艦隊これくしょん -艦これ- ~空を貫く月の光~   作:kasyopa

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前の話から時間が飛んで飛んで、第二話終了位~三話中盤まで時間が飛びます。
かなり強引ですみません。

今回は少しばかり不思議な話。


第九話『雲に陰る秋の月』

私は夢を見てる。

 

白黒の世界。硝煙の香りがする。私は薄明るい海を駆けていた。

私のほかに、私に似た艦娘や見た事のない駆逐艦の子や、

巻物を持ち巫女服を纏った紫髪の人、そして巫女服を纏った黒髪の人。

巻物を持った人は解らなかったけれど、黒髪の人の服は金剛型の人の……

 

思考を遮るかのように不意に雷跡が見えて、巻物を持った人の右舷に被弾する。

追従するように向かう雷跡が再び彼女を狙っていた。

その魚雷を、まるで庇うように前に出た駆逐艦の人が被弾する。

目に映ったのは被弾時に大きく上がる水柱と、その人達が体勢を崩す所だった。

 

 

**********

 

 

飛び起きる。不吉な夢を見た物だ。味方が被弾する夢を見るなんて。

胸が締め付けられる感覚。

外はまだ暗い。それが夢で見た光景にそっくりで、それが余計に私の胸を締め付けた。

気晴らしに散歩にでも行って来よう。そうすれば気分が晴れるだろう。

 

服を着替えてこっそり外に出る事にした。

 

 

 

朝の散歩と言っても特に行く当てもなく、ただふらふらと歩いていると演習場に出た。

何気にここには縁がある。日頃の授業だけでなく、

瑞鶴さんや蒼龍さん・飛龍さんとも対空射撃演習でお世話になった。

いや、蒼龍さんと飛龍さんはお世話になっているといった方がいい。

あの日から主に放課後、日は飛び飛びではあるが演習をさせてもらっている。

その事は皆には内緒にしているのだが、感づかれるのも時間の問題だろう。

 

そんなことを考えながら歩いていると、今回もまた見知った人を見つけた。

 

「如月さん」

「あら、涼月ちゃん。おはよ」

「はい。おはようございます」

 

潮風に髪をなびかせながら、優雅に日の昇る方向を見つめる彼女。

でもその顔は少し眠そうだった。

 

「早起きなんですね」

「そんなのじゃないわ。ただ早く目が覚めちゃっただけ」

「それなら私と同じですね」

 

互いに笑い合うと、彼女は視線を戻しどこか遠い目をしていた。

話しかけようとした時、山の間から太陽が顔を出す。

その光は新しい一日を意味していた。

 

「良かった。またこの日が迎えられて」

 

如月さんの口から言葉が溢れる。それはまるで、その光景が当たり前ではないような。

病に倒れ、死の瀬戸際に居るような人の様に弱弱しいものだった。

いつも明るく振舞う彼女がここまで気が参っているなんて思いもしなかった。

 

「……何かあったんですか」

 

自然と神妙な口調になる。

問いかけに如月さんは、ただ笑顔で応えるだけ。

その視線の先には吹雪さんと赤城さんが二人向かい合っていた。

 

 

Side 吹雪

 

 

私は朝早くから演習に励んでいた。

明日は大切な任務の日。そこでまた失敗しない様におさらいをしていた。

 

引き金を引いて的を撃つ。言葉で言うなら簡単な事なのかもしれないけど、

まだ未熟な私からすればまだまだ難しい事。だからこそ努力せざるを得ない。

 

私には大きな夢がある。赤城先輩の護衛艦としていつか出撃する事。

一人の大きな目標がいる。私を助けてくれた涼月さんが。

 

二人が居るから私は努力できる。応援してくれる三水戦の皆がいるから努力できる。

 

だから私は。

機関を停止させて的を狙う。

しかし急停止させたからか体が引っ張られて、思わずバランスを崩した。

後ろに倒れかけて、誰かに支えられる。

 

「頑張っていますね。吹雪さん」

「あ、あああ赤城先輩?! おはようございます!」

「はい、おはようございます」

 

そこに居たのは他の誰でもない、赤城先輩だった。

飛び跳ねる様にその場から離れて頭を下げる。

赤城先輩に支えてもらったことに、

嬉しさと申し訳なさが入り混じり、混沌とした気持ちになり口が動かなくなってしまう。

 

「朝から熱心に演習ですか?」

「あ、はい! もうすぐ作戦が始まるので、そのおさらいにと」

 

赤城先輩はそんな私に微笑んで、打ち損ねた的を見つめる。

 

