自分の自分による自分の為の物語   作:悪役好き

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別名、俺の嫁たちにバトル・ロワイアルしてもらった

長編連載の予定です。一応mixiで日記に書いていたのですが、いまいち反応が分からないのでこちらにとりあえず載せてみることにしました。

カテゴリはどうしたらいいのかわからないのですが、あちらこちらの作品から好きなキャラを代表として一人ずつ参加させております。原型はなるべく残してあるので、キャラ当てクイズも兼ねてます。お暇でしたらコメント欄か何かで答えシャウトどうぞ。

基本的にマンガ・アニメ・ゲームからで、マイナー作品から誰もが知るメジャー作品までと幅広いです。ただホラーゲーム出身者が多いのはご愛嬌?


表向きは真面目な大学生、裏の顔は……

「(今日は三限終わりで後はサークル、帰ったら明日の支度と兵法書の続きを書き下してまとめて……)」

 ここは都内のとある大学。そこそこの広さを持つ構内を、キリッとした顔立ちを崩すことなく歩く男。年こそまだ18だが、見た目だけなら完全に二十代半ばと言えるだろう。おかげで彼はしょっちゅう高学年と勘違いされては、自分は新入生なのだと訂正するはめになっていた。

 長い髪をオールバックにし、一部をくくり、残りは垂らすという古代中国の人のような髪型をした男は、ゆらゆらと一房を揺らしながら堂々と闊歩していた。

 時折気になるのか、つと手を伸ばしては自身の髪を留めているヘアゴムに触れていた。ヘアゴムには丸く透明な玉がついており、キラキラと光を通していた。

「おーい、あべ~!!」

 バタバタと慌ただしく走ってきた男が友人であることを目を細めて確認すると、あべ、と呼ばれた男は自分の両手が空いていることを確認した。

「安倍、あのさ。今日のサークルだけどさ……」

 友人が安倍の肩に触れようとするやいなや、安倍は一歩後ろへ下がり、両手で何やら複雑な形を取り、空に記号のような物を描いた。

「……何やってんの安倍?」

「……令百由旬内無諸衰患。気配くらい消したらどうだ」

「は? 何?」

 友人はきょとんとしたが、不意にぱっと顔を輝かせた。

「あれ? なんかスッキリした気分!」

 友人は大喜びで両腕をぐるぐると振り回した。安倍は苦笑しながら友人に聞いた。

「それで? 俺になんか用事?」

「ああ、そうそう。今日の活動、先生いないから自主練だってさ」

「ん、分かった。わざわざありがとう」

 ふっと安倍が微笑むと、何故か友人は多少意地悪な顔で安倍と肩を組みに来た。

「何」

「お前さー……ホントさー……自覚ないよな。って」

「……俺の容姿の事を言ってるんだったら言わせてもらう。何回目だ」

「ぜってぇお前の事好きな女いるって。お前はもっと自覚しろって」

「あいにくだけど俺は今は恋愛とかする気ない」

「ウッソだー。どんな女も大体落ちるだろ?」

「やめろ。その話はやめろ」

「あ、何? 告白とか実はすでにされた事あんの?」

 ニヤニヤとする友人に、安倍は盛大に溜息をついた。

「……入学直後に一回、その二ヶ月後くらいに一回」

「……このモテ男が!」

「どっちもブスだったし、興味ねーの」

「あ、そう……お前ひょっとして理想が高いタイプ?」

「首絞めるぞ」

 しょうのない冗談を言い合いながら、やいのやいのと騒ぐ友人を尻目に、安倍はちらっと後ろを振り返った。

 そこには、安倍の目だけに映る黒いもやもやした人の顔が、ひどく悔しそうに唇を噛みながら安倍を睨んで消えていった。

 

 

「ただいまー」

 普通の、二階建ての何の変哲もない、どこにでも有りそうな一軒家。それが安倍家だった。

「あら坊ちゃん。お帰りなさいまし」

「ああ、波結。ただいま」

 波結、と呼ばれたのは、この世のものとも思えないような青い髪を美しくなびかせた、背の高く濃紺の着物を着た女性であった。

「今日は紗苗樣も顔色がいいですよ」

「……そうか」

 その名前を聞いた途端、安倍の顔にわずかに影が落ちた。

 安倍はそのままの格好で、ある部屋のドアを開けた。その部屋の中央には布団が強いてあり、周囲にはタンスなどの家具もあった。それだけなら普通の部屋なのだが、部屋の四隅に、中央を取り囲むように注連縄が貼られ、数カ所に札も貼られ物々しい雰囲気を醸しだしていた。中央の布団には、年頃を迎えるであろう娘が寝ていた。

