魔都聖杯奇談 fate/Nine-Grails【中国史fate】   作:たたこ

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十年前の上海。この土地が自由都市としてすでに繁栄を謳歌している最中に、夜陰にまぎれて行われた戦争があった。

静まり返った外灘のさざ波を見つめながら立つ二人の英霊がいた。片や最優のサーヴァント・セイバー。片や最強のサーヴァント・バーサーカー。
その二人の英霊は、よく似た英霊だった。双方とも卑賤の身から始まり、果ては皇帝にまでなりあがったのだ。そして輝かしい栄達に反し、晩年は粛清に暮れたことまで同様だった。

にも拘らず――二人の在り方には、海溝よりも深い溝が横たわっていた。

セイバー――矮躯の女性は、やや伏し目がちに、それでもはっきりした声で告げる。その色は警告であり、半ば敵意が滲んでいた。

「お前の願いはダメだ。誰も得しない。お前さえも」

欲望の皇帝は、欲望を肯定する。彼女はそれが世界を滅ぼすようなモノでもないかぎり、どんな願いも良しとする。だが、彼女ははっきりとバーサーカーの願いを否定した。しかし、それでひるむバーサーカーではなかった。

「ヒトでは無謬たれないのであれば、ヒトなどこちらから願い下げだ」

そう彼は切って捨てる。捨てたものはセイバーの言葉だけではなく、ヒトとしての己でもある。それでも彼に迷いはない。

「過去は変えられないが、未来は変えられる。九鼎を以て、俺は永遠にして無謬の支配者となる!」

絶対的な自信に満ちたそのまなざしを受けて、セイバーはため息をついた。バーサーカーを倒すなら、こんな問答は不要どころか余計ですらある。自分の勝ちめを減らす愚行であるとセイバーは承知していた。
生前バーサーカーは自分を尊敬していたから、その自分の言葉なら少しは聞き入れるのではないかと思っていたのか――セイバー自身にもよくわからなかった。
これが、心の贅肉というやつか。だとすれば高祖も甘くなったものである――。

しかしここまできた以上、和解は不可能。残るは殺し合い、それだけだった。

「性には合わんが――わしがその願いを殺してやろう」


1月22日 基本方針策定

「茶がうまい。蘭々、お前は茶を入れる才能があるな」

「はぁ……」

 

ぷはーと間抜けな声を出して一服するセイバーだが、褒められた蘭々は釈然としない顔をしていた。移動したセイバー、剣英、蘭々、建良は当屋敷の客間へと移動していた。最も景色のよい部屋で、窓からは庭に造成された池や橋――水郷地帯のような景観が望める。ストーブを炊きだしたばかりで、部屋の空気は冷え切っている。

その中で四角の紅いテーブルに四人とも腰かけ、何とも言えない雰囲気を漂わせていた。

 

「さて、お前たちはこれからどうするんだ」

「その前に、お前たちは何をしに来たんだ」

 

何故か主人面をしているセイバーに対し、屋敷の主である建良はそう切り返した。怒涛のような成り行きの中当然の顔をしてセイバーはいるが、何故この屋敷にやってきたのか建良と蘭々はわかっていないのだ。

 

「質問したのはこっちが先だが、答えてやろう。色々事情があって、わしはこいつのサーヴァントになった。話を聞いたら剣英をここに呼び寄せたのはお前らだという――そこでこいつのことを聞きにやってきたのさ」

 

建良はちらりとセイバーの隣に座る剣英を見たが、彼はずっと無表情のままだ。何を考えているのか、否、何も考えていないのかもしれない。建良たちが求めてきたのは情緒ある人間ではなく、「神秘殺し」の戦闘機械である。

 

「で、お前たちはこれからどうする?聞いたり見たりしたところ、呼んだサーヴァントはトンデモ野郎なうえにもう消滅。この屋敷に連れてきたらしい者たちも、軒並み殺されてるみたいだが」

 

