艦隊これくしょん -艦これ- ~空を貫く月の光~   作:kasyopa

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第十話終盤と後日談。

サブタイトルがとんでもない事になってますが、
そこまで気を引き締めなくても大丈夫だと思います。

暫くは呉鎮守府視点が続きます。(本来の主人公が吹雪ですしお寿司)


第三十話『南雲機動部隊』

Side 吹雪

 

 

私はそのまま二人に工廠まで連れて来られていた。

 

「あの、赤城先輩。加賀さん。これは一体……」

「「大規模改装ですよ」」

 

大規模改装。その言葉を聞いてハッとする。

夕立ちゃんがトラック泊地で大規模改装を受けた事。

涼月さんのあの時の装備が変わっていたこと。

 

信じられなかった。私はそこまで頑張っていたのかと。

私が大規模改装を受けていいのかと。

私は涼月さん程強くもない。夕立ちゃんみたいに頑張ったわけでもない。

ただ、皆を守りたいだけだった。

 

「おそらく貴女の言った言葉。その決意が、大規模改装への道を開いたのだと思います」

 

決意。私の意思……

 

『貴女の内にある本当の貴女が成長したいと望んだから、そこまで成長できたのです』

 

涼月さんの言葉を思い出す。

私が強くなりたいと上辺だけで願ったからじゃない。

本心からそう思い、決意したからこそ強くなれた。成長できたと。

あの言葉は、この事を見透かしていた言葉だったんだ。

 

「受け入れなさい。貴女の覚悟、その決意。それが貴女の力となるのだから」

 

加賀さんが強くそう言う。これが私の覚悟、私の決意。

 

未だに体の奥から溢れんとするこの力。

私は目を閉じる。この力は決して悪い物じゃない。元々私に有った本当の私。

それを受け入れて私は強くなる。そしてそれから始めるんだ。

本当の私として、ここから。皆を守る為に。

 

溢れんとしたその力はその気持ちに応える様に、私の体を包み込んでいく。

心地いい。初めて入渠した時なんか比じゃないくらいに。

温かいけどその中に確かに強い力を感じる。

 

受け入れて目を見開く。

私を包み込んでいた力はしっかりと体に馴染んで、

生まれ変わったみたいな清々しい気分が全身を駆け抜ける。

 

「体の方に変化はないようね。じゃあ吹雪さんが改二になった時の装備を持ってくるわ」

「では私は提督を呼びに行ってきます」

 

赤城さんは工廠の奥へ、加賀さんは走って工廠から出ていく。

私は近くに有った大きな鏡に自分を映してみていた。

至ってどこにも変化がない。

夕立ちゃんみたいに髪型や目の色が変わったわけじゃないし、

胸も大きくなったわけじゃない。

 

「(羨ましかったんだけどなぁ……)」

 

しょんぼりしていると、赤城さんが戻ってきた。

 

「はい、吹雪さん」

 

そう言って渡されたのは私の艤装。特に変化らしい変化はない。

 

「これだけ、ですか?」

「装備は提督が渡してほしいと言っていたのだけれど、

 この際だから提督から直々に渡してもらった方がいいと思って」

 

ちょっとだけ悪戯な笑みを浮かべる赤城さんを見て、私は首を傾げる。

 

「吹雪!!」

 

工廠の扉が勢いよく開かれて、白い服に身を包んだ男性が入ってくる。

間違いない、司令官だ。初めてあの場所で出会った時よりも息を荒げている。

それを見て思わず笑いがこぼれてしまう。

 

だって、この鎮守府で一番偉い人が私一人の事でここまで必死になっているんだ。

失礼かもしれないけど、申し訳なさや違和感を通り越して笑いがこぼれた。

人はどうしようもなくなった時笑うというけれど、本当かもしれない。

 

「赤城、それに加賀。本当にありがとう」

「いえ、私は私のするべきことをしただけです」

「提督……いえ、なんでもないわ」

 

二人に頭を下げる司令官もまたおかしくて、笑いがこぼれてしまう。

本当にまっすぐで、私達の事を思ってくれている人なんだなぁ、って思う。

 

「提督、そんなことよりも早く装備を渡してあげてください」

「渡していなかったのか?」

「赤城先輩が、折角だから提督から渡した方がって言ってくれたんです」

 

一本取られたとばかりに提督が笑う。

不思議な人だ。こんなにも感情的な司令官は見たことがない。

 

「そうだな。ではこれを」

 

工廠の奥から提督が取り出したのは、

12.7cm連装砲よりも砲身が少し長くて、口径が少しだけ小さい主砲。

 

「長10cm連装高角砲ですか!?」

 

