レンの提示した金額に、まず反応したのはクロノだった。
「な、何だその金額は?!」
容態、手術の困難さから算出した妥当な金額だと思うが?」
レンは眼鏡を右手中指でくいっと上げた。
「だいたい、普段の医療費にしたって保険があるからそれほどでもないが、患者や家族が実際に払う金額はなんて、本来ならその何十倍もかかってんだぞ」
「でも医者なら人の命助けるのに損得勘定なんて…」
ユーノの言葉にレンは・・・、
「あぁん?損得勘定して何が悪い。こっちは命助ける技術と知識を死に物狂いで習得するんだ。そして現場でそれを100%発揮するのにこっちに命かけてんだ。当然だ、患者の命を自分の手で握ってんだからな。それに見合う報酬を要求するのは等価交換だ。それに、お前らにとってこいつの命はこの金額にも満たないってのか?」
「そ、そんなわけないだろ!」
ユーノの言葉はフェイトとクロノの思いでもあった。2人とも強く頷いた。
「生かしたいなら、本気を見せろ。本人の生きたいって意思、家族や周りの連中の生かしたいって意志、それが足りてねぇ時点で俺の医術を受ける権利はねぇ。成功率が俺より低いここの高名なお医者様に頼みな。」
「けど、そんな金額を請求した時点で医師教会から免許剥脱…」
「俺は無免許医だ。」
レンの告白に3人は唖然とした。
「ふ、ふざけるな!そんな医者になのはを任せられるか!」
ユーノは激怒した。
「同感だ。法外な金をふっかけるような医師ならすぐに捕まえて地上部隊に引き渡すが、この場はフェイトの顔に免じて見逃す。すぐに立ち去れ。」
S2Uを起動させたクロノはレンを警戒した。
「ふぅ…」
レンは肩を竦めてICU(集中治療室)の前から立ち去った。
†
「待ってください!」
レンが病院から出たところでフェイトが走って追いついた。
「おいおい、あんま無茶すんなよ、病み上がりの身体で。」
「はぁ…、はぁはぁ…、あの…」
フェイトは息を整えるとレンと向き合った。
「あの、なのはの事なんですけど…」
「金額はびた一文まけないし、電子マネーでの振込みも無し、キャッシュで持ってこい」
レンは突き放すように言い放った。
「…なら、私が払います。何年かかっても、一生かけて…」
「…はぁ?お前自分が何言ってんのか分かってんのか?」
「はい…」
「若い身空で借金背負う気か?」
「…はい…、ッ!」
フェイトの額にレンがデコピンした。
「発言には気をつけろ。俺が暴利を貪る悪徳医師ならお前はすぐにどっかの変態金持ちに売り飛ばされんぞ!」
レンは牙の様な八重歯を剥き出しにして怒った。
「…でも、レンはそんな人じゃないって、分かってますから。」
「…ンぐ」
フェイトに真っ直ぐ見つめられて返されたレンは黙ってしまった
「…、とにかく手術費用はもう一度相談してみろ。ここに泊まってっから、目処がついたら直接来い」
「はい…。」
レンはフェイトにホテルの名前が書かれたマッチを投げて寄越した。
†
ミッドでも最高級のホテル。その最上階スイートルーム。レンは乱暴にドアを開けて中に入ると、靴を脱ぎ捨ててソファに乱暴に座った。
レンはテーブルの上の炭酸水(ペリエ)の瓶を逆さまにしてビン底をひねって開けて中身をラッパ呑みで一気に空にした。
レンはイライラしていた。原因はフェイトだ。
自分の内面を見透かされて、それが分かっているからこそ、こっちの脅しにもけろっと返事が出来るのだ。あの純粋な紅い瞳で見つめられることが、レンは何故か苦手だった。
レンは眼鏡を操作して目の前にウィンドを開いた。それは先ほど視診していたなのはの病状だった。レンの眼鏡は高性能のデバイスでもある。視診した患者の、読み取れる情報を分析し、蓄積することができる。
「……」
なのはの状態は高層ビルの間に手術用の糸を張ってそこを渡っている様な状態だった。昼間はできる、と豪語したがこうして改めて見ると手術の成功率は…
「…寝るか…」
皆まで言わず、レンはキングサイズのベッドに寝た。
†
「…ん」
レンは目が覚めた。眼鏡をしたまま寝たため眠りが浅かったようだ。
「シャワーでも浴びるか…」
レンは着ていた服の上だけ脱ぐとバスルームへ向かった。熱湯を頭から浴びて銀色の短髪をガシガシと乱暴に洗ってもやもやを払拭しようとした
「はぁ…」
結局、もやもやは残ったまま、最後に冷水シャワーを浴びてレンはバスルームを出た
「…?」
ドアの外側、廊下に人の気配を感じた。時間は夜。ルームサービスは何も頼んでいないし、そもそもこの階にはボーイは滅多に来ない。
「誰だ」
レンはドアを開けた。そこにいたのは…
「こ、こんばんは…」
「…フェイト」
黒系のジャケットにタイトスカート姿のフェイト・T・ハラオウンがそこに立っていた。
「何しに来た?」
「あ、あの…お話が、あったんですけど…」
フェイトは顔を赤らめ視線を合わせようとしない。
「はぁ…、まぁ入れや」
「その前に服を着てください!」
フェイトに指摘されて、初めてレンは自分がバスタオルを腰に巻いただけの姿ということに気付いた。
とりあえずバスローブを羽織っただけのレンはどっかりとソファに座った。フェイトは勧めたが頑なに立ったままでいいと言った。
「で、何しに来た?夜中に男の泊まってるホテルの部屋を訪ねるってのは、あんま褒められた行為じゃねぇってのは分かるだろ?」
「分かってます、無礼を承知でお願いに来たのは、なのはのことです。」
「なんだ、金策の目処でもついたか?」
「――――」
フェイトが口を開くと、レンは黙って最後まで聞いた。