呪文のとこ修正しました
日が沈み暗くなり始めた空港を走る一台の車。
そこにはサーカス団の専属医師と幹部であるピエロの男、ジョーカーが乗っていた。
「見つけたぜぇ」
その車を発見したレンは足下のコンクリートを韋駄天符で強化された脚で踏みつけ、砕いた塊を蹴り上げると豪腕符で強化された手でゼリーのように毟り取り握り潰し、大小の欠片にして呪文を吟じた。
「――み惠を受けても背く敵は篭弓羽々矢もてぞ射落とす――」
レンは欠片に呪力を込めるとそれを一斉に撃ち出した。
コンクリート片は凄まじい勢いで車に着弾し、タイヤは破裂し車体は凹み、窓ガラスは粉々に砕け散った。
「く…」
「なんて術だ…」
ジョーカーと専属医師は原形を辛うじて留めた車から這い出てきた。
「これで終わりだぁ」
レンは懐から黒い呪符を取り出した。
「邪爪顕符、黒煉手甲、急急如律了」
二の腕を覆う手甲にその先から伸びる鋭利な爪、獣のそれを思わせる呪装は黒く光っていた。
「ジョーカー」
「………」
「ジョーカー、分かっているだろう」
「………はいな…」
ジョーカーは唇を噛み締めると前に出た。
「あんさんがここにいるってことは他の皆は…」
「あぁ…、そぉだぁ~」
「…ッ~!」
ジョーカーはステッキから仕込みの剣を抜くとレンに切りかかった。
「お前はそこまで愚かな奴とは思えねぇが…、どぉしてあんな奴に従ってるぅ?」
手甲爪と剣の鍔迫り合い状態のまま、レンはジョーカーに訊いた。
「あの人は失った俺らに…、世間から見放されて、なんもかんも失った俺らにまた手足をくれた恩人や」
「“歩けねぇ振りしてる”恩人ねぇ」
レンの言葉にジョーカーは驚愕した。
「あ~、バレてましたか」
専属医師は車から降りるとすっくと地面に立った。
「服の上からでも筋肉の付き方で車イス常用者かどうかの判別はつくんだよぉ」
「ははは、参りましたね」
「せんせ…、俺ら騙してたんか?」
「うん、こうしていれば君たちみたい勝手に信用してくれるから楽でいいんだ」
「あぁ…、」
ジョーカーは頭の中がゴチャゴチャになって剣を取り落としてしまった。
「フン…、さて、諸悪の根源のてめぇは生け捕りにして引き渡すことになってっから…」
「それは御免蒙ります」
車からケースを手にした専属医師の足下に突如魔法陣が現れた。いや、それは見慣れたミッド式とも、近代ベルカでも、シャマルに見せてもらった旧ベルカとも異なる、サークル状の模様が動いていた。
「…ッ逃がすか!」
レンはその足元の魔法陣(?)目がけ爪を振るった。が、一瞬早くそこから手が伸び専属医師と共に地面に潜り消えてしまい、コンクリートを抉っただけの結果になってしまった。
「くっそ…が、」
レンが舌打ちをすると、ジョーカーがおもむろに立ち上がった。
「…んだぁ、もうお前には殺り合う理由はねぇだろ?」
「理由なら…、ある…」
ジョーカーは仕込み剣を構えた。
「ジャイアント、ダガー、ビースト、仲間の仇討ち…、付きおうてもらうで…」
「………いいぜぇ」
レンも黒煉手甲を構えた。
ジョーカーが仕込み剣を振り下ろし、
レンが黒煉手甲を振るい、
2人が交錯し、立ち位置が入れ替わると・・・・・、ジョーカーの手から仕込み剣が落ちた。
「おおきになぁ…、これで…みんなの、とこに…」
ジョーカーは満足そうに笑うと、暗くなり始めた空間に鮮やかな血を吐いて倒れた。
「………悪ぃなぁ…、お前や仲間達の事情や生い立ちには同情するが、それでも殺されてやるわけにはいけねぇんだ………、せめて楽に逝かせて殺ることしか…、なぁ…」
血塗られた黒煉手甲を解き、白い山猫の仮面を外したレンの顔は周囲よりも暗く、痛みすら感じないように切り裂かれた鋭利な傷口から出血しているジョーカーを見下ろす瞳は冷酷で、無感情で、どこか哀しそうだった。
その時・・・・
ドォォォンッ!!!