長10cm連装高角砲。それは私も、誰しもが知っているであろう小口径の主砲。

あの涼月さんが最初からずっと使い続けていた物と同型の物だった。

でもちょっとだけ古いような、新品じゃないような気がした。

使い古されているような、そんな感じの光り方。

 

「涼月が近代化改修を受けた時、元々彼女の使っていた長10cm砲が不用になってな。

 明石に折り入って相談して、改修したものを譲ってもらったんだ」

 

つまり、この長10cm砲は涼月さんがこれまで多くの人を救ってきた物。

彼女の意思が染み付いた物。その装備を受け取る。

今まで使ってきた12.7cm砲と違った重み。

そして今まで涼月さんが使っていたという重み。

 

でも今の私ならその重みを受け止められる。私なら背負って行ける。

 

「この装備……これなら、もっと頑張れます!」

 

だから私は、ここに居る三人の期待に応えるのだった。

 

 

Side 赤城

 

 

吹雪さんの改装が終わり私と加賀さんは外に出る。

すっかり日は落ち込み蒼い月が夜空を照らしていた。

 

「赤城さん、まさかこれを見越して吹雪さんを護衛艦に?」

 

加賀さんが私に恐る恐る尋ねてくる。

その問いに対して私は首を横に振った。

 

「例え大規模改装が施されなくとも、私は吹雪さんを護衛艦にするつもりでしたよ」

「ですがそれでは……!」

「それでは彼女は私を守れない。ですか?」

 

見越した私の発言で加賀さんは口を噤み、静かに首を縦に振る。

彼女も解っているのだ。私が喪われるという怖さを。

 

私はこの今の地位に慢心しているわけではない。

ただ今の鎮守府の様子を見ると自ずと見えてくる。

以前そこに居た偉大なあの子はもうここには居ない。

一瞬にして築き上げた地位を捨て去ってまで、あの子は自らの意志を貫いた。

 

仲の良い者同士別れの言葉を交わしたが、

今まで当たり前にあった光景が失われるのは皆にとって少し寂しい物でもあった。

もう二度と会えないわけではないのに、この空気の変わり様。

だからこそもしも誰かが轟沈した場合、これよりもっと酷いことになるのは解っていた。

 

それは先人である私達も同じ事。でも私達は空母。

小回りが利くわけでもなければ、対艦同士の戦闘になれば一方的に敗北してしまう。

だからこそその私達を守る護衛艦も、しっかりと選んでほしいというのが加賀さんの思い。

決して安直ではなく、しっかりと選定してほしいのだ。

 

「加賀さんは不満でしたか?」

「……いえ。ただ私は赤城さんにもしもの事があったらと」

「私からすれば、加賀さんに吹雪さんを取られたらと少し不安だったんですよ?」

「そんなことは!」

 

顔を赤く染めて否定する加賀さん。昔から生真面目過ぎるのは変わっていない。

いつしか私を友以上に思ってくれる大切な人になっていた。

私はそんな加賀さんを見ていると、信頼の証として少しからかいたくなるのだ。

 

「少しお腹が空きましたね。鳳翔さんの所にでも行きましょうか」

「……はい」

 

 

 

甘味所間宮の後ろ。赤提灯がその店の雰囲気を出している。

引き戸がカラカラと音を立てて、私達を一風変わった場所へと誘う。

 

「いらっしゃい」

「お、赤城さんに加賀さん!」

「先にやってるよー」

 

そこでは蒼龍さんと飛龍さん、翔鶴さんと瑞鶴さんが居た。

 

「げっ……」

「五航戦……」

 

引き戸の音は自然と人の視線を集める。

それによって瑞鶴さんと加賀さんの視線が合った。その間を流れる不穏な空気。

突き出しを食べ勧めていた蒼龍さんと飛龍さんの箸が自然と止まっている。

翔鶴さんは止めるわけでもなく、その光景を微笑んで見ていた。

 

「加賀さん、瑞鶴さん。他のお客さんの事も考えてくださいね」

 

にっこりとほほ笑む鳳翔さんの背後から、

深海棲艦とは違った何か黒い覇気が立ち込めているのが見える。

私達には向けられていないが体が震えあがる。

それが直接向けられている二人は岩の様に固まっていた。

瑞鶴さんは半泣きになっている。

加賀さんに至っては何かが終わったと思っているのだろう。

 

鳳翔さんも変わっていない。私達の教官として訓練所に来た時から今に至るまで。

その優しい笑顔も、その怖さも。

このまま立っていては私にもこの覇気が向けられかねない。

私は加賀さんを引っ張って蒼龍さんと飛龍さんの傍に座る。

 

「ご注文は何にしますか?」

「冷や酒を二つお願いします」

「解りました」

 

冷や酒というのは燗酒、つまり熱するお酒とは違って温めないお酒の事だ。

季節は夏。だからと言って冷酒ばかり飲んでいては体に響く。

 

飛龍さんと翔鶴さん、瑞鶴さんも日本酒であったが一人だけ異形の光景が広がっていた。

蒼龍さんの前に置かれた、氷の詰まった鉄の小さなバケツに小さ目のボトルが差さっている。

ガラス製の支柱の様なものの先に付いているグラス部分に、赤黒い液体が注がれていた。

仄かな香りが漂ってくる。この香りは……ぶどう?

