ラブライブ! その旋律は誰がために   作:米津

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#16 相棒

 

「それじゃあ、今日の練習はここまでにします」

 

 

今日も無事μ'sの練習は終わり、『お疲れ様でした』と屋上にメンバーの声が響く。

柔軟や発声といった基礎練習、ダンスの練習など、日々充実した活動をしているわ。

 

相変わらず海未の指導と、エリーがコーチの時の柔軟は大変だけど。

 

 

「かよちん、真姫ちゃん!ラーメン食べに行こうよ!」

「えええ凛ちゃん、昨日も行ったのにまたぁ?!」

 

 

まったく、凛の体力は底知れないわね。

花陽もそう言いながらも付き合う気満々なのが、さすが幼なじみといったところかしら。

知り合って1年も経っていない私からすると、ちょっと羨ましいかも。

 

 

「私は、残ってピアノ弾いてる」

「えぇー?!真姫ちゃん最近付き合い悪いにゃー」

 

「なになに~、どうしたん?」

「希ちゃん!真姫ちゃんが一緒にラーメン食べに行ってくれないんだよー」

 

 

ごめんなさい、凛。

付き合ってあげたいのも山々なんだけど、私は弾かなくちゃいけないの。

 

 

「また今度ね、凛」

「本当だよ、約束だからね!」

「それじゃ、真姫ちゃんの代わりにウチがお供しようかな」

「おぉ、さすが希ちゃん!よ~し、行っくにゃー!」

 

 

約束を交わすと凛はみるみるうちに元気に。

多分そんなつもりはないんだろうけど、希のフォローに感謝しなくちゃ。

 

 

「真姫ちゃんも、根を詰めすぎたらあかんよ?」

「……分かってるわよ」

 

 

相変わらず、希は人のことをよく見てるんだから。

凛だけじゃなくて私にまで……もちろん他のメンバーにも、常に気を配っているように見える。

ここまで周りをよく見られるのは一種の才能ね。

 

 

「真姫、また音楽室ですか」

「海未……」

 

 

タオルで汗を拭きながら、海未が近づいてくる。

メンバーと同じ運動量をこなし、コーチも務めてるのに、涼しげな顔をしているのはさすがね。

 

 

「……最近、インスピレーションがすごく湧くのよ。だから弾きたいの」

「ですが……無理は禁物ですよ」

 

 

海未まで、希みたいな事を……。心配してくれるのは嬉しくもあるんだけど。

まったく、μ'sにはお節介焼きがたくさんいるんだから。

 

 

「平気よ、どこかのリーダーじゃあるまいし、加減は出来るつもりよ」

 

     「――ヘックシ!!」

 

「ふふ。なら私も音楽室に行くとしましょう」

「そんな、そこまでしなくていいわよ」

 

「勘違いしないでください。

 たまたま生徒会の残りの仕事を音楽室でしたくなっただけなので」

 

 

そんなこと言って、ちょっといたずらっ子っぽい顔になってる海未。

……もう、変なところで強情なんだから。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

結局、2人で音楽室に来てしまった。

海未は律儀にも、本当に書類を持ってきて仕事らしきことをしている。

私の心配をする前に自分の心配をした方がいいと思うけど、きっと言っても無駄ね。

 

 

最終下校までは、あと1時間と少しくらい。

すぐに帰って家のピアノを弾いてもいいのだけれど、ずっと同じ場所で弾くよりはこうして違うピアノを触る方が気分転換にいいの。

 

 

私が宣言した仮歌の提出まで、もうあまり時間がない。

なんとか形にしなくちゃ、その一心で先日からピアノを弾き続けている。

 

 

……さっきはインスピレーションがどうとか言ったけど、あれは嘘。

むしろ今までよりも、苦戦していると言わざるを得ない。

 

 

 

 

こうして行き詰まると、頭に浮かぶのは決まってあの人の顔だ。

 

 

初めて会うやいなや、私の曲を、この上なく褒めてくれた人。

別に今までだって褒められることはあったし、それだけの曲を作ってきた自信もあった。

 

