艦隊これくしょん -艦これ- ~空を貫く月の光~ 作:kasyopa
主の基準である5000文字の範囲で小分けに。
今回はいわゆる交流編パート2。
どこまでも続く水平線を強い日差しが照らす。
それでも冷たい潮風が吹くこの鎮守府ではそんなに気にならない。
今目の前では艦娘達、特に駆逐艦に分類される艦娘達の個人演習が行われていた。
今日は平日で神通さんも睦月さんも夕立さんも授業があったのだが、
私が到着するまでお休みを貰っており神通さんがすぐ行ってしまったのも、
その後授業だったからだそうで。
軽い自己紹介を済ませながらも午後からの演習に途中から参加させてもらった。
「次! 駆逐艦『涼月』!」
「はい!」
「涼月ちゃん、頑張って」
利根さんに呼ばれて立ち上がると、隣に座っている睦月さんから応援される。
それに少し笑顔を零して艤装を装備し、海上に立った。
「ほう、これは中々のものじゃな……」
「「「おお~……」」」
後ろで見ている利根さんが言葉を漏らし、駆逐艦の人達はざわつく。
私の主砲は65口径10cm連装高角砲。
いわゆる長10cm高角連装砲を右手に持っている。
背中には61cm四連装酸素魚雷があるが、
発射する時には着脱して艦首部分と連結して発射する。
最後は艤装に装備されている25mm連装機銃。
私の装備は他の駆逐艦の人より武装が多く、対空に特化している。
排水量約3,500tは伊達ではない。
「では始め!」
「秋月型駆逐艦、三番艦『涼月』、参ります!」
最初は航行能力や回避運動に徹した物。
海上に浮かぶポールや丸太の間を縫うように航行し、その地帯を抜けていく。
これに似たことをトラックでもやっていたので慣れた物だ。
だが演習は魅せる為の物ではない。自分の実力を確かめるための物であったり、
それによって自分の練度を高める物。遊びではない。
指定された位置に立ち的へ向かって長10cm砲を構え放つ。
反動が全身に響き、放たれた砲弾は見事に的を打ち貫いた。
「(直撃……今まで通りで行けますか)」
他の的を撃つ為その場を離れ再びポールが浮かぶ地帯に入る。
間を縫い極力速度を維持して旋回、指定の位置に立ち再び砲撃。
爆音と反動。そして的の近くで水柱が立つ。至近弾、いわゆる夾叉。
微調整して次弾発射。今度は見事に的を貫いた。
短いながらもこれで私の番は終了。利根さんと筑摩さんにお辞儀をして港に戻る。
「ふむ……」
「あの、何か問題でもあったでしょうか」
「いや気にするでない。別の事じゃ」
「解りました」
戻る途中私を見て利根さんが複雑な表情をしていたので尋ねてみるも、
私には関係無い事の様で、それでも私はその向けらた視線の意味が気になった。
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演習が終わって睦月さんと夕立さんで甘味処間宮にお邪魔する。
そこでは先程演習を終えた同じクラスの暁型の子達が既に山の様な餡蜜を食べていた。
「あら三人とも、さっきはありがとう」
間宮さんが笑顔で迎えてくれる。
実はを言えば先程もこの店にお邪魔させてもらって白玉善哉を頂いたのだ。
ほんのりとした甘さに程よい柔らかさの白玉が本当に美味で、
もう一度訪れた時は少し冒険してみようと思っていた。
それにしても大きい餡蜜だ。睦月さんに聞いてみよう。
「睦月さん、あの山の様な餡蜜は」
「あれはここの名物の特盛餡蜜だよ」
「皆演習終わりに必ず食べるぐらいの人気っぽい!」
「そうなんですか。では……」
後追いと言わんばかりに同じ物を頼む。山の様に盛られたクリームが特徴。
