艦隊これくしょん -艦これ- ~空を貫く月の光~   作:kasyopa

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題名見ての通りで完全な外伝です。
ストーリーには(おそらく)組み込まれていないのでご注意ください。
後ネタが大量に含まれております。ご注意ください。


第十六・五話『突撃!憧れ駆逐艦』

Side 吹雪

 

 

カレー大会が終わったその日の夜。私は薄明りに照らされた鎮守府の空き部屋に居た。

 

こんこんとノックをされ、のぞき穴から誰かをしっかり確認する。

そこに居たのは夕立ちゃん。

静かに鍵と扉を開けて中へと招き入れ、すぐに鍵を閉める。

 

「吹雪ちゃん、間宮さんの所からお菓子貰ってきたっぽい」

「ご苦労様、夕立ちゃん」

 

続いてノック。確認すると睦月ちゃんだった。鍵を開けて中へ。

 

「吹雪ちゃん! 駆逐艦睦月、只今参りました!」

「解りました。睦月ちゃん、態々ありがとう!」

 

これで全員。如月ちゃんは用事があるらしく来られない。

 

え? 何をしているかって? それは……

 

「これより、第一回『涼月さん徹底調査』を開始します!」

 

そう。涼月さんの徹底調査をするために結成された艦隊。

涼月さんは噂によれば駆逐艦にして私と同じく旗艦を務めているらしい。

それだけにとどまらず、昨日のカレー大会でも審査員を務める程。

目撃者である利根さんによれば、あの長門秘書艦が直々にお願いしていたらしい。

更にその後第六駆逐隊の子達の遠征に付きあい、

大量のボーキサイトを持って帰って来たという証言を目撃者である夕張さんから、

更に更に第六駆逐隊の子達にカレーの作り方を指南していたという証言を、

目撃者である島風ちゃんから聞いている。

 

私よりも早く着任したとはいえ、この鎮守府で主力である空母の方々全員と関わりを持ち、

それだけでなくとってもかっこよくて強い駆逐艦である涼月さんは私達の憧れの存在。

赤城先輩とはまた違うかっこよさを持った彼女を調べてみようと、

私が考案し、それに乗ってくれたのは睦月ちゃんと夕立ちゃん、そして如月ちゃんだった。

そして意外と鋭い涼月さんの目を逃れる為に、私達はこうして別の部屋で作業している。

 

「一体どうすればあんな駆逐艦になれるのか、

 その答えは涼月さんの日常生活にあると思います!」

「「賛成!!」」

「では明日の明朝から作戦を開始します!」

 

こうして私達は信じる道を歩き出した。もう誰にも止められないだろう。

 

 

 

翌日の明朝。私は二人を起こして部屋から出ていった涼月さんの後をこっそりついていく。

 

「うう~、眠いっぽい……」

「頑張って夕立ちゃん」

 

木陰やドラム缶の後ろに隠れながらも後を付けていくと、演習場まで来ていた。

こんな朝から演習でもするんだろうか?

でも艤装は付けていないし的があるわけでもない。

 

「そう言えば如月ちゃんから聞いたんだけど、

 涼月ちゃんって毎朝の日課に散歩してるんだって」

「トレーニングじゃなくて?」

「うん。ただ当てもなく歩いてるんだって」

 

少しだけ期待外れでがっくりする。私は毎日ランニングしているから、

涼月さんはもっともっと凄い事をしているのかと思っていた。

腕立て伏せとか、腹筋とか、スクワットとか。

 

いや逆に考えるんだ私! むしろ精神を鍛えているんだ!

早く起きているのも日の出を見つめながら頭と心の整理をして、

新しい一日を迎える準備をしているんだ! そうなんだよ! そうに決まってるよ!

なるほどそう考えるとただ朝日を見つめながら、

潮風を感じている涼月さんがかっこよく見えてきた。元々かっこいいんだけど。

 

「強くなるためには精神の鍛練も必要、と」

 

私は持ってきたメモ帳にメモしておく。さながらスクープを狙う記者みたいだ。

でもスクープを狙っているわけじゃない。涼月さんを更に知る為の物だ。

 

ふと何かに気付いたのか涼月さんがこちらを向いて来たので咄嗟に隠れた。

暫くして顔を覗かせると視線を水平線の方へ向けていたので、気付かれていないみたいだ。

 

「危なかった……」

「涼月ちゃんは超鋭いっぽいー……」

「鋭さは長門秘書艦並みにゃぁ……」

 

