魔都聖杯奇談 fate/Nine-Grails【中国史fate】   作:たたこ

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地獄があった。

見渡す限り延々と干からびた大地が続き、木には葉一枚ものこらず裸。

死体が転がっている。骨しか残らぬ小さな遺骸は、子供のものだった。飢えに耐えかねた両親が、他の家族と子供を交換して食った後だった。
死体が転がっている。疫病にかかり、医者に見せようにも金がなくただ弱っていき最後に死んだ女だった。
死体が転がっている。墓を建てたり葬式をしようにも、その金すらなく放置されているだけだった。

その地獄が、日常になった。待てど暮らせど、地獄を変える者はいなかった。


――ならば、己しかいないではないか。

彼は、世の理不尽を憎んだ。罪なき民が搾取され殺される世界を、天災や疫病、飢饉が起きても何もしない元朝を、ただ汚職と遊興にふけるだけの官吏を憎んだ。

――この世界は間違っている。だから、正しき秩序ある世界を立て直さねばならない。
――平穏で皆が穏やかに暮らせる世界を、作りたい。作らねばならない。

彼の抱いた理想は、高邁にして高潔、尊き理想だった。
ただ、誰もがそういう世界を望んでいたかと思えば違う。人それぞれで至上とすることは異なり、統一することはまず不可能だからだ。

ゆえに高き理想であっても、それは現実と折り合いをつけて妥協する。妥協というと聞こえは悪いかもしれないが、それは現実を徐々に変えていく道のりなのだ。


しかし妥協しない高き理想ならどうなるか。自分が現実に殺されるか(絞首台に送られるか)、でなければ―――

絶対の権力を以て、現実を殺すか。


1月20日 THE DARK RULER

 上海は眠らない。昼は交易等ビジネスやショッピングへ急ぐ人々で栄え、夜はクラブやショーが活況を呈す。そしてさらに深い闇の奥では、麻薬の取引や人攫いと不穏な者たちが常に蠢いている。

 

 その夜の中に1人、闇を衝く摩天楼の頂上に何の危うさもなく立つ男が一人。高所特有に風にはためいているのは、彼が身に纏っている黒い僧衣である。錫杖を片手に背筋を伸ばした偉丈夫であるが、頭を頭巾で覆っており顔はうかがえない。

 そもそもこのような場所に平然と一人で立つ人間がいるはずがない。そう、彼は今を生きる人間ではない。

 

 これより始まる、万能の釜たる九鼎を巡る死闘――再びの(・・・)九鼎戦争に参加するべく呼び出された英雄の魂の一人である。

 望みを抱く魔術師がその英雄の魂――英霊を召喚し、使い魔として使役して戦う。そして最後に残ったマスターとサーヴァント一組が九鼎を使う権利を得る。

 しかし世界を守護する力の一端となった英霊の魂というものは、そのまま魔術師に扱えるものではない。ゆえに、九鼎はそれを呼び出す為にある一つの手段をとっている。

 召喚の際にクラスという枠を定め、それに沿って英雄の魂を流し込むのだ。その枠に沿った力だけを発揮させる――つまりは英霊の力を多少削ぎ落として現界させる。

 いわば、英霊の劣化コピーなるものだ。

 

 そして、呼ばれるサーヴァントのクラスは七つが存在する。それぞれに関する逸話をもつ英霊が、それに合ったクラスで召喚されるのだ。

 

 剣士の英霊、セイバー。

 槍兵の英霊、ランサー。

 弓兵の英霊、アーチャー。

 騎兵の英霊、ライダー。

 魔術師の英霊、キャスター。

 暗殺者の英霊、アサシン。

 狂戦士の英霊、バーサーカー。

 

 

 しかし、男はどのクラスにも該当しない。

 そもそも、男はサーヴァントとして召喚される気など全くなかった。どうしてもかなえたい願いがあるのなら考えないでもないが、願いもなく魔術師などという輩の使い走りをするなど断固拒否する。

