魔都聖杯奇談 fate/Nine-Grails【中国史fate】   作:たたこ

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1月19日 オールド・シャンハイ

「租界」とは、外国人居留地のことである。上海が開港したのは一八四二年。当時の中国――清朝がアヘン戦争に敗北した際、和平条約として外国人居留地を設置することが含まれていたのだ。

 当初、清国政府は外国の商人をその居留地におしこめて隔離するつもりだった。しかし、商人たちは中国の法律からの治外法権の特権を拡大解釈して「治外法権を与えられた外国人の自治組織」を作ることをはじめ、その果てに行政、警察、消防からガス、水道の供給まで自分たちで管理するようになってしまったのだ。そうして1つの小国家の如き様相を呈した上海は、今に至るまで中華でもなく西洋でもない、ひとつの自由都市となっている。

 租界には大きく分けて二つが存在し、一つは共同租界――アメリカとイギリスが共同で支配しているエリアであり、もう一つはフランス租界である。ただし、第一次世界大戦の終結後、資本を大きく失ったイギリスとフランスはその支配を弱めた。代わりに進出してきたのは、アメリカと新興国、日本であった。

 そして本国における迫害によって亡命してきたドイツのユダヤ人、同じく本国からの革命から逃れてきたロシア人、さらにこの国の民でありながら、外国人の召使いとして使役される多数の中国人が住まう――まさに、どこの国でもない国となっていた。

 

 さて、この魔都上海における治安は当然の如くよくはない。本国清――辛亥革命を二十年前に経た今となっては中華民国だが――の統治は治外法権の名のもとに届かない。そもそも民国そのものが軍閥割拠、つまりは内戦状態にあるため到底強力な統治など望むべくもなかった。それでも、租界内には強力な警察組織があり、内乱で略奪や殺戮が日常茶飯事と化している中国内部よりははるかにましだった。

 

 上海租界では思想の取締りのようなこともなく、大抵のことを考え、発言するのは自由だった。しかし同時に麻薬や売春といった行為が禁止されていたわけでもない。この地域の利権を持った外国人に迷惑がかからないのであれば「自由」が与えられた。

 まさに混沌とした自由。清濁飲み込んで、華洋の文化を受け入れる素地を得て、一九三〇年において上海は最高の繁栄を迎えていたのである。

 

 

 

 *

 

 

 

 

 上海の港を訪れた者は、まず埠頭――バンドの光景に圧倒される。埠頭周辺には各国の大型銀行と一流ホテルが軒を連ねて建設されており、天を衝くがごとくの摩天楼を拝むことになる。一般にその建築様式は古いヨーロッパのスタイルのことが多いが、最近の建物は現代的で、例えばパーク・ホテルなどは高層階の外壁が上に行くほど幅を狭めててっぺんの尖塔に達するという洒落たデザインをしていたりする。

 だがしかし、一度その街に足を踏み入れると、次はその雑踏と臭いに圧倒される。真っ先に目につくのはオフィス街だが、そのすぐ近くには貧しい中国人が暮らす「南市」という区域も隣接している。そしていわずもがなの港町ゆえに、そこへ漂う臭いは、下水と海草の腐った海の臭い、ニンニクや香水の香りと複雑な様相を見せるのだ。

 

 

 生憎の曇り空の下、その混沌の都上海の雑踏に1人の女が歩いていた。年のころは十五か十六、白磁の肌を持つ美少女である。夜を切り取ったような黒髪を頭上でシニヨン状にし、それに頭巾をかぶせてリボンでくくっている。

 服装はゆったりした赤の旗袍(チーパオ)――チャイナドレスの原型――にブーツ。一月という季節ゆえ、その上に茶色いコートを羽織っているが彼女は寒さをあまり感じない体である。

 