「少し、見ていてください」

 

そう言った彼女は矢を一本取りだして静かに構え始めた。

その時の目はあの時と同じように一点に集中していて、とても素敵だった。

でも赤城先輩は放つ瞬間おもむろに目を閉じた。思わぬ行動に息を呑む。

 

その状態で放たれた矢は、まっすぐ的へと飛んでいき炎を纏って艦載機になり、

それから放たれた機銃が的の中心を砕いて飛んでいった。

 

「わぁ~……」

「『正射必中』、という言葉をご存知ですか?」

 

その光景に見とれていると、赤城先輩は再びこちらを向いて問いかけていた。

私は当然知らないので首を横に振る。

 

「正しい姿勢であれば、自然と矢は的を射る。弓道に伝わる言葉なのですが、

 私達の先輩である方はこうおっしゃいました」

 

「『正しい姿勢も日々の努力で身に付くもの。つまり努力すれば体が自然と形を成し、

 形を成した努力は必ず良い結果へと導いてくれる』と」

「正射必中、ですか」

 

赤城先輩のいう事は解らなくはない。

料理や習慣も行っていればいつか自然と体が覚えるという事。

それはこの戦いでも言えることなのだと赤城先輩は言っている。

 

「吹雪さんが自分でもう十分努力したと思うのなら、流れに身を任せてみてください。

 そうすれば自然と体が動いてくれるから」

「……はい!」

 

赤城先輩の教えが終わってひと段落すると、

どうして赤城さんがここに居るのかが気になった

 

「あの、赤城先輩はどうしてここに?」

 

その問いに対して彼女は微笑むと、港の方へと目を向ける。

その視線を追いかけた先には、睦月ちゃんが物陰に隠れていた。

 

 

Side 涼月

 

 

如月さんの真意を聞く事が出来ないまま部屋に戻った私は、

金剛さんと比叡さんに連れられて提督室にやってきていた。

 

ただ金剛さんに首根っこを掴まれたまま、

廊下を全速力でダッシュされて真面目に死ぬかと思った。

最後にはその勢いのまま提督室に突っ込み手を離されて私は投げ出され、

金剛さんは座っている提督にダイビング。

 

しかし金剛さんのダイビングは提督の机の前に仁王立ちしていた長門さんに、

顔面を片手で受け止められて制止。

投げ出された私は長門さんに似た茶髪の女性にキャッチされて事なきを得た。

そして今に至る。

 

「あの、一体何が……」

「まぁ初めて見る光景なら困惑するわよね」

 

そう言いながらゆっくりと下ろしてくれる、長門さんに似た女性。

 

「あ、ありがとうございます。私は秋月型「知ってるわ」」

「私は長門型戦艦二番艦『陸奥』よ。よろしくね」

「はい、よろしくお願いします」

 

唇に人差し指を当てられて止められる。

まるで雰囲気も行動も、如月さんの様な人だ。

 

「む~! 長門ゥ、何故邪魔をするんデスカー!」

「あのままの勢いでお前が突っ込んで来たら、提督が耐えられないだろう」

「そんな事ないデース!

 テートクはいつも全力で私を受け止めてくれるに決まってマース!」

「お前の全力と提督の全力をよく考えてみろ」

 

額に人差し指を当てながら、やれやれと首を横に振る長門さん。

なるほど、こういう部下の人達を纏めるのも秘書艦の仕事なのだろう。

苦労していそうだ。というか現在進行形で苦労している。

まだ言い合っている長門さんと金剛さん、

金剛さんを落ち着かせる比叡さんという何とも面白い光景が広がっていた。

姉妹艦である陸奥さんはその光景を遠目で見て笑っている。

本当に如月さんみたいな人だ。如月さんが大人になるとこんな人になるのだろうか。

 

しかし、何故ここに呼ばれたのか解らない。

私は時計を見ながらもうすぐ授業が始まる事を気にしていた。

 

「大丈夫よ。授業はお休みするってもう伝えてあるわ」

「えっ、でも」

「涼月ちゃんにはそれより大切なお仕事があるから。 ね?」

 

それよりも大切なお仕事。確かに提督室に呼ばれたからにはただ事ではないのは解る。

そこまでに急を要する任務なのだろうか。

 

「提督! おはようございまーす!」

「提督、おはようございます」

「おはようございます、司令」

 

そんな元気のいい声で入って来たのは島風さんだった。

その後ろに続くのは金剛さん達と同じ服を来た人。

一番後ろにいるのは黒の短髪で眼鏡をかけている、見るからに知的な人。

そして真ん中に居るのは黒い長髪。おしとやかな雰囲気の女性……

 