「…ッんだぁ!?」
空港の倉庫が爆発した。それは先ほどまでレンがいた倉庫だった。
その爆発は連鎖的に起こり、その余波が離陸途中の航空機にも・・・・
「…マズイな………」
レンは飛天瞬脚で離脱しようとしたが、
「くっ…、呪力が…」
全身にかけていた呪装が解けてしまった。連装は掛ければ掛けるだけ呪力を消費し、さらに五行符も使用しレンの呪力はほぼ底を尽いていた。
移動に使えそうな車は先ほどレンが壊してしまったので、レンは自力で離脱するしかなかった。
† † † † † † †
「ぃ~、よいしょっ!」
突如、地面に幾何学模様のサークルが現れるとそこから二人の人影が飛び出してきた。
「だぁ~~!何あの目付きの悪い男!?医者って話だったけど、あれマジで医者?殺し屋の間違いっしょ」
地面に浮かんだ謎の魔法陣から飛び出したのは水色の髪の少女と専属医師だった。そこは空港敷地内の別の倉庫だった。
「いやいや、助かりましたよ」
「んじゃ、私が頼まれたのはここまでだから」
そう言うと少女は再び地面に潜って消えた。
「さて…、」
専属医師が倉庫の奥に視線を向けると、そこから管理局の制服を着た女性が現れた。
「例の物は?」
「こちらに」
専属医師がケースを開けるとそこには義足が収められていた。専属医師が膝の部分を捻ると外れ、中から赤い宝石が出てきた。
「ご所望のレリックです」
「たしかに」
「ところで、あなた方の依頼を色々とこなしてきましたし、そろそろドクターJと会わせていただけませんか?」
「そうですね。ドクターからも今回の仕事が済めば、と仰ってました」
「あぁ、それは素晴らしい。あの人だけでしたからね、私の作品を認めてくれたのは」
「では今回の報酬です」
ザク
「………は?」
専属医師は自分の胸を見下ろした。
「な…、ぜ………」
鋭い爪に心臓を刺し貫かれた専属医師が最期に見たのは、女性管理局員が金髪のボディスーツ姿に変わるところだった。
「………」
女性が指先の爪を専属医師の胸から抜くと血が噴出し、倒れる間に二度三度大量に血が流れ出たがすぐに収まり、地面に倒れ臥すと地の池を静かに広げるただの遺体となった。
「………」
女性は遺体には一瞥もくれず、映像通信を繋げた。
『やぁ、ドゥーエ.ご苦労だったね』
「はい、ドクター。レリックは確保し、始末も終えました。取引に使用していた倉庫も仕掛けた爆弾で破壊しました。ただその余波で現在空港全体が大規模な火災が起こっています」
『では、すぐに離脱したまえ。地上部隊だけでなく、本局の魔導士も応援に駆けつけているみたいだ』
「はい。ところで、“これ”のラボの方は?」
ドゥーエは専属医師を指して訊いた。
『あぁ、そっちは…』
† † † † † † †
校外の森の中にまるで人目を避けているように建っている専属医師の研究所。
そこには青ざめた顔で跳び回る双子がいた。
「ヤバイよ…、あの男、俺らの動きについてこれるなんて!」
「管理局の手入れがあるってことはドクターから聞いていたけど、あんなのがいるなんて…」
1人の管理局員が2人の背後から近付いてきた。
「このっ!」
「喰らいなさい」
双子は天井と壁を足場に飛び掛ると、手に張った極細のワイヤーで局員の首を切り裂こうとしたが・・・
「…剃」
サングラスをかけた局員の姿が一瞬で消えた。
「消えた…?」
「速い…」
次の瞬間、局員は2人の背後にいた。
状況的に分が悪いと判断した双子は窓を破って外に逃げた。
「ドクターに改造された俺らの身体能力なら、」
「逃げ切れる…!」
木々の枝を足場に森の中を逃げる双子。しかし・・・
「…月歩」
顎鬚の局員は空中を蹴りながら双子に迫っていた。
「な…、なんなんだよ」
「あんな、魔法も無しに人が…」
双子がその先を言うことは無かった。
「嵐脚」
空中を蹴る脚力から繰り出された蹴りは、飛ぶ斬撃となって双子を切り裂いた。
「………」
局員は地面に降りるとサングラス越しにうつ伏せで落ちた2人の遺体を見下ろした。
「………」
そして、動かないのを確認すると背を向けて去っていった。
「………………行ったか?」
「………………まだよ、見えなくなってもしばらくはこのまま、…ッ!」