 この街では真昼間から人さらいが起きる。一人でふらふらあるく美しい少女などそれだけで危なっかしいのだが、当の本人はそんなことを気にするたちではない。

 彼女の歩く一帯はフランス租界。上海の中で最も美しいと評判の区画であり、今丁度彼女が足を止めた先には巨大な建物がそそり立っている。

 キャセイ・ホテル。またの名を華懋飯店。つい昨年竣工したばかりの十一階建ての摩天楼である。上海の不動産王サッスーン財閥の本拠にして、その五階から十階は押しも押されぬ最高級ホテルだ。

 

 彼女はためらいもせず大理石の階段を上る。豪奢な扉の両脇に控えるボーイがわけ知った顔でそれを開き、彼女は中へと足を踏み入れる。ロビーは壮麗な円状のホールで、天井は丸くステンドグラスがはめられて輝いている。おそらくは相手方が話を通していたのだろう、彼女の姿を見つけるなりボーイが迷う間もなく案内をした。エレベーターに乗り込み十回へ向かうが、ここで彼女は一人である。

 チン、という軽やかな音と共に指定された階へと進む。高級ホテル故に、ロビーに入った時点で上海特有の雑然とした空気はかなり霧散していたのだが、最早この階は異界と言ってもよい。

 

「一階まるごと借り切るのが普通とは、ますます以て豪勢だねぇ。そういや旦那、上海フランス租界の重役になってたからかな?」

 

 誰もいない廊下に向かって話しかけるが、もちろん返事はない。されど、確実に人はいる。誰もいなくとも、どこからでも視られているのだ。

 そしてひときわ大きな扉の前に立つと、ここは彼女が自分で押し開けた。その部屋は大きな窓が目立つ一等の客室だ。今はブラインドが下ろされているが、オフィス街の摩天楼や黄埔江の流れが一望できるはずだ。

 部屋の隅にはボディーガードと思しき頑強な功夫服の男がそれぞれ一人ずつ。視界には入らないが、他にも人の気配がある。殺意は感じないが、歓迎されているふうでもない。

 

 そして大きな窓の前に、一人の壮年の男が立っていた。短く刈り込んだ髪に、細い一重の目。年のころは四十前後。黒い功夫服からは、隙のない肉体が想起される。

 彼は振り返ると、彼女に向かって笑顔を向けた。

 

「久しいな、劉鈴季(りゅうれいき)

 

 劉鈴季とは、彼女が現世で生きるためにつけた名前である。マスター曰く魔術的に名を偽ることは悪影響があるらしい。生前より名前などあってなかったような彼女にとってはどんな名でもいいと思っていたため、マスターに適当につけてもらった。

 テーブルをはさんだソファーに座るように勧められ、鈴季は男と合わせて席についた。体が沈み込むほど柔らかいソファである。

 

「久しぶりだね、旦那。にしても急にどうしたのさ。何か事件が起こったとも聞いていないし、私も何かやらかした気はないんだけど?」

「何、最近忙しくてお前に会えていなかったからな」

「あはは、私旦那の愛人みたい。しっかし、羽振りが良くなるってのは忙しいのと表裏一体し、いいことだよ。去年建てた銀行、儲かってるみたいじゃん」

「まあな。ところで本題だが」

 

 使いの女給仕が、男と鈴季に菓子を運んできた。近頃フランス租界の住民に人気のある焼き菓子だった。二人は旧知の友の如く、和やかに笑っていた。男はそのままの空気のまま、話を続けた。

 

「お前、クラブ経営から手を引くのか」

「ん?ああ、そうだよ?先だって伝えたけど、後継のヤツ連れて改めて旦那に挨拶しに来ようと思ってるから、よろしく」

 

 フランス租界の大世界(ダスク)は、博場、手品師、スロットマシーンから床屋、漢方薬局、アイスクリーム・パーラー、写真屋まで何でもそろう庶民娯楽場である。

 鈴季はその近くにロシア人が演奏するバンドを催す、少しリッチ感を出した、しかし手の届かない価格ではないクラブを経営していた。立地の良さとクラブ内の治安の良さがあり、人気を博し施設拡張や分店を持ちかけられたこともある。

