ラブライブ! その旋律は誰がために   作:米津

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#10 もう一つの顔

 

 

場所は都内某所にある喫茶店。

海未と西木野さんの2人との面会?はまだまだ続いていた。

 

 

「西木野さんは、作曲する時もピアノ?」

「ええ、そうよ」

 

 

彼女は幼い頃からピアノを習っていた経験があり、

その腕前はなかなからしい(海未談)。

 

 

「触りながらメロディを探ったり、降ってくるのを待つ感じね」

「ということはメロディが先なんだね」

 

 

メロディが降ってくる、って表現はやっぱり才能ある人らしい表現だよなぁ。

そして何より、音楽自体を楽しんでいるのが伝わってくる。

 

 

 

「あとは、海未の歌詞が先の時は、そこからイメージしたりもするわ」

「真姫は歌詞のイメージをそのまま曲にしてくれるので助かります」

「一番最初の『START:DASH!!』なんかも歌詞が先だったわね」

 

 

曲によって、歌詞と曲どっちが先かは違うみたいだ。

その辺りも臨機応変にできるのが二人の凄いところかもしれない。

 

 

「『START:DASH!!』は初めて聴いたとき鳥肌立つくらい良かったよ」

 

「……ありがと。あれは海未の歌詞のおかげね」

「ふふ、真姫に褒められるなんて……明日は雪でしょうか」

「もう、せっかく褒めてるのに」

 

 

やっぱり仲良さそうな海未と西木野さん。

作詞・作曲組の信頼関係もμ'sの曲の良さを生み出す要素の一つなのだろうか。

 

 

これは後から知ったことだけど、

START:DASH!!はμ's結成直後に3人で初めてライブをした時の曲らしい。

最初から曲がこのクオリティだったからこそ、じわじわ人気を獲得しているのかも。

 

 

「あの曲はコードも展開もザ・ポップスって感じだけど、西木野さんはポップスもよく聴くの?」

 

「そうね、ちょっと前まではクラシックとかジャズばかりだったんだけど、

 μ'sで作曲をすることになってからはなるべく聴くようにしてるわ」

 

「最近まで聴いてなかったのか!それであそこまでのポップスが書けるのは凄いな」

「と、当然でしょ!別に凄くないわよ」

 

 

本当にさらっと書けてしまうのか、実は陰で努力しているのかはわからない。

とりあえず、西木野さんはやっぱり自信家だ。

 

 

「2人とも、やっぱり音楽には詳しいですね」

「俺は全然そんなことないけど。海未も楽器始めてみる?」

「ふふ。考えておきますね」

 

 

海未が楽器をやるとしたら何がいいだろう。

どうしても和のイメージがあるから琴とかが似合いそうだけど、

シンガーソングライターっぽくギターとかピアノで弾き語りとかしてもらいたいかもしれない。

 

 

 

 

 

「やっぱり、西木野さんが弾いてるところ、見てみたい」

「う゛ぇえ……?!別に、大したものじゃないわよ」

 

 

話は変わって、前々から気になっていた話題に。

海未曰く、作曲のセンスはもちろんのこと、ピアノの腕前もピカイチということだからな。

 

 

「ダメかな?」

「……うぅ、分かったわよ」

 

意外と押しに弱かった西木野さん、思い切って頼んでみた甲斐があった。

こんな俺のお願いも聞いてくれるんだから、南さんにおねだりされたらどうなってしまうのだろう。

 

 

「……そのかわり!茅野先輩のギターも見せて」

「あっ、それは名案ですね」

「えっ?!俺のはいいよ、大したことないし」

 

 

まさかの提案にたじろいでしまう。そういえば、海未にも見せたことなかったっけ。

 

 

 

「ダメ……?」

「悠人……?」

 

 

 

……うっ!ここぞとばかりに上目遣いでお願いする西木野さん……ズルい。

こういうことをしそうなタイプじゃないだけに、威力は高いぞ。

 

それに便乗してる海未も、悔しいけど破壊力抜群だ。

 

 

 

 

 

 

「ダメじゃないです」

 

 

 

 

 

 

完全敗北。

 

 

 

 

 

 

 

「茅野先輩、ちょろいわね」

「ちょろいですね」

 

 

 

「ちょろいゆうな!」

 

 

 

結局まんまと策略にハマってしまったが、

西木野さんのピアノを聴けることになったのでプラマイゼロ、むしろプラスかな?