そう。夢で見た人だ。

脳裏を何度もその人の後ろ姿が移る。

でも私は彼女を知らない。今こうして顔を合わせるのが初めてなのに。

彼女は金剛さん比叡さんと話をしているが、全くと言っていいほど耳に入らない。

あれだけ騒がしかった提督室が無音に思える。

そして私の視線は金縛りにあったかの様にその黒髪の女性から離せなかった。

私は彼女を知らないはずなのに、私は彼女を知っているような気がしてならなかった。

 

「榛名に何か御用ですか?」

 

榛名。彼女は榛名と言うのか。どおりでしっくりくる名前だ。

この様な感覚は依然感じたことがある。瑞鶴さんの名前を聞いた時だ。

でもあの時とは比べ物にならない程の物。これはあの不吉な夢のせいなのだろうか。

 

何も言わない私に違和感を覚えたのか顔を覗き込んで笑顔を作り、

彼女の手が私の頭に触れようとした。

 

「っ! 嫌っ!」

 

その手を払いのけて後退り。そのまま後ろに居た陸奥さんにぶつかってしまう。

その衝撃で正気に戻る。私のさっきしたことを理解して、急に悲しくなる。

 

「ご、ごめんなさい! 私失礼なことを……」

「こちらこそごめんなさい。髪の毛は女の子の命ですもんね」

「あ、いえ、そういう意味では……」

「いいんです。榛名が悪いのですから」

 

そう言って金剛さんたちの所に行く榛名さん。

 

「大丈夫? 体調が悪いんだったら」

「大丈夫です。……はい」

「ならいいけれど」

 

陸奥さんにも心配される。私はどうしてしまったのだろうか。

 

 

////////////////////////

 

 

私達は急遽編成された臨時の第二艦隊だそうで、

目的は資源が眠ると想定される南西諸島海域へ遠征として向かい、資源の量と敵を偵察。

交戦は極力避けて鎮守府へと戻るといったもの。

偵察なら艦載機を飛ばせば解決すると思いきや南西海域ではスコールが発生していて、

空母をはじめとした航空戦力だけでなく、水上機も飛ばせないそうだ。

 

そこで起用されたのが、私の地図作成能力。

敵の偵察は大型電探が搭載可能であり高速戦艦である金剛型四姉妹で入念に行い、

私と速力の高い島風さんで島を調査。私が地図を作成する。

その間無線を傍受される可能性があるので無線封鎖は徹底する事。

そして帰投中は無線封鎖を解除する事。

 

作戦決行は翌日とされ解散。授業は今日を含めて暫く休む方向らしく、

私は地図を渡された後、自室で休養をしっかりと取る様に言われるのだった。

 

自室に戻っても誰もいない。暁さんと響さんはまだ授業中だ。

ベッドにあおむけになってぼーっとする。

散歩しようにも休養を言いつけられてしまったので、

一部例外を除けば外出は許されないだろう。

 

少し寝ようかと思ったものの、眠てしまうとあの夢を見てしまうかもしれない。

そう思うと、目を閉じる事も躊躇してしまった。

 

お腹の方にちょっと重圧。それは胸元を伝って私の首元までやってきた。

こんなことが出来るのは見張員の子達しかいない。

 

目を動かして下を見ると予想通り良く知る妖精さんが二人心配そうにしていた。

私はその子達を手で優しく持つと体を起こし、膝の上に置く。

股の間に落ちそうになる子もいたけれど、太腿の上で安定する場所を見つけると、

再びこちらを心配そうに見つめる。

 

「大丈夫ですよ。貴女達を見ていると元気が出てきました」

 

笑って彼女達の頭を撫でる。私の最高の愛情表現だ。

嬉しそうにする彼女達だったけど、何かを口にしている。

 

「えっと……『次の出撃には必ず行きたい』? 次の出撃は資源の調査ですよ」

 

「『それでもいいから付いて行きたい』?