三人で胸を撫で下ろしていると、総員起こしのラッパが鎮守府中に鳴り響く。

もうすぐ朝ご飯だ。一旦調査はやめて朝食を食べてこよう。

 

 

//////////////////////

 

 

朝食を食べ終わって私達は授業に出席していた。けど。

 

「夕立~? この足柄の授業で居眠りなんて、良い度胸してるわねぇ~?」

 

私の前の席。朝が早かったからか、

夕立ちゃんは机に腕を組んでその中で静かに吐息を立てている。

私は必死に定規を取り出して脇腹を突いているも、全く起きる気配がない。

隣の涼月さんは何か声を掛けているけれど、それでも起きる気配がない。

最前列の睦月ちゃんと如月ちゃんはその吐息が可愛らしくて笑いを堪えている。

 

最初の挨拶の時にすでに眠そうで、席についてまだ五分と経っていないのにこのありさま。

 

そしてそれを見た足柄さんのこめかみがピクピクと動いている。

おもむろにチョークを取り出し、その先を夕立ちゃんに向けた時、

既にそのチョークは飛んでいた。

 

「っぽいぃ?!」

 

脳天に直撃してそのまま反動で後ろに倒れる。

そのまま目を回していたけど、仰向けに倒れたのも相まってそのまま眠ってしまった。

変なところで神経太いなぁ夕立ちゃん……

 

「そこまで眠りたかったら今眠るといいわ。後でたっぷり復習してもらうけど」

 

ふふふふと不気味な笑みを浮かべる足柄さん。夕立ちゃんの未来は真っ暗闇だ。

でも、仕方ないといえば仕方ないよね。

 

「……くしゅん」

 

夕立ちゃんが後ろに倒れたからか埃が舞い上がり、

すぐ隣だった涼月さんがくしゃみをした。随分、可愛いくしゃみだなぁ……

いつもかっこいい涼月さんだったけれど、その瞬間だけは私達と何ら変わらない駆逐艦に見えた。

 

 

 

一日の授業は終わり、涼月さんは急ぎ足で教室から出ていってしまった。

 

「早く追いかけよう!」

「うん!」「っぽい!」

「ちょっと夕立~? どこに行こうというのかしら~?」

 

私達が涼月さんを追いかけようとしたところで、

足柄さんががっしりとその肩を掴んでいた。

 

「あ、足柄さん……どうしましたかっぽい……?」

「貴女、今日の授業態度、忘れたとは言わせないわよ~?」

 

カレー大会と同じ、負のオーラに似た黒いオーラが足柄さんの背後から湧き出ている。

あれから眠ってしまった夕立ちゃんはそのまま無視されてそのまま授業が始まった。

 

「今日は予定があって……明日受けても復習になるっぽい!」

「その明日がいつの明日になるのかしら~?」

「っぽ、っぽい……」

 

私達まで巻き込まれそうな雰囲気。

睦月ちゃんと目と目で会話をして頷き合って、夕立ちゃんの肩に手を置く。

 

「吹雪ちゃん、睦月ちゃん、助けてくれるっぽい!?」

「「ご愁傷様、夕立ちゃん」」

 

そう言って私達は涼月さんの後を追いかけた。

 

「うう~、吹雪ちゃん達の薄情者~!」

 

後ろから夕立ちゃんの悲しそうな声が聞こえたけど、

気にしないように振り払って睦月ちゃんと二人で涼月さんを追う。

ちょっとだけ罪悪感を感じるけど、昨日事前に言っておいたからまだ私に非はない、筈。

でもまあ、後で間宮さんの所で何か食べさせてあげよう。

 

校舎を出て涼月さんの後ろを追いかけていると、

一人の軽巡洋艦の人と何か話しているようだった。

 

「あ、夕張さん」

「知ってるの睦月ちゃん?」

「うん。W島攻略作戦の時に第四水雷艦隊で旗艦をしてた人だよ。

 今だと第三艦隊の旗艦だったかなぁ」

 

こうして確認してみると、私はつくづく顔の狭い艦娘だなぁと思ってしまう。

それに比べれば涼月さんはその夕張さんと楽しそうに喋っている。

強い艦娘というのは、こういった人脈の面でも強くないといけないのだろうか。

とりあえずメモしておこう。頼れる人が増えるのはいいことだし。

 

何やら涼月さんは頭を下げたりして感謝している様子だったけれど、

夕張さんは苦笑しながらも両手を前に出して振っていた。

 

