艦隊これくしょん -艦これ- ~空を貫く月の光~   作:kasyopa

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あれから約半年以上の時が……経ち、様々なこともあり、なこの小説。
まだゆったりと、続いていく物語。
広げた風呂敷は畳まないといけない。


といいつつ今回ものんびりまったり回です。


第三話『疑問』

姉妹艦。それは艦娘としての生を受けた彼女達の縁であり、

仲間以上に強い絆で結ばれるもの。

初めて出会った一人と三人はまるで旧知の仲のように喜び合う。

特に喜びが大きかったのは吹雪の方で、

満面の笑みを浮かべ思い思いの言葉を口にしていた。

 

「やっと出会えた! 私と同じ、吹雪型の人と!」

「本当、でもちょっとだけ服が違うような気が……」

「少し、茶色い」

「あ、これは私が改二になった時に記念にもらった服でね」

 

再会の喜びを体で表す吹雪に対して、白雪と初雪はその服の違いに疑問を覚える。

吹雪型の服は白に深い紺色という基本的にセーラー服を基準としており、

むしろ今の吹雪の服装は別の型である綾波型の制服に似ていた。

 

「はー、初めて会ったと思ったら長女が改二になってるなんてなぁ」

 

なんだか艦娘として置いて行かれてる気分だな、と深雪が吹雪の服を眺める。

姉妹艦とは言えど先に行くというのはあまり彼女的には嬉しくない様子だ。

一方の白雪と初雪はなぜが合点がいくのか納得した表情を浮かべている。

 

「まぁまぁ、ネームシップだからっていうとおかしいかもしれないけど、

 吹雪ちゃんも努力していただろうから」

「姉より優れた妹はいないっていうし」

「妹といえば、叢雲さんは?」

 

そういえば、といった形で辺りを見渡す吹雪。

涼月に聞いた話によればもう一人叢雲という妹がいるはず。

当然この作戦にも参加しているし、

何より先制攻撃ともいえる飛行場姫と敵輸送船団の撃滅に成功している。

 

しかしどこの出店を見ても、広場に目をやってもそれらしき姿はない。

姿がないといっても吹雪自身は一度も叢雲の姿を見たことはないのだが。

 

「叢雲ならなんか用事があるとか言って、舞台の裏に行ったぜ?」

 

深雪の言葉に自然と舞台の方へと目を動かす吹雪。

そこで見たのは霧島がマイクをセットして、

今まさしく何かしゃべろうとしているところであった。

 

「あー、マイクテストワン、ツー、よし。

 皆様、お楽しみのところ大変恐縮ではございますが、

 これから長門秘書艦の挨拶がありますので、部隊前に集合の程、お願いします」

 

その言葉を皮切りに、あたりを歩いている艦娘達がぞろぞろと舞台前に集まり始める。

 

「ということですから、私達も行きましょう。吹雪ちゃんと……」

「夕立は夕立っぽい! 吹雪ちゃん、無視するなんてひどいっぽい!」

 

白雪の合図でここで一緒に屋台巡りをしていた夕立の存在を思い出す。

そこまで喜びが大きかったといえばそうなのだろうが、

自分でも悪いことをしたなと反省する吹雪であった。

 

 

 

舞台の前に様々な艦娘達が飲み物を手に集まっている。

そこには吹雪の見慣れない艦娘達の姿もあり、

大湊提督府との合同作戦であることを再確認させてくれるのであった。

 

しばらくすると同じく飲み物を手に持った長門が舞台にあがる。

 

「呉鎮守府の秘書艦を務める長門だ。この度は提督不在のため私がここの総司令となる。

 大湊提督府の面々には慣れない顔で申し訳ないが、承知の程よろしく頼む。

 皆も知っての通り今回の作戦は合同作戦であり、

 前段作戦にて、大湊の第一艦隊の活躍により成功を収めることが出来た。

 提督に代わり礼を言う。感謝する」

 

その言葉に対象の面々が思い思いの表情を浮かべる。

 

「前置きが長くなったな。私の挨拶はこれくらいにしておこう」

 