 だが、鈴季はそれらを全て断ってきた。余剰金はこの男に納めたり、中国人の住む区域に男の名を借りて配ったりして使ってきた。その野心のなさは不思議がられるほどだった――むしろこの男の名を借りて、決して自分の名前を目立たせないことに意を砕いているようにさえ見えるほどだった。

 

「やめてどうするんだ」

「上海好きだけどちょっと騒がしいなって最近思って。一年くらい静かなところでのんびりしたくなったんだ」

「お前がそんなタマか」

「私をなんだと思ってるのさ!まあ場所は今探してるけど、オススメがあったら教えてほしいな。旦那、色々詳しいし」

 

 それでも鈴季の言葉をまるっきり信じていない風な口調で、男は笑った。いや、これは信じていないのもあるかもしれないが、他に何か目論んでいるのか。鈴季は基本的に考えの深い人間ではない。あっさりと尋ねた。

 

「旦那、何かもしかして私がした方がいいことがあるの?」

「大世界のオーナーの黄楚九が投資の失敗して、代わってオーナーとなったのが錦鏞兄ってことは知っているだろう」

「うん」

「俺たちは大世界を作り変える。それをお前にもやってもらう」

 

 男が大世界を作り変えるという意味を、鈴季はすぐに悟った。今は庶民遊技場である大世界は、この後賭博と娼婦の殿堂になる。しかしそれよりも問題だったことは、男が「やってもらう」と言ったことだ。鈴季の有無はなく、鈴季がやることは彼の中で決まっているらしい。

 

「いやいや、落ち着いてよ旦那、私馬鹿だもん無理だよ。クラブだって自分じゃ全然切り盛りできてなくて、青とか玉祥のおかげで何とかなってる感じなんだって知ってるでしょ」

「確かにお前が阿呆であることに間違いはない」

「そこは否定してくれないんだ!!」

「だがな、お前自身に何の力がなくとも、それを成せるだけの人間が集まってくるとなれば、それはただの阿呆とは言えない」

 

 この部屋に足を踏み入れてから、鈴季が初めて危険と感じたのは今だった。この男は、鈴季が真に何者であるかは知らない。それでも、何かに感づいている。

 かつては「人徳」とかいうそれらしい名前で呼ばれた不可思議な力は、使い魔として現界する今はカリスマの名を借りて存在している。

 

 たとえ九鼎戦争の開幕が今ではなくもっと後だったとしても、彼女は上海を一度去るつもりであった。

 鈴季がこの世界に現れてから十年が経過している。上海においてクラブの経営を始めたのは九年前。そしてその時から、彼女の容姿は全く変化していない。あまり長い間同じ地にいすぎてはそのことを怪しまれる。ゆえに戦争が今だろうとまだ先であろうと、去り時とは感じていたのだが。

 

(……少し遅かったか。十年の呑気な暮らしで鈍ったかな)

 

 この聡明かつ貪婪な男を甘く見ていたか。英雄は英雄を知る――おそらく彼が彼女の生きた時代にいたとしたら、きっと何かしらの名を遺したに違いないと鈴季は思う。としれば、同じことをこの男も感じていたとすれば。

 

 

 人を見る目なるものは、この鈴季だけに備わっているわけではない。

 

 

 殺すか。目の前の男を殺すだけならできる。いくら彼の配下がいようと、その攻撃は神秘を帯びたものではないから、効きはしない。だがしかし殺したとしても、ホテルの人間は鈴季がここにいることを知っており、すぐに足がつく。鈴季は霊体化で逃げられても、マスターや自分のクラブの従業員は違う。この組織の報復がどのようなものかは知っている。

 それに、この男を殺すことは間違いなく上海に大騒動を引き起こす。戦争をを控えている今、上海の裏世界をひっくり返すことは悪手だ。

 