「……紗苗、兄ちゃん帰ったぞ」

 注連縄の内側に入らず、外側に正座して話しかけることしか出来なかった。この物々しいのは、強力な結界で、まだ安倍にも張れそうにはないほどの強さだった。これを貼ったのは一家の大黒柱でもある父親、安倍晴芳だった。

 波結という女性の存在、彼が昼間大学で友人に向けて切った九字印、札に注連縄に結界。これらはどう見ても彼の家が一般家庭でないということは一目瞭然の証拠だろう。

 彼の家は、その苗字の通り、陰陽師の家系だった。そして現在大学生であり、長男でもある彼は、安倍雅飛。由緒正しき16代目になるであろう青年だ。

「……ん、なんだ雅飛。帰ってたのか」

「あれ、父さんも帰ってたの?」

 多少なりとも、二人が並ぶと親子であることが分かるだろう。雅飛の面差しは多少母親寄りであったが、それでも父親の冷静さを孕んだ目はそのまま息子である彼に受け継がれていた。

 普段彼の父親は高校教師として子供たちを教え、どこかの機関や、時には国から依頼があればどこへでも行って結界を貼ったり、お祓いをしたりと忙しい毎日を送っているので、雅飛は夕方の早い時間にすでに父が家にいることを珍しく思った。

「……紗苗は元気みたいだな」

「……そうだね」

「……雅飛、落ち着いて聞くんだぞ。さっき結界を貼り直した」

「……え? 前回貼り直したのって一ヶ月前じゃ……」

 雅飛の顔色が変わった。それに呼応するように、父親も苦い顔をした。

「……そうだ。間隔が狭まり始めている」

「……じゃあ、紗苗は……!」

「……いつかは分からない。だがこのまま行けば恐らく近いうちには……」

 顔面蒼白。その言葉は今の雅飛の顔色を表すのにふさわしいと言えた。

「……雅飛。いざという時のために覚悟だけは決めておけ……」

 

 

 いつからだろう。

 俺と妹がまだ幼かった時、二人で一緒に公園のブランコで遊んでいた。

 外で遊べる程度には元気だった妹。いつからか、ゆるゆると体調を崩し、病気がちになり、起き上がれなくなり、ある日目覚めぬ眠りについた。

 何度揺すっても、妹は気持ちよさそうな寝息を立てるだけだった。大事な宝物をあげると叫んでも、おやつを譲ると泣いても、妹は目を覚ますことはなかった。

 泣きじゃくる俺に、父さんは深刻な顔と声で説明した。

 曰く、代々ウチは、戦い続けている魔物がいる。ご先祖様はいくら戦ってもとどめを刺しきれなかった、という。その魔物は長生きし続け、ウチの一族を喰らい、力をつけ、成長していったのだと言う。

 いつだか、ある時ご先祖様の一人が奴を封じ込めるのに成功した。ところが、封じ込めるのには、魔物の力が強くなりすぎた。完全には封じ込められなかった魔物、その力は封印から這い出し、力だけが暴走した。その力は代々一族の者を必ず一人、連れていく。

 今回はたまたま力をつけ始めていた妹が狙われたのだという。もうきっと妹はこのまま目覚めず、いつか命を落とすことになるだろうと。

 それを聞いた俺は更に激しく泣いた。もっと遊んであげればよかった。邪険にしなければよかった、と。

 泣く俺に、目に光るものを貯めた親父は言った。

 強くなれ、雅飛。

 恐らく俺の代では奴を完璧に封じることも、倒すことも出来ない。

 だから、お前に。次の代のお前に託す。

 これはウチの、一族たちの悲願だ。と。

 それから俺は、今までサボってばかりだった修行を真面目にこなすようになった。また、厳格だが真面目な祖父の蔵書を読み漁り、古代中国にも興味を持った。

 そうして身につけた、陰陽術と、占術と、兵法。正直、まだまだ力不足だと感じている。

 だから、俺は恋愛なんかにかまけている暇はない。

 俺の代で完璧な封印か討伐がなせなければ、次代に引き継ぐことになるだろう。

 こんな思いは、身を切られるような思いをするのは、俺の代までで十分だ。

 生まれてくるかもしれない、俺の息子か娘にはこんな思いをさせたくない。

 かつて父が、俺に願ったように。

 

 