いつも通りの堅い挨拶ではあったが、その表情は柔らかかった。

皆を緊張させまいとしたものなのか、それとも前段作戦がうまくいったからなのか。

 

数歩下がった長門の後に舞台に上がったのは叢雲。

急いで霧島が彼女の身長に合うようマイクの位置を調整する。

その間、呉とトラックの艦娘達が少しだけざわついた。

 

「あれが大湊提督府で秘書艦を務める艦娘……」

「駆逐艦で第一艦隊の旗艦も務める実力派かぁ、世界は広いね」

 

驚いた様子で野分と舞風が言葉を漏らす。

それに同意するかのように周りにいる複数の艦娘が頷いた。

準備が終わり、叢雲はその発言が聞こえたのか聞こえていないのかは解らないが、

何食わぬ顔であいさつを始めた。

 

「大湊提督府所属、特型駆逐艦五番艦の叢雲よ。大湊の皆に代わって私が挨拶するわ。

 今この海域で変な噂とか赤い海とか、作戦に支障が出るレベルの問題もあるけれど、

 どうであれこの作戦は絶対に失敗できない。私達のやることはただ一つ。

 一刻も早くこの海域を解放することよ」

 

叢雲の言葉に場が静まり返る。今から宴、というムードがほんのり出ていたのに、

いきなり現実を突き付けられたのだから。

確かに彼女の言っていることは間違いではないのだが、今言うべきことではないだろうと、

そこにいた艦娘のほとんどが思ってしまう。

 

「でも今すぐ出撃して戦果を挙げろ、なんて言わないわ。

 今は休む時。しっかり食べて飲んで、英気を養うのも大切なこと。

 そして大湊の皆、こんなに多くの艦娘と触れ合える機会なんて早々ないんだから、

 出来る限り交流はしておきなさい。

 呉やトラックの艦娘達には皆に代わって私がお願いするわ。私からの挨拶は以上よ」

「では乾杯の音頭を取る。皆飲み物は持っているな?」

 

軽く頭を下げて後ろに下がる彼女を見て、

先ほどまで静まり返っていた面々が肩の力を抜く。

お説教が始まるのかと思ったもののそこは一人の秘書艦。

周りの空気を読むのもある程度心得ているようであった。

 

再び長門が前に出て、その言葉に全員が頷き手にあるコップをほんのり構えた。

その様子を見て満足そうに頷き口を開く。

 

「では、乾杯!」

「「「「かんぱーい!」」」」

 

 

/////////////////////

 

 

二人の秘書艦のあいさつが済んで様々な艦娘達が屋台をめぐっている間、

涼月は大和と共にローストビーフの屋台で接客をしていた。

そしてその屋台はその料理の物珍しさ、大和の腕前、二人の人柄によって、

他の屋台を圧倒するほどの人気を誇っている。

 

「涼月さん、疲れてませんか?」

「はい、私はまだいけますよ。大和さんこそ疲れていませんか?」

「このくらいでしたら全然。むしろ懐かしくて楽しいくらいです」

 

にっこりと微笑み返される涼月は逆に困った笑顔を浮かべる。

確かに二人は約束を誓い合った仲ではあるものの、

こうやって時間を共にすることは少なかった。

それを素直に受け取ろうかと思った涼月ではあったが、

さすがに接客をしながら二人の世界に入ってしまうわけにはいかなかった。

 

「ヒューヒュー、お熱いねぇ」

「こら、茶化さないの。でも艦種が違うのにそこまで信頼出来るのは少し羨ましいわ」

「摩耶さん、鳥海さん。お疲れ様です。ご無事で何よりです」

 

その様子を行列の一番前で見ていた摩耶が茶化し、鳥海が注意する。

しかし鳥海も少しばかり憧れていたらしく心の声が漏れていた。

それを気にしないように、しかし頬を赤く染めうつむき気味に料理を提供する涼月。

目線を合わせないのは照れ隠しのつもりなのだろう。

 

「こりゃあ提督と明にいい土産話ができたな」

「本当ね。でもそのためにもまずはこの作戦を成功させないと」

「そういえば叢雲さんも言っていましたが、あの赤い海には何があるのですか?」

 