 

「蒼龍さん、それはなんですか?」

「ん? ワインですよー」

「ワイン……? ぶどうジュースとは違うのですか?」

「ジュースじゃないですよ! ブドウ酒っていう歴としたお酒なんです!」

 

蒼龍さんが冗談きついなーと笑っている。

基本私達は幼少期も訓練ばかりで、呉に配属されてからもこの鎮守府が広いから、

この鎮守府からでなくとも生活に困ることは無かった。

ただ、今露呈した問題があるとすれば、

この深海棲艦に関する情報以外が入ってこないという事。

それでも雑誌など外から取り寄せた物を読めばいいのだが、

あいにく私達はそう言うものにも縁がない。

そう言った娯楽に関する情報面では、蒼龍さんが一番詳しいのではないだろうか。

 

「本日の突き出しと冷や酒になります」

 

鳳翔さんがいつもの三品を出してくれる。

今日はポテトサラダ、キュウリの漬物、鮪の刺身だった。

 

「「乾杯」」

 

軽く乾杯を交わして、一口。

 

「鳳翔さん、だし巻き卵下さい!」

 

威勢よく頼むのは瑞鶴さん。その言葉に加賀さんの眉間がピクリと動く。

確かだし巻き卵は加賀さんがこの店に来ると必ず頼んでいるものだ。

食べる量を控える時であっても必ず頼む一品。

 

「瑞鶴ったら、ここに来たら絶対にだし巻き卵を頼むんですよ」

 

翔鶴さんがにこにこと私に話しかけてくる。

その言葉を聞いて更に眉間にしわを寄せる加賀さん。

 

「加賀さん、凄い形相になってるよ……」

 

異変に気付いたのか飛龍さんが口をこぼす。

蒼龍さん、飛龍さんは私と加賀さんでこのお店に紹介して何度か連れてきているので、

加賀さんが必ずだし巻き卵を頼むことは既に知っている。

そして当然加賀さんと瑞鶴さんの仲が悪いことも知っている。

 

五航戦の子達は二航戦の二人が紹介したんだろう。

そして一人で通えるようになり、翔鶴さんが涼月さんを連れて来た。

私も、吹雪さんを連れてこようか。彼女なら気に入ってくれるだろう。

 

「鳳翔さん……いつものをお願いします」

「ふふ、解りました」

 

加賀さんは何とか道を切り開いて、何とか突破した様だ。

いや、まだ突破したとは言えない。メニューが出て来てからが本番だ。

 

「あ、鳳翔さん。私は御造りをお願いします」

「はーい」

 

私も思わず流されて頼み損ねるところだった。

 

しかし、こんな大人数でこの居酒屋にやってきたことは無かった。

ここまで繁盛しているというのが目に見えて解る。

やっぱり鳳翔さんは凄い人だと再確認。

私もいつかこの人の様に、皆に慕われる存在になってみたいものだ。

 

「お待ちどおさま、瑞鶴さん」

「ありがとうございます!」

 

瑞鶴さんは本当に元気がいい。店員として雇えば活気のある店になるだろう。

でもこのお店には合わない様に思える。

だからと言って加賀さんがこの店で働けば、重苦しい空気になってしまうだろう。

翔鶴さんだと逆に至れり尽くせりで落ち着かないかもしれない。

蒼龍さんはこのお店で洋酒を飲む程にマイペースなので、この店の雰囲気を殺しかねない。

飛龍さんはマイペースでもあり威勢もいいので別の路線に走ってしまいそうだ。

私は……そもそも料理をする前に食べてしまいそうだ。この手の仕事は向かない。

 

だとすると、瑞鶴さんはお寿司屋さん、加賀さんは大人な喫茶店、

翔鶴さんは大衆食堂、蒼龍さんはお蕎麦屋さん、飛龍さんは鉄板焼きといった所か。

当然私はお客として……ですけど。

カレー大会でもそうだったけれど、私はつくづく料理の出来ない女と思う。

 

「加賀さん。出来ましたよ」

「ありがとうございます」

 

態々加賀さんの前に直接置いてくれる。嬉しい気遣いだ。

ただ、それだけでは隠しきれない。

 

「へぇ、加賀さんも私と同じの頼むんだ(私のと同じの頼んでんじゃないわよ!)」

 

