艦隊これくしょん -艦これ- ~空を貫く月の光~   作:kasyopa

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意味

全ては死んでしまっては元も子も無い。生きていなければ意味がないという意味。


第十八話『死んで花実が咲くものか』

 

Side 涼月

 

 

見え見えの罠だった。それでも撤退するしかない。

それが叢雲さんの下した判断であった。

霧を抜けてパラムシル泊地に向かう途中で第一艦隊の人達と合流する。

 

「由良達は大丈夫だった?」

「ええ。敵艦の反応は一切なし。まるで陽動みたい」

「あながち間違ってねぇんじゃないか? 撤退を狩るってことでよ」

「………」

 

摩耶さんの発言で私はある事を思い出す。

そう。オリョール海での作戦と全く同じ状況なのだ。

奥地まで私達を誘い込み、撤退する時に狩る。

あの時は作戦が漏えいしていたから起こりえた事態だが、

今回は違う。そもそもそんな事をしなくてもいいのだ。

救難信号で私達を釣る事が出来ればそれでいい。

 

「どうしたの涼月、深刻な顔をして……」

「相手を奥地まで誘い込んで、撤退時に狩る。そう言う事を一度経験したことがあるんです」

「なんだよ、それなら作戦前に言っとけばいいじゃねーか」

「摩耶! すみません涼月さん」

「いえ、確かに私の失態です」

「謝ってもしょうがない。今は敵に備えるだけだ」

「そうそう。犯しちゃった失敗は取り戻せるように頑張りなさいよー」

 

私の失態を気にするなと日向さんと伊勢さんがカバーする。

確かに気を落としている暇などない。次に同じような失敗を犯さぬ様に、

生き残る為に、覚悟を決めるだけだ。

 

「私と五十鈴で敵潜水艦を探すから、摩耶さん達は敵艦の捜索を」

「「「「「了解!」」」」」

「秋月、対空電探を持って来てるのはアンタだけだから気張りなさいよ。

 私と白雪も電探に目を向けるから、他は目を見開いて探しなさい」

「「「「「はい!」」」」」

 

私は自分の中にいる妖精さんに意識を落とす。

まるで中に居る妖精さんと意識を同化させるかのように。

 

まずは水中。敵潜水艦がこちらの動向を探っている可能性がある。

 

『敵は居ないねー』

「(そうですね……続いては対空をお願いします)」

『んー……見つかんないよー』

「(では最後に敵艦の探知を水上に向けて)」

『……居た! わぁ、凄い編成』

「(艦種は解りますか?)」

『戦艦級が二隻に重巡級が二隻、駆逐艦級が二隻だよ!』

「(解りました。ありがとうございます)」

 

こちらは航戦2、重巡2、軽巡2、駆逐艦6という大編成だ。

しかしそれでも敵には火力と装甲を兼ね揃えた戦艦と重巡が二隻ずつ。

増援の可能性も有りえる。出来れば増援が来る前に叩いておきたいが。

 

「敵艦を電探で確認しました! 敵は戦艦2、重巡2、駆逐艦2です!」

「増援の可能性があるわね。伊勢さん、日向さんは水上機を放って先制攻撃をお願いします。

 摩耶さんと鳥海さんは戦闘体勢を。五十鈴は私と増援に対して警戒を」

 

鳥海さんが捕えた敵に対して由良さんが即座に判断する。

彼女も増援の可能性を考えている。

 

「深雪は摩耶に、初雪は鳥海の、秋月は伊勢の、涼月は日向の護衛に就きなさい。

 私と白雪は五十鈴と由良を守るわ」

「了解です!」

 

一人に一人の護衛を付ける形。まるで背中を預ける相手を作るようだ。

連合艦隊でもこんな使い方があるとは。

 

「艦載機を放って突撃……これが航空戦艦だ」

 

日向さんがそう言いながらカタパルトから水上機を発艦させる。

その下には爆弾が付いており偵察だけでなく攻撃も行えるのが見て取れた。

伊勢さんも同じように敵の居る方向へと水上機を飛ばしていた。

空母とはまるで違うその発艦のさせ方にある種新鮮味を覚える。

 

