デスゲームに出会いを求めるのは間違っているだろうか 作:わかめ
「そこっ!!」
第2層の存在する森。おおよそ同じタイミングでポップし続けるモンスターをベルは狩っていた。無駄のない動きに一撃で敵を倒す攻撃力。彼の異常さには同伴しているアルゴはすぐに気付いた。
既に彼とパーティを組んでから1日が経過していた。その間彼女はβテストの時との差異を調べがてらベルのレベル上げに付き合っていたのだが、如何せん彼のレベルが上がらない。
モンスターを倒すのを手助けしている程度のアルゴの方が先にレベルが上がる始末。どんだけ彼がモンスターを倒そうと彼のレベルが上昇したことを知らせるファンファーレはならない。にも関わらず彼の動きは常軌を逸している。
そして、彼を異常だと感じる一番の理由は敵を倒す方法だ。彼は一切ソードスキルを発動させていないのだ。システムによる補助を受けずに彼自身の能力で敵を屠っている。これは異常としか言いようがない。
もしかすると彼は何かとんでもない存在ではないのか?と考えるも目の前で美味しそうにパンを頬張るベルにそんな大層な存在ではないか、とため息を漏らした。
「そういやあベル坊はどんな風になりたいんダ?」
「どんなふうって?」
未だにポップしているモンスターを遠目にアルゴは尋ねる。
まだレベルが上っておらずステ振りのタイミングではないが、いつか必要となる時は来る。それに備えて育成の方針を固めておくのもMMORPGのプレイヤーとしては必要なことだ。
「どんな風に強くなりたいか聞いてるんダヨ」
「うーん……英雄になりたいです」
「英雄って…」
呆れたようにベルを見るアルゴに照れくさそうに頭を掻くベル。彼は冗談で言っているわけではない。彼のスキルが物語ってるように、彼自身英雄へ強い憧れを抱いている。
しかし、アルゴにとってはその答えは満足の行くものではなく、単に英雄と言われてもアドバイスの出来るものでは無いことに少なからずベルは実は頭が悪いのでは?という疑問を抱いていた。
「まあそれは置いておくカ。取り敢えずベル坊は問題なく戦えそうだし、移動するゾ」
「はい!」
未だにレベルの上がらない彼へとため息を吐きつつアルゴはその歩を進める。
向かう先はこの階層の到達地点。第2層のフロアボスが待つボス部屋へと進むのであった。
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「この先ってもしかして第3層ですか?」
「そうだナ。まあその前にフロアボスがいるボス部屋があるケド」
大きな装飾のされた扉の前で2人は話す。2人共視線は扉に向けたままだ。
「フロアボス?」
「なんダ、それも知らないのカ。各階層ごとにいるボスで、そいつを倒して次の階層に行けるんだよ」
「そうなんですか。じゃあ前のも唯の大型モンスターではなくてフロアボスだったってことですね」
「前の?」
「そうですよ?牛みたいな大きなモンスター。アルゴさんも倒してきたんでしょ?」
それを聞いたアルゴは信じられない物を見たようにベルを見る。
彼は案に言っているのだ。フロアボスと戦ったと。そしてその口ぶりからは勝ったとも聞き取れる。
「なあ、そのフロアボスと戦った時ベル坊は誰かと一緒に戦ったノカ?」
「一人でしたよ?」
「…嘘はよくないナ。まあ、もし本当だとしたらラストアタックボーナスを手に入れている筈ダガ?」
「ラストアタックボーナス?」
「フロアボスにトドメを刺した時にもらえるアイテムダ。そのどれもが使えるものなんダヨ」
「ああ、ありますよ。でも僕には必要ないからアルゴさんにあげます!」
「は?」
そう言い自身のコマンド画面を操作しだすベル。一体何処の世界に昨日会ったばかりの相手にレア装備を渡そうと考える者がいるだろうか。
そして自身の画面に映るアイテムの受諾に関する画面が…これにYesと答えれば件のアイテムは手に入る。
「って、待て待て待て。いきなり過ぎるゾ!ベル坊!」
「え?何がですか?」
「そのレア装備の価値をわかっているのカ!?」
「いやあ、だって別にいまの装備品よりも弱いし、コートって動きにくいんですよね」
彼が渡そうとしている防具、コートオブミッドナイトは終盤においても使える防具。それをわざわざ手放すなど考えられないのだが、アルゴはそれ以上に聞き逃せない物があった。