瑞鶴さんが覗き込んで来る。ただしその口調はいつもの挑戦的な物ではない。

なによりも鳳翔さんの目があるからだ。

ただし、その視線が何かを言わんと火花を散らしている。

 

「ええ。ここのだし巻き卵はおいしいもの(貴女と一緒にしないでください)」

「そうよね! これならいくらでも行けちゃうわ!(それはこっちの台詞よ!)」

「そうですね。流石に気分が高揚します(この店では私の方が常連よ。黙っていなさい)」

「………(常連とか関係ないでしょ! どれだけこの味を解ってるかが真の客よ!)」

「お二人とも、いい加減にしないと今後入店禁止にしますよ?」

 

その異様な空気を即座に察知するのはやはり鳳翔さん。

心なしか入店した時よりも覇気が強い気がする。

二人は表情が凍り付いて、汗がダラダラと噴き出していた。

共に思う事は同じ。『終わった』と。

 

「鳳翔さん! 握りください!」

 

飛龍さんがその空気に耐えかねて注文する。

握りとはまた凄い所を行くんだなと思いつつ、

鳳翔さんが簡単に済ますことのできない料理を注文したあたり、

流石正規空母の判断力と言った所か。

 

「解りました。お任せでいいですか?」

「はい。鳳翔さんのお任せで!」

 

それに応じて鳳翔さんの覇気が消える。

握り寿司は人の手が絡む。つまり人の心の状態が味に直結するといえる。

そこまで見越した注文。流石は飛龍さんだ。同じ空母ながら天晴。

飛龍さんに目線で感謝しながらも、気にしないでと返された。

 

「赤城さんのあの時の話に比べたら、大したことないですよ」

「そうそう。でも驚いちゃったなぁ、急にあんなこと言い出すんだもん」

 

私のあの時の話。

トラック泊地で涼月さんと話し、舞風さんと野分さんに励まされ、

吹雪さんに心配をかけた後の話。

 

涼月さんが言ったように、私と舞風さん達の定めの軛が繋がっているのであれば、

私と加賀さん、蒼龍さんや飛龍さんにも繋がりがあると見たのだ。

 

それは案の定的中し、彼女達も見えないところで苦しんでいた。

私が雷撃処分を受けた後も、悲劇は続く事を知った。

加賀さんが敵の急降下爆撃爆撃によって大破。続いて蒼龍さん、そして私が大破する。

最後に残るのは飛龍さんで、敵空母を大破させるも後一歩のところでやられてしまう。

その作戦によって私達は結果的に雷撃処分などで轟沈。正規空母四人を喪う大敗退に終わる。

……私は、私達は、そんな悪夢に苦しんでいた。

だからこそ私はその恐ろしい結果を免れたいと思った。

あの時の私はそれを理解できず、ひたすらに抗い続けていた。

『定めの軛』が何なのか解らないのに、ただひたすらに。

 

『……それでもいいんです。私は『定めの軛』を悪い物とは思っていません』

 

『『定めの軛』を受け入れた、強い人を知っていますから』

 

涼月さんが言っていたのは、こういう事なのかもしれない。

『定めの軛』を受け入れるとは、こういう事なのかもしれない。

逃げるわけでもなく、ひたすらに抗い続けるわけでもなく、面と向かって向き合い、

理解し、受け入れて、初めて貫ける『定めの軛』。

 

大丈夫。私達なら越えられる。私達は『南雲機動部隊』なのだから。




改二システムの自己解釈。
吹雪はそこまで容姿が変わらないので、案外さっぱりしています。
まぁ、及ぼす物は色々と大きいんですけどね……

装備更新。吹雪改二の装備は以下の通りになります。

長10cm連装高角砲+高射装置(94式高射装置)・三連装酸素魚雷×2

ゲームと少し違うけど、アニメ次元ですから……
というわけで涼月の装備をそのまま受け継ぐ形になった吹雪。
第十二話でも使っていたけど、咄嗟の事ゆえに彼女もうまくその性能を理解していない。

Side赤城で赤城自身が涼月の現状を知らないという描写。
そして南雲機動部隊による宴会の様な何か。
蒼龍がワインを飲んでいるのは、ゲーム内のバーカウンターでワインが置かれるから。
海路が断たれてのにどうやって手に入れたんだというと、ぶっちゃけ国産ワイン。

赤城さんも加賀さんも結構戦闘特化型な気がするので、
そういう娯楽に関しての知識が薄いという独自設定を設けています。
アニメ第一話の睦月の台詞のちょっとした応用。
後加賀さんと瑞鶴で何気に共通点を持たせたかった。
鳳翔さんを怒らせると一航戦でも失禁するかもしれない。アイエエエ。



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