黒銀~silvery black~・改   作:蒼乃翼

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※2017年2月15日 改定


10話 終了

手術室内ではレンが動かす器具の音とバイタル測定器の電子音、そしてシャマルの荒くなった呼吸音が静かに響いていた。

 

「……ス…、…ぉ……ぃ…、…メス!」

 

「はっ!?」

 

朦朧とした意識の中、シャマルはメスを手に取り、レンの伸ばした右手に・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手術開始から23時間。フェイトとユーノ以外の面子はローテーションを組んでいた。今は八神家の面々、はやて、シグナム、ヴィータが手術室前で待機していた。フェイトとユーノは椅子に座って眠っていた。

正確には、シグナムが首に手刀を叩き込んで無理矢理眠らせたのだが・・・

 

 

手術室の扉が開いて、中からシャマルを肩に担いだレンが入り口の前に立っていた。

「シャマル?!」

はやてが驚き、シグナムがすぐに駆け寄った。その声にフェイトとユーノも目を覚ました。

「お前、シャマルに何しやがった!」

ヴィータがレンに詰め寄った。

「それ以上近付くな、不潔になる。」

レンはシャマルを外に放って、ヴィータを止めた。

「っと…、大丈夫だ、ヴィータ。シャマルは気を失っているだけだ。」

シャマルを抱きとめたシグナムは脈を確認した。

「疲労困憊でそいつはここまでだ。点滴打って寝かせとけ。」

レンは再び手術室に戻った。その背中を慌ててフェイトは呼び止めた。

「レン…、先生、あ、あの、手術は…」

「まだだ。こっからは1人だから当初の予定より少し長引く可能性がある。」

フェイトはレンの右腕が不自然な脱力していたのに気付いた。が、それを指摘する前に扉が閉まった。

「主はやて、私はシャマルを運んできます。」

「うん、お願いな。シグナム。」

 

 

 

それからおよそ2時間。総手術時間25時間を経過したところでレンがストレッチャーを押して手術室から出てきた。

「なのは!」

ユーノが真っ先に駆け寄った。

「あの、手術は…」

フェイトはおずおずとレンを見上げて訊いた。

「成功だよ…、つーか、流石に…、疲れた……」

レンはマスクを乱暴に剥ぎ取って手術用ゴーグルを外しそのままロッカー室へと入っていった。

「くっ…」

手術着を脱いだレンの右腕には、刃物で切られた真新しい傷があった。

レンはメディカルアロエの包帯を手早く巻くと注射器を数本刺した。

「…とりあえず、これでいいか」

 

 

レンは術後の指示を出すとそのままホテルへと帰ってベッドに倒れこんだ。

 

 

 

 

 

 † 

 

 

 

 

 

それから数時間後・・・

「あの…、レン?」

フェイトはレンの部屋の前まで来てノックしたが、応答は無かった。

「失礼しま~す…」

そっと戸を開けると・・・・

 

「あん?フェイトじゃねぇか」

 

シャワールームから全裸(腰にタオルは巻いている)で出てきたレンと目が合った。

「ご…、ごめんなさいっ!」

フェイトは顔を真っ赤にして慌てて閉めた。

「もう入っていいぞ」

フェイトが部屋に入るとバスローブ姿のレンはカロリーバナナ(一本1万kcal)とミルクルミ(栄養価の高いクルミ。磨り潰すと濃厚なミルクになる)をミキサーに入れて攪拌していた。

レンは左手でミキサーを持つと直接口を付けて一気に飲み干した。

「っ、はぁっ!」

あっという間にレンの顔に生気が戻った。

「で、どうかしたか?」

 

「あの、さっきユーノから連絡があって、なのはが目を覚ましたんです!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェイトがレンの風呂上りを目撃する1時間ほど前。

「…なのは…」

なのはに割り当てられたのはVIP患者御用達の個室だった。はやて達八神家はシャマルに付き添い、フェイトはなのはの入院準備のために着替えを取りに行っていた。今病室にはなのはと、ユーノがいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ユー……ノ、君…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っなのは!?」