初めはぎこちなかった西木野さんも心を開いてくれてるみたいだし、よかった。

 

 

 

 

~~~

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わって西木野さんのお家の地下にある一室。

部屋にはグランドピアノにオルガンやキーボード、さらにはドラムセット、

ベースやギター用のアンプまで備え付けられており、さながら音楽スタジオだ。

 

 

いわく、家で音楽系の習い事ができるように増築された部屋らしい。

音楽をやっている身としては非常に羨ましい限りだ。

 

 

「すごいですね、真姫……私も初めて来ました」

「そうかしら?」

 

 

μ'sメンバーの海未もこの部屋に入るのは初めてらしく、物珍しそうに周りを見回している。

かくいう俺も、日頃使っている貸しスタジオよりも良い設備に驚きを隠せない。

 

普段は使えないような高価な真空管のアンプに思わず目を奪われる。

 

 

「そのアンプはパパの趣味らしいわ」

 

 

密かにテンションを上げながら間近でアンプを見ていた俺を見かねてか、

背後から西木野さんが解説してくれた。

 

 

「そうなのか、なかなか良いアンプじゃないか」

 

「まぁ、最近は触ってもいないみたいなんだけどね」

 

 

そうなのか、勿体無いな。よく見るとピアノ以外の楽器は使用感がない気がする。

そう言いながら西木野さんはピアノ前の椅子に腰を掛け、慣れた手つきで鍵盤蓋を上げた。

 

俺と海未は近くにあった椅子に腰掛け、演奏が始まるのを待つ。

 

 

「楽しみだな」

「ふふ、そうですね」

 

「……そんなに見られるとやりづらいんだけど」

 

 

俺も海未も西木野さんの方を見過ぎていたらしく、困り顔をされてしまう。

しょうがないじゃないか、楽しみなのは楽しみなんだ。

 

 

そう言って一呼吸。

 

 

一瞬の静寂の後――演奏が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

~~♪

 

 

 

 

柔らかなタッチから始まる、聞き覚えのある旋律。

 

クラシックに詳しくない自分でも分かる、心地よいフレーズ。

 

無機質な地下室がまたたく間に、温かみのある空間へと彩られる。

 

 

 

 

 

気がつけば一瞬で、西木野さんのピアノの世界に引き込まれていた。

 

 

 

 

 

何かをイメージしているのだろうか、その瞳は閉じられたまま、次々と音は紡がれる。

 

時に優しく、時に情熱的に発される一音一音が空間を、俺と海未を揺さぶる。

 

 

 

 

――想像以上だった。技術的な話うんぬんではなく、圧倒的な表現力。

 

緩急のついた演奏と、琴線に触れる豊かな音色。

 

そして何より、ピアノを弾く西木野さんは、この上なく楽しそうで……

 

 

一瞬たりとも目が離せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~

 

 

 

 

 

演奏が終わるとともに、俺と海未は西木野さんに心からの拍手を送る。

 

 

「よかったよ、凄くよかった」

「音楽室の時よりも迫力がありました」

 

「……ありがと」

 

 

演奏中の夢中な様子と打って変わって、照れくさそうな西木野さん。

 

鍵盤に手を置いた時は、まるで別人のようになるのかな?

……いや、むしろ普段は内に秘めた部分が出ている、と考えた方が自然かもしれない。

 

ピアノを弾く時とそれ以外の時のギャップも魅力的かも。

 

 

 

「じゃあ、次は茅野先輩ね」

 

「……ん?何が?」

 

「とぼけないで!ギターよギター」

 

 

マジか。あんないい演奏の後に弾かされるのか。胃が痛いな。

西木野さんも海未もこっち見てるし期待が伝わって余計に辛い。

 

とりあえず、セッティングしなくちゃ……

 

 

 

 

~~~

 

 

 

 