 

 話は変わるが、この上海租界の人口は多い。現代の世界に名だたる大都市、ロンドンやニューヨークにその数は及んでいないが、それに比されるほどの人口はあるのだ。その上前の二大都市に比べ、上海租界の土地は圧倒的に狭い。

 こと人口密度という点においては、前の二大都市をも抜き去って上海は世界一の人口過密地域となっているのだ。

 

 さて、サーヴァントはそれぞれ必殺の武器と呼ぶべき宝具を所持している。それは一度真名を開帳すれば、伝説通りの威力を発揮する奇跡の魔術礼装。

 

 そしてこの超人口過密地域である上海において、例えば城をも破壊する宝具が炸裂したらその被害たるや、想像を絶するものがある。さらにこの区域は、列強の国々がひしめき合い、青幇が夜を支配し、中国内部の軍閥重鎮をも訪れる各国利益闘争の最前線。

 ここで理由の説明できない大規模攻撃・大量破壊が起こった場合、魔術を知らぬ者たちは一体何をどのように解釈するだろうか。

 

 有体に言えば、魔術ではなく現代兵器によってこの地が更地となるやもしれないのだ。それだけならまだしも、さらに本格的な戦争が始まる可能性すら孕んでいる。

 

 そのような事態を避けるべく、九鼎は此度戦争に秩序を与える者を必要とした。

 そうして彼は九鼎に応じる。サーヴァントの中で唯一マスターを必要とせず、他サーヴァントを律するための令呪とスキルをも与えられた特殊なサーヴァント。

 

 その名は 裁定者(ルーラー)。戦争に秩序を与え、世界が崩壊する願いを抑止する為に現界した英霊である。

 

 

 上海は眠らない。夜は光るネオンがまばゆく、人びとさえも眠りを忘れているかのようだ。その喧騒から離れた摩天楼――ルーラーは冷たい夜風に乗せて届けるように、両手を広げて唱える。

 

(おお)いなる天帝の命を以て、ここに大明律を施行する」

 

 それはかつて中国全土を多い、そして現代においてこの上海を覆い尽くす皇帝の法。

 

「一つ。神秘を知らざる者に、神秘を明かすことなかれ」

 

 ルーラー自身は、神秘の秘匿云々に関心はない。これは、前述のように「理由の説明できない」事柄を些事であっても極力防ぐためのものである。無用な混乱を呼ばぬためには、神秘の秘匿を掲げたほうが魔術師共にも都合がいい。

 

「二つ。最後まで勝ち残った一組は、九鼎に触れる前に朕に謁見せよ。そして願いを述べ、朕の意に適う者のみに九鼎を賜うとする。何人たりとも朕の許しなく九鼎に触れることなかれ」

 

 これは、世界の崩壊を願う者に聖杯を渡すことを防ぐための処置である。その願いが我欲に基づくものでも、ルーラーは頓着しない。

 

 そして、彼は息を吸う。

 

「三つ。戦争に参加する魔術師とサーヴァントは、戦争に参加せざる者を殺すなかれ。傷つけるなかれ。苦しめることなかれ」

 

 最後の一文こそが、最も大切で最も守るべき法。魔術師はともかく、呼び出される英霊はこの中華に名を遺した英雄たちだ。ルーラーとて彼らが滅多な事をするはずがないと信じて――

 ルーラーはその思いを消す。信じる。何を、どのように。信じるのではない。全てを監視し、それゆえに事実のみを知るだけである。

 故に彼は、躊躇いもなく法を行う。

 

「この何れの法に背きし者は、例外なく凌遅三万刀、滅九族の刑に処す」

 

 光は空に。下界のネオンに気を取られる者たちは、決してこの光には気づかない。そして彼らは関係がないのだから、気付く必要さえもない。

 

「天網恢恢疎にして漏らさず。此れ大明の法は、罪には厳罰を以て報うのみ!」

 

