ラブライブ! その旋律は誰がために   作:米津

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#17 真夜中のSOS

現代の技術の発展は留まることを知らない。

特に、情報技術に関してはそれが顕著だ。

 

手紙がメールになり、今では多種多様なSNSが定着。

四六時中いつでも自分をネットの海へと発信することが出来てしまうなんて、昔の人は想像もしていなかっただろう。

 

一度(ひとたび)タイムラインを開けば、色々な情報のみならず、人々の感情が大量に流れてくる。

ネットの匿名、あるいは半匿名に慣れると、そういった感情も単なるデータ、単なる文字列にしか見えなくなってもおかしくはない。

 

ニュースでもどこかの評論家が、最近の若者は人の心の機微に疎いだなんて言っていた。

嘘か本当かわからないが、いつでも繋がることが出来るというメリットは、デメリットも生んでいるらしい。

 

 

 

~~♪

 

 

 

机の上のスマホが振動し、画面にはポップアップとともに1件の通知が現れる。

その通知は、”最近の若者”である俺を驚きで飛び上がらせるには十分だった。

 

 

        『西木野真姫:助けて』

 

 

現在時刻は午後9時を過ぎたくらい。こんな時間に、高1の女の子からこの内容。

突然のSOSに一抹の不安を覚えつつ、通話ボタンを押す。

 

この状況に相応しくないポップな呼び出し音が鳴る中、真姫が通話に出るのはすぐだった。

 

 

『ちょ、ちょっと! 何でそんなに早……痛!』

 

 

通話用スピーカーから聞こえてきたのは、予想に反して元気そうな声。

元気というよりは……少し慌ててる?

そして、何かをぶつけたような打音と、何かを痛がる声。

 

どうやら、恐れていた状況ではなさそう。

 

 

『もしもし?悠人先輩、聞こえてる?』

 

 

黙っていた俺を訝しんだ真姫が、こちらを確認する。

 

 

「ん、すまん。聞こえてる。……で、いきなりどうしたの『助けて』なんて」

『そ、それは――』

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

『……もう、笑わなくたっていいじゃない!』

「ご、ごめんごめん。もう大丈夫だから……ふふ」

 

 

事の顛末はこうだ。

 

悩みごとがあった真姫。

その悩みを俺に相談しようと決めるも、どう切り出していいか分からず、

メッセージ入力欄であぁでもないこうでもないと繰り返している内に送信ボタンを押してしまう。

 

ミスに気づくも、覆水盆に返らず。削除機能も無いため慌てていると、

俺からの着信で更にビックリ。反射的に通話ボタンを押すが……

 

後はもうさっきの電話越しの鈍い物音で察してあげて欲しい。

 

 

真姫には申し訳ないが、予想外のお茶目さにしばらく笑いが収まりそうにないや。

 

 

『もう、まだ笑ってる!』

「ごめん、もう大丈夫だから……で、相談したいことって何かな?」

 

『それは……』

 

 

電話越しに、言いよどむ真姫。

できる男だったら『言いたくなかったらまた今度でいいよ』なんて気の利いたことが言えるのだろうが、あいにく俺にそんなスマートなことは出来そうになかった。

先日のセッションでは、とにかく楽しそうに、自信に満ち溢れた表情で鍵盤を叩いていた真姫。

そんな彼女が持ち出してきた相談に、心の何処かで俺も動揺していたのかもしれないな。

 

 

 

 

『……作曲を、手伝って欲しいの』

 

 

数秒の沈黙の後、彼女の口からこぼれたのは、意外な言葉。

自信家の真姫とは思えない、弱々しい口調。

 

 

「作曲って……μ'sのか?」

『うん』

 

「良かったら、もう少し話聞かせて?」

『……わかった』

 

 

ポツリポツリと語りだす真姫。

 

絞りだすように、紡がれた生々しい言葉。

 

電話越しでも辛そうな状況が手に取るように分かった。

 

 

 

本人の話によれば、真姫はちょっとしたスランプに陥ってしまったようだ。

曰く、これまでそういった状況になったことはない、とのこと。

 

……スランプは、メンタルに来てしまうよな。

それまで順風満帆に進んでいた物事が、ある日を境に一変、上手く行かなくなってしまう。

スポーツ、学業、芸術etc...人によって形は違えど、その衝撃は大きい。

 

真姫の気持ちがわかる、なんて大それた事は言えないが、俺も受験時に一度味わった感覚だ。

一度意識してしまったら最後、日常生活のあらゆるところでその悩みに(さいな)まれてしまう。

そして、勘違いでなければ真姫は、俺と同じく『人に相談する』ということが苦手な部類に入るはずだ。

 

 

自分の言葉で、他人に内面を吐露すること。それはとても怖くて、大変な作業。

その内容が、私的なものであればあるほど余計に。

 

 

だから、彼女にかけるべき声は、きっと――

 

 

 

「話してくれてありがとう、辛かったね」

 

『……こっちこそ、聴いてくれてありがと』

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

「落ち着いた?」

『ええ。もう大丈夫』

 

ひとしきり話した真姫が元に戻るまで、少し時間が必要だった。

さっきまでの彼女は、まるで少しだけ幼くなったみたいで新鮮だった。

本人には怒られるので言わない。

 

 

「で、どうしようか、作曲」

『悠人先輩、作曲したことはあるの?』

 

「無くはないよ、数える程しかないけど」

『良かった。考えてた通りね』

 

