黒銀~silvery black~・改   作:蒼乃翼

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フェイトが若干キャラ崩壊します


※2016年11月4日時点
改定


4話 安心

「ん…」

フェイトが目を覚ますとレンが顔を覗き込んでいた。

「ふぁっ!?」

フェイトは驚いて跳ね起きた。麻酔はほぼ切れて体が自由に動くようになったらしい

「起きたか。なんかうなされてたぞ」

「…あ、」

フェイトは動くようになった手を顔に当てた。びっしょりと大量の汗が掌についた

「ほら、顔拭け」

レンが干したてタオルを手渡した。外の空気と日光で乾いたタオルはいい匂いがした

「…夢を見ていました。あの犯罪者グループに襲われた…」

「…………」

「あの、今さらですけど………、ジャックジャガー先生…、助けてくれて、ありがとうございました」

フェイトは頭を下げた。

レンは用意していた桶とタオルを指差しながら後ろを向いた。 「今食事を持って来っから待ってれ」

フェイトに見せまいと後ろを向いて誤魔化したレンの顔は、赤くなって口元も少し緩んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レンが用意した食事はスープだった。

薄い琥珀色のスープから漂う湯気はかすかにオーロラのように見えた

「滋養強壮の食材を数十種類壺に入れて蒸し煮にしたスープだ」

レンは説明すると銀色の匙でスープをすくい、フェイトの口元に近づけた。

「え…、あの……」

「ん?熱いか?」

レンは匙のスープを冷ますように息を吹きかけた。フェイトの顔の近くだったのレンの吐息がフェイトの髪や頬を撫でた。

「~っ…、」

フェイトは顔を真っ赤にしながら、別に熱かったわけではないが、冷ましてもらったスープを啜った。

「…美味しい……」

口一杯に広がるまるでハンバーグのかと思うくらい溢れ出す旨味にフェイトは思わず咀嚼してしまった。飲み込むとその旨味が喉や食道をなぞるようで、胃に到達するとたった一匙のスープとは思えないほどの満足感があった。

「ほら」

レンは二口目を差し出した。

「…ん」

フェイトは恥らいながらもそれを口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェイトは結局最後の一口までレンに食べさせてもらった。

「………美味しかったです」

「そりゃなにより。食い物の味が楽しめるなら状態としちゃ上等だ」

レンは食器を下げながら言った。

「今薬持って来るからちょっと待ってれ」

レンが部屋を出た後、フェイトは布団に顔を埋めた

「……何やってんだろ私…」

フェイトは目を覚ましてから今までの自分が猛烈に恥ずかしくなった身近な異性、ユーノや、クロノにすら見せたことのない自分の…、あられもないのも含め…、姿を命の恩人、医者とはいえ初対面の年上の異性に見られたのだ。

「普段ならこんなことないのに……」

その生い立ち故、フェイトは同年代以上に大人びて、強い責任感と使命感を持っている。が、それは裏を返せば背伸びをし過ぎているということ。

愛する家族、気が置けない友人に対して壁は作らないが、手助けして貰おうという甘えがフェイトにはない。大切に思い、思い過ぎるため安心してもらおう、と自分を厳しく律し、相手に触れさせず触れさせないように振舞ってきた。

さらに今回は2度目の執務官試験。前回の失敗やなのはの事も合わさり、フェイトのメンタルは半ば決壊寸前のダムのようになっていた。

「…レン…、ジャックジャガー………」

その壁に気を使ったり遠慮したりせず、一気に破壊し何もかも強制的に曝け出させたのが、レン・ジャックジャガーだった。その一見すると粗暴で無茶苦茶な接し方は、今までの人生の中でも経験した事のないものだった。義兄のクロノ、友人のユーノ。そのどちらとも異なる異性の存在。それが今フェイトの中で、もしかすると怪我以上の問題になりつつあるのかもしれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戻ってきたレンの手の上には、水差しとコップ、粉薬が入った乳鉢を乗せた盆が乗っていた。そしてもう一方には小さめの桶、その中に洗面用のコップと歯ブラシ歯磨き粉が入っていた

