ラブライブ! その旋律は誰がために   作:米津

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何の曲を作っているのか想像しながら見てみてください!
ご存知(?)μ'sのあの曲になっています。


#19 二人きりの合宿 後編

 

世の中の作曲家はしばしば曲やメロディーが『降ってくる』といった表現をする。

 

風呂やトイレで考え事をしている時、屋外で自転車に乗ったり、散歩をしている時。

はたまた、スポーツに励んでいる時。

 

インタビュー等で語られる、その時のシチュエーションは枚挙にいとまがない。

 

 

では、それらはいわゆる天才にしか訪れないものなのだろうか。

 

答えは恐らく……NOだ。

 

 

一般人と天才の違いは、降ってきたもの自体の質が高かったり、それを実際の作品にまとめ上げる力が優れていたりするという点だけに違いない。

 

 

 

前者は……どうにもならない。

だが後者は、努力で補えるのではないだろうか。

 

 

降りてきた微かな欠片を、確実に拾い集め、形にするイメージ。

時には自前の接着剤なんかも使いながら。

 

とにかく、浮かんできたものに対し貪欲にくらいつけば、

天才の足元くらいには及ぶことができる、そんな希望を胸に。

 

少なくとも、自分はそう思っている。

 

 

 

 

 

目の前でピアノを弾く真姫に視線を向ける。

数時間前までの強張りは消え、楽しんでいる感じは戻ってきた。

 

とはいえ、まだ新曲の”前髪”を掴むには至っていないらしい。

 

 

彼女が、天才なのか、そうでないのかはわからない。

そもそも、俺にはそれを決める資格もなければ、技量もない。

 

 

ただ一つ言えるのは、俺は真姫の作る曲が大好き、それだけ。

 

 

だから、本当のところは、彼女が天才かどうかなんて瑣末なこと。

今のもがいている真姫の背中を、そっと押してやるのが、今の自分の役目だと勝手に自負している。

 

 

 

 

……これは推測だが、今までの真姫は、曲やメロディーが降ってきて、

それをまとめあげるまでの流れがごくスムーズに行えたのだろう。

 

彼女にとって、それが当たり前。

 

だがその当たり前が上手く行かなかった今、それをリカバーする方法をなかなか見つけられずにいるのだろう。

 

 

 

 

今、彼女にとって必要なのは、ほんの小さなキッカケ。

 

知らぬ間に掛け違えていたボタンを、戻してあげればいい。

緩んでしまったネジを、再び締めてあげればいい。

 

 

だから俺は、そのキッカケをどうにかして与えてあげたい。

何かあるはずだ、解決のための糸口が。

 

 

 

目に浮かぶのは、セッションの日の真姫。

 

何度も思い浮かべてきた、忘れられない光景。

 

心から、音楽を楽しんでいる姿。

叙情的に、時に情熱的に。

 

 

ん?情熱的?

 

 

 

情熱的…………ひょっとしたらこれは。

 

 

 

 

 

 

「真姫!ちょっとストップ」

「先輩……どうしたの?」

 

 

いきなりの声掛けに戸惑いつつ、鍵盤から手を離す真姫。

だが、掴みかけたかもしれない何かを手放したくない一心で続ける。

 

 

「『今までにない感じの曲』、だよな」

「え、えぇ」

 

 

色々曲を模索するために使っていたカポタストをギターから外す。

作曲がメインだから、という理由だけで今日選んで持ってきたアコースティックギター。

 

そうだ、エレキにはない魅力を存分に出してもらおうじゃないか。

 

「こんな曲、どうかな」

「……」

 

 

突然の俺の提案に、固唾を呑んで見守る真姫。

 

