲する。

だが――

 

「悪い気分じゃねえ」

 




麦野は上条のせいで原作よりも熱い女です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。