「……坊ちゃん」

 夕食を済ませ、風呂も済ませ、自分の部屋に戻ると、波結が部屋の扉をノックし、扉を開けてするするとこちらに来た。

「……話、聞きましたよ」

「……うん」

 俺は兵法書の書き下しをまとめながら、返事をした。

「……坊ちゃん」

「……まだ、力が足りない」

 波結はうつむいた。

「俺、結局妹を救えないのかな……」

 雅飛の筆が、止まった。

 考えたくない。ある日、妹の体が突然、崩れ落ちたら。

 奴に命を持っていかれる時、狙われた人間は最後には体が突然腐り果て、崩れ落ち、塵になるらしい。それがウチに伝わる伝承だ。

「もう、妹の声、ほとんど覚えてないんだよ……」

 ぱたっ、と紙に雫が落ちた。

「俺のこと、舌足らずな声で、『にいちゃん』って……もうそれしか覚えてないんだよ……!!!」

 それが、涙だと気づいたのは自分の声が震え、次々に雫が落ちてきた時だった。

「こんな別れ方……! 嫌だ……!!」

 雅飛はまるで幼い子のように、肩を震わせて、それでも必死に声を押し殺して、ひー、ひー、と声を漏らして泣いた。

 波結はただ、雅飛の頭をゆっくりと撫で、自分の胸で存分に泣かせてやることしか出来なかった。

 

 

 雅飛が、いつから今の丸い透明な石のついたヘアゴムを愛用するようになったのかは、定かではない。

 ただ、雅飛の記憶の中では、「知らないおじさんだかおばさんだかよくわからない人にもらったような気がする」くらいの認識で、それほど記憶が曖昧ということは結構昔から持っていたのだろうということだ。

 まだ雅飛は知らない。小さな子供のように、波結という式神の腕の中で泣いている雅飛は。

 すぐ14時間後、雅飛は希望を手にすることになる。

 希望と共に、壮絶な戦いの日々に、身を投じることになる。

 

 

「……増えてね?」

 雅飛はあの後、散々泣いた。おかげでいくらか感情の整理もつき、決意を新たにし、爽やかな朝の目覚めを迎え、朝食もしっかり摂取し、珍しく朝のラッシュの中席に座れ、意気揚々と余裕を持って大学に来た途端。

 昨日見たような、黒いもやもやが大学構内のそこら中に蔓延っていた。

「……昨日こんなのじゃなかった気がする」

 昨日友人に今にも取り憑かんばかりだったもやもやは、いわゆる病魔とでも言うような物で、取り憑かれたらよくて風邪、最悪力が強い物だと重い病気にかかり、命を落とすことさえある。さすがに昨日のは九字印程度で払える軽い物ではあったが、今日はそこら中に重病レベルの病魔がうようよしていた。

「……これもう塩とか近くに盛ったら一瞬で黒ずみそうだな……」

 雅飛はげんなりしながら黒い物を避けていくことに終始することにした。ところが周囲を見て、誰もいないことに気がついた。

「……ん? 今日って祝日じゃないよな……」

 雅飛はシステム手帳を確認してみたが、今日の日付は赤くはなかった。

 ようやく何かおかしいと気づいた雅飛だったが、伊達に修行を重ねて来たわけではない。すぐに己を狙う殺気に気づき、その場を飛び退いた。直後に、ガッ、という鈍い音がし、雅飛のいたであろう場所には包丁が突き刺さっていた。

「チッ、ナンデヨケルンダヨ!」

 ふと見ると、そこにいたのは何やら毛むくじゃらの、よく分からない生き物だった。だが、雅飛は一目でそれが小鬼の類だと見抜いた。

「……明確に殺意を持って俺を殺そうとしてきた小鬼は初めてだな」

 子鬼は苦心して包丁を引っこ抜き、雅飛に向けた。

「チニクトギョク、オレニヨコセ!」

 雅飛は聞こえてきた単語の一つに、首をひねった。

「血肉……は分かるが、ギョクってなんだ?」

「ギョクダヨ! オメーガアタマニツケテルソレダ!」

「頭……? ……ひょっとして、この髪留めの事か?」

 つ、と雅飛は髪留めの石に触れ、手を引っ込めた。

 紛うことなき人肌程度のぬくもりが感じられたからだ。

「オメーモチカラガホシクテソレモッテンダロウガ!」

「力? 力なんてあるのか?」

「モウイイ! コロシテヤル!」

 包丁を持って飛びかかってきた小鬼に、雅飛は怯むこと無く、涼しい顔をして札を中空にぺたりと貼った。子鬼は見事札にキャッチされるようにくっつき、いくら暴れても取れる気配はなかった。