 

~~~♪

 

 

 

彼女の期待を一身に背負い、4カウントの(のち)6弦を掻き鳴らす。

真姫の音楽に対する静かな”情熱”から得たヒント。

 

 

Em(イーマイナー)調(キー)にし、ザクザクと、荒っぽく繰り返すコードストローク。

B7(ビーセブンス)をアクセントにした、決して難しくない、よく目にするコード進行。

 

 

イメージは、海の向こうの情熱的な音楽。

少し時期が過ぎているが、真夏の灼熱を想起させる雰囲気。

 

 

気が付くと汗ばむほど熱っぽく演奏に集中していた。

 

あくまで目的は真姫のキッカケ作りなので、一段落したところで手を止める。

 

 

 

 

「……」

「……」

 

「どう、かな?」

 

「……確かに、今までにない曲調」

 

 

問いかけに、ポツリポツリと応じる真姫。

こちらとしても、彼女の反応から目が離せない。

 

 

「……」

「真姫?」

 

 

すると真姫は、返事をする代わりに再び鍵盤に指を走らせる。

さっきの俺の演奏を、彼女なりになぞる。

 

 

 

 

~~♪

 

不意に始まったのは、先程まで存在していなかった、歌メロ。

ラララのみの仮の歌詞とともに、伴奏に旋律が加わる。

 

 

完璧だ。

 

さっき俺の頭に微かに浮かんだイメージが、余すところなく再現されている。

それどころか、彼女なりのアレンジも随所に加わっており、一気に曲がハッキリ輪郭を帯びていく。

 

 

この名もなき新曲に、ハスキー目な彼女の声はこの上なくマッチしており、

さっきまで頭にあった情景がクッキリと再び現れる。

 

 

 

 

これまでの不調が嘘であるかのように、動き続ける真姫の指。

一度舞い降りたインスピレーションを余すところ無く作品に昇華させようと一心不乱にピアノと向き合っている。

 

その姿は、セッションの時のそれと重なる。

 

 

綺麗だ……

 

 

絶えず耳に飛び込んでくる生々しい音も相まって、浮かんできたシンプルな感情。

この新曲が完成する数十分後まで、真姫から目を離すことが出来なかった。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

誰も居ないリビングの電気を付け、台所へと向かう。

この広い空間に一人だけなのは、もう慣れた。

 

寂しくない、と言ったら嘘になってしまうけど。

 

 

花陽や凛、μ'sのメンバーに比べると、家族と過ごす時間はきっと一番少ない。

 

『昨日お父さんがね、……』

『この間お母さんが……』

 

そんな話題を聞く度に、ちょっとだけ羨ましく思う。

だけど、うちのパパとママが忙しいのは仕方ないし、病院や患者さんのために必要なこと。

それはとても誇らしいことだし、これでいいんだと自分を納得させる。

 

 

そんなルーティーンは、もう何度となく繰り返されてきたこと。

 

 

それに今は、μ'sのみんながいる。

まさしく太陽のような子に手を引かれ、スクールアイドル活動を始めてから早数ヶ月。

私の周りの世界は、うるさいくらいに賑やかになった。

 

朝と放課後に練習して、みんなで喋りながら一緒に帰る。

時にはどこか寄り道もしながら。

 

それだけで、満たされて温かい気持ちになる。

……こんなこと、恥ずかしすぎて絶対メンバーには言えないケド。

 

 

 

 

柄にもなくそんなことを考えながら、二人分の紅茶を淹れる。

悠人先輩に好みの種類を訊いたら、意外にもミルクティーだった。

 

可愛いチョイスね、なんて言ったら珍しく恥ずかしそうにしていた先輩。

ふふ、時々からかわれてるお返しね。

 

 

……初めて陥った、スランプ。

 

良い曲を作ろうと気負いすぎて、空回りしちゃってたみたい。

今までこんなことなんてなかったから、余計に焦っていた。

 

 

そんな私の中にあった原因を意図も簡単に当ててみせた先輩。

勇気を出して、助けを求めて本当によかったと思う。

 

あの人なら、おざなりの言葉で濁したりしないと思ったから。

 

 

それどころか、先輩は新曲のアイデアまでくれて。

情熱的に掻き鳴らされるギターが耳に入った瞬間、今までの迷いが吹き飛んで、気がついたら口からメロディーがこぼれていた。

 

本当に、これまでの不調はどこにいってしまったのだろう。

 

 

 

 

とにかく、改めてお礼を言わなくちゃ。

 

 

普段は使わないお盆を棚から取り出し、ティーカップを2つ載せ、慎重に地下室へ。

 

紅茶が零れないよう、そっと二重扉を開け、中に入る。

 

 

 

「先輩、おま…………たせ?」

 

 

異様に静かな室内、少し不思議に思って目を向けると、穏やかな顔で眠っている悠人先輩の姿が見えた。

 

丸椅子に腰掛け、防音壁を背もたれに。

器用なことに、ギターを抱えたまま。

 

 

「……寝てる?」

 

 

起こしちゃったら悪いので、小さな声でおそるおそる尋ねる。