「さて涼月、私の空は任せたぞ」

「はい。防空駆逐艦としてその務めを果たさせてもらいます」

 

相手に空母は見受けられないが、あの時と同じように雲の影から現れるかもしれない。

私は妖精さん達に空に対する警戒を怠らないように伝える。

 

思えばこうして明確に誰かの護衛艦を務めるのは初めてかもしれない。

第一艦隊ではここで動いていた部分が強く、

また大鳳さんと共にMI作戦に支援として駆けつけた時も護衛艦と言うわけではなかった。

 

「(護衛艦……大和さんの事を思い出しますね)」

 

思わずあの日の夜を思い出しそうになるが、今まさに戦闘が始まろうとしている所なのだ。

感傷に浸っている場合ではない。

 

 

Out side

 

 

涼月が敵を視界の中に収めた時、駆逐艦の1隻が火を噴き爆発した。

その上空には先程日向が放った水上機が空を舞っている。

赤城達が放つ艦載機よりも遅く、その姿は不格好とも取れるが、

制空権をこちらに傾けるには十分な働きをしていた。

 

「日向、遅れないでね! 主砲、四基八門、一斉射!」

「ああ、解っている! 航空戦艦の真の力、思い知れ!」

 

その言葉と共に砲弾が放たれ戦艦の装甲を削る。

一発で撃沈と言うわけにはいかなかったが、確実にダメージは与えている。

 

「さて、摩耶、鳥海。重巡は任せたぞ」

「おう! いくぜ深雪、遅れんなよ!」

「いよーしっ! 行っくぞー!」

「あ、ちょっと摩耶!」

 

砲撃を繰り返しながら、摩耶と深雪が果敢に。いや、無謀に突っ込んでいく。

当然ながらそんな事を深海棲艦が許すわけもなく、戦艦2隻はその二人を狙う。

 

「大人しく見ているとでも思っていたか……おめでたいな」

 

日向がそう呟くと空を飛び回っていた水上機が発砲し、

戦艦の直前にいくつもの小さな水柱が立つ。

それに気を取られた戦艦に向けて再び主砲が火を噴き、その側面を吹き飛ばした。

側面を抉られながらもまだ航行を続ける1隻の戦艦と、もう1隻の無事な戦艦。

その無事な方が摩耶達に照準を向けている。

 

「! 間に合って!」

 

涼月は背面にある魚雷発射管を前面に換装し、魚雷を2つ打ち込む。

全て打ち込むと言う手もあったが、それではそれた物が摩耶達に当たる可能性がある。

しかし魚雷が到達するよりも相手の戦艦が引き金を引く方が早い。

 

「主砲よーく狙ってー、撃てー!」

 

そんな言葉と共に放たれた砲弾が放たれ、先程損傷を受けた部分に叩き込まれる。

その軌跡を辿った先には顔を顰めた鳥海の姿があった。

 

「摩耶! もっと警戒心を持って行動してって言ったでしょ!」

「わりぃわりぃ、感謝してるぜ」

「ありがとうございまーす!」

 

ピッ、と摩耶と深雪は敬礼の様に掌の側面を軽く振る。

そうして視線を再び前へと向ける摩耶と深雪は、重巡2隻をその視界に再び収めた。

共に射程圏内かと言うところで、先ほど鳥海が砲撃を加えた戦艦の傍で大きな水柱が上がる。

それは危機を回避するためにと涼月が放った魚雷であった。

思いがけぬ攻撃に敵戦艦は被弾箇所を選べなかったのか大きく横に傾く。

これにより敵戦艦は大した驚異ではなくなったとも言える。

 

「酸素魚雷……行きます」

「この秋月が健在な限り、やらせはしません!」

 

そこに間髪入れず初雪と秋月が魚雷を撃ちこむ。

怒涛の波状攻撃に敵戦艦2隻は鋼が拉げる音を響かせ業火に包まれていく。

 

「さーってとっておきの弾着観測射撃よ、持っていきなさいな!」

 