「なんだよ、せっかちだな」

「チクショウ! ナンダコレ、ウゴケネェェ!!」

「呪符だよ。縛の呪符。しばらく動けないだろうから続き話してくれよ」

 小鬼はじたばたしていたが、雅飛は顔色一つ変えなかった。

「このギョクっていうの、力があるのか?」

「……オメーナニモシラネーノカヨ!」

「知らねーよ。小さい頃に知らない人に貰った物だし」

「……オンミョウジミテーダガ、チカラヲシラナイトハコウツゴウダナ!」

 小鬼がニヤリと笑った途端、突如構内中に蔓延っていた黒いもやが雅飛を襲った。雅飛はもやに包まれ、あっという間に見えなくなってしまった。

「キキキキキキキ! ザマァミヤガレ! ユダンシスギダ! コノママクサリオチテシネ!」

 小鬼を縛っていた符がはらりと落ち、小鬼は舗装された地面に着地した。しばらくしてもやが晴れると、そこには倒れた雅飛がいた。

「バーカバーカ! ケケケ……」

 小鬼がぺたぺたと歩き、雅飛の髪留めに手を伸ばして掴んだ途端だった。

「ケケケケケケ! ……ア!?」

 掴んだはずの髪留めは消え、雅飛の姿も同時に消えた。残ったのは人の形の紙ぺらが一枚だけだった。

「本当にィ、油断しすぎだなァ」

 小鬼の首根っこを掴み、黒目がちなねっとりとした目をむける細身の男が小鬼を見て笑っていた。

「加賀智、まだ食うなよ」

 そこには傷ひとつ負っておらずに指示を出す雅飛の姿があった。

「ナ、ナンデダヨ!?」

「こんだけ濃い病魔がいるのに単身、生身で突っ込むバカがいるわけないだろ」

「ご主人、さすがだなァ♪」

「まー、式神繰りはまだまだだなー……なんであそこで油断するかな俺のコピーは。全く、修行足んないなぁ……」

 はー、と溜息をつく雅飛を見て、実力の差を思い知った小鬼は青ざめていった。

「タ、タノム! コロサナイデクレ!」

「ああ、殺さないよ。すぐにはな。で、ギョクがなんだって?」

「……ご主人、ドSかァ」

「……加賀智、どこでそんな言葉覚えて来たんだよ」

 きしし、と笑う加賀智は放っておき、雅飛が小鬼と視線を合わせると、小鬼はびくびくと震えだした。

「ギョクって何」

「ギョクハ……ギョクハ、ゼンブデサンジュウアル」

「三十? この髪留めについてる石みたいなのがあと二十九もあるのか」

「スベテソロエルコトガデキタラ、ネガイガヒトツカナウラシイ」

「……何だって?」

 雅飛は怪訝そうにまゆをひそめた。

「おい、担ごうとしてるなら容赦はしないぞ」

「ホ、ホントウダッテ! ギョクヲゼンブソロエタヤツハカミニダッテナレルトイウクライナンダ!!」

 神にすらなれる? この石を三十個集めるだけで?

「ご主人、どうでィ?」

「……すっごく嘘くさいんだが」

「ギョクハ、ギョクハヒトツヒトツニチカラガコモッテイル!! オマエノソレハホンモノダ! チカラヲツカエルハズダ!」

「力、ねぇ……」

 ぐいぐい、と石の部分をいじると取れた。これが着脱式だと気づいたのは幼い頃のことで、初めて取れたときはてっきり壊したのかと思って泣きながらパニックを起こし、接着剤でつけようとしたところ誤って自分の指先に大噴射し、しかも瞬間接着剤だったために手と接着剤のチューブがくっついてしまい、更に大泣きするはめになった。……その後、呆れて爆笑した母がぬるま湯で接着剤を何とか溶かして取ってくれたが。

