艦隊これくしょん -艦これ- ~空を貫く月の光~   作:kasyopa

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初の試み前後編。(それでも入りきらなかった)

無垢な子供ほど、見ている世界は純粋な物である。


第十一話『木を見て森を見ず』後編

第十一話『木を見て森を見ず』後編

 

 

 

Side 涼月

 

 

私と秋月さんが選んだ少年にしっかりとハーネスを巻き付け吊し上げる。

二人ともそこまで酷い事をされている気分ではないのか、

むしろこの状況を楽しんでいた。

また、吊し上げるといっても1mちょっとくらいしか持ち上げない為、

所謂肩車状態に近い高さであった。

それに万が一を考えてロープは2本、下には衝撃吸収用の分厚いマットが引いてある。

安全だと解っているからこそ楽しめるショーであった。

 

「はっはっは! いつもは一人しか人質に取れないが、

 今回は二人も人質を取ることに成功したぞ! 

 どうだスノーバスター! お前達の無力さを呪うがいい!」

「いつも勝っているからと言って慢心しない事です」

「っ……私達に、もっと力があれば……」

「私達が本気出せば……余裕だし……」

「こなくそー!」

 

深雪さん、もといスノーレッドが単身で私達に殴りかかる。

しかしそれは秋月さん、もとい駆逐棲鬼によって受け止められた。

 

「まだ解らないの? 今の貴女達じゃ私達に勝てないって」

「実力の差を考慮しない無謀さは、感心しませんね」

 

行動が取れなくなった彼女に向かって私はパンチを繰り出して吹き飛ばす。

実際に吹き飛ばしているわけではなく、そう言う演技なのだが。

その影響で会場からは悲鳴に近い声が聞こえてきた。

いくら悪役側だとは言えど、そう言う声を聴くのはあまり良い気分ではなかった。

 

ふと吊し上げられている二人の少年の方へ目を向けると、

楽しんでいる暇が無くなったのか少し不安そうな顔をしていた。

でもここから深雪さん達の反撃が始まる筈だ。台本にはそう書いてあった。

 

「助けて叢雲お姉ちゃん!」

 

が、その思考は後ろからの声によって停止する。

声のした方を見てみれば私の連れてきた少年が口を開いていた。

 

「叢雲お姉ちゃんなら何とかしてくれるもん!」

 

あまりに唐突で予想外の出来事にその場に居た者が全員戸惑う。

当然だ。こんなしがない一人の少年が、男の子が叢雲さんの名を口にしたのだから。

しかもお姉ちゃんとまるで自分の本当の姉の様にそう口にしたのだ。

 

「はははは! その叢雲とかいう奴が助けに来ると本当に思っているのか!」

「来るもん! 絶対来るもん! 叢雲お姉ちゃんは正義のヒーローだもん!」

 

秋月さんが機転を利かせての必死のアドリブ。

この状況をヒーローショーの一つとして取り入れようというのだ。

ならば私もそれに乗らせてもらおう。

 

「正義のヒーローなんて、そんな夢の様な存在が居る訳無いじゃないですか」

「居るもん! 僕がピンチの時に必ず駆けつけて来てくれるもん!」

 

頑なに意思を曲げない少年。彼の表情は半分泣き顔にも見えた。

 

 

Outside

 

 

「なるほどな、面白いじゃねーか……」

 

そう言ってふらふらとおぼつかない様子ながらも、何とか立ち上がる。

その光景を見て二人の駆逐棲鬼は驚きの表情を見せた。

 

「な! 何故だ! 再起不能になるまでダメージを与えたはずだぞ!」

「そんなこたぁどうだっていいんだよ! 正義のヒーローを信じる奴が居るのに、

 その正義のヒーローがくたばってちゃ、意味がねえんだ!」

「そうね。信じてくれる人が居るから、私達は戦える。

 私達はそうやって信じてくれる人の為に戦ってる」

「……別に守るだけでも戦えるし。戦える時に戦わないと意味ないから」

 

スノーレッドの台詞に呼応するように立ち上がる、スノーブルーとスノーイエロー。

どうやら長年こういったことをしているからか、アドリブは慣れている様子。

しかしそれをいかにそれっぽく表現するというのも経験によって培われた物だった。

 

「さあ行くぜブルー、イエロー。ここからが正念場だ!」

「ええ!」「うん」

「その通りよ。スノーバスターの皆」

 

凛とした声が会場に響く。またその声を聴いて私達は目を丸くした。

この提督府に居て知らない者はいない。

そう、その少年が呼んだ叢雲の声そのものだった。

ステージの右側からツカツカと現れたのは、

深雪達の着込んでいるスーツを改良した物を着た一人の人物。

その色も銀色といかにも助っ人と言う雰囲気だった。

 

「だ、誰だよ……」

「そうね。スノーシルバーと言った所かしら」

 

