艦隊これくしょん -艦これ- ~空を貫く月の光~   作:kasyopa

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さて、アニメ第九話中盤および後半です。
大きなうねりが姿を見せるのは、いつになる事やら……




第二十五話『自分を信じる』

Side 涼月

 

 

「MO攻略作戦が中止!?」

 

私と大和さん、そして秘書艦である長門さんにその補佐の陸奥さん、

無線担当の大淀さんと、装備開発担当の明石さんでMO攻略に対して、

図上演習が行われている時だった。

私が居る理由は、元第一機動部隊をほぼ無傷のままで二つの海域を突破した功績から、

私自身の考えられる事態を想定してほしいと言われたのだ。

 

「はい。先程提督からの緊急入電で『MO攻略作戦は中止し、直ちに全艦鎮守府へ戻れ』、

 とのことです」

 

ここに居る私を含めた全員がその一報に戸惑いを覚える。

間もなく図上演習も終わり、本格的に作戦が指導し始めようとした矢先である。

 

しかもこの図上演習はこの島に集結した呉の戦力と、

トラックに居る高練度かつ即戦力になる艦娘、

もちろん大和さんを含めた連合艦隊で行われていた。

そしてこちら側の大勝で結果が付こうとしていた矢先の出来事。

 

そんな状態で作戦中止の命が下ったのだ。

 

「提督に伝えてくれ。現在の戦力であればMO攻略は確実だと」

 

そう答える長門さんに、そこに居る誰しもが頷いた。

ただ私は少しだけ気になる。何故今になって提督は作戦中止を言い渡したのか。

MO攻略の為にここに戦力を集中させたのも提督の判断。

それを撤回するような事態が発生したのだろうか。

 

『今上層部が考案し発動しているMO作戦にも、支障が出るやもしれん。

 だが、打てるべき手は打つ。それが私のやり方だ』

 

彼は打つべき手を打ってしてここまで艦隊を、呉という鎮守府を大きな物にしていった。

打つべき手。私はあのW島攻略作戦と並行して行われていた遠征の事を思い出す。

 

遠征であれば軽装かつ高速な水雷戦隊で行けばいい物を、

彼は態々金剛型を全艦出撃させるという暴挙ともいえる事態に出た。

しかしそれが逆に敵戦艦をこちらが観測、接触せずに突破することが出来た。

そして帰投途中にもW島の奇襲に失敗し、制空権を失っていた三水戦の援護が出来た。

それが結果として私と島風さんが如月さんを救う結果に到ったのだ。

 

全てを見透かしているような冴えた判断。最悪のケースを想定して動く彼。

ならばこの作戦中止にも何か意味がある。

 

「待ってください!」

 

その答えが導かれるよりも先に私は声に出していた。

 

「どうした涼月」

「待ってください。あの提督なら、あの提督なら何か考えがある筈なんです!

 だから、後少しだけ、少しだけ待ってください!」

 

私は考える。上層部の考えたMO攻略作戦を中止にしてまで避けなければいけない事態を。

失敗を想定する? ならばこの島にこれだけの戦力を集中させる必要はない。

あの提督の事だ。確実に成功させるためにこの場所にこれだけの艦隊を集めたのだ。

ならなんだ。この図上演習だけでは解らない事態とは何だ。

もっと大局的に物を考えろ。全てを見据える様に。

 

そう言えばあの時泊地上空を通過しようとした敵機は何だったのか。

全て大鳳さんが撃墜したが、あれは一体何なのか。

 

「長門さん! 一昨日の敵機、何か知っていますか!」

「一昨日か。あれは鎮守府の第二艦隊が全機撃墜出来なかったと聞いているが……」

 

結果としては全機撃墜できたのだが、何か頭に引っかかる。

全機撃墜出来なかった。図上演習の海図に目を落とす。

大半の空母、戦艦はこのトラック島に移動して来ている。

ならば射程が届かず全機撃墜できなくてもおかしくはない。

 

バシー島攻略の時のことを思い出す。

あの時は敵主力艦隊を翔鶴さんの偵察機が発見したが即撃墜されてしまった。

だがしっかりと敵の編成を教えてくれたので、こちらは無傷で勝利を収められたのだ。

 

頭に引っかかっていたものが取れる。

そうだ。撃墜されようともその前に打電してしまえば編制を知る事が出来る。

こちらが敵を空母・戦艦と識別できるように、向こうもこちらを識別することは出来る。

無線を傍受し、暗号を解読するだけの能力があるなら、そんな事容易い。

 