けど、ある程度しっかり音楽をやってきた人に褒められるのは、初めてだったと思う。

 

 

こっちのことを見つめて、真顔で……大好き、だなんて。

うぅ、今思い出しても恥ずかしい。曲のことだって、分かってるのに。

まったく、わざとやってたんじゃないかしら……。

 

 

でも、実際そういう人に褒められるのは、嬉しい。

楽器は違っても、音楽という共通の趣味を持つ人にしかわからないこと、色々あるもの。

特に、悠人先輩みたいな音楽理論の知識もある人は、私の周りにはほとんどいないし。

 

そんな人に褒められると、自分が今までしてきたことが正しかったんだ、

まだピアノを続けていいんだ、音楽を好きでいていいんだと認められた感じがするの。

 

 

 

だから次の曲も、いいものを作らなくちゃ。

別に、悠人先輩に褒められたいからとかじゃないわよ?!ただ、期待に応えたいだけで……。

 

 

 

 

 

なのに――

 

 

 

ピアノを弾く手が止まる。

 

 

 

どうして?

 

アイデアは浮かんでこない。

悠人先輩には「メロディが降ってくるのを待つ」なんて言っちゃったくせに。

一向にそんな気配はない。

 

 

 

「……真姫?」

「……ちょっと休憩してるだけよ」

 

 

気付いたら鍵盤を叩く手が止まっていたらしく、それに気付いた海未に心配されてしまう。

 

 

「ですが……なんだか辛そうですよ?」

「っ、そんなこと

 

 

どうやら顔に出てしまっていたみたい。

世話焼きの海未のことだから、ここまできたら隠し通すのは難しいかもしれないわね……

 

 

「……気分転換に、お話でもしましょう」

「え?」

「それとも真姫は、私と話すのは嫌ですか?」

 

 

わざとらしく首を傾げながらこちらを見つめる海未。

嫌なことなんてないって、分かりきってるくせに。海未に小悪魔は似合わないわよ。

 

 

「まさか」

「ふふ、ありがとうございます」

 

 

分かりきってた答えに対して、海未は柔らかく微笑む。練習中は檄を飛ばしていることが多いから、その反動なのかしら。こっちの穏やかな海未と過ごせるのは、音楽室で二人になることが多い私の特権かも。

 

 

「……訊かないのね」

「何のことでしょう」

 

 

私の手が止まっていた理由、少し辛そうだった理由。

真っ先に訊かれると思っていただけに、ちょっと拍子抜け。変に気を使われちゃったかも。

 

 

「それとも、訊いて欲しかったんですか?」

「そういう訳じゃ、ないけど」

 

 

またこっちを見て微笑む海未。

何だか上手いように転がされてる気がする。悔しい。

 

 

「そんなことより! お話、するんでしょ?……何か話しなさいよ」

「ふふ、そうでしたね」

 

 

口元に手を当て、考えるような仕草をする海未。

西日が差す音楽室で、思考に耽る文学少女。見慣れた光景なのに、なんだか絵になる構図ね。

 

 

「ほら、この間の弓道の大会とかどうだったのよ」

「なるほど、良い話題ですね」

 

「もっと早く言ってくれれば、見に行けたのに」

「それは何というか……すみませんでした」

 

「別に、謝らなくてもいいけど。穂乃果とかことりあたりはやっぱり見に行ったんじゃない?」

「さすが真姫、よくわかりましたね」

 

 

何故わかったんですか、と言わんばかりに驚いた様子の海未。

そりゃ分かるわよ、あなた達くらい長い幼なじみなんてなかなかいないんだから。

 

 

「そうそう、実はあの日悠人も来てくれたんですよ」

「えっ?……悠人先輩も?」

 

 

予想だにしていなかった名前に思わず声が上ずってしまう。

いや、よくよく考えれば海未の友達なんだから何もおかしくはないんだけど。

 

 

「悠人先輩……ですか」

「あっ」

 

 

