時刻はまもなく14時になろうかと言う頃。
俺はとある駅の前でそわそわしながらある人物を待っていた。
この駅は、中学時代に通っていた塾の最寄りなので、馴染みが深い。
もっとも、ちょいちょい改装工事をしてるみたいで所々新しくなっているが。
土曜日のお昼過ぎだけあってこの場所は色々な人々で溢れている。
幸い身長は人より頭ひとつ分抜けているのではぐれるということはないだろう。
……まだかな?
今日は柄にもなく服装にもこだわってみた。
失礼があったらいけないからな。
と言っても普段なかなかクローゼットから出さないジャケットを引っ張ってきて、
それに合うような落ち着いた雰囲気の格好をしているだけだけど。
そんな中、こちらに近づいてくる、2人の姿。
先導する1人は、最近会うことが多い海未。相変わらず綺麗な長髪を揺らしている。
今の気持ちを一言で言えば、楽しみ、かな?
どんな人なんだろう、という純粋な期待。
「悠人、お待たせしました」
「大丈夫、今来たところだから」
そして後から続く2人目は、先日から自分の心を掴んで離さない、μ'sの――
「初めまして……西木野、真姫です」
「こちらこそ初めまして、茅野悠人です」
作曲家ご本人の姿だった。
~~~
西木野真姫。スクールアイドルグループμ'sのメンバーの1人で、
同グループの作曲も手がけている高校1年生の女の子。
ストレートな黒髪の海未と対照的に、ふんわりとしたゆるい巻き髪。
少し釣り上がった目も相まって、自信に満ちた佇まいをしている。
なるほど、これは人気アイドルグループの一員と言われてもうなずける。
先日会った高坂さんと南さんが可愛い系なら、この子は美人系、クール系……かな?
「それで、この人が海未の彼氏?」
「真姫!」
クールな子かと思ったけど冗談をいう茶目っ気もあるらしい。
海未にそれを言えるってことは、なかなかの信頼関係があるんだと思う。
さて、この展開、デジャビュ。やはり
だが、同じ轍を踏む茅野悠人ではないのだ。
「まさかまさか!そんなわけないよ。なぁ、海未?」
人というのは、成長するものだよね。うんうん。
西木野さんだって、まぁそうよねって顔してる。
「…………はい」
ん?100点満点の回答をしたつもりなのに海未さんは何やら不服そう。
でも突っ込んだら余計に悪くなりそうなのでここは。
「それじゃあ2人とも、どこかお店にでも入ろうか」
「それもそう……ですね」
「(……そんなに否定しなくてもいいじゃないですか)」
海未が何かぶつぶつ言っているが、気にしたら負けだと思う。
とりあえず喫茶店とかでいいよね?
~~~
結局、普段は入らないような雰囲気の喫茶店に3人で入った。
適当に注文を済ますと、4人がけのテーブル席に着く。
「あらためて、今日は来てくれてありがとう」
「いえ、別に……」
「海未から話は聞いた?」
「ええ、なんとなく……ですけど」
西木野さんは、見た感じ少しテンション低めなのかもしれない。
それでもこちらとしては、来てくれたこと自体がありがたいからね。
「慣れてないみたいだし、敬語じゃなくてもいいよ、西木野さん」
「えっ、でも……」
「いいのいいの、呼んだのはこっちだし」
「……じゃあ、お言葉に甘えるわ」
さっきから敬語につまづいてる感じがしたので、この方がお互いに楽だろう。
この子は年下って感じがしないし、むしろその方がしっくり来るかもしれない。
「あの……何て呼べばいいかしら」
「そうだね……茅野だからかやかやとか?」
「う゛ぇえ……かやかや?!」
おっ、今ちょっとだけ素が見えた気がする。
「真姫、今の悠人はふざけているだけですよ」
「そ、そうなの?呼ぼうとしちゃったじゃない」
冗談のつもりだったけど西木野さんは呼びかけたみたい。
なかなか面白い子かも。
「ごめんごめん、普通に苗字でいいよ」
「もう……じゃあ、茅野、先輩」
「敬語じゃないのに先輩は付けるんだね」
「べ、別に呼び捨ては違和感あるかなって思っただけよ」
――たった今、ものすごい発見をしてしまった。
可愛い女の子の後輩に、先輩呼びされると……良い。
中学では部活動に入らず、高校は男子校の俺、歓喜。わーい。
「悠人……顔がだらしないですよ」
「ゴホンゴホン!そんなことないぞ」
「2人とも、仲良いのね」
~~~
店に入ってからしばらくは、お互いに自己紹介したり海未に紹介してもらったりした。
西木野さんの第一印象は、少しぶっきらぼうな感じだとも思ったけど、
少し打ち解けた今は、自分を表現するのが少し苦手なだけのいい子なんだと思った。
自分のことはどう思われたのかな。
……さっきのかやかやが後を引いてないといいな。
「それで、今日私が呼ばれた理由は……?」
「うん。単純な話なんだけどね――」
「μ'sの作曲家に会ってみたかったんだ」
一瞬の静寂。
西木野さんは言葉の続きを待つようなそぶり。
海未は事情を知ってるので、静かにこの状況を見守ってくれている。
「……本当にそれだけ?」
「うん、それだけ」
西木野さんは、拍子抜けした様子でこちらを見ている。
こっちは、本気なんだけどなぁ。
「物好きなのね、茅野先輩」
「そうかなぁ。俺は大好きだよ、西木野さんの曲」
ひやかしか何かとは思われたくないから、あくまで真剣に伝えた。
茶化したりしたら、この気持ちは伝わらないかもしれないから。
「~~!と、当然よ!私が書いた曲なんだから」
「真姫、顔が真っ赤ですよ」
「そんなことないわよ!元からよ!」
さっきの反撃と言わんばかりに海未が西木野さんをからかう。
顔を真っ赤にして海未に対抗する西木野さんは、ちょっと可愛い。言ったら怒られそうだけど。
別に照れさせるつもりで言ったわけじゃないけど、言ってみてよかったかも。
「まったく、茅野先輩もからかわないで!」
「そんなことない、本気だ」
「ううぅぅ……ほらそうやって~!」
ごめん西木野さん、今のは少しわざとだった。
海未もそうだけど、女の子が恥ずかしがる姿はこうグッと来るものがあるよね。
「悠人は本当に真姫の曲のことを褒めているんですよ」
「もう~!わかったから褒め殺しはやめて!」
なんだかんだ海未もノリノリみたいだった。
こうして見てみると、西木野さんも普通の年頃の女の子なんだなぁ。
海未との関係も良好そうだし、色々と安心した。
今日は貴重な一日になりそうだ。
狙ったわけではないですが誕生日の更新回に真姫ちゃん初登場です。
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