撃墜されずに残されていた水上機『瑞雲』からの伝達により、

先制砲撃の修正点が送られてきていた。

日向がもう一方の戦艦の装甲を抉り取ることが出来たのも、

彼女自身が放った瑞雲による修正指示があったからなのだ。

 

伊勢が放った砲撃は炎上する戦艦に見事直撃しその船体を砕きながら水底へと沈めていった。

 

一方の摩耶と深雪は敵重巡2隻と駆逐1隻と激しい戦闘を繰り広げている。

相手が戦艦でないとはいえどその火力は戦艦すらも危険視する物。

そんな砲撃を摩耶は一人で引き付け、まるでもてあそぶかの様な軌道を取っていた。

護衛艦である深雪も、その砲弾の雨をかわしながらも敵駆逐艦に対して砲撃を加えている。

 

「そんな温い攻撃じゃアタシどころか深雪も沈めらんねーぜ!」

 

果てには敵を煽るような発言まで飛び出してくる。

実際砲火が向いているのは摩耶に対してであり、深雪は流れ弾を気にする程度であった。

そしてその発言を理解したのか、右側の重巡が深雪に対して狙いを定める。

摩耶はそれを予測していたかの様に、

その腕と艤装の側面に付いる主砲を背後に向かって発射。

推進力を得た彼女は空中に飛び上がり、

狙いを逸らした重巡に向かって掴みかかり押し倒す。

それとほぼ同時に手にある砲をその顔面に向けて構えた。

水飛沫が上がり、押し倒された方の重巡は振りほどかんと抵抗する。

もう一方の重巡は飛び上がる摩耶に対して驚きはしたものの、

押し倒した後動かない彼女を見て即座に彼女の頭に対し砲を向けた。

 

「いいのかい? そんな映画みたいな典型的なパターンで。アタシは防空巡洋艦だぜ?」

 

にやりと口角を引き上げて不敵な笑みを浮かべる摩耶。

次の瞬間、彼女の手にある主砲と棘の様に並べられた防空火器が同時に火を噴いた。

主砲による一撃は押し倒されていた重巡の首を吹き飛ばし、

防空火器による無数の弾幕が摩耶を狙っていた重巡の顔面に降り注ぐ。

生き残った重巡の顔面には無数の穴が開き、眼球は潰れて青い血を流していた。

それでもまだ生きているのかその砲は摩耶を葬らんと構えられる。

 

「しつこい奴は嫌いなんだよ」

 

摩耶の艤装に付いている二基の主砲が火を噴き、今度こそ重巡を吹き飛ばした。

2隻の爆発に巻き込まれながらも、摩耶は平然とした顔で声を張り上げた。

 

「深雪! 後は任せたぜ!」

「おう! 見ててくれ姉貴!」

 

深雪は駆逐艦との砲撃戦を繰り返していた。

均衡を保っているように見えるが、それはまるで自分に注目されるが為に、

見せ場を作る為に残していたかのような。

 

「酸素魚雷!」

 

深雪は1本の酸素魚雷を発射し、敵駆逐艦の艦首部分に命中させる。

その影響で敵の航行速度が一気に落ち込んだ。

 

「よっしゃぁ! 行くぜ姉貴直伝のぉ!!」

 

深雪は前面に魚雷を発射。

それを追いかける様に主砲で自ら放った魚雷を撃ち抜き、大きな水柱を立てる。

その周囲に発生した大きな波に突っ込んで自らが宙を舞う。

それはまるで先程の摩耶を彷彿とさせる動きであった。

 

左足を軽く曲げ、艤装から錨を射出しそのまま右足に巻き付けて先端を足の裏に立てる。

手に持つ主砲を斜め上に打ち込んで落下する推進力を得た深雪は、

そのまま自らの体重を右足に乗せて敵駆逐艦に突っ込んでいく。

 

「深雪スペシャル!」

 

そのまま右足が敵駆逐艦に突き刺さり、そのまま爆発四散。

燃え上がる炎の中から現れたのは中破状態の深雪だった。

 