わずかに顔を上げて局員の様子を窺っていると、その姿がまたも一瞬で消え・・・、
「…指銃」
双子は左右のこめかみをそれぞれ指で刺し貫かれ、今度こそ、物言わぬ死体となった。
血に濡れた手袋を脱ぎ捨て新しいの穿くと局員は通信を繋げた。
「Jか」
『首尾は?』
「問題無い。Jに関する資料や通信履歴は完全に消去した」
『ご苦労。今回の件で君の信用と階級は上がり、裏の仕事も任されやすくなるだろう。そうなれば…』
「Jの仕事もやりやすくなる、だろう」
『管理局への潜入、引き続き頼むよ』
「ああ」
『………ところで、ヴェルゴ。君、お昼にテリヤキバーガーを食べたかい?』
「何故分かった?大好物だ」
『頬に食べ滓が付いているよ』
顎鬚にサングラスの男、ヴェルゴの頬には食べかすというにはあまりにも大きなバンズとテリヤキのパティがくっついていた。
† † † † † † †
「はぁ…、はぁ…、はぁ…、はぁ…、」
森を走る1人の少女がいた。
「はぁ…はぁ……、はぁ………」
それはレンが緊急手術を施し一命を取り留めたが、顔面に火傷の痕が残ってしまった少女、ドールだった。その顔面の半分は包帯で覆われていた。
「早く…、ジョーカー達に連絡を………」
ドールは療養のため付き添いの双子とともに専属医師の研究所にいた。そこに地上部隊の手入れが入り、双子はジョーカー達を呼び戻すためにドールを逃がしたのだ。
ドールは完治しきっていない体で森の中を走り、研究所から逸早く離れていたので、ヴェルゴも気づかなかったのだ。
「もぅ…………、だ…、め………」
ついに力尽きたドールはその場に倒れた。
「ちょっと、あなた大丈夫?!」
そこに駆け寄る人影が・・・
「大変、怪我をしている…。この近くに私の家があるからそこまで頑張って」
ドールを抱えた女性は必死に呼びかけ続けた。
「………あなた…、だれ…?」
「ルネッサ、ルネッサ・マグナスよ」
† † † † † † †
レンが走っている間にも、空港の滑走路では炎上した飛行機がさらに燃料爆破を起こし、倉庫の方でも引火性の高い貨物が次々と爆発し、大惨事となっていた。
地上部隊や救助隊が臨場していたが、レンは見つかると面倒なことになるので、それらの目を掻い潜りながら離脱していた。
また、レンの着ている黒のコートは隠密の術を施しているので、サーチャーにも引っ掛からず、レン自身も魔力無いので、目視さえ気をつけていればこの場からあと少しで離脱できる、はずだった・・・
「んだぁ…?息が…」
流石に猛スピードで走り続け息が上がってきたレンは、ふと自分の吐く息が白くなっているのに気づいた。
「それに…、寒く…」
レンが異常に気づいた瞬間、レンは周囲一帯と共に大規模な凍結魔法により凍ってしまった。
それからどれだけ時間が経ったかは分からないが、レンは誰かに呼びかけられ意識を取り戻した。身体がまだ自由に動かないので凍ったままのようだ。
(………シバリング…!)
レンは全身の筋肉を震わせて摩擦熱を起こした。しかも、常人以上の熱量を。
「うぉ!?」
目の前にいたの男は突如レンの身体が震えたと思ったら蒸気上げて動き出したのに驚いた。
「おいあんた、大丈夫か?」
「ぁ、あぁ…、なんとかなぁ…」
「まったく、あの本局の変なしゃべり方する女魔導士、ちゃんと人命が無いの確認してから魔法使えっての。下手したら死んでたぞ」
「……」
「あぁ、俺は港湾警備隊救助課の…」
レンは名乗ろうとした男の頭に手を乗せ、反対の手の指には呪符を挟んで刀印を結んだ。
「――あんたりをん、そくめつそく、ぴらりやぴらり、そくめつめい、ざんざんきめい、ざんきせい、ざんだりひをん、しかんしきじん、あたらうん、をんぜそ、ざんざんぴらり………」
レンが呪文を唱えると男は意識を失った。
「悪ぃなぁ、人に見つかると面倒なことになるから記憶を消させてもらった」
レンは男の身体を凍った地面に横たえると懐から覗く局員のIDカードを見た。
「………ヴォルツ・スターン、か…」
レンは呪力が多少回復したのを確認すると、黄色い呪符を取り出した。
「瞬身符、閃迅高速、急急如律了…」
レンの姿は一瞬にしてその場から消えた。
次回は一気に列車の方まで飛びます
今度も黒執事の要素を入れつつ、書いていきます