話が変わりつつあるタイミングを見計らって涼月が話題を繰り出す。

赤い海が広がっているという話は既にこの地に向かう途中で蒼龍が偵察機にて確認し、

ここにいる艦娘が周知の事実として受け取っていた。

そしてその海が艤装を急速に老朽化させてしまうということも。

しかしその中央に何が存在しているのか、何がそのような現象を引き起こしているのか、

それは一般的には公開されていなかった。

そこで涼月は最前線で戦闘を行っていた二人に、

少しでも情報を聞き出せないかと思ったのだ。

 

「あー、それは私達にも解んねぇんだよな。ただそのまま、

 赤い海が広がってきたーってぐらいでよ」

「私も同じよ。相手の輸送部隊の燃料のようなものという見解が強いけど、

 それだとこんなに急速に広がったりしない。もっと良く無い物かも」

「そうですか。すみません急にこんな話をして」

「そんなことでいちいち気にすんなよ。一緒に戦った仲じゃねーか!」

 

重巡の馬鹿力の籠った平手打ちが背中にさく裂し思わずせき込む涼月。

その大きな音に反応して周辺の艦娘がぎょっとしたが、

その発生源が分かった時点で気にする者もいなくなった。

 

「んじゃ、あたし達は他の屋台を見てくるよ」

「大和さん、涼月さん、おいしいローストビーフをありがとうございました」

「こちらこそ、ありがとうございます」

「摩耶さん、鳥海さん、また会いましょう」

 

背を向ける二人を見送ると、次に大和達の屋台を訪れたのは叢雲であった。

その顔には若干の疲れが見えている。

 

「叢雲さん、お疲れ様です」

「涼月、こんなところで何やってるのよ。アンタも挨拶すればよかったじゃない」

 

叢雲の言う通りでこれまでの活躍やトラック・呉・大湊の全てを巡った事を考えれば、

あの場所で挨拶の一つや二つはしても違和感はないだろう。

因みに大和が挨拶をしなかったのは、

MI作戦から書類上トラック泊地の管轄は呉の提督が担う事になり、

統合されていると言っても過言ではない状況であるからだった。

 

「私はあくまで一人の艦娘に過ぎません。挨拶するほどの身分でもありませんよ」

「あっそ、それならそれでいいわ。後、預かり物があるから渡しておくわよ」

 

そういって差し出したのは白い封筒。どこにも誰あてなのかすら書かれていない。

 

「手紙の一つも寄こさないから明が心配してたわよ。今回の作戦の事もあるし」

 

その言葉を聞いてはっとする涼月。

この日まで特に忙しかったわけではなく、これまでの疲れを癒したり、

鎮守府の面々と話をしたりと一時の平和を堪能していた。

それから一旦トラックに帰ってきてからはそれがさらに加速し、

気付けばこの作戦までこれといった大きな活躍も襲撃もなかった。

しかしそれが逆に大湊という場所に涼月の現在を伝えることもなかったのだ。

 

「アンタ! 呉に着いたら連絡の一つでも寄こしなさいって言ったじゃない!

 それを今日まで引き延ばして!」

「す、すみません。どうらや気が抜けた時に一緒に忘れてしまったようです」

 

気が抜けた時。それを聞いて風呂場で泣き明かした時のことを思い出す大和。

あの時の彼女は本当にいっぱいいっぱいだった。

様々なことを忘れてしまってもそれは仕方ないことだと片付けられるほどに。

 

そんなことはつゆ知らず、説教を始める叢雲。

屋台に並ぼうとした艦娘もその怒号に押されてしまい離れていく。

このままではせっかくのローストビーフが振る舞えない。

まずいと思った大和は咄嗟に涼月の持っていた手紙を取り上げ封を開く。

 

「「あっ」」

「折角のお手紙ですから読まないと失礼ですよね。私も内容が気になりますし」

 

空気そのものを変えてしまえばこちらの物だ。

そう、大和にとってそれは最上の選択であった。この手紙を読むまでは。

 

「大好きな涼月お姉ちゃん……へ」

 

その言葉に大和の表情が凍り付く。

しかし文章は続いている。その内容を確認するためにも読み上げは続いた。

 

「涼月お姉ちゃん、今何してますか? 元気にしてますか?