「今の装備より弱いだっテ?」
「はい。あ、でもその防具に特殊な能力があるのかもしれないのか」
確かにそれもベルの言うとおりに特殊な能力があるかもしれないが、それ以上に今の段階で手に入る防具とは比べ物にならない筈なのだ。
しかし、もしベルの言う事が本気だった場合…
取り敢えずアルゴは目の前のYesボタンを押してアイテムを受け取った。貰えるものならば貰っておくに限るというのが彼女の持論である。
だがしかし、それでも疑念は張れず、モヤモヤしたものを抱えたままアルゴはベルを見た。
「それにしても、ベル坊、お前一体…」
「じゃ、フロアボス倒しましょうか」
「は?」
アルゴが止める暇もなく、ベルはボス部屋を開いた。
アルゴの思考が止まって悠々と中に入っていく
ベルはボス部屋の中で現れたモンスターへと視線を向ける。
その姿は彼が過去に対峙したモンスター、ミノタウロスに似ていた。それでもなお、彼はミノタウロス以上の威圧感を感じないことに安堵の息を漏らす。
近くには第1層のフロアボスと同じ様に目の前のボス、バラン・ザ・ジェネラルトーラスよりも小さいモンスターが数体いた。
「何やってるんダ!!ベル坊!!」
「何って、だってこのモンスター倒したら第3層に行けるんですよね?」
「それはそうだガ、2人で戦うとか正気カ!?」
「??まあ、大丈夫だと思いますよ」
今直ぐ戻れと叫ぶアルゴを置いて彼はボスへと向かう。取り巻きモンスターが彼に突進するが、第1層同様、彼の一刀のもと切り捨てられた。
普通では考えられない光景にアルゴは絶句する。彼はボスの振り下ろしをジャンプで躱し赤い短剣でその腕を切りつける。
半ゲージほど減ったのが見えた。
あり得ない。フロアボス相手にこんな状況。レベル2であるベルがそのような攻撃力を持っているわけがない事にアルゴは疑念を抱く。
更に、ベルの動きの速さがあり得ない。まるで獣のように縦横無尽に駆け回る彼に一体どんなステータスが備わっているのかを彼女は知らない。
何もレベルが上がらないからといってステイタスが上がら無いわけではないのが、ベルの中での冒険者なのだ。しかし、SAOプレイヤーにとってステータスとはレベルが上った際に手に入るポイントを割り振って上昇させるものであり、根本からして仕組みが違うのだ。それに、彼は一つ幸運な事があった。通常、彼の冒険者でのシステムでは、それぞれのファミリアの長である神にステイタスの更新をして貰い、初めて上昇する。だが、何故か今の彼はモンスターを倒す度に更新されているのだ。
それには彼自身も気付いていて、それを素直に喜んでいた。
「ふっ!!」
更新されたステイタスから繰り出される攻撃はとても強力で、フロアボスの体力をみるみるうちに減らしていき、遂には残りゲージ1本となった。
しかし、そこで新たなモンスターが現れた。見かけは王冠を着けたミノタウロス。名前はアステリオス・ザ・トーラスキング。見上げるほどの身の丈にベルは凄い大きさだと、内心で呟いてモンスターの振り下ろしを躱し、腕を薙ぐ。
「固い!」
攻撃が入らない。いや、通常のプレイヤーならば十分な程のダメージだがそれは多数のレイドでボス攻略を行う時の話だ。少数の現状ではその固さは脅威となる。
しかし、いきなり攻撃が入らなくなったのにベルも傍観しているアルゴも疑問に思った。
再度武器による振り下ろしを躱したベルは、その腕を伝ってトーラスキングの顔に近付く。
ミノタウロスでも有効だった攻撃ならば通るはずと彼は振り回しの攻撃を躱して頭にナイフを突き刺した。
ゲージが一気に減少する。それに今更頭が弱点であると気付いたが、今からやることを止める理由にはならずに彼は、唱えた。
「ファイアボルト!!!」
ナイフを伝ってトーラスキングの内部へと放たれた赤い雷は内部からトーラスキングへとダメージを与え、そのゲージを0にした。
「いまのは、一体…」
Congratulationの文字が浮かび上がる空間でポリゴン体となって消え去ったボスから飛び降り、着地しているベルを見てアルゴは呟く。
彼女にとって信じられないことだが、確かに目の前でフロアボスをソロで攻略したという事実が行われ、彼女は放心したまま、満足そうに笑うベルを見ているのだった。
ベル坊……何処の魔王の子供かな?