ユーノが覗き込むとなのはの目が開いてその瞳に自分が映っていた。

「よかった…、手術…、無事に終わったんだ……」

「うん…、なのはが…」

「にゃはは…、そうじゃなくて……」

なのははユーノを手を握った。

「ユーノ君…、もし手術失敗して私が死んだら本気で自分も死ぬつもりだったでしょ?」

「…ぅ、」

「だから…、私は死ぬわけには…いかないんだよ……」

「……」

「ねぇ…ユーノ君…、手術の前、あの時の続き……、してほしいの…」

「うん…」

 

 

ユーノはゆっくりなのはの上に覆い被さった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「入るぞ」

レンが病室に入ると、目を覚ましたなのはとその隣には何故か頬を赤らめたユーノがいた。

「レン、ありがとうございました」

フェイトは頭を下げた。

「あぁん、いいっていいって」

レンは白衣の袖を捲くりなのはを眼鏡越しにじっと診た。

「…ん、特に問題はなさそうだな。このまま体力回復に努めれば半月後にはリハビリが始められるな」

「俺はしばらくホテルに滞在してる。次はリハビリメニュー制作して持ってくっから。」

「はい…、よろしくお願いします…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なのはの病室を後にしたレンはホテルに戻り、さっそくなのはのリハビリメニューを作り始めた。キーボードをタイピングする右手が不自由そうだった。

「………ったく、」

部屋の外に気配を感じたレンは手を止めるとドアに近付いた。

「何か用か?」

ドアを開けるとそこにはシャマルが立っていた。

「あ、あの…、その右手……」

シャマルがレンの右腕を握ったが、レンはすぐにその手を振り払った。

「あぁ、流石に24時間手術で疲労してな、軽く腱鞘炎と筋肉痛だ」

嘘だった。手術終盤、集中力が切れたシャマルが誤ってメスでレンの右腕を切ってしまったのだ。すぐに適切な処置をすれば問題無かったのだが、レンはなのはの手術を優先し急場凌ぎの処置だけで残りの、精密な精度と圧倒的速度を求められえる手術をこなした。そのせいで右腕は、その手先は動きがぎこちなく精密な作業が困難な状態になっていた。

「…なのはちゃんのこと、聞きました」

「あぁ、それで?お前は行かなくていいのか?」

「…お願いがあります…」

シャマルは頭を下げた。

「私を、弟子にして下さい」

「…は?」

「私に、貴方の医術を教えてください」

突然の申し出にレンは呆気に取られた。

「…俺の医術は昔会った婆さんからいい加減に教わった我流で邪道な医術だぞ。俺のやり方見てわかったろ」

「でもその医術でほとんど成功の見込みのなかったなのはちゃんを治しました」

「……俺は人に教えるのは苦手だ」

「どんな教え方でも構いません。私が自力で学びます」

「途中で音を上げて止め…」

 

「今度は絶対に途中で止めたりしません」

 

レンはシャマルの言葉と、何より目に強い意志を感じた。

 

 

「はぁ~…」

レンは溜息をついた。

「駄目だ。帰れ」

「何度でもお願いに来ます」

「…勝手にしろ」

レンはドアを乱暴に閉めるとリハビリメニュー制作に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからのレンの生活は目まぐるしかった。

なのはのリハビリメニューを制作、日々の診察とリハビリの監督、経過観察の記録と次のリハビリ計画メニュー制作。

 

そして、しつこく弟子入り志願をしてくるシャマルに辟易していた。

 

 

「あ、なのはちゃんこんにちは。はやてちゃんも今日リハビリなの偶然ね。あ、レン先生、弟子にして下さい。フェイトちゃんも付き添いご苦労様」

なのはのリハビリ予定に併せて施設にはやてのリハビリの予約を入れて一緒にリハビリしたり、

 

 

なのはの検査データの精査をしようとしたら・・・

「あ、レン先生。これデータです整理しておきました。薬の処方箋も既に手配済みです」

先回りしてレンがぐうの音も出ない完璧な仕事をこなしていた。

 

 

 

 

 

そんな生活が半年も過ぎ、新暦68年の8月

病院の中庭

 

「さ、やってみろ」

「…はい」

レンに促され、なのはは車椅子から、自力で立ち上がった。

そして、一歩、一歩と歩みを進めた。

 