誰しもが予想だにしなかった現状に皆驚愕する。

しかし叢雲の名を呼んだ少年の顔はその声を聴いて安心したのか、

はたまた何か確信を得たのか笑顔になっていた。

 

「いけー! スノーシルバー! 敵をやっつけろー!」

 

その言葉に会場の皆が声援を飛ばす。

謎のヒーローの登場。その正体は解らないが見た目で言えば味方なのは間違いない。

先程までの暗い雰囲気を一気に跳ね除け会場は声援に包まれる。

その圧倒的な空気の前に、二人の駆逐棲鬼は思わず素でたじろいでしまう。

 

「あ、姉上。ここは一旦引いた方がよろしいのでは」

「何を言うの! 今こそ本当の私達姉妹の力を見せつける時よ」

「……解りました。最後まで付きあいましょう」

 

そう言って身構える二人。それに応える様に四人のスノーバスターも身構えた。

 

「どうやら新しい味方と見ていいようですね」

「味方来た……今から本気出す」

「私の前を遮るなんてとんだ愚か者ね。海の底に消えなさい」

 

スノーレッドに対して突撃する駆逐棲鬼と、

スノーシルバーと向き合い一向に動かない駆逐棲鬼。

 

二つの戦いの火ぶたが再び切って落とされるのであった。

 

 

 

「今度こそ再起不能にしてやるわ! スノーレッドオオオオ!」

「それはこっちの台詞だろうがあああああ!」

 

お互いに拳を構えて互いになぐり合う。

その拳同士がぶつかり合ってしのぎを削り合った。

空いたもう一方の腕で殴りかかる駆逐棲鬼。

しかしそれは間に割り込むように入って来たスノーブルーの掌によって止められる。

そのまま捕まれてしまい身動きが出来なくなる。

すかさずスノーレッドと凌ぎを削っていた手をずらし、

スノーブルーを攻撃しようと構えた時、

 

「貰ったぁ!」

 

そのずれた部分を使い、そのままの勢いで駆逐棲鬼を殴り抜けるスノーレッド。

思わずたじろぐも片方の手は掴まれている為、

後ろに引くことも出来ず間合いに引き込まれてしまう。

 

「そこです!」

 

そのままスノーブルーの蹴りが入ると同時に手を離され、

思わず後ろへ体勢を崩す駆逐棲鬼。

 

「ぐ、ぐぬぬ、どうしてまた歯が立たないんだ……」

「貴女には確かに仲間がいるのかもしれません。ですが貴女はそれだけです」

「アンタは強いけど、それだけだ。結局一個人で戦っちゃ仲間が居ても同じさ」

「っ! 我が妹! 援護しなさい!」

 

彼女は自らの仲間を呼んだが、

一方の駆逐棲鬼はスノーシルバーとスノーイエローと交戦していた。

 

 

 

少し時間を遡りこちらはスノーシルバーとスノーイエロー。

姉である駆逐棲鬼が他の二人に突っ込んだものの、

一方で戦いが繰り広げられていなかった。

 

「(まさか飛び入り参加とは……

  あそこまで拒否していた叢雲さんに何があったんでしょうか)」

 

その要因の一つとして涼月、もとい妹の駆逐棲鬼が行動を起こさなかったことにある。

 

「どうしたの駆逐棲鬼。かかってらっしゃい」

「相手の技も解らないのに突っ込むのは私のスタイルではないので」

「へぇ、敵の割には考えるじゃない。ならいいわ。先手で潰させてもらうから」

 

その言葉と共にスノーシルバーは間合いに踏み込んでそのまま拳を繰り出す。

それを紙一重の所でかわす駆逐棲鬼はカウンターと言わんばかりに拳を繰り出した。

しかしその拳も紙一重の所でかわされ、互いに片腕が空いている状態になる。

 

「あんまり好きじゃないけど、こういうのほんとは得意だし」

 

半分取っ組み合っている状態で身動きが取れない相手に対し、

スノーイエローが背後にまで回り込んで回し蹴りを繰り出す。

あまりに唐突の事で反応する事が出来ず直撃して思わず飛び引く駆逐棲鬼。

 

「っ……やってくれますね。スノーシルバー、スノーイエロー」

「数的にも、戦力的にも貴女達が不利よ。降参したら?」

「何を。悪にも悪なりのプライドと言うものがあるんですよ」

「なら好きにすればいいわ。一応警告はしたからね、後悔するんじゃないわよ」

 

駆逐棲鬼は叢雲に対して回し蹴りを繰り出すも、

それはいつの日の再現のように回し蹴りで止められる。

足を入れ替えて再び蹴りを入れる物のまるで鏡写しの様に対照的な動きで返される。

 

「背後が相変わらずお留守」

 

そんな言葉と共に駆逐棲鬼の体勢が崩れる。

彼女の背後を取っていたのはまたしてもスノーイエロー。

しかも姉である駆逐棲鬼に使った様に同じく膝カックンで体勢を崩したのだ。

しかしそれを貰うのが初めての駆逐棲鬼は戸惑いを隠せない。

 

