艦隊これくしょん -艦これ- ~空を貫く月の光~   作:kasyopa

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第十七話『考察』

 

そして、その時はやってきた。

 

第一機動部隊と第二機動部隊が完全武装した状態で埠頭へと集まっており、

その雄姿を見送ろうと多くの艦娘が集合している。

 

「赤城さん、加賀さん、今回もよろしくお願いしまーす!」

「ふふ、舞風さんは今日も元気ね」

「当然です! 舞風、頑張っちゃいますよー!」

 

無垢な少女のように見えるも、彼女も定めの軛から解き放たれた艦娘の一人。

それでもなお明るく振舞うのが信条であり、変わらない思いだった。

 

「あの、お二人ともすみません。ですが出来れば多めに見てもらって」

 

野分が焦ったように謝罪するもそれを止めようとはしない。

彼女もまた舞風の理解者であり、こうするにも理由あってのことだと信じているからだ。

 

「気にしないで。寧ろいつものことと安心するわ」

「あら、加賀さんにしては珍しい」

「私もそういう時はあります」

 

くすくすと笑みをこぼす赤城に対し、いつも通り凛と還す加賀。

なんだかんだでこの2人も長い付き合いである。

 

「おっおー! 久々の出撃だよー。涼月ちゃんは島風が最速で捕まえちゃうんだから!」

「し、島風さん落ち着いて」

「大鳳ちゃんだって落ち着いてられないでしょ! 早く涼月ちゃんに追いつきたいよね」

「(大鳳ちゃん……?)そうですね。涼月さんにはまだ大きな借りがありますから」

「もう、そういうお堅いのは無しだってば!」

 

辺りを連装砲ちゃんと共に飛び跳ねる島風と、それを止めようと追いかける大鳳。

大鳳はほかの正規空母達に比べて身長が随分と低い為、間違えられることも多い。

それでも島風に同じ思いだといわれてしまい、同意せざるを得なかった。

意気軒昂な第一機動部隊。

 

「赤城さんや加賀さんも張り切ってるわね。瑞鶴、私達も頑張らないと」

「そうね。加賀さんの撃墜数、超えてみせるんだから!」

「やる気だねー。なら私の友永隊と勝負してみる?」

「私の江草隊も忘れないでよ。なら一航戦 対 二航戦 対 五航戦と大鳳でやらない?」

「おっ、蒼龍いいアイディア!」

 

数奇な運命を手繰り寄せて揃った空母7人。

いつまでも自らの調子を忘れない彼女達であれば、乗り越えられないものはない。

 

「今回の出撃は楽できそう……よかったね深雪」

「なーに言ってんだ初雪! そんなんじゃ摩耶の姉貴に笑われちまうぞ!」

「……はぁ、私は熱血担当じゃないし」

「でも、なんだかんだ言って付き合いいいよな!」

「そりゃ、同じ艦娘だし。吹雪ちゃんにあんなこと言われちゃったら、頑張るしか、ない」

 

艤装のチェックをしながらぼそぼそと深雪に話しかける初雪であったが、

空母以上にやる気が入っている深雪。

ここまでやる気になっているのも、同じ吹雪型駆逐艦である吹雪の音頭にある。

吹雪の活躍は知っていた。しかし実際に話して初々しさが取れない彼女に多少の疑問はあった。

彼女が本当に吹雪型一番艦なのかと。しかしあんな言葉を聞いて立ち上がらないわけがない。

あれはまさしく私達の姉なのだと。そう確信した。

 

「吹雪ー! こっちの方は私達任せとけー!」

「タワーディフェンスは初雪の十八番だし、気にしないで」

「うん、初雪ちゃんも深雪ちゃんも頑張って!」

 

大きく手を振る吹雪に対し、互いにサムズアップを飛ばす2人。

伊達に大湊で叢雲の同期をやっている訳じゃないという、自信に満ちた表情だった。

 

「野分、舞風。大鳳と涼月を……いや、皆をよろしく頼む」

「もう、磯風もたまには休まないとー。大丈夫。今度も必ず守るから」

「はい。私達はもう今までの私達とは違います。ベタですけど、本当にそう思ってます」

「そうか――なら私は皆の為に飯の一つでも作って待っておくとするか!」

「「それだけはやめて!!」」

 

激励の言葉を飛ばす磯風に対して変わらぬ笑顔で答える2人。

それを見て袖をまくり気合を入れるも、全力で止められてしまう。

遠くの方でそれを眺めていた綾波も思わず苦笑してしまった。

 

「皆そろっているな」

 

長門と陸奥が奥から現れる。その姿を見るやいなや先ほどの緩い空気は一変。

何度となく訪れた戦いの知らせである。

 

「繰り返しになるが、第一機動部隊と第二機動部隊の任務は、

 敵の陽動及び殲滅、そして戦艦レ級との合流阻止にある。

 そして何より、誰一人欠けることなく帰還することだ」

 