もし向こうが暗号を解読しているのだとすれば、

大規模な反攻作戦の為にこの島に戦力が集中されていることも知っているはず。

こんな状態で手薄になった鎮守府に対して向こう側が大規模な作戦を実行した場合、

結果は火を見るよりも明らかだ。

 

「本土への奇襲攻撃」

「何……?」

「暗号を解読しこちらの作戦を知っているのなら、この事態も知っているはず。

 ならば手薄になった本陣を攻撃し一気に陥落させれば」

「だが、そんな事深海棲艦と言えど簡単に出来るとは思えんぞ」

「なら私が深海棲艦側だった場合の策を一つ提示させていただきます」

 

そんな言葉に皆が驚く。当然だ。私が深海棲艦側だった場合の話をしているのだから。

 

「まず暗号を解読し、このトラック島に戦力が集中している事を知ります。

 これは結果として鎮守府の戦力が低下しているとも取れます。

 本来ならばそれが解り次第攻撃、と行きたいですが……」

 

そこまで説明して大淀さんに頼んで鎮守府近海の海図と、

オリョール海の海図を出してきてもらう。それは勿論私が書き込んだものだ。

先にオリョール海の海図を広げる。

 

「オリョール海の反復出撃による解放の時、主力艦隊は姿を見せなかった。

 深海棲艦の思考が軟弱であれば、一度目の攻略の帰投時に狙うはずです。

 しかし深海棲艦は奇襲を行わなかった。それは暗号を完全に解読し、

 反復出撃することを既に知っていたからです」

「そこまで……」

「信じがたい話ですが、これは事実でもあります。

 反復出撃は疲労も溜まりこちらの砲撃の精度や回避に影響が出ます。

 そして数回にわたる出撃の中突然奇襲してきた様に見せかけたんです」

「でも、それがその想定している奇襲攻撃に何の関係があるの?」

 

陸奥さんは事態が呑み込めないのか首をかしげていた。

他の皆は真剣に話を聞いている。

私はよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに鎮守府近海の海図を広げた。

 

「通常なら奇襲は早い方が成功しやすいです。

 ですが深海棲艦は万全を期す為に、一回目は偵察を行います」

「それがあの取り逃がした敵機と言うわけか」

「はい。偵察を行うのはまだ鎮守府側が、何か隠してないか炙り出す為だと思います。

 しかし取り逃がしたと言う事は、鎮守府にはそれまでの防空能力がないという事。

 ならば空母を中心とした機動部隊を編成し、鎮守府に攻撃をかける。結果として……」

「本土空襲……!!」

 

ここに居る全員が青ざめる。

提督はそれを想定して、作戦中止という判断を下したのだ。

 

「呉から移動してきている艦娘全員に伝えろ!

 第一機動部隊から随時トラックを進発、鎮守府に戻る!」

「「「「「はい!!」」」」」

 

この泊地には放送という便利な物までは完備されていない。

私達は司令室から弾き出されるように長門さんの合図で飛び出した。

 

 

////////////////////

 

 

呉の皆と別れを告げる為にも私達は港に来ていた。

 

「まさかとは思ったけど、本当にお別れなんてね」

「第三水雷戦隊の時にも言ったじゃないですか。今生の別れではない、と」

「ははは、そうだね。ま、しっかりやりなよ!」

 

川内さんの次は榛名さんと霧島さん。

 

「涼月ちゃん、トラックでも頑張ってくださいね」

「私の計算によれば、涼月さんならどこへでも上手くやっていけますよ!」

「榛名さん、霧島さんありがとうございます。ご縁があればまたお願いしますね」

「「はい!」」

 

続いて翔鶴さん。

 

「涼月さん、今までありがとうございます。

私達も基本を忘れずこれからも戦っていきますね」

「はい。翔鶴さん、瑞鶴さんをお願いします」

「ふふふ、解りました」

 

そして赤城さん。

 

「涼月さん、ありがとうございました。私達がこうして強くなれたのも、

 貴女のお蔭ですよ」

「いえ、皆さんのお蔭で私も強くなれました。赤城さんも頑張ってください」

「ええ。涼月さんも」

 

最後に夕立さん。

 

「じゃあね涼月ちゃん。また会ったら最高にステキなパーティしましょ!」

「そうですね。また近いうちに」

「じゃあね!」

 

そう言って第一機動部隊は進発していった。私は手を振って皆を送る。

 

「すーずっつき!」

「うわわ!」

 

背中を叩かれて思わず海に落ちそうになる。

何事かと思って後ろを振り返るとそこに居たのは蒼龍さんと飛龍さんだった。

 

