1話 絶望
新暦67年
本局所属魔導士高町なのは11歳第13管理外世界の任務中未確認機械兵による襲撃を受ける背後からの刃物による攻撃は身体を貫通。筋肉・内臓が著しく損傷し、背骨の一部を削り、その破片が神経の側に散在しているまた多量の出血によるショックとそれに伴なう著しい体力の低下から昏睡状態より未だ回復せず現状身体機能回復の可能性は皆無である本日上官である次元航行船アースラ艦長リンディ・ハラオウンと執務管クロノ・ハラオウンに状況説明をする
†
「もう…飛べない?」
「日常生活すら困難…?」
管理局直下の医療機関。その面会室の一室でクロノ、リンディが、なのはの担当医師から撃墜されてから一週間経ってようやくされた説明ことは、彼らにしてみれば、クラウドを失った時と同じくらいの衝撃だった
「こちらをご覧下さい」
医師はレントゲン画像を二人の目の前に表示した
背骨の周囲に白い小さな欠片のようなものが散在している
「高町さんの傷は深かく、出血が酷かったのですが、迅速な処置と輸血でなんとかなりました。しかし…」
医師は患者に病状を説明する際、ポーカーフェイスで事実のみをただ淡々と説明する、一見すると冷酷な職業に思われるが、無駄に感情が混じると、客観的な病状や身体の状態が正しく伝わらないために、特に医療関係者には必須のスキルなのだ。そこをいくと、この医師は若干表情を崩し言葉を濁した辺り、まだまだ未熟なのか、はたまた人情味に厚い医師なのか
「背後からの刃物による攻撃で背骨を損傷し、背骨の欠片が神経の周囲に入り込み、それにより全身の運動神経が障害されているのです。もちろん手術による除去の方法も模索しましたが、如何せん、神経と破片がかなり密接な位置にあるため、ヘタに手術をすると、神経を傷付ける怖れがあるのです。成功率は高く見積もっても50…30%…を下回ります…」
「つまり…」
リンディの問いかけに、医師は一度頷いて答えた
†
本局医療施設 家族待機室
長時間オペや付き添いの家族の為のスペースである程度の人数でも窮屈さはない。ただ、現在この部屋には、はやて、エイミィ、シャマル、ザフィーラ(狼形態)、アルフ(人型)、シグナムが、車イスに座って俯いたままだったり、ソファに座ったり、床に胡座をかいていたり、立ったまま目を閉じて平静を装ったりしていたが、誰も彼も落ち着かない様子でそこにいた
ウィン
扉が開いてクロノが入ってきた
「クロノ君、なのはちゃんは…?」
はやてが車イスで詰め寄った
「落ち着け、はやて。今提督がICUのフェイト達を連れてきたら話すから」
クロノの人をあしらう口調は、初対面の人間にはきつく、冷酷な印象を与えてしまう。はやても当初は途惑ったが、それは単なるクロノの照れ隠しだと気づいてからは慣れていた。しかし、自分と家族を救ってくれた親友の一人が危機的な状態にある今。穏かな気持が常のはやての心は、とても敏感で、とても繊細で、脆く細く、クロノの言葉でそれは一気に限界を超えた
「どうしてそんなに落ち着いていられるんっ!!?なのはちゃんが大変な時になんでそんな…、そんな…、」
はやての言葉と目に震えと涙が滲んできた
「っ、落ち着いているわけないだろうっ!」
クロノとしては珍しく感情を露わにして怒鳴り声を上げた。しかし、すぐに自分のしたことに気づいた
「…すまない。感情的になりすぎた」
「いや…、私も、ゴメン…」
ウィン
再度ドアが開いた。リンディの後ろには、はやて達以上に憔悴し切った顔をしたフェイト、ユーノ、ヴィータだった。この3人はなのはが運び込まれたその日からわずかな仮眠と食事だけでずっとなのはに付きっ切りだった。3人とも目の下にはクマが目立ち、皮膚にもハリや艶はなく、ずっと結んだままのフェイトとヴィータの髪はボサボサでそれだけでも嘆かわしい状況だった。それに加え、ヴィータの手には包帯が巻かれていた。
なのはに付き添い始めて2日目。自分の無力さに苛立ちを感じ、手に食い込むほど爪を突き立てていたのだ。交代で来たシャマルが直ぐに手当てをしてその時は事なきをえた
「ヴィータちゃんたち、ここに座って」
シャマルは立ち上がって3人を座らせた
「全員揃ったから、話を…」
クロノが話そうとすると、リンディがそれを遮るように手で制止した
「私から話すわ」
「艦長…」
そしてリンディは話した
なのはの怪我の重傷度
手術をしても成功率が高くないこと
上半身は辛うじて動かせるまでになるが、下半身はほとんど回復の見込みはない
二度と魔導士として空を飛ぶことができないことを
†
室内は水を打ったように静かになっていた
ドガッ!