 逃げるか。霊体化が手っ取り早いが、この男の前でそんな不可思議な逃げ方をしてしまえばなおさら男の追及は増す。霊体化しようものなら神秘の問題で今度はマスターに大目玉のおまけまでついてくる。

 

(神秘だのなんだの、これだから魔術師――学者は嫌いなんだ)

 

 ここは穏便に終わらせなければならない。鈴季は大げさにため息をついた。

 

 

「旦那にそこまで言われるとなぁ。いいけど、でも、それ帰ってきてからでもいい?出発前にはどこに滞在するとかちゃんと連絡するからさ」

 

 つまり、鈴季は男に対して「逃げるのが心配だったら密偵でもなんでもつければいいさ」と告げた。幸い、この男はまだ鈴季のことを「何かあるが、まだ普通の女」の範疇でとらえているはずだ。

 

 

「そうか。ならそうしてくれ。せっかくのお出かけだ、一つ酒宴でも開こうか」

「忙しくないのかい、旦那。でもやってくれるとうれしいな。私お酒好きだし」

 

 緊張の空気に包まれていた場は、急に弛緩した。酒宴の日取りを大体のところで決め、そのまま鈴季はホテルを後にした。

 

 

 

 

 

 

 ブラインドを引き上げると、すぐにそびえたつ摩天楼と黄埔江の絶景が飛び込んでくる。少し天気はよくなったらしく、雲のかかったまま沈む夕日が川面に光っている。

 

「すぐに鈴季に密偵をつけておけ」

 

 男は誰にともなくつぶやく。そして部屋から一つ人の気配が消えた。

 鈴季という女。あれの足取りや生い立ちは仔細に調べ上げたが、なぜか十年前からぱったりと追うことができない。十年前と言えば、上海においてとある大事故が起きた時だ。その時期の前後から、彼女を見かけたり時には一緒に酒を飲んだという話が聞かれるようなる。

 

 

 この男、名を杜月笙(と げつしょう)。青年実業家にして社会福祉事業家であり、同時に秘密結社「青幇(ちんぱん)」の大親分の一角にして上海暗黒街の支配者である。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 上海は暑さが厳しく寒さも厳しい、暮らすには苦労する土地柄である。そして冬の今、夕暮れも早く灰色の租界は、今橙色に染まっている。

 共同租界の一角に建てられた瀟洒なマンションの一角に、鈴季は走り寄り鍵が開くのもまたずに霊体化で通過して堂々と侵入する。

 

「あなたのセイバーのおかえりだ……グオオオオオ!!」

 

 だが入るなり、全身を貫く雷にやられてものの見事にその場にうずくまってしまった。

 

「あ、なんだあんただったの。変な入り方するから迎撃用魔術が発動したじゃない」

「ううう……エリーはできる子なんだからその魔術の設定かなんかで私を外すようにしてよう……」

「いやよ面倒くさい」

 

 敢え無く拒否され、雷撃で焦げた体を引きずりながら鈴季ことセイバーは手狭な玄関から移動し、リビングのソファに埋もれた。ソファはテーブルを挟んで向かい合っており、簡素な木のテーブルにはラジオが鎮座していた。

 基本的にシンプルな家であるが、窓は少ない。エリーが魔術的な意味から気密性を重視したらしいが、そもそも神秘の秘匿にうるさいくせにマンションの一室に工房をつくっていいものか、セイバーには謎である。

 

「ああ~ソファーは旦那のヤツの方がいいなぁ~」

「上海の裏ボスのモノと比べないでちょうだい。ところで今日杜月笙に呼ばれてたけど、何かあったの?」

「いんや、クラブ経営止めるって話しただけ。いつもの感じだった」

「ならいいけど。もうすぐ九鼎戦争があるって言うのに、その前に杜月笙ににらまれたらめんどくさいことになるからね」

 

