黒銀~silvery black~・改   作:蒼乃翼

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だいぶ空きましたが、更新します


6話 白虎

豪華寝台特急『カンパニア号』

運転車輌の手前には二車両分の貨物車輌となっており、際ほどお披露目で運び込まれた棺桶の残骸が散乱していた。

そこに生きている存在は三人。

「………」

裏の仕事の時に被る白い山猫の面を被り、高級な白いスーツ上下をNEVER(ネバー)の返り血やワインの染みによって手負いの獣の雰囲気を漂わせているレン・ジャックジャガー。

その見た目や発せられる殺気に萎縮して残骸の影に隠れているNEVER(ネバー)を開発した白衣の男。

そして・・・、

「ンフフフ」

細身ながらも妖しげな鋭さをただ負わせる爪を装着した右手を端整な顔の頬に当ててレンを値踏みするように見ている金髪の女。

「テメェは誰だぁ~…?」

「さて、誰かしらね。とりあえず、あなたにこれ以上好き勝手されると困る者、といったところかしら」

「…そぉか、よっ!」

レンは一気に間合いを詰めて黒爪を振り下ろした。Ⅱ番の女は軽やかなステップで避けるとレンの首筋に爪を突き出した。

「…」

レンは体を回転させてそれを躱すとその勢いのまま蹴りを繰り出した。

「んふ」

しかし、Ⅱ番の女はまるでキスでもするかのようにレンの近付くと太腿に手を当ててそれを止めた。遠心力の乗った足先では防ぎようも無いが、回転の中心近くの太腿ならば軽く手を添えるだけで動きを止める事ができる。

「フッ!」

Ⅱ番の女が口から何かを飛ばしてきた。レンは咄嗟に手甲部分で顔面を防ぎながらバックステップで距離を取った。

「歯に硫酸のカプセル仕込んでやがったな…」

レンの手甲は一部が解けて白煙が上がっていた。

「顔面に喰らってたらやばかったかもなぁ…」

レンは気にする様子もなく手甲に残った硫酸を振り払った。

「ずいぶんと仕込みが好きなようだなぁ~…」

「えぇ、私直接戦闘は苦手なの。だから、色々と仕込んでおいたの…、ほら」

Ⅱ番の女がレンの背後を顎でしゃくった。レンは警戒しつつ、後ろを振り返った。そこには・・・・・

 

 

「なん…、だとぉ…!?」

 

 

虚ろな眼のカズミ・クレナイがそこにいた。

 

 

 

 

 

 † † † † † † † 

 

 

 

 

 

「…どぉいうことだぁ…」

「彼は元々人体改改造手術に加えて脳にも手術を施していたの。命令が与えれば一切の感情も記憶も無く意のままに動く道具としてのね」

「こいつらの故郷の政府と結託してやがった財団ってのはテメェらかぁ…?」

「いいえ、財団とは協力関係にあるだけ。その過程でちょうど人体実験の材料が欲しかったから財団経由でこちらの技術をそいつらの故郷で試したの。だってほとんど毎日新鮮な死体が手に入るんですもの、絶好の養殖j…」

 

「もういい、喋るな」

 

レンの全身から凄まじい怒気が溢れ出した。

Ⅱ番の女は怯む様子も無く、肩を竦めた。

「さぁ、その男を始末なさい。せっかくだから、あれを使ってね」

カズミは生気の感じられない動きで腰にバックルを当てベルトを装着し、小さなUSBメモリを差し込んだ。

 

Robotto

 

機械音声が鳴ると、カズミの体が黒ずんだ金色のバリアジャケットにロボットのような装甲と蝙蝠の翼を模したバイザーに覆われた。そして右手には小型の槍射砲が装備されていた。

「………」

生気の無いカズミの目に映っているのは、白い山猫の仮面。その下でレンがどんな表情をしているかは、窺い知れない。

「なんだあ…、その格好はぁ…?」

「ロボット工学に秀でた世界の記憶を宿した小箱、とだけ言っておくわ」

Ⅱ番の女は意味深なことを言ったが、レンは追撃しているカズミに手一杯だった。

左腕の槍射砲の穂先はドリル状になっており、それと打ち合うたびにレンの手甲は削られていった。

手数としてはレンの方が上だった。韋駄天符も連装し攻撃速度を上げているが、それでもカズミの攻撃は捌き切れない。

普段のレンは医師としての視点から人間の視線や筋肉・関節の可動域、暗殺者としての視点から相手のそれまでの動きから可能な動きや攻撃を瞬時に予測し後の先を取る先方が常だった。しかし、現在のカズミは機械のように精密な動きをしたかたと思えば突然ぎこちない動きをしてそれを補うように無理矢理身体を動かしてレンに攻撃をしてきた。普通ならば筋肉や骨格が悲鳴をあげ危険だとシグナルを出すが、Ⅱ番の女の言うとおりならそれらの感覚器官は遮断され、ひたすらに命令に従って動きだけの文字通りロボットのような状態となっている。

