艦隊これくしょん -艦これ- ~空を貫く月の光~   作:kasyopa

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第八話中盤。
吹雪が大和にもたらす物と、涼月が大和にもたらした物。
そして大和がもたらす物とは。

ここらあたりからオリ主物でのオリジナル展開が見えるかも……


第二十一話『あなたと私』

Side 涼月

 

 

私は大和さんと吹雪さんを追いかけていた。

しかし途中から追いかけたので当然当てもなく迷走している。

 

水着を着ていたので海に行ったのはほぼ間違いない。

しかし小さな島なので浜辺はかなりの数が存在する。

ただ感で動いても意味がないのは火を見るよりも明らかであった。

 

「(何か手掛かりでもあるといいのですが……)」

「げっ……」

「あら、涼月さん」

 

何か手がかりがないかと思いながら浜辺に出ると、声を掛けられた。

それは翔鶴さんと瑞鶴さんだった。二人とも水着に着替えて海水浴を楽しんでいる様子。

翔鶴さんはニコニコしていたが、瑞鶴さんはばつが悪そうな顔をしている。

どうやら二人の邪魔をしてしまったようだ。

 

「すみませんお二人とも。吹雪さんを知りませんか?」

「吹雪さんなら見てないわ。瑞鶴は?」

「知らないわよ」

 

辺りを見ても誰で居ない様子。二人も知らないとなればここに居る意味はない。

 

「そうですか。ありがとうございます」

「あ、ちょっと待ちなさいよ!」

 

頭を下げて走り去ろうとした時、不意にスカートを掴まれる。

その状態で引っ張られるという事は当然バランスを崩して、

そのまま仰向けに砂浜へ飛び込む。

日に焼かれた白い砂は随分と熱く、私は飛び起きた。

 

「何するんですか瑞鶴さん!」

 

抗議の視線を送るも、そんな彼女の視線は私の下半身に向けられている。

それも瑞鶴さんだけでなく翔鶴さんの視線も私の下半身に向けられている。

それに心なしか潮風の涼しさが身に染みているのも気になる。

自然とそれに誘われるように私の視線も下に向いた。

 

「「「………」」」

 

そこにはスカートが無く下着が露わになっているあられもない状態であった。

そしてそのスカートは瑞鶴さんの手の内にある。

 

「瑞鶴さん、何かいう事は」

「わ、わざとじゃないの! 止めようとして掴んだらそれがスカートだっただけで」

「言い訳なんて甚だしいですから、早く返してください」

「ごめんなさい」

 

彼女からスカートを返してもらってボタンが外れていないか確認。

どうやら問題ないようだ。

このままでは夏場とは言えど良くないのですぐに穿く。

 

しかし彼女が私を止めてでも言いたいことはあるのだろうか。

 

「ところで、瑞鶴さんはどうして引き留めたのですか?」

「ほら、あれよ。翔鶴姉ぇの事……ありがとね」

 

頬を赤く染めながらも視線を外し、恥ずかしいのか人差し指で頬を掻いていた。

 

「そのことでしたか。いいんです、お二人は私の大切な人。

 少なくとも恩返しはしたいと思っていたので」

「人からお礼を言われたら素直に受け取る物なの!

 いいからさっさと吹雪を探してきなさい」

「ありがとうございます。それでは」

 

私は吹雪さんを探す為に再び駆けだした。

 

 

 

砂浜を走っていればいつか見つかるだろうという、

とてつもなく初歩的な考えに到った私は島を一周する感覚で走っていた。

この島はそこまで大きい訳ではないのでその気になれば一周することは容易い。

何も根拠がない訳ではないのだが他に何か手がかりがあるわけでもないので、

致し方なくと言ったところか。

 

探し始めて流石に日差しに参りかけたところで、

水着姿の吹雪さんと睦月さん、如月さん、夕立さんに大和さんが居るところを見つける。

 

「艤装を付けて、おもいっきり沖まで出てみませんか!」

 

吹雪さんは明るい表情で大和さんにそう話しかけていた。

話しかけられている大和さんは、戸惑っている。

 

「それはいけませんよ」

 

息を荒げながらもその間に割り込むのだった。

 

 

Side 吹雪

 

 

私は昨日の夜赤城さんに言われた事、そして大和さんの言った事を気にしていた。

 

『あくまで噂なのですが、秘密兵器として建造された彼女は実戦に出ることはおろか、

 他の艦娘と出撃したこともないそうです』

 

この泊地には、涼月さんを含めると大和さん以外に四人の艦娘が居る。

でもそれなのに一度も実戦に出たこともなく、出撃したことも無いなんて。

 