 でもスコールがきつくてずぶ濡れになってしまいますよ」

 

「『一緒に居てあげたい』……ですか。貴女達には敵いませんね」

 

でもそう聞いて私は自然と涙が出るほどに、嬉しかった。

どうして嬉しいのかも分からない。でも色々とこの子達にはお世話になった気がする。

私と一緒に幾多の戦場を渡り、戦ってきた戦友の様に。

 

「解りました。貴女達を連れて行きましょう」

 

後で新しい第二艦隊の人達を紹介してあげよう、そう思うのだった。

 

 

//////////////////////

 

 

それからと言うもの大きな事は無く次の日がやってきた。

この日私はあの夢を見ることは無くぐっすり眠る事も出来たので問題ない。

 

出撃の為に出撃場所へ向かうと、榛名さんが一人で待っていた。

金剛さん、榛名さん、霧島さん、島風さんの姿はない。

 

「おはようございます、榛名さん」

「おはようございます、涼月さん」

 

それだけかわして無言になる。初対面があんな事になってしまえば仕方ないことだ。

 

何かないかと思っているとマストから降りてきた妖精さんが、

いつの間にか私の肩に上っていた。そして耳元で『この人は誰?』と聞いている。

 

「この人は金剛型の戦艦さんで、『榛名』って言う人ですよ」

 

納得してくれる彼女達を見て落ち着く。

 

「妖精さんの言葉が解るのですね」

「いえ、この子達とは何かと付き合いが長いので自然と解るんですよ」

 

何やら羨ましそうに見つめる榛名さん。その時妖精さんがある事を口にした。

私は頷き二人の妖精さんを手に乗せて彼女に差し出してみる。

 

「この子達が『榛名さんと触れ合ってみたい』と言ってますよ」

「えっと、いいんですか?」

「はい」

 

手を震わせながらもその子を優しく包み込む榛名さん。

 

「可愛くて、温かいです」

「その子も嬉しそうにしてますよ」

 

妖精さん達は誰が見ても解るほどに楽しそうにしていた。

寂しがりやで怖がりな子達なのに初対面の人に対して進んで交流していくなんて。

最近やっと暁さんと響さんに触れあうようになった程度なのに。

 

榛名さん自身の性格から来るものなのか、それとももっと別の何かか。

それは気にしていても仕方ない。あの子達があんなに楽しそうにしているのだから。

 

「榛名~! ズッキー!」

 

遠くの方から金剛さんの声がした。何故か私はズッキーと呼ばれている。

『涼月』からどうすれば『ズッキー』になるのか。『ツッキー』だと被るからだろうか。

といってもこういう事こそ考えていても仕方ない。

 

榛名さんの後ろから金剛さん、比叡さん、霧島さん、そして島風さんがやってきた。

島風さん以外何故か髪や服に木の葉が付いている。

 

「お姉さま方に霧島! どうされたんですか!?」

「ああ~、実は島風ちゃんが鎮守府で一番高い木の上で寝ちゃってて……」

「何とか三人の力を合わせる事によって捕獲に成功したのです」

「これでやっと揃いましたネー」

 

島風さんは神出鬼没。そして早さを求める性格だという事は知っている。

私が私の分以外の全ての餡蜜を奢った時も、誰よりも早く平らげて行ってしまった。

 

「さて比叡、榛名、霧島、ズッキー、ゼカマシー、行きマスヨー。Weigh Anchor!!」

 

金剛さんの合図とともに、私達は出撃した。

 




第二艦隊遠征START! そして何気に島風が出てきてます。
島風は真面目にストライクウィッチーズのルッキーニみたいな立ち位置だと思うんだ。
猫。そうだ猫に間違いない!(うさ耳リボン? 知らんな)

長門さん=怪力的なイメージがなんとなくあったので(ビッグセブンパンチ等)、
そこら辺をアピールするためにも金剛が犠牲になったのだ……
提督は居ますが今回も喋ってませんね。これからずっと喋らないんじゃないかなこの人。
陸奥さんと涼月はここが初対面です。転属する時もやって来たのは長門さんだけなので。

肝油だ! 肝油を出せ!! と思った貴方は立派なエイラーニャ好きと見る。
ストライクウィッチーズ第一期第六話を良く覚えてるね。
(夜戦というより夜間哨戒の為に目にいい食べ物でブルーベリーが出てきた)

簡易的な自問自答コーナー

Q.吹雪と赤城さん、何かシチュエーション違わなくない?
A.もっと吹雪が赤城に近づけてもいいんじゃないかなーと思って、もうちょっと改変。

Q.時系列かなり違わない?
A.アニメでは『明日の作戦発表 → 翌日の明朝演習 → 赤城助言』ですが、
 こちらでは『明後日の作戦発表 → その翌日の明朝演習 → 赤城助言』になっています。
 つまり一日だけ間が空いており、その間の日がこの話の主軸になっています。

Q.もう一つ質問いいかな。この話の終わりが第三話の中盤だよね。
A.君のような勘のいいガキは嫌いだよ byショウ・タッカー

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