あれだけの量であっても、味は一級品だろう。そう確信できるところがあった。
「涼月ちゃんって実戦経験どれくらいなの?」
「あ、それ私も気になるっぽい!」
お手拭きで手を拭いている時、睦月さんと夕立さんが尋ねてきた。
「そうですね、数えてないから解らないとしか」
「「えぇっ?!」」
予想だにしない答えが返ってきたのか声を上げる二人。
その唐突な大声に耳を塞いでしまい、暁型の子達の視線が集中する。
幸い今いるのは暁型の子達だけ。
「ちょっと! 急に大声を上げるなんてレディとして失格よ!」
「すみません暁さん」
黒髪の少女、暁さんが思わず席を立って怒鳴り気味に声を上げる。
立つと流石に店に失礼なので軽く頭を下げる。
演習の時に利根さんが呼んでいた名前なので、
彼女自身が紹介した時に聞いた名前ではない。
視線を前に戻すも二人唖然としたまま帰ってこない。
私はそんなにおかしなことを言ったのだろうか。
哨戒任務もそれなりの数をこなし、遭遇戦もあった。
当然のことだが、数えるよりも守ることを優先している。
「はーいお待たせー」
首をかしげていると間宮さんがお盆に乗った3つの特盛餡蜜を持ってきた。
より近くで見るととても大きい。気を引き締めないと食べきれないかもしれない。
「ありがとうございます」
「じゃあごゆっくりどうぞ」
「……では睦月さん、夕立さん。頂きましょう」
「あっ、うん! そうだね!」
「ぽっ、ぽい!」
睦月さんと夕立さんの目を覚ましながら一口。
しつこすぎない脂っぽさと優しい甘みが口の中に広がる。
ここまで盛ると胃がもたれそうな気がしたけれど、これなら大丈夫。
頬が落ちるとはこの事か。ちょっとした冒険は悪くない。
「でもそれだけ実戦経験豊富だったら、演習の結果も頷けるっぽい」
「いえ、ここまで経験が積めたのも、やはり支えて頂いた方々のお蔭ですから」
「およよ~、この謙虚さは私も見習わなきゃ……」
「五航戦の翔鶴さんに似てるっぽい」
「あ、そうだよね。言われてみれば」
翔鶴、天翔ける鶴の意。何ともおめでたい名前の人だろう。
五航戦という名から察するに航空戦隊、つまりは空母の方。
知識としては疎いがこういう形で推測出来る。
「翔鶴さんですか。一度お会いしてみたいですね」
「翔鶴さんなら確か今日だと」
「放課後になら会えるかもっぽい」
「でしたら、案内をまたお願いします」
「睦月、お願いされました。えへへ」
嬉しそうに笑みを浮かべる睦月さんの顔を見て和む。
彼女は頼られるのが好きなようだ。
その後、無事特盛餡蜜を綺麗に食べ終えた私達は間宮を後にしたのだった。
「ありがとうございました~。またどうぞ~」
・
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「秋月型駆逐艦、三番艦の『涼月』です。改めましてよろしくお願いします」
「涼月はトラック泊地で戦っていたのだが、この度の戦力強化で転属になった。
皆、仲良くしてやってくれ」
授業の始まりに改めてしっかりと自己紹介を挟む。
担当の教官は那智さん。態々時間を取ってもらって有りがたい限りだ。
「では自己紹介と行こうか。如月の列から左の順番で頼むぞ」
「はい。睦月型駆逐艦、二番艦の如月よ。睦月ちゃんと同じ艦隊なんですってね。
私の代わりに面倒を見てくれると嬉しいわ」
「如月ちゃん!」
「ふふふ♪」
なるほど、見かけどおりの大人びた人だ。
少し危険な匂いがするのは気のせいだろうか。妖美というのが合っていそうな……
でもしっかりしているのは良く解る。姉妹艦だけれどここまで違うのが逆に面白い。
