艦隊これくしょん -艦これ- ~空を貫く月の光~   作:kasyopa

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改稿された、涼月の追憶~妖精~ になります。


プロローグ2

大和さんと約束をした翌日。

私は鳴り響くラッパの音によって起こされる。雰囲気からして敵襲じゃない、筈。

寝間着からいつもの制服に着替えて障子を開け放つ。

差し込んでくる太陽の光が朝の訪れを教えてくれた。

この状況に対して、頭の中に入っている知識を引き出し一つの言葉を思いつく。

 

「確か総員起こし、でしたっけ」

 

その言葉を言い終えた後、コンコンと扉をノックされる。

なんの疑いもなく扉を開けると、そこには既に制服に着替えた野分さんが居た。

 

「おはようございます。野分さん」

「はい。おはようございます。心配していましたが、その必要はありませんでしたね」

 

彼女は何かを心配して私の部屋までやってきたそうだが、

私の今着ている服を見て安心していた。

 

「あの、何か私にありましたか?」

「いえ、この泊地のルールをお教えしていなかったので」

 

確かにここに配属されたはいいものの、

先日は明石さんに艤装を直してもらったり、自己紹介を受けたり、

泊地の案内をしてもらったりでいっぱいいっぱいで。

この泊地でのルールや状況については一切教わることはなかった。

 

 

「とりあえず行きましょう。点呼は外で行われるので」

「はい!」

 

私は野分さんの後に続くのだった。

 

 

 

施設の外に出ると、既に私達以外の人達が揃っていた。

と言ってもたったの3人だけだが。

 

急ぎ足で舞風さんと磯風さんの後ろに並ぶ。

それを確認してクリップボードを持っていた大和さんが口を開いた。

 

「皆さんおはようございます。先日は涼月さんが無事この泊地に到着されました。

 改めていうことでもありませんが、皆さん仲良くしてあげてくださいね。

 では、本日の通達です」

 

昨日私が着任したからか、大きな連絡は無かった。

物資の配分については今までと変わり無く行くとか、そんなお話だった。

 

「何か意見がある方はいらっしゃいますか?」

 

あらかたの連絡が終わったからか、大和さんは皆に質問を飛ばす。

すると一人だけ、磯風さんが手を挙げた。

 

「はい、磯風さん」

「大和、物資については今まで通りで行くと言ったが、

 先日の涼月の艤装の修理と、お前が消費した分の食料分はどうなるんだ?」

 

それを聞いて私は先日大和さんが口にしていた言葉を思い出す。

 

『出撃すると、お腹が減ってしまって……実は先程の食事程度では全然足りなくて』

 

その後私は想像を絶する量をぺろりと平らげる大和さんを見て、

大和撫子としての、彼女のイメージが少し崩れてしまったのは記憶に新しい。

 

「そ、それは」

 

少し頬を赤らめながらも大和さんは視線を隣にいる明石さんへと移す。

明石さんと磯風さんが同時にため息をつく。

 

「確かに資源の方は涼月さんの艤装の修理で消費しました。

 しかし涼月さんも言わば駆逐艦なのでそこまで心配する事はありません、が!」

 

「大和さんは食べ過ぎです! 日々の食事の量を少し増やすとかで対処してください!」

「はい……申し訳ありません……」

 

この泊地で一番偉いはずの大和さんが明石さんの厳重注意を受けている。

そういった所を見ると、彼女も一人の艦娘なんだということを認識した。

 

「大和さんタジタジだねー」

「そ、そうね」

 

言ってみれば自業自得なのだけれど、彼女が出撃して居なければ私は沈んでいたわけで。

でも前進基地としては物資、それも食料がなくなるのは絶望的な事態なわけで。

 

「というわけで! 当面は調理担当から大和さんは抜けてもらいますからね!」

「はい、解りました……」

 

後から聞く話によれば大和さんの料理はおいしいうえに量もあるが、

その分多くの材料や調味料を使用してしまうとの事。

食事での贅沢は出来なくはなってしまうだろうが、

それでもそれ以外では不自由なく暮らせるということで、

問題なくお風呂にも入れるのでそれで許してほしいとの事。

 

「で、では改めて質問はありませんか?」

 

気を取り直して、と再び質問がないか尋ねる大和さん。

この雰囲気ではまたここのルールについて教えてもらえないかもしれない。

空気を換える意味でも、私は手を挙げた。

 