「落ちたらどうするんですか!」

「水臭い事したんだから別に落ちてもいいじゃない」

「まぁ涼月だから色々突然なのは仕方ないと思うけどさ、もうちょっとやり方あるよね」

「すみません。お二人には振り回して申し訳ないです」

「この分はまた今度返してもらうから、覚えておきなさいよ」

「はい。その時はよろしくお願いしますね」

 

互いに敬礼を交わして別れを告げる。

 

「涼月ちゃん」

 

この元気のいい声は睦月さんだ。

声のかけられた方向を向くと、そこには睦月さんと如月さんが居た。

 

「ありがとね涼月ちゃん。やっぱり感謝してもしきれないよ」

「いいんです。ですが今度は睦月さんが守ってあげてくださいね」

「睦月、お願いされました。えへへ」

「涼月ちゃん。短い間だったけれどありがとう。睦月ちゃんも、私も守ってくれて」

「今度からはお互いがお互いを助け合って行ってくださいね」

「ふふふ♪ は~い」

 

二人とハイタッチを交わして別れる。

私はこんなにも多くの人と信頼を築いていたのだ。

それこそ駆逐艦と言う枠組みを超えた信頼を。

そもそも駆逐艦という枠など、自分で決めた物でしかないのだろう。

ただの思い込みの一つに過ぎなくて、その枠を設けているのは自分だけ。

 

「涼月さん!」

 

不意に声を掛けられて振り返ると、そこには吹雪さんが居た。

彼女も駆逐艦にして一部隊の旗艦。そんな彼女が私に何の用だというのだろうか。

 

「今までありがとうございました」

「いえ、お礼を言われるほどの事はしていませんよ。私は私の出来る事をしただけです」

「それでも、私は涼月さんのお蔭でここまで来る事が出来ました」

 

いつも謝ってばかりだった彼女がこんなにも立派になったのだ。

そこにあるのは後悔の眼差しでも尊敬の眼差しでもない。感謝という二文字。

 

「初出撃の時も、南西諸島海域の時も、MO作戦の空母だって!

 私は、涼月さんが居たからここまで成長できたんです!

 だから、言わせてください。ありがとうございます!」

 

彼女の太陽の様な笑顔。それが私には眩しく見える。

それでも目を背いてはいけない。しっかりと見てあげよう。

これが本当の彼女なのだから。だから私は伝えよう。彼女に。

 

「貴女が成長できたのは、確かに私が居たからかもしれません。

 ですが忘れないでください。貴女は私を含めた皆が居たからこそそこまで成長できた。

 貴女の内にある本当の貴女が成長したいと望んだから、そこまで成長できたのです」

「………」

「それを忘れないで居てください」

「はい!」

 

互いに敬礼をかわす。私も彼女も、共に笑顔だった。

 

 

////////////////////

 

 

皆が呉に撤退し、私達は昼食をとっていた。

しかしそこに唯一舞風さんの姿はなかった。

 

「野分さん。舞風さんはどうされたのですか?」

「舞風? 確かまだ部屋に」

 

野分さんがそう言いかけた時、食堂の扉が勢いよく開かれた。

そこに居たのは舞風さん。

汗を流し息を切らしている。こんな彼女は見たことが無い。

 

「舞風!? どうしたの!」

「……来る」

「えっ?」

「来るの! 敵が! 空から!!」

 

敵? 空? 彼女は一体何を言っているのだろうか。

その直後、この泊地全体に爆音が鳴り響いた。

 




涼月の本気回。今まで得てきた可能性と結果を統合した結果。
真面目に今まで積み上げてきた物をここまで出来ると昇華させたかった。
後アニメ提督が無能ではないというのを前面に押し出してます。
あそこまで頑張ってる人が無能なわけないんや……

本土空襲の危機を感じる長門。撤退する呉の艦娘達。
第一艦隊の人達との別れを描きたかったけどかなり難しかった。
アニメとか漫画とかだったら大分やりやすいけど、
生憎私には画力と言うものを持ち合わせていないのだ……

そしてトラックを駆け巡る戦慄の音。
深海棲艦の矢は何故トラックへと向けられたのか。
次回、艦隊これくしょん -艦これ- ~空を貫く月の光~
第二十六話『絶望の空、倦怠の海』。暁の水平線に見るのは、勝利だけなのか。

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感想やメッセージ等を飛ばしていただければと思います。

後、涼月を自分の小説でも使いたい!
という(物好きな)作者さんがいらっしゃいましたら、メッセージでお伝えください。
詳細設定の文章と諸注意をお送りした上で許可いたします。
配役は悪役でも善人でも神でも何でもいいです。

ただし今後のゲームのアプデによる『涼月』実装の危険性があるのでご注意ください。

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