艦隊これくしょん -艦これ- ~空を貫く月の光~   作:kasyopa

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第十一話前半。部隊編成のお話です。

改二となった吹雪は、正式にMI攻略作戦の部隊に入る事が出来るのか。


第三十一話『新月』

Side 提督

 

 

明朝。

提督室では長門と陸奥と共にMI作戦の為の艦隊を最終確認していた。

 

「……私の決断ですべてが決まる、か」

「ええ。その通りです提督」

 

編制は大規模な連合艦隊。それも空母を主軸とした空母機動部隊であった。

ここまで空母を投入するというのにもしっかりとした理由がある。

トラック泊地を襲った敵機動部隊の殲滅。

特に新種と思われる隻眼のヲ級を始めとする、

精鋭機と思わしき機を搭載した敵空母を三隻も沈めたのが大きかった。

それにより大本営は敵の航空戦力は不足していると見て、

一気に制空権を確保、制圧するという戦術を取ったのだ。

 

「しかし安直すぎるとは思わないか」

 

私はその事に少しばかり懸念を抱いている。

 

「私はそうとは思いませんが……」

 

ここに涼月が居ればどういうだろうか。

元はと言えば彼女のお蔭でこの鎮守府は救われたといえる。

 

彼女自身も涼月に対しては感謝していた。

『彼女が居なければMO攻略の優先を具申し、我々が鎮守府に戻る事はなかったでしょう』と

ただし今回ばかりは彼女の読みも裏目になり、

トラック泊地空襲という悲劇を生んでしまった。

それでもMO攻略の準備中にあんなに狭い島で大規模な空襲に遭っては、

こちらの艦隊も無事では済まなかっただろう。

結局のところ、その面でも彼女に救われたことになる。

 

第一機動部隊旗艦を駆逐艦の身でありながら務め、

バシー島、オリョール海を一瞬にして制圧。

こちらの損害もその二つの海域を合わせてみても、赤城の中破のみに抑えた。

そのお蔭でこの鎮守府に不足していた高速修復材の輸送ルートを確保し潤った。

 

今後の彼女の活躍を見越して秘書艦に誘ってみたものの、

彼女は煙草が嫌いという理由で断られてしまった。

実際彼女には何か別の動機があるのだろうと思っていたが、

案の定大和の護衛艦になるという意志があったからだ。

 

だか彼女は意識不明の重体に陥った。

そこまで大成を上げた艦ゆえに、私としても大きな衝撃を与えた。

全ての艦娘は、入渠で時間をかけるか高速修復材を使えば即座に修復できると思っていた。

しかし、未だに謎の多い彼女達の全てを私は知らない。

 

最終編制案には、しっかりと彼女の名前が刻まれていた。

現在トラックだけでなく全域に到るまでの無線封鎖を徹底している。

その為彼女が今どういった状況なのかは私達が知る由もない。

 

話を戻して、確かに敵機動部隊は彼女らの手によって殲滅された。

敵精鋭機を満載した敵空母を二隻、新型空母ともいえる隻眼のヲ級を一隻。

これらが水底に沈んだのは事実。

 

しかし、それが敵空母が不足するという形には直結しない。

だからと言って空母を欠けば敵に制空権を奪われかねない。

ならばこの航空機動部隊の編制で寧ろ制圧ではなく制空権を取りに回った方がいい。

制空権の有り無しは特に戦況を左右する。

立体的な機動が行える攻撃機を組み合わせた艦隊戦は非常に有効。

だからこその鎮守府正面海域の制圧に成功したのだ。

 

だが私の中の不安は拭えない。

例えこちらが万全を期しても、全てがまるで盤面返しの様にひっくり返されかねないからだ。

涼月の判断力をもってしても打開できなかったあの状況を、どう打破するのか。

 

数回ノックされ、入室を許可する。入って来たのは赤城であった。

 

「航空母艦赤城です。提督にMI作戦の編制について、

 少し進言したいことがあり参りました」

「解った、聞こう」

 

赤城は歩を進め、私は彼女に最終編制案を書いた紙を見せる。

その編制案に彼女は顔を厳しくさせた。

 

「提督、長門秘書艦。この編制で行かれるのですか?」

「提督も私も今悩んでいる所だ。赤城からも何か良い案はないか」

 

彼女は鎮守府正面海域を解放する時、第一機動部隊の旗艦として活躍した。

戦場に多く立った者の視点から、何か解ることは無いだろうか。

 

「……吹雪さんを、私の護衛艦として編制するというのはどうでしょうか」

「吹雪をか」

 

彼女は第五艦隊の旗艦として多くの事を成してきた一人。

その彼女を配属しようというのだ。

 

「赤城、だが彼女は……」

「……なるほど、その手があったか」

 

彼女はその時の直感でMO作戦の奇襲部隊を発見しそれを撃滅、

翔鶴が中破しながらも空母一隻を大破まで追い込んだ。

 