「はい、涼月さん」

「あの、この泊地でのルールについて教えて頂きたいのですが」

「あっ! そうですね。皆さん揃っていますし再確認もかねてお教えします」

 

大和さんは普段の明るさを取り戻したのか、この泊地のルールについて教えてくれた。

 

一つ。総員起こしと調理は日替わりの当番制で、各自が担当すること。

二つ。総員起こしが掛かるまでは自由行動だが、

   掛かった時は制服に着替えて基地の入り口に集合すること。

   天候が雨の時に限り食堂に集合。理由はこうやって毎朝通達を行う為。

三つ。午前中と午後に哨戒を行うが、基本的には駆逐艦2人で近海までに留める事。

四つ。体調不良などで出撃や当番が難しい場合は前日までに大和さんまで連絡すること。

   代役は大和さんが立てるので、心配はないそうだ。

五つ。明石さんの工廠には、明石さんが居る時限定で出入りが自由。

   基本的には総員起こしから消灯時間まで、食事の時間を除いて居るので、

   要件がある場合はその間にして欲しいとの事。

 

「以上です。これらで質問はありますか?」

「いえ、非常に解りやすかったです。ありがとうございます」

「解りました。では他に質問は……なさそうですね。では解散してください」

 

その言葉を聞いて皆が解散していく。私は特にこの後やることもない。

どうしたものかと悩んでいると。

 

「涼月、少し付き合って貰いたいがいいか?」

 

磯風さんが声をかけてきた。一体どうしたのだろうか。

特に断る理由もないので、二つ返事で彼女に連れられるのだった。

 

 

////////////////////

 

 

磯風さんに連れられてやってきた場所は意外にも工廠だった。

連日連れられてこの制服に油の匂いが付いてしまわないか気にしてしまう。

 

「明石、涼月の艤装の修理はどうなっている?」

「はい。昨日徹夜で仕上げたので問題ありませんよ!」

 

そこには既に私達よりも早く戻っていた明石さんの姿があった。

どうやら私の艤装の事を心配して連れてきてくれたらしい。

それが大和さんでないことに多少の違和感を感じるが、

この泊地にいる艦娘全員を呼び捨てにするほどの人だ。

私が考えるよりもずっと凄い人なんだろう。

 

「それはそうと、ご注文のアレはこの艤装のどこに装備するんです?」

「まぁ、普通に考えて魚雷を外すことになるだろう」

 

会話の様子を見ていると、何やら別の話題に切り替わった。

ご注文のアレとは何のことだろうか。

私の艤装に着けるのだから装備に代わりないのだろうけれど。

首を傾げているとそれに気づいた明石さんが口を開いた。

 

「磯風さん、涼月さんには話してなかったんですか?」

「ああ、でも困る事ではないだろう」

「いくら磯風さんでも人の装備について言わないでください!

 今回だけですからねまったく……」

「善処するよ」

 

どうやら資源やら装備に関しては明石さんが上の立場にあるらしい。

私も気を付けて接していかなければこの先怒られるかもしれない。

 

「はぁ、こういう所は大和さんにそっくりなんですから……

 あ、涼月さんすみません。折角来ていただいたのにいきなりこんなことになって」

「いえ、なんていうか、濃い人達だなぁと」

 

こういった様子を見ていると、昨日の夜に迷っていた自分が馬鹿馬鹿しくなる。

何をそんなに不安に思っているんだと、怒りに行きたくもなる。

 

その言葉に明石さんは苦笑を浮かべつつ、軽い咳払いをした。

 

「とにかく、涼月さんの艤装の修理は完了しました。

 後、磯風さんの独断で! 一つ装備を作ったので見てもらいたいんです」

 

磯風さんの独断、という所を露骨に強調して釘を刺しつつも、

彼女の後ろには一つの装備があった。

でもそれは砲や魚雷や対空火器といった装備ではなかった。

そこにあったのはただのマスト。しかし案外しっかりした作りをしている。

 

「あの、これは?」

 

装備と聞いて武器を想定していた私にとって、

これを装備と呼んでもいいのかどうか、とても戸惑いを覚える。

 

「やはりご存じありませんかー。これは熟練見張員用のマストです」

「熟練見張員、ですか?」

「はい。このマストに乗っている妖精さんが敵や雷跡を発見し、

 艦娘への危険を未然に予防するための装備となっています」

 

少し嬉しそうに装備の説明をする明石さんだったが、一つ疑問に思ったことを口にする。

 