「やったぜー! なぁ姉貴! 見てくれてたか?」

「ああ。流石はアタシの妹分だ!」

「よっしゃー!」

「よしじゃありません!!」

 

共に敵の爆発に巻き込まれボロボロになりながらも、言葉と笑みを交わす二人。

そこに怒りを露わにした鳥海が割り込んできた。

 

「摩耶! 貴女深雪さんになんてもの教えてるの!」

「だ、だってよー、師匠が弟子に対して技を教えるのは普通だろ?」

「それは拳法などの話! あれじゃまるで死にに行くようなものじゃない!」

「でも結果がよけりゃなんでもいいじゃんか……」

「だ! か! ら! 摩耶はもっと警戒心を持ってって言ってるでしょ!」

 

結果としてはよい結果に終われただろうが、その過程があまりにも危険な物であった。

敵をほぼ航行不能にまで追い込んだ深雪はともかく、

摩耶は重巡2隻の砲撃を自分一人で引き付けた挙句、深雪を囮にして自らも囮としたのだ。

こんな戦術では長続きするわけがない。

 

「鳥海、静かにして」

 

そんな中、叢雲の鶴の一声が戦場に響く。

それに対して反論していた摩耶も説教していた鳥海も黙り込み、真剣な表情になる。

 

「……潜水艦の反応よ」

 

見れば由良と五十鈴が共に対潜装備を構えていた。

この中で対潜に関する攻撃が行える装備を持ち合わせているのは由良と五十鈴、

瑞雲を搭載した伊勢と日向のみ。

 

「数は2隻。まだこちらには気付いていないわ」

「どうしますか、由良さん、五十鈴さん」

「無駄な戦闘は避けたいところね。摩耶さんと深雪さんが被弾したこともあるし」

「私も同感よ。対潜に優れていても、場所が知れるのは私と由良だけだからね」

「総員その場で待機。十分に警戒しなさいよ」

 

つまり対潜戦闘が行えるといっても、正確な位置を掴めるのは由良と五十鈴の二人だけ。

正確には涼月も把握することは可能だがそれは誰も知らない。

そんな二人、三人がいくら警告を発していようが、

見えない敵からの襲撃をどうやって避けようというのか。

その場に緊張が走る。

 

「………」

 

長い沈黙。暫くして、五十鈴が口を開いた。

 

「相手は離脱していったわ。それにしても、なんだったのかしら」

「こちらに気付かなかった、訳ではないわね。寧ろ無視したとしか思えない」

「因みに方角は?」

「南西の方角よ」

「まさか提督府に襲撃を」

「その可能性は薄いわ。たった2隻で、特に潜水艦で何が出来るっていうのよ」

「……敵地の偵察、ではないでしょうか?」

 

叢雲の発言に涼月が口を開く。そう。彼女自身には思い当たる節があるのだ。

あのトラック泊地での空襲。それは潜伏していた潜水艦によるものだった。

だからこそ、今回もそういうことではないかと皆に伝える。

 

「……行くわよ。涼月の言ってる事が本当だとしたら取り返しのつかないことになるわ」

 

皆は全速力で提督府へと戻るのであった。




寝落ち&寝落ち。ぐおおお! ごめんなさああああい!!!

今回から第三者視点が多くなると思います。
久々に戦闘だけでの1話。摩耶と深雪は人間の動きしてませんね。
摩耶さんは口調は男勝りですがその分面倒見がいい艦娘になってます。
鳥海の方が妹。謎っぽい構図ですがむしろしっくりくるかなと。

何気に初登場弾着観測射撃。割と使える瑞雲(紺碧の艦隊並の感想)。
この後ちゃんと伊勢と日向が蜻蛉釣りによって回収しました。
なおこの小説では弾着観測射撃は基本航空戦艦と航空巡洋艦しか使えない物にしてます。

トラック泊地の次は提督府が危機的状況。
涼月は、もとい大湊提督府の艦隊は間に合うのだろうか。

P.S.
「照月が取れなかった気分はどうだ作者ぁ~」
「ふざけやがってぇええええええええええ!」

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