 キッチンから皮をむいたリンゴを乗せた皿を持ってきたエリーは、セイバーの向かいにあるソファに腰かけた。そのリンゴのひとかけらを手に取り、咀嚼しながらセイバーは目の前の主を見た。

 

 エリー。本名はエリー・シャルロット。イギリス人の魔術師であり、上海に来る前は時計塔という魔術の協会で魔術を学んでいたという。現在二十七歳の、セイバーから見ても見目麗しい大人の女性である。自国の風習に頓着せず、背中まであるストレートの金髪を流し青の旗袍を基本のスタイルにしている。

 

 租界に暮らす外国人は、本国からの迫害や革命から逃れてきたのでもなければ、本国の様式を余すところなく取り入れた優雅な生活をしている。

 しかし彼女は、商売をするためにここに来たのではない。十年前に九鼎戦争なるものに参加し、九鼎を得るために死闘をすべくここに来た。そしてそれから十年たった今、再び開かれようとしている戦争に足を踏み入れようとしているのだ。

 

「でも本当にいいのエリー。もうあんたは九鼎に願いなんてないのに」

「願いはないけど、放置はできないもの。無軌道に無関係の人間を巻き込もうとする輩がいるなら」

「真面目だねぇ。まー私も新しくマスター探すのメンドクサイし、そっちの方が助かるんだけど」

 

 モリモリとリンゴを食べるセイバーに対し、エリーは深々とため息をついた。

 

「本当に不本意だけど、十年前に私を救ってくれたのはこのグウタラでダメ丸出しの下品皇帝なのよ。だからそいつが困っているっていうのなら、助けないと英国淑女がすたるじゃない」

「……英国淑女って何だっけ?っていうか英国はやってることかなり……ってアイタァ!!」

 

 いきなりガンドをぶつけられてセイバーは悶えたが、ぎりぎり対魔力でどうにかできる程度だったため大きな被害はない。エリーはむしろ恥ずかしかったらしく、少し顔を染めて咳払いをした。

 

「茶々をいれない!」

「あははは。私学者嫌いだけど、エリーのことは割と好きだよ。なんか仁義っていうか……自分の法則(ルール)で生きている感じは嫌いじゃない」

 

 へらへらと笑われて、エリーは黙りこくった。下品で自分勝手で無駄に偉そうなのに、あまり憎めないのは卑怯だと常々思っている。そう思ってしまうあたり、マスターである己もセイバーのスキルの影響を受けているような気がしてならない。

 

 

「だけど、セイバー。あなた十年間あいつを探していたけど、結局見つからなかったじゃない。いくら助けたいって言っても、その相手が見つからなきゃどうにもならないわよ」

「……九鼎、と聞けばあいつは間違いなく出てくるよ。願いをかなえたいんだから」

 

 何でも願いをかなえる万能の釜。その名は九鼎。夏王朝の始祖禹王が中国全土に命じて集めさせた青銅をもって鋳造したもの。サーヴァントの魂を以て願いを成就させる魔力の渦。願いがあるからこそ人もサーヴァントも戦いにはせ参じる。

 最早セイバーにもエリーにも、九鼎にかける願いはない。セイバーの願いは、九鼎によって叶えるものではない――だが、願いを叶えるためには九鼎というエサが必要なのだ。

 

「……そうでしょうけど、それでもあいつをどうにかできるかはわからないわよ」

 

 セイバーは基本、良くも悪くも人に執着しない。その彼女が助けたいというただ一人の人物。セイバーはがばりとソファから腰を上げた。

 

「あーもう、私別に自分の人生に不満ないし、後悔とかもないのに、現代とか面白そうだなで出てきちゃったばかりになぁ!なんてことだ!なんか腹立ってきたな九鼎壊そうかーーー!!皇帝の命令じゃーーーーーーー!!」

「それ悪くないわね」

「でもそうするとマジメに戦わないとだし、私ちょっと自分でもどうかと思うくらい弱いからなぁ。セイバーが最優なんでとんだデマだよ」

 