私も呉鎮守府に来る前は、砲撃も航行もろくにできなかった関係で、

全然出撃することは許されなかった。

実戦を経験してきた今になれば解る。それは私を沈めない為。

前の提督は知っていた。私があんな状態で出撃すれば、轟沈は免れないと。

腕前も未熟で考えも甘いあの時の私なら、確実に。

 

今の私になるまでも、涼月さんや赤城さん、金剛さんが助けてくれた。

特に同じ駆逐艦でありながら、今では第一艦隊の旗艦を勤める涼月さんは、

赤城さんの護衛艦になる為に必要な事を、そのまま行動で映しているような人。

 

でも今は違う。第五部隊の旗艦を勤めて、提督も一目置いてくれている。

MO攻略の時に暗号が解読されているという事も教えてくれたおかげで、

私は第五艦隊の旗艦として少しだけでも貢献できたと思う。

そしてあの胸のざわめきが、翔鶴さんと瑞鶴さんを救ったのだと思うと、

あの虫の知らせともいえる直感にも感謝しないといけない。

 

だから今度は、私が大和さんの背中を押してあげたいと思った。

艦娘として生まれたのに、海に出る素晴らしさを知らない。

それが昔の私を見ているようで、凄く辛かった。

だからこうして今も大和さんの背中を押して水着を着せて、浜辺まで来ていた。

 

ここまで来たんだから、あと一押しで海に出られる。

私はその意味を込めてこう大和さんに言った。

 

「艤装を付けて、おもいっきり沖まで出てみませんか!」

 

大和さんは戸惑っている。後一言、後一言あればきっと!

 

「それはいけませんよ」

 

その考えを打ち破る様に声を掛けたのは、まぎれもない涼月さんだった。

肩で息をしている。今までこの暑い中を走っていた様子。

 

彼女は確かあの時食堂に居たはず。それで私が大和さんを連れ出して別れた。

でもここに居るという事は、大和さんを探しに来たのか。

それに、いけないってどういう事?

 

「海水浴程度であれば問題ありませんが、艤装を付けて沖に出る事は許されません」

「どうしてですか涼月さん。大和さん、海に出た事はないんですよ!」

「上層部からの伝達事項の一つです」

 

上層部……どうしてそんなことを涼月さんが知っているのだろう。

第一艦隊の旗艦だから長門秘書艦から教えてもらったのだろうか。

 

「すみません吹雪ちゃん。涼月さんの言う通りなんです」

 

大和さんも申し訳なさそうに頭を下げている。

 

「私が出撃出来ないのは上層部からの何よりも優先すべき事項。

 なので私は出撃できない、という事で納得していただけないでしょうか」

「大和さんがそういうなら……」

 

大和さんはもう一度頭を下げると戻って行ってしまった。

 

あともうちょっとの所だったけど、涼月さんの乱入で失敗に終わった。

でも涼月さんも少し悲しそうな眼をしている。

どうして上の人達は大和さんを出撃させたくないのだろうか。

もっと他に理由があるのかな? だったら何?

 

「涼月さん、教えてください! 大和さんはどうして出撃できないんですか!」

「貴女には言えません」

「どうして!」

「貴女に教えたとしても、貴女はこうやって彼女に出撃を促すでしょう」

 

「ですがそれが彼女の決意を揺るがす毒にもなるという事を、理解しておいて下さい」

 

その時の彼女の眼は長門さんの様に厳しかった。

 

 

////////////////////////////////

 

 

その日の夜。睦月ちゃんと夕立ちゃん、如月ちゃんが寝静まった後、

私は上手い答えを見つけ出す事が出来ないまま、外を眺めていた。

 

『ですがそれが彼女の決意を揺るがす毒にもなるという事を、理解しておいて下さい』

 

私が彼女の決意を揺るがせている?

ならそんな環境に置いているのは他でもないこの泊地に住む他の人達じゃないだろうか。

 

「まだ起きてるの?」

「如月ちゃん……うん」

 

カーテンを開けていて月光が眩しかったのか、唯一如月ちゃんが起き出してしまった。

彼女はちょっと考えた後、私の隣まで歩いてくる。

 

「大和さんの事が心配?」

「うん。同じ艦娘なのに、どうして海に出られないんだろうって」

「上からの命令って言われても、理不尽よねぇ」

「そうなんだよ! 大和さんも私達と同じ艦娘で、ホテルの管理人さんじゃ」

 

そこまで言って、如月ちゃんが人差し指を口に当てて『静かに』のサインをしていた。

慌てて声のトーンを下げて、睦月ちゃんと夕立ちゃんが起きていないのを確認する。

 

「……そういう時は、本心を聴くのが一番じゃないかしら」

「えっ?」

 