涼月さんはかっこよくも強くて、さらには謙虚で慢心とは無縁の人だ。

強さと謙虚さが合わさって更にかっこよく見えるけど、

逆に私が謙虚になると顔から火が噴きでそうになって思考が止まるだろう。

 

「凄いなぁ~、憧れちゃうなぁ~」

「(吹雪ちゃん、徹底調査する内に涼月ちゃんに対して赤城先輩と同じ目で見てる……)」

 

夕張さんと涼月さんはそのまま工廠に入っていった。

一体なんだろうと思ったけど、流石に工廠は狭いから中を見ることは叶わない。

でも何を話しているか聞くことは出来る。

 

私達はこっそり近づいて耳をすませた。

一応入口だと誰かに見つかる可能性があったから念のために横から。

 

中からは少しの話し声の後、金鎚で金属を叩くような音が聞こえてきた。

 

「ふ、吹雪ちゃん、この音なんだか……」

「ぞわぞわするね……」

 

長く聞いていると意識が完全に遠のきそうな気がして、

私達は遠くから涼月さんが出てくるのを待つことにする。

 

暫くして工廠の扉が開かれて、夕張さんと涼月さんが出てきた。

夕張さんの手の中には丸い砲身の付いていない主砲のようなものがあった。

 

「新開発の装備かなぁ?」

「だよね。夕張さんもすっごく嬉しそうだし、開発は成功みたいだけど……」

 

涼月さんと夕張さんは軽い会話をした後に分かれてどこかに行ってしまった。

強くなるためには装備開発の知識も必要……メモメモ……

 

「って、吹雪ちゃん! 速く追いかけようよ!」

「あ、そうだった!」

 

メモするのに集中していて追いかける事を忘れていた。

私達は遅れながらも涼月さんの後を追った。

 

 

//////////////////////////

 

 

……いけない。完全に見失ってしまった。

確かにこっちの方向に来た筈なんだけど。

 

「あらあら、睦月ちゃんに吹雪ちゃん、誰か探してるの?」

「あ、如月ちゃん!」

 

涼月さんが向かったであろう方向からやって来たのは如月ちゃん。

何か知っているかもしれないし聞いてみよう

 

「如月ちゃん、涼月ちゃん見なかった?」

「涼月ちゃんなら図書室に向かったわよ。なあに? 追っかけ?」

「違っ……わないよね? 吹雪ちゃん」

「う、うん」

 

追っかけと言う言葉の意味が解らなかったけど、少なからず睦月ちゃんには解るらしい。

後で聞いてみようかな。

 

「あらあら、長門秘書艦にでも知れたら懲罰物よ?」

「で、でも涼月さんの強さの秘密が解るかもしれないし!」

 

私は懲罰という言葉に怯みかけるも、自分がしている理由を思い出して反論する。

そう言うと如月ちゃんはやれやれと目を瞑って静かにある方向を指さした。

その先にあるのは入渠ドック。

 

「あっちよ。涼月ちゃんにあんまり迷惑かけないであげてね」

「「ありがとう如月ちゃん!」」

 

いつもははぐらかす如月ちゃんだったけど、今日は案外早く教えてくれた。

それに感謝しながらも、私達は入渠ドッグに入る。

 

脱衣所を覗いてみても涼月さんの姿はなく、中からお湯を流す音が聞こえてきた。

多分工廠で汚れたかでその汚れを落としているんだろう。

 

「どうする吹雪ちゃん、涼月ちゃん入渠してるみたいだよ?」

「んー……流石に工廠と同じだし、戻ろっか」

「そうだね。じゃあ部屋に戻って……」

 

そう言って振り返ると、天井から頭の上に何かが降ってきた。

何事かと思って上を見てみると髪の毛が引っ張られる感覚。

虫とかじゃない。じゃあなんだろう……

 

「吹雪ちゃん! 妖精さん付いてる!」

「えっ?! どこどこ?!」

 

睦月ちゃんが私の後ろで束ねている髪に手を添える。

すると引っ張られている感触と独特の重さが無くなった。

そのまま私の前に持ってこられた掌の上には、二人の妖精さんが目を回している。

 

「えへへ、可愛い」

「工廠の妖精さんかなぁ?」

 

と、入渠ドックの引き戸が勢いよく開かれた。その中から出てきたのは勿論涼月さん。

タオルも付けていなくて、色々見えていたけど、

そんなことよりも見つかってしまった事に気が行ってしまいむしろ気にならなかった。

そ、そもそもタオルをお湯につけたがらない性格なのかもしれないし!