返答は…………ない。

 

ひとまずお盆を適当な場所に置き、先輩の様子を窺う。

 

 

 

――どうやら、本当に眠ってしまっているらしい。

 

耳を澄ますと、微かに寝息も聞こえてくる。

 

 

 

時計に目をやると、思っていた以上に時間が経っている。

先輩、疲れていたのかしら。

 

 

先輩に近づいてしゃがみ、顔を見上げる。

 

下から見ると、本当に穏やかな顔ですやすやと眠っている。

普段は割りかしキリッとしている人なだけに、貴重な光景かも。

 

……ちょっとだけいたずらでもしちゃおうかしら。

 

そう思いスマホを取り出すと、無音カメラでパシャリ。

ふふ、起きたらこれ見せて驚かせてやるんだから。

 

 

「真姫……」

「っ!」

 

 

やばっ、起こしちゃった?! 

 

 

 

 

 

 

 

……ただの寝言、気のせいね。

 

それにしても、夢で私のことを見てるなんて……何か恥ずかしい。

どんな夢、なのだろう。

 

 

もう一度、悠人先輩を見上げる。

 

 

 

 

……よくよく考えると、こんな近い距離でマジマジと、パパ以外の男の人を見たのって初めてかも。

 

そう思った途端、急激に恥ずかしくなってきた。

自分でも気が付かないうちに五感が敏感に研ぎ澄まされていく。

 

 

自分の鼓動が、うるさいくらいに聞こえてくる。

落ち着こうとしていつもより多めに息を吸うと、普段この部屋からはしない匂い。

 

 

――男の人の、匂いがする。

 

 

そう意識してしまうと、余計にドキドキしてしまう。

 

 

やだ、私……何考えてるの?

 

 

先輩の匂いでドキドキするなんて。

これじゃ、その……変態みたいじゃない……

 

 

違う、私は正常なんだから。

でも、もう一回だけ……

 

 

今度は、さっきよりも近く。

起こさないように、そっと、首元まで寄ってみる。

 

 

んっ…………さっきより、濃い……

 

 

何なのこれ、変な感覚……ちょっと、癖になりそう。

 

 

 

 

 

~~♪

 

 

へ?!

 

 

急に聞こえてきた物音に後ずさる。

どうやら、先輩が抱えてるギターの弦に触れてしまったらしい。

 

幸い、先輩はまだ穏やかな顔で寝息を立てて眠りについている。

 

 

 

 

 

 

…………私、何してたのかしら。

 

ふと冷静になる。

私、とんでもないことをしてたんじゃ……?

 

うわああああ!違う!違うの!

さっきのあれは……そう、何かの間違いなの!

 

 

……ちょっと頭冷やそ、ついでにお風呂も。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「ん……」

 

 

いつの間にか眠ってしまっていたらしい。

不自然な体勢だったからか、疲れがあまりとれていない感じがする。

 

 

あたりを見渡すと、真姫の後ろ姿が。

パジャマっぽい服になっているから、寝ている間に風呂は済ませたのだろう。

 

場所をピアノからキーボードの前に移し、ヘッドフォンをかけて何やら演奏している。

寝ている自分を気遣ってくれていたらしい。

 

 

寝ながら抱えていたアコギをスタンドに立てかけて立ち上がると、

視界に入ってきたのは2つのティーカップ。

 

そうだ、真姫が紅茶を淹れにいってくれたんだった。

せっかく持ってきてくれたのに、寝てしまって悪いことをしたな。

 

 

でも、俺の分ならまだしも何で真姫の分も口が付けられてないんだろう?

 

 

ミルクティを口に運ぶと、やはり冷めきっている。

淹れたのを忘れた、なんてことはないだろうし。うーむ。

 

 

 

「……起こしちゃった?」

 

いつの間にかこちらに気付いたのか、

外したヘッドフォンを両手に持った真姫が振り返ってこっちを見ていた。

 

 

「いや、大丈夫。 紅茶、淹れてくれたのにごめんな」

「あっ……」

 

「ん?まさか本当に飲むの忘れてた?」

「……何でもないから、気にしないで」

 

 

何でもなくはなさそうだけど、真姫の方を見ると何故か目を逸らされた。

特に理由はないけど、訊いてはいけないことだったのかもしれない……

 

 

「そういや、風呂入ったんだな」

「えぇ、先輩もシャワーだけで良ければ」

「じゃあ、ありがたくいただこうかな」

 

 

◇◇◇

 

 

 

自分たち以外誰も居ない西木野邸の廊下を、真姫に案内してもらう。

確かに、一人じゃ冗談ではなく迷ってしまいそうだ。

 

そんなこの家のお嬢様は、起きてから心ここにあらずというか、そっけない。

案内はしてくれてるし、不機嫌というわけではなさそうなんだけど。

 

 

「こっち」

「お、おう」

 

何かしてしまったのだろうか、寝てる間に。いや、夢遊病じゃあるまいに。

 

年頃の女の子は、難しい。

 

「着いたわ」

「おう、ありがとう」

