μ'sのPVに釘付けにされた翌日、改めてその映像を見てみる。
個性豊かなメンバーは合計7人。
一晩経って冷静になった今でも、素直にいい曲だと感じる。
軽快なAメロが特にキャッチーだと思……
……ん?この黒髪の子……?
昨日は気付かなかったが、よくよく見てみると見覚えがある。
凛として落ち着いた佇まい、腰まで伸びた綺麗な黒髪。
「めちゃめちゃ海未っぽいぞこの子……」
――園田海未。
今は昔、中学3年生の頃、あるきっかけで知り合いになった数少ない女の子の友達。
打ち解けるまでにそう時間はかからず、仲は良い方だったと思う。
向こうも同じく思っていてくれていると、信じている。
とは言え、諸事情あって連絡先をお互い知らないまま、お互いに別々の高校に進学。
海未は地元の国立校、音ノ木坂学院。
俺は、そこから少し離れた私立の男子校。
なので現在、彼女とは実質音信不通の状態。
確かに海未は容姿端麗で、アイドルも務まるだろう。
友達という贔屓目なしに見ても、器量が良い女の子だったと思う。
可愛いというよりは美人の系統だろうか?
気になって仕方が無いので、PVを繰り返し再生している。
ああ、見れば見るほど海未に見えてくる。
……
だがしかし。
ディスプレイに映る少女が海未であるという憶測に"待った"をかける理由が一つ。
俺の知っている園田海未は、アイドルなんて人前に出て行くようなことはしないはずだ。
「スクール」アイドルとは言え、多かれ少なかれ人々の注目を集めることには変わりがない。
知りあった頃から彼女は真面目で奥ゆかしく、強い芯こそあれど奥手な子だった。
それに海未の家は日本舞踊の家元だ。
ある意味、アイドルとは対局にある存在とも言える。
うん、きっと人違いだ。世の中にはそっくりさんが3人いるって言うし、その1人がたまたま海未と同じ音ノ木坂にいてもおかしく……ないよな。うん。
いずれにせよ、久々に海未に会いに行こう。そこで真相を確かめて、あわよくば作曲者に……
そう、俺は今とてもμ'sに心惹かれている。
ダンスや衣裳も魅力的だが、特に心惹かれるのは、完成度の高い楽曲。
この曲を作曲したというメンバーの子には一度会って話をしてみたいほどだ。
兎にも角にも、再会をするにはもうこの機会しか無い。
1年以上ぶりに海未と会うのを目指し、神田方面へ。
◇◇◇
どうしよう。
視界に入るのは、女子、女子、さらに女子。
思い立って放課後の音ノ木坂学院前まで来てみたが、女子しかいない……。
いや、当たり前なんだけれど、これがアウェーというものなのか。
よく、女子高に潜入するのが男のロマンとか言う奴がいるが、言わせてもらおう。
それは幻想だ!!
校門前に来た時点で、この胃が痛い感じ。
チラ、チラと向けられる女生徒たちの視線の山。
やはり女子高の前に男子学生が1人で立ち止まっているのは興味の対象になるらしく、通りかかる女生徒たちがチラチラこちらを見ている。
本人たちはきっと純粋な興味からこっちを見ているだけで、悪気はないのだろう。
うん、きっとそう。
「わぁ、あの人うちの誰かの彼氏だったり??」
「うそ、それってお迎え?お迎えなの?!」
そうだったらまだマシだったんだけどな!
ひょっとして今の俺ってストーカーに近いのかな!
あとそこの君、何でそんなにお迎えに反応するの!
とにかく、女子高に一人男子なんて状況は胃に穴を開けるだけに違いない。
そこで上手くやっていける男がいたら、バラ色人生が送れるかもしれないけれど。
……うーん、参ったな。
当然、直接海未に連絡することもままならないし、そもそも既に帰っていてもう今日はここを通ることすらないかもしれない。
帰るか?
一瞬そんな考えがよぎったが、それはダメだ。
負けて気がして悔しいし、何より再会しなければ。
◇◇◇
心を無にして待ち続けて15分。
人間、その気になれば大抵のことは耐えられるらしい。
突き刺さる視線の数々をあれよあれよと投げ倒し。
ヒソヒソキャッキャのウワサ話は右から左へ受け流す。
母さん、これが"悟り"なのかもしれないよ。
一線を越えて脳内が愉快になってしまったあたりで、ハッと目を覚ます。
視界に、それらしき人影が映ったのだ。
校門へと続く道を歩いてくる、一人の姿。
午後のそよ風に
着崩さずにキッチリと身にまとった制服。
傍目に見ても美しい、姿勢の整った歩み。
……間違いなく、海未だ。
一年以上見ていなかったが、確信する。
少し顔立ちが大人びているが、数年前の面影を残している。
部活終わりなのか、多めの荷物を抱えながらこちらへと近づいてくる海未。
「海未!」
俺が待っているだなんて微塵も思っていないであろう海未に、声をかける。
幸い今は1人らしい。
「……! ゆ、悠人?!」
予想外の事態に目を見開いて驚く海未。
綺麗だった歩みと姿勢は一気に崩れ、後ずさる。
その驚いた様子に、思わず笑みが零れる。
これだけでも、会いに来た価値はあったかもしれない。
驚きを隠せないまま、こちらへ恐る恐る近づいてくる海未。
一歩一歩その姿が大きくなるたび、記憶が蘇ってくる。
ありきたりだけど、最初の一言は――
「久しぶり」
「久しぶり、です」
困ったように笑いながらこちらを見上げる海未。
耳にスッと入ってくる、透明感のある声。
あぁ、海未だ。
好きだった、あの声だ。
「海未だな」
「はい、海未ですよ」
再会に浸る俺のつぶやきに、笑顔で返してくれる海未。
少し大人になった微笑みに、不意にドキッとしてしまった。
初めはどうなることかと思ったが、無事に1年ちょっとぶりの再会を果たすことができ、
ホッと一息つく。
それと同時に、なにやら周りの生徒達がざわめいていることに気がつく。
そして徐々に黄色い歓声が混じり始めて……
そうだ。ここは女子高の校門だ。
再会出来たことで、その事実が頭からすっぽりと抜け落ちていた。
辺りを見回すと、ちょっとした人だかりさえ出来てしまっている。
ひょっとしたらこれは、マズイかもしれない――
「ゆ、悠人!走りますよ!」
「えっ、ちょ、ま……分かったから引っ張らないで!」
次の瞬間、今度は顔を紅潮させた海未に手を引かれ…というか引っ張られてしばらく走ることになった。
女の子に手を引かれて走るなんて、聞こえはいいかもしれない。
しれないが。
海未の走りは、ガチ走りだ。
やめて!文化部の体力はもう底をつきかけてるよ!!
ロマンティックとは程遠いよ!
海未さん!!
◇◇◇
「こ、ことりちゃん今の見た……?」
「ほ、穂乃果ちゃん……!」
「…………」
「「ビッグニュースだよ!!」」
ようやくμ'sメンバー登場です。
2015/08/08:加筆修正しました