「一回、譜面とか録音があればもらった方がいいかな?」

『まぁそれでも、いいんだけど……』

 

「あぁ、まだそういうのは作ってなかったり?」

『いや、そういうわけではないんだけど……』

 

 

本調子に戻ったと思った真姫だったが、どうにも歯切れが悪い。

一旦こちらからの提案をやめ、続きを促す。

 

 

『その……もしよければで、いいんだけど』

「うん」

 

 

『私の家……来ませんか?』

 

 

真姫の口から飛び出たのは、特大級のホームラン。

けれど俺はその一言を、決して聞き逃さなかった。

 

聞き逃さなかったんだけど……驚きで言葉が出ないのは、数年前の海未の時と同じ状況だ。

 

 

『な、何か言いなさいよ!』

「すまん、ビックリしてつい」

『それで……どうなの?』

 

 

すっかり(俺が思う)いつもの真姫に戻り、口調も強気だが、

多分こういうお誘いをするには勇気がいるはず。俺だったらそうだし。

 

むしろ、軽々しく言える女の子はあんまり……この話はやめておこう。

 

だから、茶化さずに答える。

 

 

「真姫がいいなら、大丈夫だよ」

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

真姫との突然の電話から数日後。

時刻は15時を回ったところ。

 

学校の授業を終え、海未や真姫の最寄り駅に来ている。

思い出せば、初めて真姫に会った時もこの場所で待っていたな。

 

 

ただ、その時と大きく異なるのは一点。

 

 

待っている相手が、真姫1人ということ。

 

 

あとは、待ち合わせの段階からギターケースを背負っているということくらいか。

今日は作曲がメインということで、エレキギターではなくアコースティックギターにしてみた。

 

 

アコギは一見エレキより大きく、重そうに見えるという人もいるかもしれないが、

中身がくり抜かれているので基本的にはエレキよりも大分軽い。

 

アコギのいいところの一つは、エフェクターやアンプといった機材を介さずに満足な音量、音色で演奏できるところにある。なので、大きな駅前で演奏するストリートの人たちは、大抵アコギを抱えて演奏している。

加えて、アコギにはエレキにはない独特のきらびやかさや、素朴さもあるしね。

 

じゃあエレクトリックアコースティックギターはどうなの、という話は余談にも程があるので割愛。

 

 

 

そうこうしている内に、視界の隅から真姫が現れた。

以前と変わらない、ふわふわした巻き髪に、キリッとした顔立ち。

 

 

「よっ」

「ごめんなさい、待たせちゃった?」

「いいや、来たばっかだよ」

 

 

ただ、少し新鮮なのは――

 

 

「制服、なんだな」

「学校から直接来たんだもの。普通じゃない?」

 

「まぁ確かに……似合ってるぞ」

「……もしかしてロリコン?」

 

「俺も高校生なんだけどなぁ!」

 

 

私服だけど高校生です。

 

今日の真姫、ちょっとトゲトゲしてない?これが普通なの?

この間の電話の時は、もっと丸かったのに。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

真姫の隣を歩きながら、彼女の自宅へと歩みを進める。

道を覚えるのには自信があるから断ったんだけど、真姫は何故か駅で待ち合わせることを譲らなかった。

 

道中の様子を見る限り、先日の少し弱った感じからは復活できているようだ。

少なくとも、ちょいちょいツンツンしているあたりは元気なのだろう。

……またピアノの前に座れば分からないが。

 

 

「着いたわ」

「うん、知ってる」

 

「……」

「……」

 

「着いたわ」

「お、おー、いつの間に、わからなかったなぁー」

 

 

ふふん、とどこか誇らしげな真姫。

どうやらよっぽど案内したかったらしい。何となくツッコまないほうがよさそう。

 

大きな門を開け、敷地内に足を踏み入れる。

 

 

「こっちよ」

 

 

真姫が手招くのは、玄関とは異なる方向だった。

この間海未と来た時は玄関からだったんだけど、何だろうか?

 

 

「地下室、こっちからでも直接入れるの」

 

 

不思議そうに見回していた俺の意図を汲み取ったのか、説明が入る。

なるほど、この方が機材の搬入搬出は楽そうだ。

 

階段を降り、重たい地下スタジオの扉を開けると、記憶に新しい景色が飛び込んできた。

スタジオ独特の匂いが、鼻孔をくすぐる。

さて、助けになるかは分からないが、真姫のために頑張らないとな。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

時は若干戻り、通学路。

 

 

凛ちゃんといつもの場所で別れ、家に向かっていた途中。

 

 

「あれは……真姫ちゃん」

 

 

偶然にも、制服姿の真姫ちゃんを見かける。……あれ?

 

 

「真姫ちゃんと……男の人?」

 

 

花陽、とんでもない瞬間を見てしまったかもしれません!

男の人は、なにか大きな荷物を背負っていて……同じ高校生?私服だからよくわかりません。

 

でも待って、ただの親戚の男の子だったりするかも。

花陽が考えちゃってることが本当とは限りません。

 

あぁ、気になりますぅ!でも、後をつけたりしたら真姫ちゃんに悪いし……

 

 

「花陽は何も見てません!」

 

 

そう、何も見てないんだ。凛ちゃんと別れて、真っ直ぐお家に帰っただけ。

花陽の気になる心よりも、真姫ちゃんのプライベートの方が大事だもん。

 

おとなしく、帰ろう。

 

 

 











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