艦隊これくしょん -艦これ- ~空を貫く月の光~   作:kasyopa

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更新が遅くなって申し訳ない……(予約投稿しないからこうなる!)

今回は第九話前半になります。つまりぽいぽいがメイン……?
この小説夕立の立場がほぼ皆無状態と言うか悲しい状態になってませんかね。


第二十四話『狂犬乱舞』

Side 磯風

 

 

朝方。

私は今、砂浜の見回りとゴミ拾いを兼ねて艤装を装備した状態で散歩をしている。

呉鎮守府からやってきた艦娘達を疑う気はないが、

悪戯に泊地を荒らされでもすれば後処理が大変だ。

 

それに足場が不安定な砂浜を歩くだけでもかなりの運動になる。

見回りの理由の大半がそれを占めているのは言うまでもない。

それでも確実にゴミを見つける為、艤装を付けて熟練見張員にも手伝ってもらっている。

 

「こんなものか」

 

島を一周し終える頃にはゴミもそれなりの量になっていた。

大半がこの島の物ではなく流れ着いた物だろうが、それも拾っていくとこうなった。

 

「どうした見張員、またゴミでも見つけたか?」

 

浜辺の向こう、見張員の妖精の指す先には呉からやってきた駆逐艦達が集まっていた。

何やら面白い物でも見つけたのだろうか。時間からするともうすぐ朝食。

赤城や加賀達によって食い尽くされるという事が無い様に、教えておこう。

 

「もしかしたら、爆発するかもしれないわ!」

「何を馬鹿な事を言っている」

 

駆逐艦の集会の外側から声を掛けると、道を開ける様に左右へ避けていく。

私は威圧しているわけではないのだが……

その中心には確か夕立と言ったか、ロングのブロンド髪の駆逐艦が光り輝いていた。

 

「確か、磯風さんなのです」

「ああ、磯風だ」

「そんな艤装付けてどうされたんですか?」

「ゴミ拾い兼見回り兼トレーニングだ」

 

電、吹雪の問いにさらりと答え私は再び夕立を見据えた。

特に彼女自身に違和感はなさそうなので自覚症状はないと見る。

変に周りが騒いでいるだけなので、大事ではない。

だが何が起きているのかは解らない。こういう時は明石が一番詳しいだろう。

 

「艦娘の事なら明石が一番良く知っているだろう。夕立、行くぞ」

「は、はい!」

 

異常事態だったとしても冷静に対処しなければ全体の士気や規律に関わる。

だからこそ迅速な対処が求められるのだ。

 

 

 

明石曰く、これがもう一つの『大規模改装』だそうだ。

艦娘そのものの姿に関係あるもの。

こうなると大きく艤装を改造しなければならず、新たな装備開発も必要らしい。

そこで今朝こちらにやってきたという兵装実験軽巡『夕張』の力を借りて、

新装備の開発に勤しんていた。

 

一方の私は夕立と以前同じ艦隊であった吹雪・睦月・涼月を呼んで、

別の工廠にやってきていた。

明石の工廠と違うのはどちらかというと休養施設のような場所で、

明石の艤装の修理が終わるまでの待機部屋の様な役割を果たしている。

 

少なくともトラックに元々居る面子であれば必ず利用したことがある。

 

「夕立さんが大規模改装ですか」

「意外か? 涼月」

「はい」

「人は見かけによらんということだ」

 

私は明石に渡された夕立のデータをまとめた資料を涼月に渡す。

以前トラックで同じだったのだ。騒ぎ立てるわけでもないから見せても問題ないだろう。

資料に目を落とす涼月は驚きの表情を浮かべていた。

 

「なるほど。組織にすら影響を及ぼす大規模な改装、ですか」

「これなら明石が知らぬわけだ。因みにそれは秘書艦である長門が見る資料だ。

 汚さぬようにな」

「あらかた目を通しましたし、お返ししますね」

 

受け取ってから先頭を歩き、夕立が居る場所のカーテンを開け放つ。

そこには上下とも下着姿の一風変わった夕立が立っていた。

 

「「ご、ごめんなさい!」」

 

後ろに居た吹雪と睦月は顔を赤くして手で視界を遮っていた。

涼月は彼女の変わりように驚いている。

 

「早く服を着ろ。ここは温かいが暑い訳ではないんだ」

「ぽい~。磯風さんは長門秘書艦っぽい」

 

しぶしぶ服を着る彼女。

後ろに立つ吹雪と睦月は着替えが終わった彼女を見つめていた。

 

「ほんとに、夕立ちゃん?」

「夕立は夕立っぽいよー」

「しかし、大規模改装はこのような物だったのですね」

「らしいな。明石の話だと性格にも影響が出る場合もあるらしい」

 