「薬だ」

レンはベッド横の小机に盆と洗面器を置くと、粉薬をオブラートで包みフェイトに渡した

「あ、はい」

フェイトはオブラートを一気に口に入れ、レンが差し出した水で流し込んだ

「んじゃ、最後に歯ぁ磨くぞ」

「え?」

レンが歯ブラシを構えているのを見て、フェイは思わず声が裏返った

「だってお前、身体の麻酔切れても指先の細かい作業とかはできねぇだろ。さっきもスプーン持ててなかったし」

「そ…」

それは貴方がスプーンで食べさせただけでちゃんと自分でスプーンは持てました、と言おうとしたが、差し出されたスプーンを見て思わず甘えたくなった自分の甘えを知られてしまうのが恥ずかしくて言い出せなかった。

「歯磨きを疎かにすると後が怖ぇぞ。虫歯になれば歯が脆くなって欠けたりするし、そっからバイ菌入り込んで化膿したら口の中がエライことになるぞ」

それに、とレンは続けた。

「磨かないと歯が黄ばむぞ。せっかく綺麗な顔してんのに、そうなったら台無しだぞ。親から受け継いだもん、大事にしろよ」

「あ…」

フェイトは思わぬ言葉に一瞬呆けてしまった。

「ほい固定」

その隙にレンが大きな左手でフェイトの高等部を掴み顔を上に向けさせ、さらに指先で頬を引っ掛け口を開けさせた。

「…~、」

口が開いたままなので声が出ず、フェイトは自分の口にいれらようとしている歯ブラシ

ただ見ていることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全てが終わったのは何分後か。フェイトはそれすら忘れるくらい放心状態だった。

頬は紅潮し、焦点の定まらない瞳はとろんと虚ろ、室内は特に暑くもないのに顔は汗ばみ、病衣のV字襟から覗く鎖骨はほんのり桃色、呼吸は速く浅い。

「はぁ…ぁ…、はぁ……、ん………あ…」

他人に口腔を刺激されるのがこんなにも快感だと感じているのは自分だけなのだろうか、とフェイトは徐々に平常に戻りつつある脳内で考えていた。

「一応今日の処置処方は終わったが、もう消灯してもいいか?」

物を全て片付け終えたレンが部屋に戻ってきた。

「あ…、もう少し待ってください…まだ眠れそうにないので…」

「ん、わかった」

レンはそう答えると部屋の隅に置いてあった安楽椅子をベッドサイドまで持ってきて座った。

「え?」

寝るまでここにいる。一応バイタルのチェックもしなきゃならんしな」

「はぁ…」

ここまで来るとフェイトももう何も言わなかった。

「あの、じゃぁちょっと訊きたいんですけど…」

そう切り出してフェイトが訊いたのは、レンが何故こんな無人世界にいたのか、ということ。

レンは色々と教えてくれた。この世界はあまり知られていないが薬効をもつ動植物の宝庫なのだ。ただ、捕獲や保管、精製や投薬方法に難があり、また医療技術や魔法の発達でわざわざ危険やリスクを犯してまで来る人間がいないとのこと。ここに別荘を構えていたのも、必要な薬剤調達のための拠点とするためであったらしい。

「俺は魔力ねぇからこうでもしないと医者なんてやってられねぇからな」

「はぁ…」

先天的に上等の魔導士としての素質を持って生まれ、小さい頃から鍛錬を重ね、今も魔法が当たり前の生活を送っているフェイトにとって、無人の管理世界で魔力がなくてもここまでのことができるレンは今まで接してきた男性とは違う存在に見えた。

「あの…、」

「あん?」

「ファーストネーム……、レンって呼んでもいいですか?」

「別にいいけど」

レンはあっさり承諾した。

「そもそもジャックジャガーなんて長ぇから面倒だろ。呼ぶほうも呼ばれるほうも。むしろこっちから頼もうかと思ってたところだ」

「じゃぁ…、レン…、先生?」

「何故そこで疑問形になる。先生もいらねぇよ」

「……レン」

「あぁ、それでいい。さぁ、もういいだろ。さっさと寝れ」

レンはフェイトの額を小突いた。

「はい」

 

フェイトは静かに目を閉じた。

 

 

今夜は、ぐっすり眠れそうだった。

 




今後、随時改定していきます(2016年11月3日)
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