「あの、明石さん」

「はい。なんでしょう」

「妖精さんはどこにいるんですか?」

「えっ? どこってそこに……」

 

彼女は振り返るも、そのマストの見張り台部分には妖精さんはいなかった。

 

「……磯風さん、どこに行ったか知りません?」

「私の専門外だな。だがここに来た時にはもういなかったぞ」

「あー、あの子達どこ行っちゃったのかなぁ」

「他の妖精さん、というわけにはいかないんですか?」

「それが出来れば苦労しませんよ」

 

明石さん曰く、妖精さんにも個人差があるらしくその得意不得意を見分けるのも、

彼女の重要な仕事だそうで。

特に見張員の妖精さんは特別な訓練を行っているので、

そう易々と代行が利く子達ではないそうだ。

 

「個人差、ですか」

「はい。特にあの子達は真面目でそれに才能もあったんですよ」

「才能、ですか?」

「それは、まぁこれを見て頂ければと思うのですが」

 

そういって彼女が渡してくれたのは切手程の大きさの小さな紙だった。

しかしその紙にはぎっしりと地図が描かれていた。

 

「これは……その妖精さんが書いた物、ってことですか?」

「その通りです。地形把握も結構大事なんですよ。なので期待してたんですが」

 

またも深いため息をつく明石さん。

その顔色と雰囲気から、本当に予想だにしない事だったようだ。

 

そんな真面目な子達が急にいなくなる。

妖精さんだから誘拐といった事はないだろうけれど、何か理由があっての行動だろう。

だから私は。

 

「私、探してきますね!」

「あ! 涼月さん!」

 

私はその髪を翻し工廠を飛び出した。

 

 

 

 

「説明も出来ないままに飛び出してしまいました……」

「まぁ、優しいんだろうな」

 

 

////////////////////////

 

 

工廠を飛び出したはいいが妖精さんのいる場所なんてよく解らない。

そういったことを聞かない内に飛び出してしまったのもある。

 

朝食がまだなこともあって食堂にいる可能性もある。

またどこかお昼寝している可能性も考えられる。

 

「とりあえず、当たってみますか」

 

まずは食堂から向かってみることにした。

 

 

 

食堂にやってくると、ほのかな鰹出汁の匂いが漂ってくる。

厨房に顔を覗くと舞風さんがノリノリで冷そうめんを作っていた。

 

「あれ? 涼月さっき工廠に行ってたんじゃ?」

「舞風さん、妖精さんを知りませんか?」

「妖精さん? 厨房に妖精さんならいるけど」

 

この位置から見えるように、お手伝いさんの妖精さんが忙しそうに動いていた。

 

「あ、いえ、熟練見張員っていう妖精さんなんですけど……」

「その様子だと工廠にいなかったのかな? んー、私は見てないなぁ」

「そうですか。ありがとうございます」

 

舞風さんに熟練見張員という言葉が通じてくれてよかったと思いつつ、

私は食堂の外へと向かう途中。

 

ガンッ!

 

「あづっ!?」

 

入口の近くにおいてある銀色の冷蔵庫の扉が独りでに開き、顔をぶつけてしまった。

 

「涼月大丈夫!?」

 

舞風さんが気付いたのか、厨房から飛び出してくる。

私の目の前がチカチカして視界が定まらない。

 

「うわぁ、鼻とおでこ真っ赤! 氷あるけど冷やす?」

「い、いえ大丈夫です」

 

半分目を回しながら心配させないと大丈夫と言う言葉を絞り出す。

するとひんやりとした何かがおでこに当てられた。

 

「ま、舞風さん? 先ほど大丈夫と」

「私じゃないよ?」

「え……?」

 

その冷たさのお陰で視界が定まり、顔の上に乗せられたものをとらえる。

それは細長いビン状のもので、ラベルには大和ラムネと書かれている。

それを二人の妖精さんが支えながら先ほどぶつけた所に当てていた。

二人の妖精さんからは工廠独特の濃い機械油の匂いがする。

 

「あっ、貴女達が私の見張員さんですか?」

「そうかもね。見張員の妖精さんって、その艦娘にそっくりっていうから」

「そっくり、ですか?」

「うん。私の見張員さんも踊るの好きだから!」

 

どうやらこの泊地にいる艦娘には、それぞれ専属の見張員の妖精さんがいるらしい。

私はもう大丈夫と二人の妖精さんに伝えて起き上がる。

 

「何はともあれ、見つかってよかったです」

「そうだねー。でも明石さん絶対怒ってるよー」

 

舞風さんが目の両端を指で釣り上げて怒っている様子を見せた。

それに私は苦笑しながらも、妖精さんを連れて工廠へ戻るのだった。

 

 

 

工廠に戻って明石さんに一連の出来事について話したところ、

舞風さんの言う通り二人の妖精さんを叱っていた。

 

「見つかって良かったですけど、勝手に行動しちゃダメですからね!