「シャンプーとかは好きに使って」

「了解」

 

「……」

「……」

 

 

 

沈黙。

 

 

「あの……」

「何かしら?」

 

 

 

「そこにいられると、脱げないというか……」

「……はっ!」

 

「もしかして、裸、見たかった?」

 

 

冗談交じりのポーズでセクハラまがいのセリフを放ってみる。

 

 

「そ、そんなわけ無いでしょ!意味分かんない!」

「いやあ、色男は辛いな~」

「だから違うってばぁ!」

 

 

真姫はぷくっと頬を膨らませ、抗議の眼差しをしているが、その仕草がまたいたずら心を駆り立てる。

結局彼女をなだめるのに数分を要したが、おかげで吹っ切れたのか、さっきまでのよそよそしさは消えていたので良しとしよう。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

「本当に、ここでいいのか?」

「えぇ、大丈夫よ」

 

 

そろそろ時間も時間なので、就寝することになったのだが。

真姫は、まさかのこの地下室で、布団を並べることを提案してきた。

 

確かに十分な広さはあるし、適度な清潔感もあるし、環境は悪くない。

だけど、なんというか、これでは親御さんに申し訳が立たないというか。

 

 

「自分の部屋のほうが、ベッドもふかふかでいいんじゃないか?」

「布団を並べて寝るのが、合宿でしょう?」

 

 

どうやら真姫の中の合宿のイメージは、そういうものらしい。

そんなことも知らないの?という具合にフフンと得意げな顔。

 

 

「ほら、ここまで布団運ぶの大変じゃない?」

「んー…… そう?」

 

 

その上、折れる気はあんまりないらしい。

色々と濃い時間を共有したとはいえ、付き合ってもいない男と同じ部屋で寝ることに抵抗はないのだろうか。

 

 

「それに……ここの方が、私たちらしくない?」

 

 

私たちらしい、か。

 

辺りにあるのは楽器、楽器、楽器。

思い出してみれば出会った日も、今日も、音楽ばかり。

 

 

 

多分、これからも。

 

 

これ以上否定することもないし、真姫の言う通りにしよう。

……理性を強く持つんだ、俺。 何もないと思うし、するつもりもないけど。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「電気、落とすわよ」

「あぁ」

 

 

頭上の蛍光灯が白色から薄暗いオレンジ色に変わる。

窓のない地下室だけあって、照明を落とすとその分だけがらっと暗くなる。

防音加工された壁に囲われているからか、異様な静けさに包まれる。

 

 

「静かだな」

「防音室だもの、当たり前よ」

 

 

そうだな、真姫の言う通りだ。

寝る前でもいつもの彼女らしさは健在のよう。

 

 

「あの……」

「どうした?」

 

 

薄暗い視界に、異様に静かな室内。

それほど近くないはずの真姫の声や息遣いがよく聞こえる。

 

 

「今日は……ありがとう。 お陰で曲も出来た」

「こっちこそ、楽しかった。 ありがとう」

 

「楽しかった?」

「ああ、楽しかった」

 

 

「変なの」

「変じゃないって」

 

 

「楽しそうにピアノ弾く真姫を見てるの、好きだから」

 

 

「……やっぱり、変よ」

 

 

「そうかなぁ……」

「そうよ」

 

 

眠いからか、いつもより柔らかな声で、真姫が答える。

薄暗くて顔は見えないが、絶対笑ってる。

 

本人はそっけなく言ってるつもりだと思うけど。

 

 

「μ'sも、応援してる」

「それは、素直に感謝しておくわ」

 

「希ちゃん推しだからね」

「むぅ、そんな事は訊いてない」

 

「今度、サインもらってきて」

「気が向いたら、ね」

 

「ついでに真姫のサインも貰ってあげる」

「ついでって何よ!私のサインはそんな安くないわよ!」

 

 

海未と真姫は、今や会おうと思えば会えるからなぁ……

μ'sファンの人には口が裂けても言えないけど。

 

 

 

そんなこんなで弾丸作曲合宿は幕を閉じた。

 

朝起きたら、真姫が死んだようなうつ伏せ状態で寝ていて驚いたのはまた別のお話。

 

 

出会ってまだ間もない真姫だけど、今回で大分彼女のことを知れたと思う。

いろいろな顔を持つ、面白い子だと思う。

 

音楽に没頭する真姫、それ以外のいじり甲斐のある真姫。

 

そして、スクールアイドルμ'sとしての真姫。

 

 

今日作ってた曲も含め、今後のμ'sの動向から目が離せそうにない。

 

 

 

 

 

 

 

 






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構想初期から書きたかった話の一つなので、是非一言でも感想を残してくださると嬉しいです!
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