 そう。誰一人としてだ。それには無論、涼月も含まれる。

 諸君の健闘を、心より祈っている。艦隊、出撃!!」

「「「「はい!!」」」」

 

 

 

レコリスから多少離れた北の海を第一機動部隊が行く。

既に空母3人による偵察機と護衛機は放たれており、打てる手は既に打ってある。

しかしながら。

 

「目立った敵は見当たりませんね」

「ええ。いたとしても小規模な駆逐艦による艦隊程度。何かおかしいわ」

「もしかしてもうレコリス沖に行っちゃったとか!?」

「しかし、だとするなら外海の調査を担当していた金剛さん達が何か掴んでいるはず」

「野分さんの言うとおりね。深海棲艦とはいえ航行速度は変わらない、

 大規模な集結があったなら何か掴んでいるはず」

 

確かに金剛達の艦隊に空母はおらず索敵範囲は狭いといえる。

しかしそれを補えるほどの水上電探を装備するのは今や当たり前となっており、

それを2人分も用意していたのだから、大規模な敵の進攻を逃したとも思えない。

もしレ級が囮となって集結させていたとしても、赤城の言う通り航行速度は変わらない。

寧ろその巨大な図体から姫級の深海棲艦は動きが鈍く、

例えイ級などの高速艦がいたとしても孤立は避ける為速度は合わせられる。

 

「うー、敵も全然いないしつまんなーい!」

 

機動部隊が接敵する前に発艦された艦載機によって殲滅している為、

久々の出撃である島風にとっては期待外れもいい所であった。

しかし決して陣形を崩すことはなく、周りの連装砲ちゃんもそれに準じていた。

 

「島風さん、縁起でもないことを言ってはいけないわ」

「のわっちだってつまらなさそうにしてるでしょー」

「の、のわっち!?」

「だって舞風が呼んでたし私も呼んでいいでしょ?」

「それは、その」

「いいよいいよー。のわっちが許さなくてもこの舞風さんが許す!」

 

警戒はするものの緊張状態がそんなに長く続くわけでもなく、時折気を緩めてはいる。

そんな他愛ない会話を挟む彼女らの声を聞いて空母達も癒しを得ていた。

 

「と、とにかく! 赤城さん、意見具申よろしいでしょうか」

「あ、のわっち逃げたー」

「ええ。いつでもいいわよ?」

 

話を方向を変える為に、赤城へと話を振る野分。

 

「このまま敵が見つからないとなると危険です。

 後方で待機中の第二機動部隊と合流して索敵範囲を広げましょう」

「野分さんらしい賢明な判断ね。解りました、その意見を採用します」

 

戦況は常に変化するもの。当初の予定と違うことが起こるなど戦場では日常茶飯事。

むしろこの辺りは島が少なくただ水平線が広がるのみであり、

電探も大いに活躍できれば島の影に隠れて進行することもできない。

遭遇戦のリスクも限りなく低かった。

 

「加賀さん、そのように打電をお願いできますか」

「そういうと思って、既に完了しています。五航戦もしびれを切らしている頃でしょうし」

「あら、加賀さんがそこまで認めるなんて珍しい」

「単に実力が伴ってきただけです。否定してばかりでは、若い芽を摘みかねませんから」

 

変化するのは、何も戦況ばかりではないようだった。

 

加賀の連絡を受けた第二機動部隊は程なくして合流し、情報を交換する。

第二機動部隊でも自衛のためにある程度の偵察機と直営機を発艦させていたものの、

鎮守府近海程度の艦隊規模だったため随時殲滅していたらしい。

 

「もうこんなことなら私達もレコリス沖に突っ込んだ方が早いんじゃない?」

「焦ってはダメよ瑞鶴。まずどうしてこんなことになっているか分析しないと」

 

実際この戦力でレコリス沖に向かったとしても到着するのは夕方から夜にかけて。

日が落ちれば航空戦力が意味をなさなくなる為、逆に窮地に追いやられる可能性も高い。

しかも未だにレ級も防空埋護姫も確認されていない。

この場を離れては本来の目的である戦力の分断が果たせなくなる。

 

「それにしたって異常ですよね、この出現率の低さ」

「……生産コストかけすぎた、とか?」

「お、初雪お得意のゲーム的解説か~?」

 

皆が違和感を感じる中で、一人悶々と考えていた初雪がある解を弾き出す。

 

「生産コストをかけすぎた、とは?」

「私達が出撃するにも、弾薬とか燃料とか、艤装用の鋼材がいるし、

 艦載機にはボーキサイトが無いと作れない」

「そうね。裸一貫で突撃するわけにもいかないもの」

「で、それは敵にとっても同じなんじゃって思った」

 

初雪が語るのは、戦略シミュレーションゲームにおけるコストの話であった。

当然これは現実の話でもあり、艦娘は先ほど言ったように4つの資源が必要となる。

0から艤装や装備を生産するとなるとそれらに加えて開発資材も必要となってくる。

しかも艦種が戦艦や正規空母ともなれば莫大な数が必要となる。

そのため国力の少ない日本は天城の艤装を解体してまで赤城と加賀を改修したのだ。

 