セッティングとチューニングを終え、アンプから音を出す。

やはりお父様こだわりのアンプだけあってか、ツマミをいじる前から既にいい音がする。

 

わざわざ家まで機材を取りに帰ったのもこれで報われたかも。

 

 

 

時に、こういう場で何を弾こうか、と考えた時にいつも思うのだ。

エレキギターは基本的にバンドの一部なので、ソロで何かするということが少ない。

 

ピアノなんかは1人で曲が成立するが、エレキはなかなか難しい。

 

ソロギター風にしてもいいけど、それだけではなんだし、ここは声に頼ってみようかな。

 

せっかく二人もいることだし。

 

 

「じゃあ、始めようかな……海未、協力頼んだ」

「えっ、私ですか?!」

 

「もしよければ、西木野さんも」

「ちょ、どういうこと……?」

 

 

多分まだ伝わってないけど、始まれば分かるはず。

緊張がほぐれるよう一呼吸置いて、演奏を始める。

 

 

 

本来はピアノのフレーズだけど、それをギターで代用したイントロ。

エフェクターは使わず、アンプ本来の自然な(ひず)みの音色で、

原曲のフレーズをなぞる。

 

本来よりもテンポを落として、素朴な感じに。

 

 

 

 

「これは……『START:DASH!!』ですか」

 

「もう……私の曲じゃない」

 

 

 

どうやら、無事イントロで伝わったみたいだ。

こっそり家で練習しておいてよかった。

 

Aメロ前で海未とアイコンタクトを取る。仕方ないですね、と言わんばかりの海未。

海未だけ見てるだけってのもズルいからね。

 

 

 

「~~♪」

 

 

観念した海未が歌い始めた。

本来は歌わないパートだが、さすがは作詞者、完璧に歌いこなしている。

 

 

そういえば、海未が歌うのを生で聴くのは初めてだな。

伸びやかな歌声。特に低音が綺麗にでていると思う。

 

 

海未1人に歌わせてバッキングだけしているのもあれなので、

下からハモるパートは歌ってあげよう。

 

 

Aメロが終わろうとするタイミングで、今度は海未が西木野さんとアイコンタクト。

やれやれという感じで返すと、海未と交代で歌い始めた。

 

 

西木野さんの歌声は、癖のあるややハスキー目な声。

かっこいい系の曲を歌わせたらピカイチに違いない。

 

そのまま突入したサビは、海未と西木野さん2人のデュオとなった。

2人とも吹っ切れたのか、とても楽しそうに歌っている。

 

 

――よくよく考えるとこのシチュエーションってかなり贅沢だよな……

 

 

 

 

~~~

 

 

 

「ふぅ」

 

 

2人に手伝ってもらいながら、演奏が終わる。

大好きな曲を、その作曲者と作詞者と一緒に演奏できるなんて、夢のようだ。

 

 

「2人とも、いい歌だった」

「もう、特別なんだからね」

 

 

西木野さんは特徴的な巻き髪をクルクルと弄りながら返してくれた。

海未も、どこか満足気な顔をしている。

 

 

「茅野先輩も、派手さはないけどいい演奏だったわ」

「ありがとう、でも2人のおかげだよ」

 

「でも、歌うのに精一杯だったのでもう少し悠人の演奏も聴きたいですね」

 

 

 

う゛ぇえ……そう来ますか!

 

 

 

「それもそうね」

 

 

 

に、西木野さんまで……もうμ'sの曲はコピーしてないぞ。

でも、ここまで良くしてくれた2人のお願いを聞かないわけにもいかない。

 

 

 

 

 

「それじゃあ先輩……」

 

 

 

 

徐ろに立ち上がり、再びピアノの方に向かいながら、

西木野さんが珍しく敬語で語りかけてくる。

 

 

 

「良かったらで、いいんですけど……」

 

 

 

 

「――セッション、しませんか?」

 

 

 

舞い込んできたのは、この上ない貴重なチャンスだった。

こちらこそ、よろこんで。

 

 

 




演奏シーンに歌詞がないので物足りない感じですが、規約に触れてしまうみたいなのでご容赦くださいm(__)m
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