そんなことを話していると、野次馬である他の駆逐艦達がやってきたのだった。

 

 

 

ある程度夕立のお披露目会が終わった後、私は彼女の火力テストに付きあっていた。

それは様々な素材や分厚さで出来た的に砲撃を行うと言ったもの。

時間はかかるが正確性には長けていた。

 

「成果はどうですか?」

 

涼月がおにぎりを持ってやってくる。彼女お手製なのだろう。

断りを入れて一つ頂くことにした。仄かな塩味が丁度良い。

 

「そうだな。今丁度駆逐艦の火力のボーダーを越えたところか」

「火力……対艦ですか」

「ああ。彼女の装備は12.7cm連装砲B型改二だからな。対空だとお前の主砲に敵わんさ」

 

砲撃音が響き渡り的が砕け散る。

これで駆逐艦で駆逐越えという矛盾染みた火力は本物へと昇華した。

 

実質今は涼月と二人きりのような状態だ。

ならば少しばかり聞いてみるとしよう。

 

「涼月、お前はこれからどうするんだ」

「トラック泊地に残りますよ。私の夢の為にも」

 

我儘かは解らないが、彼女のまっすぐな目は信じるに値した。

 

 

Side 涼月

 

 

その後夕立さんの火力テストが終了し、共に長門さんに呼び出されていた。

 

「まず夕立。明日から第一機動部隊への転属を命ずる」

 

最初に伝えられたのは夕立さんが第一機動部隊に転属されるという話。

確かに改二になった彼女なら適任だろう。それにそれ以外でも彼女に託せる物があった。

 

「涼月ちゃん、私第一艦隊になっちゃったっぽい!」

「おめでとうございます。これから頑張ってくださいね」

「頑張ってください……?」

 

私の言った言葉に違和感を覚えたのか首を傾げる彼女。

 

「続いて涼月の件だがこれは赤城から聞いている。曲げる気はないんだな?」

「はい。私は私の道を曲げるつもりはありません」

「ま、待って待って! 話が見えないっぽい!」

 

重くなりかけた空気に制止を掛けるように声を掛けてくる。

確かにこちらだけで解っている話をされても戸惑うだけだ。

赤城さんが事前に話をしてくれていたらしく、話そうと思っていたが手間が省けた。

実際私自身も無理に通すつもりではあったのだが、ここまですんなり通ると驚きである。

 

「では、駆逐艦涼月は現時点を持って第一機動部隊から脱退。

 だがこのFS作戦遂行の為の支援戦力として大和達とトラックに残ってもらう。いいな」

「はい」

「ええ!? 涼月ちゃん第一艦隊やめちゃうっぽい?!」

 

そのことを初めて知った夕立さんは戸惑い私の方を見ている。

私はその視線に対して首を縦に振る事で答えた。

 

 

Side 長門

 

 

二人が部屋を立ち去った後、残されたのは私と陸奥の二人だけだった。

私はそっと目を閉じて涼月の言葉を思い出していた。

 

『はい。私は私の道を曲げるつもりはありません』

 

あの時の目は何かを決断する提督の目にも似ていた。

あれを変えられる者は、おそらく誰もいないだろう。

 

「ねぇ、本当に良かったの? 涼月ちゃんを艦隊から外して」

「提督の意思は確認済みだ。いずれこうなるだろうと提督自身も予測していたらしい」

 

涼月は提督に翔鶴の転属願いを申請した後、短い会話を交わしたそうだ。

その時の言葉によって、提督自身もある種確信に近い何かを得たそうだ。

 

私としても彼女が外れるのは艦隊の、如いては鎮守府の指揮に関わるかもしれない。

それはカレー大会の審査員に抜擢した時も解っていた。

だがいつかこうなるという事をいつまでも先延ばしにしていては彼女自身に関わる。

それが原因で彼女が参ってしまい、戦闘に支障が出てからでは全てが遅いのだ。

FS作戦という大規模反攻作戦の本格始動を目前にしているこの現状では特に。

 

「それにしても、涼月ちゃんは変わってるわね」

「何がだ」

「この深海棲艦と戦っている艦娘の中で、自由に動いていると思わない?」

 

確かに言われてみればその通りだ。

第三水雷戦隊ではまだ未熟だった睦月と夕立の自信が急に付いたのは、

彼女が此処にやってきてすぐの頃。神通が言っていたが全ては彼女の行動のお蔭らしい。

 