そういう如月ちゃんの目線を辿っていくと、夜道を一人で歩く大和さんの姿があった。

 

「それに何か知っている涼月ちゃんよりも何も知らない吹雪ちゃんの方が、

 何か聞き出せることもあるのよ?」

「それってどういう事?」

「それは聞いてみてからのお楽しみ」

 

笑顔を浮かべる如月ちゃんに困惑しながらも、私は大和さんを追いかける事にする。

本当に如月ちゃんの言う、大和さんを知らない私にしか聞けないことがあると信じて。

 

 

 

林を抜けた先で、大和さんが一人満月と海を見ていた。

だから私は、その背中を押すように声を掛けた。

 

「海、出てみたいって思わないんですか?」

「吹雪さん……」

 

振り返ると悲しげな眼をしている大和さん。

やっぱり、海に出てみたいと思っているはずだ。

でも、上からの命令で出られない。ジレンマというもの。

 

「……いえ、そういうわけではないんです」

「えっ?」

 

しかし大和さんの口にした言葉は私の予想とは全然違うものだった。

大和さんは海に出たいわけではない。でも、じゃあ、なんでここに……

 

「そっか、少し勘違いしていました。吹雪さんは知らないんですね」

「何をですか?」

「まだここにきてすぐの涼月さんの事です」

 

確かに涼月さんは呉鎮守府に来る前はトラック泊地に居たという話は聞いたことがある。

でもその時涼月さんが何をしていたのか、

どういう艦娘の人と会っていたかは教えてくれなかった。

 

「もしかして、涼月さんから聞いてますか?」

「いえ、聞いたことないですね」

「そうですか……なら、少しだけ思い出話をしましょうか」

 

如月ちゃんの言った通り私は何も知らない。でもだからこそ聞ける話があった。

大和さんの思い出話。それは涼月さんがここに居た時の話。

 

まだこの場所が前進基地として完成しておらず、その時の指揮を任されていたこと。

涼月さんが此処に向かっている時に深海棲艦と遭遇して、轟沈寸前になったこと。

それを知って放った46cm砲が、偶然敵に当たって何とか助けた事。

この場所で、涼月さんと大和さんが約束した時の事。

磯風さんが演習を提案して大和さんも演習に励んでいた事。

初めて演習で的に当たって嬉しかった時の事。

そして涼月さんが呉鎮守府に召集をかけられた事。

 

いつの日か涼月さんが話した食堂での護衛艦の話。それは大和さんの事だったのだ。

あんなに強くてもそれでも努力を惜しまない涼月さんは、彼女の為に努力していたのだ。

こんな素敵な戦艦の人の護衛艦を目指すなんて、やっぱり涼月さんは凄い。

 

「素敵な思い出ですね」

「でも……」

 

大和さんの顔が暗くなる。何かを思い出したかのように。

 

「涼月さんが居なくなってから暫くして、演習を止められてしまいました」

「どうして?」

「私は46cm三連装砲という巨大な砲を使う、いわば大艦巨砲主義の鑑です。

 それ故に、補給だけでも多くの資源を使ってしまうんですよ」

 

多くの資源を使うと聞いて、真っ先に浮かんだのは赤城先輩の食べる姿。

あの時の幸せそうな顔は、何にも代え難い魅力がある。

幸せそうに食べる女の人っていいよね……

 

「あの、吹雪さん?」

「はっ! なんでもないですよ! なんでも!」

 

首を左右に振って考えるのをやめる。

いけない。顔にも出てしまっていたみたいだ。

 

「大丈夫ですよ! 呉にも沢山食べる人いらっしゃいますし!

 大和さんも見ましたよね! 赤城先輩、あんなに食べるんですよ!」

 

特に今日の朝ご飯はバイキング形式だったからはりきってたみたいで、

山盛りにしたスパゲッティを一気に平らげたりもしていた。

その時は料理を用意してくれていた大和さんも居たので、絶対に知っているはず。

 

「いえ、あの、実は赤城さんより食べるんですよ。私」

「え?」

 

これだけスタイルが良いのにあの赤城先輩より食べる……?