装甲もロボットのように固く、かすった程度ではほとんどダメージは無く、重い一撃が入ったと思っても一瞬怯ませるのが精々だった。

術が使えればまだ有効な一撃が入るかもしれないが、先ほどの乱戦で一度、さらに今は黒煉手甲に韋駄天符を連装している。呪力の残量的にも大技になる五行符は使えない。そもそも、早九字(ドーマン)や五芒星(セーマン)を切る隙が無い。

(………まずは距離を取る)

レンは大きく退くと射弾符で烈空魔弾を撃とうとした。

「み惠を受けても背くあだなえ敵は…」

果たして、カズミは追撃せず左腕の槍射砲の穂先を収納し、代わりに二連砲身を展開した。

「…篭弓(カゴユミ)はは羽々や矢…ッ!」

詠唱途中だったレン目掛け、カズミが魔法弾を連射してきた。止む無くレンは詠唱を中断し床を転がりながら回避し、実験体が納められていた棺桶型のポッドの残骸の山に身を隠した。

「………このままじゃぁ…、ジリ貧かぁ…」

それでも続く連射に残骸も山はそう長くもちそうになかった。レンは一か八か、飛天瞬脚を解除し鎧包業羅を連装し、特攻を試みた。

「おぉぉぉっ!」

前面に防御を固めて特攻を仕掛けたレンに対し、カズミは青黒いメモリを槍射砲の装填した。

 

STAG

 

すると、魔力で形成されたクワガタの顎が槍射砲に展開された。

「やべぇ…!」

レンは咄嗟に両腕を交差させた。

硬質な金属同士が擦れ、弾け、引っ掻くという不協和音が列車の走行音を掻き消すほど社内に響いた。

そして、クワガタの顎が食い込むと手甲はいとも容易く砕け散った。

「が…、」

その衝撃はそのままレンを列車内の壁に激突させ、仮面も床に落ちた、

「…~ッハ!」

レンが鉄錆びの臭いを感じるのと同時に血の塊を吐き出し、床に落ちた白い山猫の面の上に滝のように流れ落ち、真っ赤になった。今の一撃自体は手甲が砕けたことで相殺されたが、余波で壁に激突したことで内臓を著しく損傷してしまったらしい。

「あらあら、もう終わり?」

Ⅱ番の女はがっかりしたように溜息をついた。

(………ぁ~、くっそ…)

レンは敗れたスーツを脱ぐとそれで血を拭った。

「しゃぁ~ねえ~かぁ~…」

レンはスーツの内側からメスを取り出すとさらに新たな呪符を取り出した。それは今までのものとは違い、神々しいオーラを放っていた。カズミも本能的に追撃をの手を止めざるを得ないほどに。

「………~、」

レンは静かに息を吐くと右手に握ったメスに呪符を翳した。

「獣桜顕符(ジュウオウケンプ)…、」

それまで以上の眩い光が列車内に広がった。Ⅱ番の女も思わず目を覆った。生気の無いカズミの目にもバイザーの遮光を突き抜けてるほどその光は強かった。

 

 

「白刃虎楼(ビャクジンコロウ)、急急如律了!」

 

 

レンが術言を唱えると光は徐々にレンの右腕に集束していった。

光が収まると、そこには輝く純白の爪があった。右手一本だけだが、先ほどまでの黒煉手甲とは次元が違った。

圧倒的、猛々しく、しかし雄雄しく神々しくもある獣がそこに佇んでいた。

「悪ぃなぁ…、俺にはもうこうするしかねぇんだ…」

レンは徐に右腕を顔の横まで掲げると爪の先をカズミに向けた。

「仲間や故郷のためにてめぇの身体を差し出してまで張ったお前の魂…、せめて安らかに逝けるように祓ってやるよ」

レンの身体が一瞬前後に揺れた、瞬間・・・、

 

 

レンはカズミの背後に立っていた。

 

 

「何…今のは…」

Ⅱ番の女も何が起こったのか分からない様子だった。

「…虎空・倶利伽羅…」

レンが静かに呟くと、カズミのバリアジャケットは弾け飛び、五芒星(セーマン)が浮かび上がった。

 

 

「祓いたまえ、清めたまえ」

レンは静かに呟いた。

 

 




今回のベルト型デバイスはガイアドライバーです
核の遅れているうちにスクラッシュなんて出てきたもので・・・

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