第二支援艦隊に配属されてからは着々と顔を広くしていき、

遠征任務が終わってからと言うもの、表情に影があった島風も何かが吹っ切れており、

何よりも涼月と島風の勝手な行動が結果として、如月の轟沈と言う事態を免れた。

 

第一機動部隊の旗艦としてオリョール海を奪回する時は、

自らの長所を生かして敵の動きをまとめ上げ、

『深海棲艦が暗号を解読している』という懸念を私達に伝えた。

それが結果として吹雪達第五遊撃部隊の空母撃沈と大破という結果を生んだ。

 

それら全てがこの自由の為の物だとすれば、とんでもない策士である。

 

「……自由か」

 

意志を持つ者として、私達の自由とは何か。私にもそれは解らなかった。

 

 

Side 涼月

 

 

「涼月ちゃんは水臭いっぽい」

 

一緒に部屋へ戻る私に対して夕立さんが開口一番に放った言葉はそれだった。

 

「折角頑張って追いついたと思ったら、すぐ遠くに行っちゃうんだもん」

「戦乱の世など、そう言うものですよ」

 

私が笑って答えるも夕立さんは頬を膨らませていた。

その詫びと彼女の転属祝いを兼ねて、私は夜食を作る事を約束し二人で食堂に向かった。

 

 

 

食堂に入ると大和さんが一人明日の朝食の下準備をしていた。

 

「涼月さん、夕立さん、お疲れ様です」

「あれ? 大和さん?」

「私は明日の朝食の準備ですよ。お二人はどうされたんですか?」

 

なるほどと頷く夕立さん。私は大和さんに夜食を作りに来たと説明する。

彼女が作ると言ってくれたが、

夕立さんへのお詫びを兼ねていると説明すると譲ってくれた。

 

「夕立さんは何か食べたいものはありますか?」

「ん~、間宮さんの餡蜜!」

「無茶言わないでください」

 

そもそも私も食べるだけなので餡蜜の作り方など知りもしない。

様々な果物に餡子、クリームにアイスクリームなどが乗っているのは覚えている。

そこまでは解るが、実際に作ったことも無いのでトッピングの方法など知らない。

 

「……お手伝いしましょうか?」

「お願いします……」

 

これだけは流石に大和さんの手を借りなければ作れない品だった。

 

 

 

「お待たせしました。大和特製餡蜜ですよ」

「わぁ~……」

 

目を輝かせながら夕立さんはそれを眺めている。

サイズは少し小さいがそれでも十分のボリュームだ。

 

作る時はほとんど大和さんがしてくれて、私はほとんど果物を切るだけだった。

料理器具や食材のある場所は大和さんが全て把握していたし、

何より無いと思われていたアイスクリームを彼女がすぐに自作したことも驚きだ。

ラムネだけでなくアイスクリームまで作れてしまう彼女には尊敬の意を表したい。

 

「大和さん、態々ありがとうございました」

「いいんです。トッピングのアイスクリームは私の得意分野ですから」

 

彼女はにっこりと微笑んだ。影のあった表情は今ではその面影を感じさせない。

何か吹っ切れたような顔をしている。

 

「涼月ちゃんも食べようっぽい!」

「しかしそれでは夕立さんの分が減ってしまいますよ」

「いいの。トラックに残るんだったらそれまでに思い出を作るんだから!」

 

無理やり席に座らされ、餡蜜を救った匙を差し出される。

 

「自分で食べられますって」

「思い出作り!」

 

そう言って無理やり口の中に押し込められる。

優しい甘さが広がって、間宮さんの餡蜜とは違った美味しさがあった。

 

こんな甘い日々も悪くないと少しばかり思うのだった。





夕立改二。長門型駆逐艦とまで言われる磯風さん視点の物語でした。
呉の面々とトラックの面々の交流が少ないのは、
トラックの面々(特に駆逐艦)がいつもと同じように自分のペースを貫いているので、
接触することが少ないといった形です。
なお、本編(アニメ)終了後はそう言った外伝的な話を設けようと思ってます。
(まだMI作戦発動直前のドッグ部分だけどね)

涼月の正式な呉からの脱退が承認。
提督は提督で、既に勘付いていたようです。
作者的にもここまで優秀な艦なら真面目に秘書艦にしていたいです。

大和特製餡蜜は、第一話の部分が少しだけもじってあります。
大和さんは艦内でアイスも作れるのでそこから色々取っています。
夕立のキャラ立ちは基本不真面目だけどやる時はやる子。
ストパンでいうハルトマンみたいな感じだと思っていただければ。
吹雪は完全に芳佳ポジですねぇ……睦月はリーネ? 涼月は……誰でしょうね?

次回から少しばかり大きくうねりを見せるかも……

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