信じられないけれど実際それは赤城先輩にも言える事だから、

あながち嘘ではないのかもしれない。

人は見かけによらないという言葉はこういう時に使うんだろう。多分。

でも赤城先輩より食べるとなると確かに資源の関係で出撃できないのも解る。

 

「少し話がそれてしまいましたね。本題に戻しましょう」

「はい。すみません」

「演習が出来なくなって、当然ながら私の練度は上がりません。

 そんな中涼月さんの活躍はこちらでも知られるようになりました」

 

「そこで私は思ったんです。彼女は努力し強くなっている。私との約束を果たすために。

 ですが私は演習することも出来ず、ただただ皆さんの生活を支えるばかり」

 

「そんな中、私の中で何かが囁いたんです。『大和ホテル』と。

 そして皆さんがホテルと言った時、私は無意識に叫んでしまいました。

 『ホテルじゃありません』と」

 

私達が泊地に着いた時に出迎えてくれたのは紛れもない大和さんで、

補給の為に至れり尽くせりだった。その状態を見て私は思わずホテルと言ってしまった。

それが大和さんの琴線に触れてしまったんだろう。

 

「そう言った時、私は心までも弱くなっていることを悟りました」

 

「おかしいですよね。心も体も私と共に強くなろうと誓ったのに、

 いつの間にか私は涼月さんより弱くなってしまった」

 

「だから申し訳なくて、解らないんです。

 こんな弱い私ではどんな顔をして会えばいいのか」

 

ここにきてやっと、どうしてここで悲しげな眼ををしていた理由が解った。

大和さんは涼月さんと約束をしたこの場所で、どうすればいいのか考えていたんだ。

でも答えが出なくて、むしろその思い出が大和さんの重圧になっている。

だからあんな悲しげな眼をしていたんだ。

 

何かかけられる言葉はないか。いままで私が学んで来た事を。

 

『私は私の出来る事をしただけです』

 

『駆逐、艦……は、出来る事を、見極めて……』

 

涼月さんが口癖のように言っている、出来る事をする。出来る事を見極める。

いつもそんな事を私に言っていた気がする。

 

「……今は、大和さんの出来る事をするというのはどうでしょう?」

「えっ?」

「涼月さん、良く私に言ってくれたんです。

 『出来る事を見極めろ、出来る事をしろ』って。

 それはできないことを無理にやらず、今出来る事をするってことだと思うんです」

「ですが、今の私にできるのは……」

「大丈夫です。演習で出来る様に努力してたんですから。

 無理に動いて今までの努力を無駄にする方が、もっと辛いじゃないですか」

 

私も初出撃、金剛さん達の任務で、自分に出来る事がはっきりと解っていなかった。

だからあの時は危なかった。両方とも助けてくれたけど轟沈の可能性があった。

出来ない事をしようとして、取り返しのつかない事になってしまう。

だから私はそれから自分に出来る事をしっかりやってきた。

すると今までの努力と共に結果が付いてきた。

 

「だから今はちょっとだけお休みして、出来る事をした方がいいんですよ」

「私の出来る事……」

「涼月さんを助けた時も、大和さんは大和さんの出来る事をしたんじゃないですか?」

 

その時の状況を良く知らないけれど、きっと大和さんも必死だっただろう。

でも出来ると解っていたから、それをして結果が付いてきた。

 

「そうですね……私は、少しだけ我儘になっていたみたいです」

「いえ、いいんです。私も何も知らずに沖まで出てみませんかっていっちゃったので」

 

私も今考えると大和さんの事を良く考えずにあんな事を言っていたと後悔する。

つまりそれを知っていたからこそ涼月さんはそれを『毒』と言っていたんだ。

 

「涼月さんも強くなりましたね。そんなことが言えるようになるなんて」

「私も涼月さんの意外な一面を知れて嬉しかったです」

 

涼月さんも、私と同じように決意していたんだ。大和さんの護衛艦になると。

決意した時から多分解っていたんだと思う。

戦艦である大和さんと、駆逐艦である涼月さんの、『出来る事』の違いを。




些細な約束も、時を経れば大きな楔と成りえるのか。

ふんわりと誘導する如月。流石は睦月のお姉さん的な立場と言った所でしょうか。
こっそり明かされる涼月の過去、それを知る吹雪。
そして大和を説得する吹雪。無理はいけませんね、やはり。
なのはの空白期的なことになっては色々と取り返しが付きませんから。

仲の良い相手には言えない事と言うのも、よくある事です。
解ってくれると知りながら、心配させたくないという見栄を張る。そんな感じです。


おまけ

涼「………」
主「………」
涼「何か言い残すことはありますか」
主「イヤーナンノコトヤラサッパリ」

涼「これを知らない方は第十一話のあとがきを見て頂けると解ります」
主「夜戦カットインとか言っていた気がするけど知らないなー」
涼「よく覚えていらっしゃるようで。では……」
主「でも秋月型って雷装値低いからそこまでダメージ出ないよね」
涼「北上さんと大井さんの魚雷カットインがありますので、そこに転送させていただきます」
主「えっ」
涼「何も私が夜戦カットインするとは言っていないので。ではまた次回お会いしましょう」
主「オタッシャデー!(critical!」

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