どう考えてもセイバーに主導権を持って行かれていることは自覚していたが、それはいかんともしがたかった。あの講堂であの時、セイバーが現れなければ建良は確実に殺されていたどころか、九族死に絶え魔導も滅されることになっていた。つまり建良にとってセイバーは命の恩人となってしまっているのだ。

それにしてもあまりにも丁度良い時に現れたため、実はもう少し早く来ていたが時を測っていたのではないかと思っている。蘭々から報告を受ける暇がなく、そういった行為があったかどうかは不明だが……

 

セイバーは茶をすすりながら、建良の目を見据えた。

 

「まだ「」とかいうモノを目指すか。今回は見送るか、それともどうにかして九鼎を目指すか」

 

今回は見送ることはなしではない。魔術師として「」を追い求めるものとしては、百年二百年の遅れはよくあることだ。しかし自分の代で遂げることを諦めることにはなる。

しかし、今建良が亡くなったところで本家に代わりはいる。雷家が途切れることはない。ならば、自分は戦いを続けるべきである。これが建良の結論だった。

問題としては、サーヴァントなき今どう九鼎戦争に食い込んでいくかだが――建良は、目の前の美しい少女を見た。

この少女がなぜここに来たか。剣英のことを知るために来た、というがそれだけではないことは分かっている。

 

前回の戦争でのこのセイバーは、実に弱かった。宝具の開帳を見ていないことと真名がわからないため判断は早計であるが、通常の戦闘では人間よりは強いとしか言えなかった。とすれば人外の戦闘力を持つ剣英との組み合わせは妙味ある。

 

――剣英はまだまだ強くなる。それは数年かけて修行をしてという意味ではなく、この上海において数日でという意味である。九鼎が起動して通常ではありえないほどの魔力が渦巻く今の上海は、強制的にでも剣英の半分を神秘へと塗り替えるだろう。

しかしこのことを知るのは建良のみであり、現在の剣英の力はまだまだ未熟なのだろう。セイバーも魔術師ではないため、剣英の力の源を知らない。

雷家は九鼎戦争の首謀者の一である。セイバーもそれは承知で、戦争のからくりについて、ひいては共同戦線を持ちかけにきたのであろう。

 

それは建良にとっても喜ばしいことである。サーヴァントを失っては戦争を続けられないところに、サーヴァントが転がり込んできたのだ。たとえ弱くとも英霊にして奇跡の具現――もろ手を挙げて迎えるべきでもあるのだが……

 

「俺は諦めない。セイバー、共に九鼎を目指さないか」

「それは奇遇だ。わしも同じことを考えていた……お前は魔術と知識を提供し、わしらは戦力として戦うというわけだが」

 

セイバーは息を吸うように軽く言った。「わしは九鼎に願いはない。強いて言うなら世界を破壊するようなヤツに使ってほしくないってくらいでな。そういう意味では雷家(あんたら)は信用できる」

「ほう。なかなか高潔な英霊と見える」

 

「そうでもない。九鼎に願いがないだけで、目的はある。剣英にはもったいぶってヒミツと言ったが、わしはわしの真名がわからない」

「――は?」

 

一瞬建良はあっけにとられ、セイバーの顔をまじまじと見たが彼女の顔にふざけた様子はなかった。嘘だとしたら、真名を隠す意味は――信用されていないか、それとも。

確かに建良は真名を聞くつもりであったから、ごまかすことはできないと先に伝えたか。

 

「お前、前回の戦争でわしが宝具使うとこ見てないだろ。そりゃそうだ、だって自分の真名がわかんねーんだから、宝具だってどう使えばいいかわかんねーんだ」

「何故そのようなことに」

「召喚時が緊急だったからかもな。今だにわからん。だから戦いの中でわかることもあるかもしれんと、わしは戦うつもりだ」

 

ズズ、とセイバーは茶を飲みほした。「さて、共闘するところで確かめておきたいんだが、十年前の戦いにつ「その前に聞きたいことがありますっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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