しかしそれは敵も同じようなもので、どういった資源が必要かは分からない。

それでも必要ないはずがなかった。それならば文字通り物量作戦を持ってして、

全ての艦娘と国土を蹂躙し破壊を尽くせばいいだけである。

それを今までしてこなかったのではなく、できなかったのだ。

 

「それにしたってMI作戦でも姫級の敵は出てきたし、それと一緒に他の深海棲艦だって」

「でも、浸食海域なんて大がかりなものはなかった、でしょ?」

 

瑞鶴の言葉に対して、今まさに起こっている浸食海域を引き合いに出す。

 

「あんなダメージフィールド、ずっと展開してたら普通はコストめちゃくちゃかかるし、

 範囲が広がってるならなおさらだし」

「あー! だから最初に配置したユニット破壊させて還元したコスト使ったんだな!」

 

まず発生地点で行われた戦闘。

飛行場姫をはじめとした艦隊に加えて、輸送船団も存在していた。

 

「つまり、レコリス沖に展開していた飛行場姫は最初から倒されるために配置していた、と」

「うん。無駄に出した高コストユニットを相手に撃破させて、

 還元したコストで更に強いユニットを出すなんて、戦略シミュレーションゲームじゃ鉄板」

 

その結果浸食海域という謎の現象は発生し、涼月を深海棲艦として覚醒させた。

しかしそこでガス欠してしまい、今は回復を待っているところなのだと初雪は考察する。

 

「見事な考察ね。まるで涼月さんの話を聞いてるみたい」

「伊達に最初から引きこもりしてないし……えっへん」

 

艦娘になる前から引きこもり癖があった彼女だからこそ、そういった観点で分析できる。

いわゆるオタクなのだがこういう状況では役に立ったようだ。

 

「ならさっそくこれを本部に打電してすぐにでも突撃艦隊を―――」

「っ! 敵艦捕捉です!」

 

打電する前に大鳳が声を上げる。こんな状況でも偵察機を上げていたのが幸いしたらしい。

 

「敵の数と編成の報告を!」

「数は……12! 新型の姫級深海棲艦も確認できました!」

「なんですって!?」

 

その言葉を聞いて皆が戦慄する。

即座に陣形を組みなおし、空母の面々は発艦準備を急いだ。

 

「編成は姫級1、戦艦3、重巡2、駆逐6です!」

「私達相手に結構舐めたことしてくれるじゃないの!」

「皆さん、航空戦で出来る限り数を減らしましょう! 南雲機動部隊、発艦開始!」

 

矢が空を行き、炎を纏い艦載機の姿を取る。正規空母7人による、全力攻撃。

艦娘の希望が今、空を翔けていく。

 

 

 

防空埋護姫が連合艦隊を組んで海を行く。

水面に座り込んだままの体勢で進んでいる為か、通常の深海棲艦よりも速度は遅かった。

 

『………』

 

空を見上げれば、我々にとっての絶望が降りかかっている。

周りの艦は迎撃のために砲撃を開始するが、もう遅すぎる。

爆弾は投下され、魚雷も放たれた。周りの艦は無慈悲に業火に焼かれ海中へと消えていく。

自分の周りを守護するように――あるいは拘束するように配置された艦もそうだ。

戦艦と呼ばれる艦種も、自慢の装甲で持ちこたえてはあまり長くは持たないだろう。

 

ようやく『敵』を視認できる距離まで近づいた。

無数の空母が艦隊を組んでこちらに迫っている。

 

空を仰げば絶望。海を見つめれば倦怠。ここまでかと、目を閉じれば思い出される。

こんなことがかつてあったような。このまま私は死ぬのか、と。

 

――否。否。断じて否!

 

「ワタシガネ……マモッテイクノ……ッ!」

 

もう絶望も倦怠もない、虚無の世界を守る。そのための力がこの身に染みついている。

 

連装砲の全てが空を向き、火を噴く。

対空機銃を思わせるような速度で放たれるそれは一発一発が正確に、絶望を貫いていく。

降りかかる絶望も、いつか訪れる倦怠も、全て平等に滅ぼしていく。

そして次に滅ぼすべきは、全ての元凶である艦娘達だ。

 

 

 

「艦載機、被害甚大……!」

「嘘、でしょ」

 

最初は動くことのなかった防空埋護姫。

彼女が涼月の成れの果てだと察知し、あえて攻撃することはなかった。

結果として随伴艦である駆逐艦は全て撃沈、重巡・戦艦も中破または大破に追い込んだ。

そこまではよかったが、動き出した直後に戦況は一変した。

発艦させていた艦載機のほぼすべて。6割弱が撃墜されたのだ。

即座に反転させ帰艦させてなおその被害だ。

 

「やはり、あの子を敵に回したくはなかった」

「ええ。さすが涼月さんというべきね」

 

こうでなければ面白くない、と笑みを浮かべる赤城と加賀の顔には、汗が浮かんでいた。


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