 僕は今お爺ちゃんから提督になる為の勉強をしています。

 難しいことばっかりで嫌になる時もあるけど、

 お爺ちゃんも素質があるかもって言ってくれてるし、

 いつか絶対提督になるからね。提督になったら秘書艦になってね! 約束だよ!」

 

叢雲はその手紙の内容に対して、涼月はそれを大和が読み上げたという事実に対して、

互いに凍り付く。

 

「随分仲がいいんですね」

 

そんな様子を見て大和がにっこりと微笑む。

その笑顔には少し影が差しており怒っているようにも見えた。

 

「あ、あの、大和さん。別にこの内容そのものに深い意味はなくてですね、

 明さんの幼心がよく表れている内容ではないかなと私は思うのですが」

「解ってますよ。涼月さんは誰とでも仲良くなれる人ですから」

「……怒ってますか?」

「怒ってはいません、が」

 

その反応に思わず胸を撫で下ろしかけた涼月が固まり額に冷や汗を垂らす。

次に大和は、満面の笑みでこう答えるのであった。

 

「明さん、とおっしゃいましたか。その方について詳しく聞かせてくれませんか?」

 

涼月はその時初めて思った。女性の笑顔は怖いものだと。

 

 

 

涼月の必死の説得によって大和は納得し、叢雲も説教する空気で無くなってしまった為、

しぶしぶローストビーフを受け取っていた。

 

「ローストビーフなんて高級品よくこんな場所で出せるわね……」

「親睦を深めるためには何よりもまずおいしい料理ですから」

 

私はそのためにもここにいるんだと言わんばかりに胸を張る大和とその服装を見て、

艦娘というものに対して疑念を抱かざるを得ない叢雲。

しかし出されたものを食べないというのも料理と料理人に失礼だと、

ローストビーフを頬張った。

 

「!! なにこれ、めちゃくちゃおいしいじゃない!」

 

モゴモゴと感嘆の声を上げる彼女に対して、二人は思わず笑みを零す。

 

「ま、まぁまぁね! これなら白雪の料理といい勝負してるわ!」

 

瞬間、それに気付いてキリッと態度を戻す叢雲であったが、

口の中から溢れる耐えがたき幸福感に頬が緩む。

 

「まだまだたくさんありますから、よかったらどうぞ」

「仕方ないわね、貰えるなら貰っておくわよ」

 

涼月はその光景を見て、達観したような彼女もまた一人の駆逐艦なのだな、

ということを再認識し安心感を得る。

そんな中、一人の艦娘が声をかけてきた。

 

「大和さん、涼月さん、お疲れ様です!」

「あら吹雪さん、またいらしたんですね」

「吹雪さん。いらっしゃいませ」

「えへへ、さっき急に舞台前に集合したからローストビーフをもらい損ねてました」

 

それは他でもない吹雪。周りに夕立の姿はなく今は一人で屋台を巡っているようだ。

大和も涼月も慣れ親しんだ友人のように笑顔で対応する。

しかし、そこにいたもう一人の少女は違っていた。

 

「吹雪……?」

 

戸惑う視線。それに反応して隣を見る吹雪。

その顔を見て舞台に上がっていたあの艦娘であることを認識した。

 

「叢雲さん! 叢雲さんですよね! スノーシルバーの!」

「え、ええ」

「あっ、自己紹介まだだったね。吹雪型一番艦の吹雪です!」

 

満面の笑みで敬礼する吹雪。しかしそれに対して叢雲は。

 

「……そっか。何も覚えてないのね。吹雪」

 

何かを思い出すような、しかしとても悲しい目でそう返すのであった。




されど物語は進まねばならない。


仕事もあり、様々な理由もありで時間が少ないですが、
ゆっくりをお待ちください。気づいたら更新されてた、なんて感じです。

叢雲の質問。その意味はいかに。

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