 

筋力は歩行練習と平行してやってきた。

 

 

体力は怪我を負う前と同じくらいまで戻っている。

 

 

随分と久し振りに自力で踏みしめる地面の感触と重力を感じつつ、

 

 

 

 

その先の、ユーノとフェイトに向かって、

 

 

 

なのはは歩いた。

 

 

 

そして、

「なのは!」

「歩けた…、歩けたよ、なのは!」

最後は半ば走るようにして、なのはは2人の胸に飛び込んだ。

 

 

「…おいシャマル。」

「…バレれてましたか…」

レンの後ろの木陰からシャマルが出てきた。今日も弟子入りストーキングをしていたようだ。

「なのはも完治したし、俺はここを離れる」

「…はい…」

「ミッドには…、まぁ定期的に来る予定があるっちゃある…」

「はぁ…」

 

 

「その時、ついでに教えてやるよ」

 

 

「え…?」

「フン…」

そっぽを向いて銀髪をガシガシ掻きながらレンはシャマルの弟子入りを認めた。

 

 

 

 

 

 † 

 

 

 

 

 

年が変わって、新暦69年

ミッド中央のとある喫茶店

 

「すみません、レン。お待たせしました」

「おう」

レンとフェイトは店の奥のテーブルで向き合って座った。

「これ、今月分です」

「ん、………たしかに。」

フェイトが差し出した封筒の中身をレンは手のひらに載せて触った感触と重みで中身を把握した。

 

 

 

なのはの手術費用

レンは当初金額で請け負ったのだ

 

クロノ達に要求して受け取った分で不足した分は、

 

フェイトが肩代わりするという契約で

 

 

早い話、フェイトはレンに借金したのだ。

 

毎月レンがミッドに足を運ぶのは、フェイトから分割した分を納めさせるためだった。

 

 

「ところで、執務官の仕事はどうだ?」

「まだまだ見習の域を出ませんよ。お義兄ちゃんのような執務官なんてまだまだです。」

フェイトはレンと出会った2度目の試験は落ちたものの、めげずに3度目の正直で見事合格。執務官を立派に務めていた。

「それなりに社会的立場もできて、今はちょっと過去の経歴や問題を抱えた子供達をでも助けたくて、こないだも医療保護施設の中で隔離されている子供の保護責任者になったんです。」

フェイトは写真データをレンに見せた。そこに写っていたのはツンツンした赤毛の少年だった。

「エリオって言うんです、この子。ちょっと産まれ方に事情があってそれでご両親から離されて…、なんか私と少し似ていて…」

「お前、今年でいくつだっけ?」

「13ですよ」

「その年で母親代わりか…」

22になるレンは呆れながらメガネを右手中指で押し上げた。

年の差9歳に関わらず、この2人の仲は良好だった。ぶっきらぼうで一見無愛想なレンだが、それが優しさの照れ隠しだということにフェイトに気付いていた。

 

 

「さて、俺はちょっと古書店に行くから…」

「私も行きます。シャマル先生に教えるのに必要なんですしょ?結構親身に教えていますね、お師匠様」

「…あいつが勝手にそう呼んでるだけだ。つーか着いて来てもいいけど、つまらんぞ」

 

「…そうでもないですよ……」

 

「何か言ったか?」

「い~え、さぁ、行きましょう。」

レンは当然の様に伝票を持って席を立った。

 

 

 

 

毎月レンに支払う金額は、フェイトの現在の収入からすればそれなりではあるが、周囲に気取られる額ではない。

 

全額納めるには、数年、では足りない。

 

ただ、フェイト自身はこの生活を全く苦に感じてはいなかった。

「~♪」

月に一度はレンに会えるし、その都度レンと出掛け、食事をしたりもする。(レンの奢り)

 

 

要するに・・・・・・・・・

 

 

 

 

フェイト・T・ハラオウンはレン・ジャックジャガーとの繋がりを保ちたいがために、借金までしたのだった。

 

 

 

 

 

類稀なる眼力を備えたレンも、フェイトの真意までは見抜けていなかった。




次回から二章の改定載せてきます
レンも色々戦わせます
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