突然、ヴィータがテーブルを拳で殴った一発殴っただけで包帯に血が滲んできた
「ヴィータちゃん!ダメ!」
シャマルが羽交い絞めにする。しかし、今のヴィータは怒りに任せて自分を追い詰めないと精神がおかしくなる事を本能で悟っていた。故に、自傷行為に及んでいる。この時、ヴィータは常時以上の力を発揮していたため、シャマルの力では歯が立たなかった
「ヴィータ!」
狼から人間形態になったザフィーラが振りほどかれたシャマルに代わってヴィータを抑え付けた。しかし…
「うるせぇっ!」
ドグッ!
ヴィータが怒りまかせに放った裏拳が鳩尾にあたり、不意をつかれたザフィーラはその場に膝を着いてしまった
「ッ、」
事態を見兼ねたクロノがバインドでヴィータを拘束しようとした。
トンッ
果たして、クロノのバインドより一瞬早く、シグナムの手刀がヴィータの首筋に入り、ヴィータは気を失った
「すみません、ヴィータを寝かせてきます」
ヴィータを抱えてシグナムは一同に頭を下げて部屋を出た
「…はやてちゃん、私たちも…」
「せやな…、うちら、これで失礼するわ」
シャマルがはやての車イスを押し、シグナムがヴィータを抱え、狼形態に戻ったザフィーラが部屋から出て行った
「フェイト、貴女も家に戻って休みなさい。酷い顔よ、このままだと貴女が病人になってしまうわ」
「はい…」
「ユーノ、君もだ。」
「あぁ…」
フェイトは自分が作り物だと失敗作だと母親から告げられた時、
ユーノは公園でなのはに初めて出合った時以上に、
心が、なのは中心だった精神世界が、傷悴して、疲弊して、最後の希望すら打ち砕かれて、絶望という名の怪物を生み出さんばかりの様子だった
†
それから数日後。リンディとヴィータ、ユーノは地球の高町家を訪れた。リンディとヴィータは本局の制服、ユーノも無限書庫の職員用制服を着ていた
高町家には、なのはが怪我をしてミッドの病院に入院してることは伝えていた。しかし、士郎、桃子、恭介、みゆきは、まだなのはの状態については何も知らない
「いらっしゃい、今日は随分ときっちりしていますね?」
玄関で出迎えた桃子は3人の服装に驚いたが、いつもの笑顔で迎え入れてくれた
リビングに通されると、士郎と美由紀が待っていた。3人とも、なのはが入院の経過報告程度の認識でいるようだ
席につくと、リンディが高町家に説明を始めた。その横で、ユーノもヴィータも顔を俯かせ拳を手が白くなるまで握り締めていた
†
話が終わった
美由紀はテーブルに突っ伏し嗚咽を漏らしていた
士郎と桃子は静かに目を閉じていた
「あの…」
ヴィータが意を決して口を開いた
「アタシがっ、一緒にいたのに、あいつのっ…、なのはの疲れとか、怪我とか、全部…、全部アタシの所為なんです!!」
ガンッ
ヴィータは頭を下げた勢い余りテーブルに額を打ち付けてしまう
「違う!そもそも僕が、あの日僕がなのはに、魔法を、レイジングハートを渡して、それだけで済ませればよかったのに、調子に乗って魔法技術を教えて、本当なら、普通なら学校に通ってアリサやすずかと毎日輪他愛のない日々を過ごしていたなのはをこっちに引きずり込んで…」
「そこまでだ」
士郎の一言が二人の謝罪の嵐を遮った。言葉の楯の様だった
「ヴィータちゃんもユーノもなのはが怪我をしたのは自分の所為だ、魔法に関わらなければこんな事にはならなかった。そう言いたいんだね」
士郎は静かに、しかししっかりと二人の目を見て問い掛けた
「でもな、なのはは魔法と出会ってからすごく明るくなった。いや、自分にしかできないこと、それを成す為の力を得られたことで新しい自分になれたんだ。正直、2年前にユーノと出会って、冬にヴィータちゃん達と出会わなかったら、なのははたぶん心の中ですごく淋しい想いをしていたと思う」
「そうね」
桃子も目を開きユーノを見つめた