「残念だったわね」

 

そのまま体勢を崩した彼女の腹部に対して蹴りが炸裂し後ろに吹っ飛ぶ。

 

「っ! 我が妹! 援護しなさい!」

 

そこで周りが見えていない姉である駆逐棲鬼が援護を要請する。

しかしこのような状態で誰が援護できようか。

 

「今はこちらで手いっぱいです。貴女は貴女で戦闘してください」

「なっ! 貴女私の妹でありながら」

「妹であっても私は一個人です。それにそんな無駄口叩くなら戦ってください」

「っ!」

 

余りにも明確な対立に姉である駆逐棲鬼は、

半ば無理やりにスノーレッド達に突っ込んでいく。

勝敗は火を見るよりも明らかであった。

 

「スノーレッド、一気に決めるわよ」

「おう! 長官! あれを転送してくれ!」

 

長官。今まで触れられていなかったがスノーバスターには長官と呼ばれる存在が居る。

基本的に戦闘に出ることなく現場の指揮を取る存在だが、

あまり時間のないヒーローショーでは説明が省かれており、

こういった転送を行う時に初めて登場するキャラクターとなっていた。

 

バックスクリーンに仮面を被った一人の女性の顔が映し出される。

 

「解ったわ。ストライクブリザード、転送!」

 

ストライクブリザードとはスノーバスターが使用する大型兵器である。

軍艦に積み込む主砲の形をしていて、艦娘であるという事を強調したものとなっている。

それがステージの右側から素早く出てきて、それを四人で構えるスノーバスター。

 

「「「「ストライクブリザード、発射!」」」」

 

四人の言葉に応じる様に眩い光が放たれ、二体の駆逐棲鬼を照らす。

 

「「うわあああああああ!!」」

 

そんな悲鳴と共に二体の駆逐棲鬼はステージの外へと消えていった。

それを機に、吊し上げられていた少年二人をおろし、観客席の方へと返す四人

 

「よっしゃー! 今回も勝ったぜ!」

「これもスノーシルバーさんのお蔭ですね」

「……それだけじゃない。会場の人達の応援もあった」

「そうね。私達はこれからも皆を守っていかないといけないわ」

「だから会場の皆も、頑張る私達を応援してくれよな!」

 

締めのスノーレッドの言葉に会場から歓声が沸き立つ。

こうして、彼女達のヒーローショーは大成功で幕を閉じたのだった。

 

 

Side ???

 

 

遠くの方で私は一人そのヒーローショーを眺めていた。

確か深海棲艦と艦娘の戦いをうまく表した物、だったか。

でも正直私にしてみればあまりに幼稚でまるで子供の遊びの様。

全く持って参考になりそうではなかった。

 

「興味が無いと言って切り捨てるのは楽ですが……まぁ、良いでしょう。

 あれがこの大湊李提督府の在り方だという事が解りましたし」

 

そこまで自己解釈して私は持ち場に戻ろうとする。

するとそこで狙ったかのように携帯電話のバイブが響いた。

私は人目を避け建物の隙間に入って画面を見る。

……なるほど、珍しい相手からの電話もあったものだ。

 

「はい、もしもし」

『私だ。と言っても着信の画面で解ると思うが』

「はい。現在一大イベントの途中なので手短にしていただけませんか。

 私もあまり持ち場を離れるのは避けたいので」

『それはすまない事をしたな。ただ調査の進捗状況を聞きたかっただけなんだよ』

「概ね順調です。ただ相変わらず口の堅い連中には苦労させられますが」

『そうか。まぁ奴はそう言うやつだろう。ところでもう一つだが』

「……あの人は今のところ目立った行動はしていません。

 ですがこの提督府でも信じられない速度で顔を広めています」

『ふむ……辺境の地に送ってもその個性は変わらず、か』

「ただ、精神が不安定な状態ではあります。一度崩れれば再起は難しいかと」

『有力な情報ありがとう。君は引き続き調査を続けてくれ』

「解りました。では他の者にも私からそのように」

『ああ。信頼してるよ』

 

その言葉を最後に電話が切られる。

やはり聞きたいことだけ一方的に聞いて去っていく。

まぁその方が機密保持には丁度いい。私だってそうだ。

 

「……さてそろそろ持ち場に戻りましょうかね」

 

私は携帯をしまってその場から離れるのであった。




相変わらず解らないままで終わった後編。
突貫工事で書き上げたので誤字とか多いかも。

叢雲の事を知っている少年と、
参加する子を断固拒否していた叢雲の参戦。
ショーとしては成功したものの涼月には謎が深まるばかりです。
ただ言っておくなら叢雲はショタコンではない(切実)
その答えは次回!

そしてヒーローショーを見ていたひとりの影。
電話の向こう側で話していた相手とは。そしてその目的とは。

([∩∩])<遊びは終わりだ

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