 彼女は決して無名の英霊ではない。むしろこの国において、彼女の名を知らぬ人間がいないだろう。自国においての召喚であり、知名度補正も申し分はないはず――それでも彼女は決して強いサーヴァントではない。

 なにしろ幸運と宝具以外のパラメータは全てEなのである。

 生前、彼女が戦闘における逃走を良しとしていたこと、彼女自身の武勇の逸話が聞かれないこと原因であろう。彼女自身、才能としては部下の方が圧倒的に優れていることを認めている。

 

 

「いきなりやる気なくしてるんじゃないの!農民から皇帝のチャイニーズドリームそのものの英雄が無理無理いってんじゃないわよ!!」

「現役だったらもっとかっこつけるけどさ~人が私に何見ようが無理な時は無理だよ」

 

 うだうだとヘタレを全開にするサーヴァントに対し、流石に業を煮やしたエリーはポケットに忍ばせていた宝石を取り出してセイバーに向けた。それを見て焦ったセイバーは両手を突きだして必死の形相で口を開いた。

 

「いやがんばるよ!?誤解しないでね!私だって願いを叶える気は満々なんだから!でも」

 

 かつて、乱世に生きた男たち全てが夢に描いたその姿。

 彼女自身は全く意識していなくとも、「ならば自分も」と思わせるような幻想(ユメ)の体現者。

 

「叶わないことは、絶対にある」

 

「皇帝はかくあるべし」と後世の手本となった「皇帝の鋳型」たるその英雄は、人には散々夢見させておきながら――自らは幻想(ユメ)を描かない。




続くかわかんないんで真名はわかりやすいスタイル。
セイバー顔で黒髪(だが下の挿絵は全く似ていない模様)。一人称「私」だけど、これは現界して十年をかけて口調も含め矯正された結果なので、戦闘時とか宝具開放時には口調と一人称が生前に近くなる(一人称は「儂」)。
見たい人だけどうぞ 使ってみたかった挿絵機能↓

【挿絵表示】


世界史上でも屈指の不思議皇帝現る。案外冷静で煽り耐性高い。「わが身が一番かわいい!!(必死」

身長:155CM 体重43KG
アライメント 中立・中庸


パラメータ
筋力:E 耐久:E 敏捷:E 魔力:E 幸運:A+ 宝具:EX

スキル(一部)
対魔力:E
 魔術に対する守り。
 無効化は出来ず、ダメージ数値を多少削減する。

騎乗:C
 騎乗の才能。大抵の乗り物、動物なら人並み以上に乗りこなせるが、
 野獣ランクの獣は乗りこなせない。

カリスマ :A+
 大軍団を指揮・統率する才能。ここまでくると人望ではなく魔力、呪いの類である。
皇帝特権 :EX
 本来持ち得ないスキルも、本人が主張する事で短期間だけ獲得できる。
 該当するスキルは騎乗、剣術、芸術、カリスマ、軍略、等。
 ランクA以上ならば、肉体面での負荷(神性など)すら獲得できる。
 ただし彼女の場合、自分にスキルを獲得するのではなく自分以外の誰かにスキルを付与する。
魔力放出:A―(後述)

異様に低い呪われたパラメータは本人いわく「風評被害」。後年人々の思い描いた「セイバー像」に大きく影響を受けている。
戦前のセイバーは天下統一後の史書編纂において、最大のライバルを鏡にして「腕っぷしはないしメッチャできるわけでもないけど、人が助けたくなる感じで人徳があり民を大事にしたから、天下を取れた」方針でまとめることにしたからそのせい。
本人はパラメータの無残さに「ガチ無能が天下取れるかヴォケェ」と半ギレだが、もう半分は「当初のイメージ戦略割とうまくいってんじゃねーか、大義は我にありフゥハハーア!!」と自画自賛。ダメ人間。

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