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あぁ、なんだろう……とても嫌な音がする。
何かが燃えて、崩れていく音、誰かの体が壊れていく音。
どこまでも心を抉るような鳴き声に、頭を掻き乱すような絶叫。
そんな、聞いているだけで気が狂ってしまいそうな音の濁流の中で、一つ。たった一つだけ、僕の心に沁みこんでくるような……僕の傷をいやしてくれるような声があった。
どうやら僕のことを呼んでいるらしいその声に応じようと、ゆっくりと閉じていた瞼を開く。
「……よかった。ようやく起きたんだね?」
そうすれば、どうやら横になっていたらしい僕に覆いかぶさるようにして、とても綺麗な女の人が僕のことを覗きこでいた。
「もう、なかなか起きないから、心配しちゃったじゃない」
その人はとても辛そうで、だけど、それ以上に嬉しそうに笑っていた。血と土埃で汚れた顔は、それでもとてもきれいで、その笑顔は女神様がいるって言うなら、きっとこの人のことなんだろうな、なんて思うくらいで、でも
「……本当に、よかったぁ」
その人の胸からは、なんだかとがったモノが突き出ていて、そのとがったモノを伝って、真っ赤な液体が僕の上にどんどんと零れてきていて……
「……っぅ、ぅあ……」
それを見て僕は、その人が■んじゃうと思った。
それがとても悲しくて、ただでさえ痛かった胸がもっと痛くなって、目が厚くなって……
「もう、泣かないの。……男の子でしょう?」
世界が滲んだと思ったら、次から次へと涙が零れてもう止められなくなっていた。
「ね、お願い。笑ってよ……。私は、笑っている顔が見たいなぁ」
でも、悲しそうに笑うその人を見ていたら、ちゃんと笑ってほしいと思ったんだ。だから、僕は慌てて涙を止めようとした。とても悲しかったけど、絶対涙なんて止められないと思ったけど、それでも、その人が僕のせいで辛そうな顔をするのは嫌だった。
「……っふぅ、ぅう、ふ……」
やっぱり涙は止まらなくて、僕にできたのは流れる涙をそのままに、無理やり笑顔を作ることだけだった。
それでもその人は、とても笑顔なんて呼べないだろうグチャグチャの僕の顔を見て笑ってくれたんだ。
「……うん、ありがと。やっぱり君は、優しいね。」
そういうと、その人は一度目を閉じて、深く息をついてからまっすぐ僕の目を見た。
「最期に、約束してほしいんだ」
その人の言葉に、僕は何度もうなずいた。
体中痛かったけど、涙も止まらなかったけど、そんなことは気にならなかった。
……これから伝えられることが、とても大切なことだってわかったから。
◇
とぎれとぎれなその人の言葉を、目をそらさずに最後まで聞いて、僕はやっぱり何度もうなずいた。
「……ぁ、ゕった。わかった、よ」
喉から無理やり声も出した。
この約束は必ず守らなくちゃいけない。
とっても大好きだった。もう■んでしまう。もう会えなくなっちゃう人との、大切で大事な約束だ。
必ず守ると、伝えたかった。
「うん、よかった。これで、私、も、安心かな。ごめんね、ちゃんと幸せに――――」
その人の最期の顔は、満足そうで、やっぱり、とても綺麗だった。
◆
目を、開ける
どうやら、いつもの夢を見ていたみたいだ。
とても生々しく、とても痛々しい、僕の一番最初の記憶の夢。
時計を見れば、あと五分ほどで目覚ましが鳴りだす時間だ。
カーテンを開けた窓の前に立って、ゆっくりと顔を出す太陽を迎える。
「——大丈夫、頑張るよ」
その光を浴びながら、ゆっくりと、静かに言葉を紡ぐ。
思い出の中のあの人に、しっかりと伝わるように。