「あの子は、なのはは小さい頃から不自由をさせてきたわ。でも決して表に出さないで…、だからなのね、誰かのために、自分が出来ることを探して、でも見つからなくて、それであの子ちょっとイライラしていたのよ…。もしユーノに出会っていなかったら、あの子、グレていたかもしれないわ」
冗談なではないのは、桃子の真剣な目が語っていた
「……あのね…」
美由紀が顔を上げ、赤く腫らした目で二人を見た
「2人は、なのはのこと、好きでしょ?」
ヴィータはすぐさま頷いた。ユーノも一瞬遅れたが、確かに頷いた
「それはね、魔法と出会ったからなんだよ。魔法と出会ったからこそなのはは今のなのはになれたの」
美由紀は一度眼鏡を外し涙をぬぐった
「だから、そのなのはを、2人が否定しないで」
美由紀は眼鏡をかけず真っ直ぐ二人を見つめた
「2人が好きななのはは、魔法と出会ってだからこそああなれたなのはなの。だから、魔法を教えたユーノが、魔法で一緒にお仕事してくれているヴィータちゃんが、」
美由紀は眼鏡をかけて改めて2人を見据えた
「なのはを否定しないで」
「なのはが選んだ魔法と歩いていく道。そのきっかけをくれた2人を、私は少なくとも悪いとは思っていないよ」
美由紀のその一言が、高町家の総意だった
†
なのはは未だに昏睡状態が続いていた。医師とリンディに意向により、なのはの意識が戻ってもしばらくは自身にはまだ真実は話さないことになった
ユーノやヴィータはその責任感から些細な拍子に表に現れて、なのはに感づかれる可能性があるため、あまり顔は出さないように、ヴィータは任務、ユーノは無限書庫の仕事の多忙という言い訳を用意した
フェイトに至っては、執務管試験が迫っていた事もあり、なのはの世話は、主にアルフとエイミィが行なっていた。
・・・執務管試験当日
フェイトにとっては2回目の試験である
1日目 筆記試験
午前 法学 歴史 地理
午後 魔法論理 倫理
前回はは受験者数が過去最大で、500人以上の会場で受け、その雰囲気に呑まれ、ケアレスを含むミスを多数犯してしまった
さらに、2日目の二次試験は面接。そこでPT事件のことをしつこく攻められ、十分な実力が発揮できず、3次試験にまで至れなかった
前回の失敗を繰り返さないよう、フェイトは十分な準備をした。しかし、やはりICU(集中治療室)のなのはが心配で、試験には十分に集中できなかった
3日目三次試験
実践試験
個々に科せられたのは、試験管扮する犯人を追跡し現場で確保するタイプと、架空の事件に対する作戦本部を設立するタイプの二つ
前者は、逃亡先の速やかな操作と追跡。そこでの周辺警戒と地元警察との協調性が主な採点基準
後者は、限られた情報から速やかな作戦や必要人員の導入、場合によってはネゴシエーションも採点機順位入る
フェイトは後者の試験だった
†
「フェイト、大丈夫かイ?」
「うん、アルフここでいいから」
「でも今回は実戦形式の試験で異世界なんだロ?」
「あくまで試験だし、ちゃんと管理世界だよ。登録されたのはつい最近だけどね」
試験会場の外で、フェイトに付き添いできたアルフが心配そうに話し掛ける
「それより、私がいない間、義母さんたち、なのはのこともよろしくね」
「あぁ、わかってるヨ・・・」
「じゃあ、行って来ます」
フェイトは配給された最低限の荷物が入ったアタッシュケースを持って会場に入っていった
「ぁ・・、」
アルフは何か声をかけようとしたが、喉まで出かかったそれが言えなかった
―頼んだよ、バルディッシュ・・・―
―イェッサー―
閃光の戦斧は短く、しかししっかりと念話に応えた
フェイト・T・ハラオウンの試験中の行方不明がアルフたちに伝えられたのは、それから半日後だった
基本的に暗いです
陰気です
それが面白いと思って下さる方がいれば、この後も読んでください