「解りました。この涼月にお任せ下さい」
「涼月ちゃんも乗らないで~!」
「如月も涼月も冗談はそれくらいにして、次は睦月だな」
那智さんが埒が明かないとみて仲裁に入る。
たまにはこんな悪乗りするのも悪くない。
泊地ではよく大和さんに弄られていたけど、その理由が良く解った。
「は、はい! 睦月型駆逐艦、睦月です! 今後ともよろしくね」
「はい。改めてお願いします」
「夕立だよ! よろしくね!」
「はい。夕立さんもお願いします」
この二人はこれからも長い付き合いになるだろう。
軽い挨拶だったが、これから思い出を作っていけばいい。
「雷よ! 隣の電共々、よろしくね! 同じ三番艦同士仲良くしてくれると嬉しいわ」
「はい。よろしくお願いします」
暁型の子だったか、雷さんは三番艦らしい。それでもしっかりしているので、
一番艦かと思ってしまう。所謂偏見なのだけれど。
「暁よ。一人前のレディーを目指してるわ。よろしくね」
「はい。よろしくお願いします」
一人前のレディーとは一体何なのかそれは私にはよくわからないが、
後で聞いてみようかな……
「電なのです。暁型四番艦の末っ子ですけど、皆に負けないように頑張るのです!」
「はい。よろしくお願いします」
四番艦の末っ子である電さん。幼さが目立つが彼女も立派な艦娘。
どう彼女が成長していくのか、私には解らないけれどその気持ちがあれば大丈夫だろう。
「暁型二番艦、響だよ。よろしく」
「よろしくお願いします」
響さん。暁型の子達の中で唯一雰囲気が違う。
まるで幾多の戦場を渡り歩いてきたような。
磯風さんに似ている。なんとなく。
「島風型駆逐艦の島風です。こっちは私の友達の連装砲ちゃん。よろしくね」
「はい。お願いします。連装砲ちゃんもお願いしますね」
ブロンド髪の長髪で、頭には黒い大きなリボン。
白いセーラー服ながらもおへそを出していたりスカートがとてつもなく短かったりと、
露出が激しい服だった。
その子に抱かれているのは連装砲に顔が付いた子達。まるで妖精さんのようだ。
「自己紹介も終わったし、席はそうだな、如月の後ろの席が空いているな」
名前が呼ばれたからか如月さんが微笑みながら上品に手を振っていた。
それに思わず笑みがこぼれるのだった。
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放課後。
私は睦月さんと夕立さんの案内の元、空母の演習場に足を運んだのだが……
「あの、本当に大丈夫なんですか? こんな所に勝手に」
「大丈夫だよ。ちょっとだけだから、ね」
「それにばれなきゃ大丈夫っぽい」
演習場の隅の所。綺麗に植えられた松の木に隠れながら、
演習を行っている二人を見つめる。
一人は白い長髪に赤い鉢巻をしており、大人びた雰囲気を出していた。
一人は濃い目の灰色の髪をしていて頭の両端で髪をくくっている。
後者は今まさに矢を放とうとしていた。
が、その矢は放たれることなく弓の構えを解き、こちらの方を向いて口を開く。
「ちょっとそこの駆逐艦と軽巡!」
「あ、気付かれちゃった」
「こういう時は逃げるっぽい!」
睦月さんと夕立さんは立ち去るものの、私は逃げることなくその場で立ち止る。
理由は二つ。まず一つは彼女達を見に来たのではなく知り合う為に来たという事。
こうして気付かれたとしても、それは一つのきっかけだ。
そしてもう一つは。
「許可なく入ってきて申し訳ありません。ですが私は駆逐艦です。
お間違えないようお願いします」
「アンタみたいな駆逐艦が居るかって言ってるの。って、見ない顔ね」
「瑞鶴、いくら駆逐艦の人でもその言い方は失礼よ」