 特に涼月さんが心配されますし」

 

しかし磯風さんを叱ったよりもまだ優しい様子だった。

それでも彼女達は怖いのか食堂から持ってきたラムネの裏に隠れている。

 

「まぁ、何故居なくなったのはある程度察しましたから、これ以上言いません。

 これからは勝手な事をせずに事前に連絡してくださいね」

 

明石さんも見張員の妖精さんが、その装備する艦娘に似るという話は知っているようだ。

装備開発を担当している艦娘だから、知っていて当然なのかもしれないが。

 

明石さんのお叱りが終わったのか、

二人の妖精さんが私の方を向いてラムネを差し出してくる。

どうやらこの二人は私の為にこれを取ってこようと思っていたらしい。

ありがとう、とお礼を言って受け取る。

 

「そういえば磯風さんの見張員さんはどんな妖精さんなんですか?」

「そうだな。とても従順で雷跡の発見に優れている。哨戒では本当に役に立っているよ」

 

そう言う彼女に反応したのか、二人の妖精さんが磯風さんの元に歩み寄り、

私に向けてキリッと敬礼をした。

なるほど、同じ妖精さんでもここまで違ってくるのか。

 

「さて……気を取り直して説明しますよ。涼月さん」

「あ、はい。お願いします!」

 

私は明石さんから続きの説明を受けた。

 

熟練見張員の妖精さんは今や電探の普及により衰退しつつあるが、

この泊地では本土の鎮守府に比べて物資が少ないこと、

電探と違って雷跡を捉えることが出来ることもあって電探よりも使用されている。

因みにこの泊地で電探を装備しているのは大和さんだけだそうだ。

 

私用の熟練見張員が配備される事になったことと、そのマストを開発した理由だが、

こちらに到着して電探が装備されていない私の艤装を見た磯風さんが、

修理と同時に勝手に開発と配備を依頼していたそうだ。

 

欠点としては駆逐艦の小さい艤装では何かしらの装備を外す必要があり、

私の場合は位置的にも魚雷を外すことになってしまうらしい。

魚雷を外すということは、重巡クラス以上の深海棲艦が登場した時、

駆逐艦では太刀打ちするための武器がなくなるということもあって、

非常に危険な行為でもあった。といってもこの泊地近海で確認された試しはないらしい。

 

「まぁ、そんなこんなで運用が難しいと言えば難しい装備なんですよ」

「確かに決定打が失われるのはなかなかに辛いです。でも……」

 

「……この子達なら、もっと別の決定打になるんじゃないかって思うんです」

「別の決定打?」

「はい。この子達でしか出来ないような、そんな事です」

 

私は握手のつもりで小指を彼女達に差し出す。

最初は首を傾げていたが直ぐに理解したのか、

嬉しそうにその小さな手で掴んで上下に軽く振ってくれた。

それはまるで、よろしくねと言わんばかりの笑顔で。

 

「はい。よろしくお願いします」

 

その時の私の笑顔は、二人にそっくりの笑顔だったと思う。




自問自答本編

Q.磯風って態度でかくないですか?
A.第二章第五話で解りますが、大和よりも艦娘としては先輩です。
 後は彼女自体先輩後輩という概念よりも同僚という考えを持っており、
 そのことからトラックに所属する艦娘に対しては呼び捨てしています。
 ただし長門など、別鎮守府の秘書官などは別です。

Q.明石さんか大和さんどっちが偉い?
A.大和が司令ポジで明石が秘書艦ポジですが、以下の通りに役割が分かれています。
 大和:本部からの伝令通達や出撃、前進基地建築関係全般。
 明石:資源・食料・兵装の計算と管理、艤装・兵装の建造・開発・修理。

Q.舞風って料理できたの?
A.当然ですがこの小説のオリジナル設定です。
 キャラ設定で公開しているとおり、それが主食となるような料理を得意としてます。
 トラック泊地の艦娘で料理をさせると一番低コストで済む分、
 そういった食材(麺類・御飯)を多く使用していきます。

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