更にそれだけに留まらず彼女はトラック泊地の空襲まで直感で察知し、

進路を変えて援護に向かい、トラック泊地の損害を更に抑えた。

言っては何だが、一駆逐艦の大破のみで済んだのだ。

 

「彼女は直感的でありながらも二つの敵の奇襲に対して大成を上げた。

 だからこそ、私は彼女の直感に信じたい。そう言う事か」

「はい。その通りです」

 

彼女はそう言った事をあまり信用しないタチだが、今は吹雪を信じている。

それこそこの様に自然に提案してきたが、元々そのつもりだったのだろう。

赤城自身が吹雪を護衛艦として傍に付けるという事を。

 

迷いのない赤城の目。

その目はあの時涼月が友人としての願いを私に言った時の様だった。

こうなっては誰が何と言おうが曲げられない。それは長門も知ったことであった。

 

「長門、吹雪を機動部隊に配備してくれ」

「提督も、オカルト的な事を好まれるんですね」

「良く言われる。が、人はどうしようもなくなった時神頼みをする。

 何らおかしい事ではないさ」

「……解りました。ではそのように」

 

そう言って長門は頭を下げて出ていく。

 

今回ばかりは絶対的な自信はない。隊から損耗を出すかもしれない。

それでも、私は私なりに出来る事をするだけ。

後は賭けるしかないのだ。彼女達『艦娘の可能性』に。

 

「提督、ありがとうございます」

「何、気にするな。以前そんな『お願い』をした艦娘が居てね」

「涼月さん、ですか?」

「ああ」

 

私はそう言って煙草を手にして火をつける。

 

「提督、御煙草は体に毒ですよ」

「量を控えればいいだけさ」

「……では、私は失礼しますね」

 

少しだけ顔をしかめた彼女は、早急に出ていった。

彼女も煙草は嫌いらしい。

 

そう言えばあの時もこういう状況だったなと、私は思い出にふけるのであった。

 

 

Side 吹雪

 

 

私は睦月ちゃんと夕立ちゃん、如月ちゃんと一緒に食堂に来ていた。

明日は大規模反攻作戦であるMI作戦の開始日。

その為授業は全てお休みになって、今日と言う日は万全に備えるための日になった。

 

「でもやっぱり吹雪ちゃんには敵わないわね」

 

口調が変わった夕立ちゃんが私を見てしみじみと口にする。

 

「そう? 私としては夕立ちゃんの方が凄いよ!」

「吹雪ちゃんの方が凄い!」

「まぁまぁ二人とも、言い合っても仕方ないよ。一緒にご飯食べよ?」

「そうよ。明日は大事な日なんだから」

 

睦月ちゃんと如月ちゃんに落ち着かされながらも、私達は食堂に着いた。

今日は朝から第六駆逐隊の子達のカレーライス。四人で同じ席に座って食べ始める。

 

「艦隊の編制発表って今日だよね?」

「うん。昨日長門秘書艦が放送で言ってたから間違いないよ」

 

明日は大切な作戦発動日。その編制発表が今日。

私は赤城先輩の護衛艦としてお願いされたけど、提督はどう思っているのだろうか。

もしかしたら外されているかもしれない。でも提督なら入れてくれているかもしれない。

でも長門秘書艦の進言で外されてたら……でもでも赤城先輩の進言で入ってるかも!

 

「吹雪ちゃん、大丈夫?」

「なんだか変態さんっぽい」

「吹雪ちゃん、逝っちゃったのかしら」

 

睦月ちゃん達のいたいけな視線を向けられる。

それに気付いて我に返りながらも、誤魔化すように大盛りのカレーを食べた。

 

あれ? これってこんなにおいしかったっけ……

あの時の大会で食べた時よりも何倍もおいしい気がする。

自然と匙が動くのが早くなり、あっという間になくなった。

おかわりは自由だから問題ないけど、何か隠し味でもあるのかな。

 

この鎮守府のカレーはあの大会で優勝したレシピが採用される。

そこから改変が加えられることは無いはず。

だからこそ、急激な味の向上は普通だと考えられない。

一晩寝かしたカレーはおいしいと聞いたことがあるけど、そこは良く解らない。

とにかくおかわりしてこよっと。

 

 

 

結局私は大盛りカレーを二回もおかわりして、最後の締めに一杯の牛乳を飲み干した。

 

「吹雪ちゃん、ほんとによく食べるわね~」

「これも大規模改装の賜物なのかな?」

「でも私はそこまで増えなかったし、個人差っぽい」

 

三人がそれぞれ口にしているけれど、私は気にならなかった。

これが大規模改装の結果なのだとしたら、赤城先輩と食堂で一緒に食事する時間が増える。

戦闘以外でもちょっとした楽しみが増えて、私は少し嬉しかった。

 

「でもやっぱり、大規模改装したんだし涼月ちゃんにも見せてあげたいよね」

「あ、うん……そうだね」

 