「……力って言われてもなぁ」

「ご主人、確かに何かただならぬものがこもってそうですぜィ?」

「うーん……そうなんだけど、開放させ方っていうか、どうやったら使えるのかさっぱり分からないな」

 日にすかしても、くるくると回してみても特に異常やとっかかりがあるわけでもない。雅飛は諦めて再び髪留めにくっつけることにした。

「で、お前は使い方は知ってる?」

「……シ、シラネェ!」

「ふーん。なんだ」

「ダ、ダガズットズットムカシカラクリカエサレテキタッテイウゼ! ソノギョクノソウダツセンハナ!」

「……ご主人、結構それすごいモンみてぇだぜェ」

「玉の争奪戦、ねぇ……」

 もしも、もしもだ。

 この玉にこめられている力が本物で、玉をすべて集めた際に叶えてもらえる願いの話が本当なら、妹を救うことが出来るかもしれない。

 簡単なことだ。「我らが一族を脅かしてきた魔物を殺してくれ」と願うだけでいい。きっと妹はすぐに目覚めるだろう。それにサボってばかりいた兄の自分よりも早く力をつけ始めていたのだから、すぐに追いぬかれてしまうかもしれない。

 妹と二人で修行すること。それは今の雅飛にとっては夢物語だ。

 それでも、内心藁にもすがる思いの今は信じてみる価値があるのかもしれない。何にせよ、自分一人で判断するのは危険だろう。父に相談してみなければ。

「……オ、オレヲイカシテオイテクレルンダヨナ?」

「……加賀智」

「あいよォ、ご主人?」

 一瞬視線を泳がせてから、雅飛は言った。

「食っていいよそれ」

「ヒィィ!! ヤ、ヤメテクレエエエ!!」

 加賀智はニヤニヤ笑いを一瞬消したが、すぐにまたニヤニヤとした。

「……ウチのご主人、ドSだから諦めてくれェ。じゃ、なるべく苦しませないように頂きますとするかァ」

 その言葉を言い終わるやいなや、加賀智は顎を大きく外し、自分の体や顔よりも遥かに大きく口を広げ、小鬼を丸呑みにした。腹に取り込まれた小鬼はしばらく暴れまわっていて、加賀智の腹はぶっくりと不格好に膨れていたが、ゆっくりと小さく砕かれていく音がし、ついには加賀智の腹はすっきりとした形に戻っていた。

「ごっそさん。……やっぱ苦しませない様にってのは嘘だったなァ」

「はい、お粗末さま。病魔も全部散ったみたいだな」

 周りを見渡すと、いつの間にか元の大学に戻っていた。構内に人もぽつぽつと見える。

「ふぅ、やっと元に戻ったみたいだな」

「ですなァ。しかし、今の奴、小鬼にしては強力でしたぜェ?」

「……そうだな。只の小鬼が結界なんて貼れるわけがない。しかもあんなに病魔を従えて」

 加賀智は腹をさすりながら雅飛に言った。

「……ご主人、今の奴ゥ、どうやら仲間たちを大量に取り込んでたみたいですぜェ?」

「というと?」

 加賀智はニヤニヤと笑いながら告げた。

「いやねェ、こいつどうも強くなるために仲間たちを食らったみたいですよォ。今腹の中で蠢いてるのを数えた限りだとォ……」

 ひーふーみー、と指折り数える加賀智を雅飛はじっと見つめた。

「んー、30ってとこですかねェ?」

「30? そりゃまた随分食ったな。加賀智お腹いっぱいだろ」

「さっきからァ、……げふっ、失礼ィ。腹が若干苦しいですぜェ……。太っちまいそうだなァ……」

 加賀智の腹を少しさすってやりつつ、雅飛は言った。

「……そこまでして、俺のこの玉が欲しかったってことか?」

「そうでしょうなァ。げふゥ、失礼ィ。これで信ぴょう性も出たってことですぜィ?」

 雅飛は再び玉に触れた。玉はいつもどおりのひんやりとした感触を雅翔の長く綺麗な指に伝えるだけだった。先ほどの人肌程度の不気味なぬくもりはもうなかった。

「……とりあえず帰ったら父さんに話そう。玉を探そうにも、そんなにあるんじゃ下手したら休学するはめになりそうだし」

「ですなァ」

 雅飛は少し希望が胸の内に湧くのを感じた。昨日の真っ暗闇の絶望が嘘のようだった。

 妹を救う。その為ならどんな犠牲も惜しまないし、玉の力も使いこなして見せよう。そう雅飛は誓った。

「……あ、しまった」

「ご主人?」

 怪訝そうな顔をする加賀智を気にせず、雅飛は腕時計を確認し、ため息をついた。

「……遅刻だ」

「……どんまい、ですぜェ」

 

 

 

 

 

 




とりあえずそのまま投稿してみました。一行空けた方がいいという場合はお知らせしていただければそうします。

何分、初めての投稿ですので、感想・コメント・批評等頂ければ励みになります。
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