デスゲームに出会いを求めるのは間違っているだろうか 作:わかめ
突如光に包まれたベルはアインクラッド第1層にある始まりの街へと転移させられた。他のプレイヤーたちも例外ではなく困惑した声を上げている…
しかし、ベルと他のプレイヤー達は精神状態からして違っていた。ベルは自身のコマンド画面を確認した時特に疑問に思っていなかったが、他のプレイヤーには無くてはならないものが喪失していたのだ。
ーログアウトー
この項目をどれだけのプレイヤーが探したのだろうか。これがない…つまりログアウト出来ないということは何時までたってもゲームを終われないということ。多くのプレイヤーは何かしらのバグを疑い、GM側が早急にこの問題を解決すると思っていた。
しかし、何時までたっても問題は解消されず、挙句の果てにこのような意味の分からない状況で街に集められたのだ。
やれ責任者を出せなどの罵声が飛び交う中、いまいち状況を理解できていないベルは、空に浮かぶフードを被った存在に気付いた。
顔はフードのせいで見えない。体格もいまいちわからないどころか、人間とは思えないほどの巨体を持っている。
そのフードの人物から告げられた言葉は衝撃的であった。
曰く、このゲームはデスゲームでありクリアするまでログアウト出来ない。
曰く、ゲームオーバー、もしくは強制的なログアウトには死が伴う。
それを聞いたプレイヤーたちは阿鼻叫喚となる。
既に目の前の存在が尋常ではないと言う事は、アバターの強制的な変換…現実世界の自分への変換により理解していた。
認めたくはない、されど認めなければならない状況に絶望の渦が巻き起こる。
しかし、ベルが考えていた事は違った。
彼は自分が何かの戦い、もしくは催し物に巻き込まれたのだと理解した。
周囲の状況から察するに彼らもまた巻き込まれた存在だと彼は考え、全員が元の世界に帰るにはこの戦いを終わらせなければいけないとわかった。
故に彼は考える。このゲームのクリア条件を…まずは情報を集めなければならない。
彼は人混みに目を向ける。錯乱している様子に碌な情報は得られないと判断し、彼はその場を離れる。
ふと、広場から立ち去る人影が見えた。
迷いなく進む人影に彼は付いていく。敏捷値に物を言わせた走り。ものの数秒で彼は人影に追いつく。
黒色の髪にハーフプレートを来た小柄な男。背中には片手剣を装備しているのがベルの初見で把握した情報だった。
対する男もいきなり現れた白髪の小柄な少年に驚き立ち止まった。
「少し聞きたいことがあるんですけどいいですか?」
「…いいぞ」
驚くほど似た声、本人たちも何処かで聞いたような声だと感じたが特に気にもせずに話を続ける。
「このゲームのクリア条件って何ですか?」
「…そんなことも知らずにプレイしたのか。随分と不運なんだな。あんた」
「はぁ…」
「まあいい、クリア条件はこの100層で構築されたアインクラッドの頂上に登るということだ」
それにベルは驚愕した。
100層踏破…一体何年かかるのだろうか。恐らくは今ゲームは始まったばかり。全員が初級冒険者であることはまず間違いない。ならば他のプレイヤーがレベル2に到達するのに少なくとも一ヶ月はかかる。
それまで彼は仲間たちを放って置けるだろうか…彼女にますます置いて行かれるのではないか…
様々な考えが思い浮かぶ。
「じゃあ、俺は急ぐから」
目の前の男が先に進んだのにも気付かずにベルは思案する。
今、この状況でしなければいけないこと…
「ゲームをクリアすること」
それは確定してる。だからこそ彼は走った。幸いにも彼は初級冒険者ではない。故に10層程度ならば進めると彼は考え疾走する。
普段ならばサポーターが必要なダンジョンも今回ばかりは必要はない。彼は既にこのゲーム内でドロップ品はバックパックで回収する必要はない事は理解していた。別に回収できなくとも少なからず普段よりはドロップ品に気を配る必要はない。
彼は金を稼ぐ必要はないのだ。目的はダンジョンの踏破…
普段潜っているダンジョンとは勝手が違い、何処へ薦めばいいのか彼にはわかっていない…
しかし、彼は真っ直ぐ辿り着いた。彼自身わかっていないが、それは偏に彼のステイタスによる恩恵だ。
幸運…そのステイタスは間違いなく彼をここまで導いたのだ。
重々しい扉の前で息を整える。彼は見たこともないがこの先が第2層であることを察し、その歩を進める。
道中の魔物は例外なく1撃で屠ってきた。回復アイテムも彼は持ち合わせていない。だけど、彼は扉を開き、中へと進む。
全ては自分の世界に戻るため…
◇
ステンドガラスで彩られた大部屋、彼がおそるおそる歩を進めるとそれは襲ってきた。
見上げるような体躯、凶暴そうな角。巨大な斧を持ったモンスターが彼の目の前に現れた。
フロアボスであるイルファング・ザ・コボルド・ロード、取り巻きであるルイン・コボルド・センチネルを3匹引き連れて出現したのだ。
彼は直ぐ様牛若丸弐式を構えて対峙する。
「いきなり大型モンスターなんて付いていないな…」
脳裏に、ふと彼の宿敵であったミノタウロスが幻視する。しかし、目の前の存在はそれほどまでの威圧を感じさせない。それに少し安堵の息を漏らした後彼は油断はしないと内心で呟き疾走した。
迫るのは取り巻きであるセンチネル。しかし、ベルはすれ違いざまに3匹を切り捨て、そのままロードへと突進する。
斧による振り下ろし攻撃を寸での所で躱し胸を切り裂く。途端にロードの真上にあるゲージが減ったのを確認したベルは、それがこのボスの生命力の数値化だと理解し内心でわかりやすいなと呟き、再度斬りつける。
2度の攻撃でゲージは1/3程減少した。それの意味を全く理解していないベルは続けざまに斧を躱し切りつけながら跳躍した後、手のひらをロードの顔に当てる。
「ファイアボルト!!!」
紅い稲妻が彼の手から放出され、ロードを焼く。怯んだ様子を見せたロードに彼は止めの一撃を入れた。
着地し、彼は疾走する。またモンスターが出現する前に彼は先に進まなければならないと考えてのことだが、実のところもうロードは出現しない。
目の前に討伐した証である報酬画面が開いているが彼はそのまま疾走した。
◇
その日、誰もが信じられないことが起こった。たった1日で第1層がクリアされたのだ。クリアしたものは何故か転移門を開かなかったが、それでもその情報はプレイヤーたちに届いた。
それがもたらすのは一体何か…歓喜に包まれる街中で何人かの人物は何かよくないことが起きる予感がし、不安にかられるのであった。
信じられなかったというのは何もプレイヤーだけではない。開発者茅場晶彦もまたその一人だ。あり得ない速度でのダンジョン踏破。イレギュラーの事態に彼は歯噛みし、件のプレイヤーへと視線を向けた。
「…beru…白髪のプレイヤー…か」