確かに涼月さんに見せてあげたいけど、それは叶わないのかもしれない。

今回の作戦に必ず入っているだろうけど、多分それは長門さんが知らないからで。

提督も多分言ってはいないだろう。

 

放送が始まる合図のサイレンが鳴り響く。

今の気持ちを振り払って放送に注意を向けた。

 

『秘書艦の長門だ。皆そのまま聞いてほしい。

 これから、明日決行されるMI作戦の編制を発表する。

 まず、作戦の要となる機動部隊からだ』

 

機動部隊……赤城さん達が入るであろう艦隊だ。私が入っているかは、解らない。

 

『正規空母『赤城』『加賀』『蒼龍』『飛龍』をはじめとした機動部隊に、

 護衛として戦艦『金剛』『比叡』、重巡『利根』『筑摩』、雷巡『北上』

 そして駆逐艦『夕立』、『吹雪』となる』

 

良かった。何とか入っていた。ほっとする私を見て三人が微笑んでいる。

 

「良かったね、吹雪ちゃん」

「赤城先輩の護衛艦、叶ったわね」

「おめでとう!」

「ありがとう、皆」

 

皆のお蔭で強くなれたし、私もそうなりたいと思えたのも皆のお蔭。

だから私は、その意味を込めてお礼を言う。

 

『そして今回は大規模な作戦である為、戦艦『榛名』『霧島』、雷巡『大井』、

 正規空母『翔鶴』『瑞鶴』と、

 トラック泊地から戦艦『大和』、駆逐艦『涼月』『磯風』『舞風』『野分』、

 装甲空母『大鳳』を含めた、連合艦隊が合流する形になる』

 

大和さんが出撃する。あれだけ海に出たがっていた大和さん。

そして、涼月さん。もしかしたら治っているのかもしれない。

いや、でも頭部の重傷……治っているとも思いずらい。

 

『他の艦娘は鎮守府に残って警備を頼む。以上だ』

 

それを持って放送は終了した。

 

 

/////////////////////

 

 

私は一人、港で夕日を眺めていた。

 

今日の発表で、私は夢であった赤城先輩の護衛艦になることが出来た。

この作戦で、私は私の夢が、涼月さんは涼月さんの夢が叶う筈だった。

 

『もし意識を取り戻しても、戦闘はおろか今までの様に生活することは難しいでしょう』

 

明石さんの言葉が胸に響く。

轟沈したわけでも喪ったわけでもない。

でも時間を掛ければ大丈夫と言うわけではない。

彼女がもし目を覚ましても一緒に戦う事は叶わない。

 

もう少し私が気付いていればと思ってしまう。

私がもっと早く気付いていれば、辿り着けていれば、あんなことには成らなかった筈。

 

『なので私がこうして努力できるのも、

 その人の護衛艦として彼女を守ると決めたからなのです』

 

そして何よりも今まで大和さんの護衛艦になる為に誰よりも努力していた涼月さんが、

こんな形で夢を断たれるとは思ってもみなかった。

護衛艦に相応しいのは、涼月さんのはずなのに。

 

「吹雪さん」

 

後ろから声を掛けられる。

私の後ろに立っていたのは、赤城先輩ではなく加賀さんだった。

 

「加賀さん」

「涼月さんのことを忘れろとは言わない。でも気にかけていても現実は変わらないわ」

 

加賀さんは私の横にまで歩を進める。

その視線は夕日を見つめていた。

 

「加賀さんは強いんですね。私なんかより、ずっと」

「慣れていますから」

 

彼女は苦笑しながらも、そう答える。

慣れているという事は、

涼月さん以外にもこんなことになった人を知っているということ。

私の知らないところで加賀さんも同じ経験があったのだ。

 

『その後の復帰も見込めない、と』

 

加賀さんがトラックで明石さんの代わりに放った言葉を思い出す。

あの時は何故知っているのか疑問に思ったけど、

以前同じようなことがあったのなら納得することができる。

 

「少し、昔話をしましょうか」

 

そう言って加賀さんは語りだした。

一人の空母の、昔話を。




トラウマ、不審、疑惑。
覚悟を決めたというのに、大きな存在が毒の様に思考を蝕み、苦しめる。
月を見る度思い出せ的な何か。
一度大きな絶望をした後に立ち直るのなら傷の癒えは速いのですが、
何か関連付けた出来事が起こるたび落ち込むといった所謂『トラウマ』状態は真面目に厄介です。

正直この話が一番難しかった。
改二は終わらせてるし、赤城さんは前回で色々終わらせてるし、
だからと言って外せない部分もあるし……でもその部分の大半全て終わってるし。
展開を早めた結果がこれである。
あ、後AL作戦は実行されません。はい。

加賀さんがあの時何故あんなことを言ったのか。その秘密が解るかも。
これから暫く加賀の回想になります。(と言っても2話分だけ)必要かというと割と必要。

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