海未の一言で気付いた。

この間3人で会ったときは、まだ『茅野先輩』呼びだったじゃない。

別に特別なことは何もないはずなのだけど、変に思われちゃったかしら。

 

 

「べ、別に、堅苦しいかなと思って変えただけよ」

「何も言ってませんよ?」

「うぅ……」

 

 

何か、どんどんドツボにハマってしまっている気がする……

そうよ、別に何もないんだし気に病むことはないわ、真姫。

 

 

「……先輩、元気にしてた?」

「はい、この間は穂乃果とことりとも仲良くなってましたし」

「って穂乃果たちと先輩一緒だったの?!」

 

 

海未が、さらっとビックリすることを言う。まさか、穂乃果とことりとも知り合いだったなんて。

でも、昔から海未と知り合いならその幼なじみの2人と交流があっても不思議じゃないわね。

意外と先輩と共通の友達って多いのかも?

 

 

「えぇ、あの3人が一緒に来た時はかなり驚きました」

「そりゃそうよ、あそこが繋がっているとは思わないもの」

 

「もしかしたら、他のメンバーとも知り合いかもしれませんね」

「……流石にそれはないんじゃない?」

 

 

まぁ、悠人先輩と誰が仲良くなろうと別に何とも思わないけどね。

……本当よ?……ちょっときっかけが気になるくらいよ。

 

 

「そう言えば、悠人はこの間のセッション、相当楽しかったみたいですよ」

「へ、へぇ……そうなの」

 

「『海未からもお礼を言っておいてくれ』、って伝言も頼まれてしまいました」

「まぁ、この真姫ちゃんとセッション出来るなんてそうそうない機会だもの、当然よ」

 

「ふふ、そんなことを言って顔が嬉しそうですよ?」

「そんなことない!普通よ普通!」

 

 

練習の時と同一人物とは思えない、柔和な笑顔。いや、ちょっとだけイタズラ顔?

まったく、海未ったら人のことをからかおうとして。近いうちに、お返ししてあげるんだから。

 

 

 

「これで少しは、気が紛れましたか?」

「えっ?」

 

「さっきまでちょっと辛そうだったので、気分転換してもらいたくて」

「海未……」

 

「もちろん曲作りも大事ですが、真姫自身ももっと大切にしてくださいね」

「……ん。ありがと」

 

「おや、いつになく素直ですね」

「うるさい」

 

 

 

海未はずるい。からかってきたと思ったら、今度はこんなに優しいなんて。

でも、思い返せば海未は元からこういう人だったわね。

 

 

こうして2人で音楽室で時間を共にするのは、μ'sに入ってからずっと変わらない。

私がまだグループに馴染めていなかった時から、いつも近くで私のピアノに耳を傾けてくれて。

演奏が終わると、少し低めの穏やかな声で、素直な感想を言ってくれてた。

 

帰り道でも、いろいろと話題も振って、私に気を遣ってくれて。

多分海未も、私と同じで口が回る方じゃないのに。本当に優しい人。

 

打ち解けた今は、さっきみたいにからかわれたりすることもあるけど。

そんなお茶目な部分と、真っ直ぐな優しさが、ずるい。

 

……もし海未が男だったら、惚れてしまっていたかも。まぁ、そんなifの話をしても仕方ないわね。

 

 

結局この後、曲作りは切り上げて、海未と2人で家路に。

何回も2人で歩いてきた、見慣れた帰り道。

 

その途中、改めて少し考えてみた。

 

 

μ'sみたいなグループの楽曲作りは、やっぱり曲と詩のコンビネーションが要。

どちらが欠けても、マッチしなくてもダメ。

作詞と作曲を分けるということは、その分お互いの意図や思惑まで察し、考え、歩み寄らなきゃいけない。

だから、あえて言うなら、海未は私の相棒。

 

もしかしたら今日、少しだけ彼女との距離がまた近くなったかもしれない。

こんなずるくて優しい相棒となら、どんな名曲だって作れそうな気がした。

 

 

 

 

 








@umimaki_diary
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