ズカズカと腰に手を当てて迫って来たのは先ほど矢を放とうとしていた人。
やたらと態度が大きいが、そう言う性格なのだろう。顔にも良く出ている。
「本日この鎮守府に配属されました、秋月型駆逐艦『涼月』です。
以後よろしくお願いします」
「これはご丁寧に……翔鶴型正規空母『翔鶴』です」
互いに頭を下げる。一方のおさげの人はそのままで名乗らない。
「翔鶴さん、こちらの方は」
「私の妹の「翔鶴姉ぇ、言わなくっていいって!」」
「私の名前が気になるんだったら、自力で当ててみなさいよ」
流石に初対面でこれはないかと思ったが、ここは本土の鎮守府。
艦娘の数も多ければ様々な性格の艦娘も居るわけでこういった人もいるのだろう。
それに最初私自身が彼女に駆逐艦と言う時少し失礼だった。
それが彼女の気に障ったのかもしれない。
「解りました。当てて見せましょう」
「涼月さん、そんな乗らなくても大丈夫よ」
「翔鶴型正規空母、二番艦の『瑞鶴』さんですね」
「なっ?!」「まぁ」
私の発言に驚く二人。おそらく当たりなのだろう。
「あんた、どこかで私と会ったことある?」
「そうですね。恐らくは」
「あら、そうだったの? 瑞鶴」
「生憎私は覚えてないけどね。鳥頭でごめんなさいね」
「というのは真っ赤な嘘です」
「こんのぉ……!!」
ギリギリと歯ぎしりし拳に力を入れる瑞鶴さん。
流石にタチの悪いジョークは駄目だったか。
「じゃあどうやって瑞鶴の名前を?」
「翔鶴さんとほぼ同じ弓道着だったので、翔鶴型と言うのはほぼ確定。
これは睦月さんと如月さん、暁型の子達の例があるので貴女方にも該当するかと。
そして何よりも胸当ての左上に『ス』の文字がありましたので」
「一瞬でそこまで……」
「それに何よりも、翔鶴さんが『瑞鶴』さんの名を呼んでいましたからね」
そこまで言って遠くの方で睦月さんと夕立さんがこちらに手招きしているのを見つける。
恐らく遅くなってしまった私を心配して、逃げる為の道を教えてくれているのだろう。
だが二人の場所からだと建物が死角となって翔鶴さんと瑞鶴さんが見えていないようだ。
「では失礼いたします」
再度頭を下げてその方へ走り出すも、何かがひっかかりも足を止めて振り返る。
そこには笑顔で手を振る翔鶴さんと、そっぽを向いている瑞鶴さんが居た。
「(真っ赤な嘘、ですか。あながち嘘ではないのかもしれませんが)」
彼女を見た時、脳裏を何かが駆け抜けた気がしたのだ。
あたかも彼女を知っているかの様な。そんな中頭に浮かんだ言葉が『瑞鶴』であった。
その言葉をいかに自然に伝えるかを考えて、先ほどの御託を並べたに過ぎない。
そう思って私は二人の元に急ぐのであった。
川内と那珂は見送りになったのだ……すまぬ、すまぬ……
次回には確実に出ます。好きな人色々申し訳ない。
因みに一話だけ3000強なので一番文字数少ないです。さっくり読めますけど。
簡易的な自問自答コーナー
Q.装備の説明がしつこいのでは
A.実は第一話・第二話はプロット構築前に書かれたものなので、
割とプロットから逸脱してます。
一話・二話書く → 全体の構想をプロットにして明確化 → プロローグで補強
→ 一話・二話の修正。
なので設定的な矛盾点がある場合この二つの話が多いと思われます。
頑張って修正したけどまだあるかも。
Q.出撃時が「参ります」ってかっこつけてね?
A.大和さんの影響です。
Q.如月ィィィィィイイイイ!
A.懐かしいなぁ。私も見るのは久しぶりなんだ。(白目) by ルシフェル
席順は前から詰める様に座らせた……のかは定かではない。