そうだよきっと! きっとそうなんだよ! あ、でも胸私より大きい……じゃなくて!

 

「どうしたんですかお二人とも、そんなに脱衣所で騒いで」

「そんなことより涼月ちゃん! タオルして!」

「あの、タオルを浴槽に付けるのもどうかと思うのですが……」

 

そう言いつつ近くのバスタオルを羽織る涼月さん。

涼月さんの視線は睦月ちゃんの掌の上に移動していた。

 

「……やっぱり、貴女方だったんですね」

 

溜息をついて、目を回している妖精さんを優しく包み込んだ。

すると妖精さんはその刺激からか、入渠中だったことで温かかったのか目を覚ます。

 

「あの、涼月さん。その妖精さんは」

「この子達は私の見張員の妖精さんです。朝から何やら視線を感じると思ったので、

 工廠から態々見守ってもらっていたんですが、まさか吹雪さんと睦月さんだったなんて」

「い、いや、そう言う意味じゃなくて、ね!」

「うんうん! ただ涼月さんがどんなことしてるのか気になって」

「……それって完全に犯罪行為ですよ。追っかけです」

 

如月ちゃんの言っていた言葉と同じ言葉を放つ涼月さん。

自然とジト目になって私達を怪しんでいる。

 

「ねぇ睦月ちゃん、追っかけって何?」

「追っかけはそのままストーカー行為の事だよ! この歴史的「……お二人とも」」

「「ひゃぃ!?」」

 

誰が見ても解るくらい怒気を放つ涼月さん。

それはまるでカレー大会で暁ちゃん達を威圧する足柄さんみたいで、

私達は思わず舌を噛んだ。

 

「とりあえず、厠で用をたして、神様にお祈りして、

 ガタガタ震えながら命乞いをする準備をしてはどうですかね」

 

その時私達は、涼月さんが一瞬だけ死神の様に見えた。

 

 

 

その後私達は必死に謝り何とか誤解を解いて一緒に入渠していた。

原因は涼月さん渾身のデコピン。

かなりの練度になれば身体的な機能も上がるらしく、

それに私達と同じ引き金を引くタイプの主砲だから指の力がとんでもなく、

私達は一発大破してしまった。

 

私と睦月ちゃんは入渠時間が表示される個別の所。

一方の涼月さんは皆で入れるお風呂の所に浸かっていた。

 

「すみません。ですが、もう少しやり方があったと思いますよ」

「うう……ごめんなさい……」

 

涼月さんは頭にタオルを巻いて髪を付けないようにしていた。

いつも結っている長い髪をどうやってそのタオルの中にしまったのか不思議だったけど、

それよりも髪の毛のボリュームで大きく見えていた体格が小さく見えた。

それでも体にバスタオルは纏っていない。

これがほんとの頭隠して尻隠さず? 詰めが甘いってことかな?

いやでも浴槽にタオルを付けないのがルールな場所もあるから……

そもそもタオルが肌に付くのが嫌いなのかもしれない。

だからいつも島風ちゃんみたいにあんな露出の多い服装してってそれは関係ない!

人の服装に否応言う気はないけど流石にあれは恥ずかしい……じゃなくて!

 

「どうしたんですか吹雪さん、一人で葛藤なんか起こして」

「あ、いえ! 何でもないです! はい!」

 

当分涼月さんの強さの秘密も、考えていることも解りそうにはなかったのでした。




突撃隣の晩(ry。
今は結構晩年状態なので数日で一話書き上げる感じになってます。(これも土日月使ったお話)
最終話に差し掛かるとテンションが下がるのはまどマギから同じか……

とりあえず全力を尽くすだけ。更新を止めるわけにはいかんのだよ!!
現在は11話の中間部分です。……本腰入れて、MI作戦に向かうか……
そして明日からもっぱら大規模イベント。
数日は様子見するので、開始から暫くはこちらに打ち込みます。

次回は第七話前半戦ですが、内容的にはもっと前になります。





なんか入れたかったけど入れられなかった超ネタおまけ(台本形式)

霧島「ベクターキャノンモードヘ移行」
榛名「エネルギーライン、全段直結」
比叡「ランディングギア、アイゼン、ロック」
金剛「Inner chamber pressure rising normally」
陸奥「ライフリング回転開始」

長門「撃てる!!」

こうして、泊地棲姫は爆発四散。ナムサン!

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