 上海全域を覆う魔力の結界は、ルーラーのクラススキル「知覚能力」も合わさり全サーヴァントの居場所を常時把握する。未だ全てのサーヴァントは現界を果たしていないが、現界のその瞬間にルーラーは居場所を把握し、同時にサーヴァントには今の三条の法が叩き込まれる。

 そしてルーラーの敷いた法を犯す行為を感知した際には、自動的にルーラーの宝具が発動し刑を執行する。いかな並行世界、結界に逃げ込もうと必ず殺す。

 

「……ルーラーが呼ばれるのは、戦争が予期せぬ展開をする可能性があるからともいうが」

 

 一度の戦争において召喚されるサーヴァントは、一クラスにつき一人だけ。総数はルーラーを除き七騎。例えばアサシンが二騎いるが、その代わりにランサーが不在、という事態はありえない。前回の九鼎戦争にルーラーは不在であったが、サーヴァントは全七騎各クラス一名だった。

 

 しかし、此度は既にその正常からは外れ始めている。

 

「既にセイバーが二騎存在している」

 

 繰り返すが、一度の戦争で二騎のサーヴァントが呼ばれることはありえない。とすれば片方は、今回の戦争以外で召喚されたことになる。

 スキル「真名看破」により、既にその二騎の名は知れている。

 

 方や、卑賤の身から皇帝(おう)へと至った皇帝の鋳型。

 方や、皇帝(てんし)でありながら、人でありつづけ仁へと至る皇帝(おう)

 

 片方は前回の戦争に呼ばれたサーヴァントに相違ないと思えど、彼の本意は別にある。正直誰が呼ばれようと関係なく、如何なる異常が見られようと、ルーラーの方針に変更はない。ただ彼は彼の目的のために、その力を振るうだけ。

 九鼎は此度のサーヴァントの好きにすればよい。

 ルーラーはまさしくルーラーらしく、戦いに秩序を与える君臨者であるのみ。

 

 

 ――全き善は存在しない。

 しかし、どうしようもなく救いがたい、手の付けられない悪は存在する。

 

 

 だから、表の華々しい戦争の裏側で。

 

 

 ――アレを必ず粛清(ころ)さなければならない。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「お前は、このままだと殺される」

 

 それはわかる。このような事態はよく聞いていたし、自分の身に起きてもおかしくないとは思っていた。

 

「選べ。このまま殺されるか、それとも」

 

 その声は天の救いか、地獄からの手招きか。その判断はつかなかったけれど、どうせこのまま死ぬのなら、

 

「俺に体を明け渡して、生き残るか」

 

 その声に身をゆだねてもいいと、思った。

 

 

 

 上海租界には教会がいくつも存在する。最も多いのはフランス租界である。イギリスに対抗して協力せずに独自の租界を作ったフランスだったが、商売の面では完全に後れを取ってしまっていた。そこで方針を変え、フランス租界は文化を優先した土地づくりを始めたのだ。その一環でここ一帯には、教会がちらほらと見受けられる。

 

 ここ洋涇浜聖若瑟堂――ヨゼフ教会も、その中にある教会のひとつである。

 

 レンガと木でつくられた教会は、ゴシック様式のの鐘楼が目立ち、その鐘楼のてっぺんには十字架が高々と掲げられている。建てられたのは一八五〇年前後というから、既に八十年近くが経過している歴史ある建物だ。

 

 礼拝堂は高い蝙蝠天井の作りで、扉から真正面奥には祭壇があり、磔にされた神の子が描かれている。今日はミサ等のイベントもないため、堂はがらんとしていて寒々しい。並べられた長椅子に持たれ、こっくりこっくりと船をこぐ男が一人。彼はすぐにはっと顔を上げると、慌てて周囲を見渡した。

 

(……陛下!ごめんなさい!!)

 

 その声は声にならず、心の声にとどめさせられた。須臾の間許されていた権利はあっという間に剥奪されて奥底へと魂はおしこめられる。彼は、己の中にあるもう一つの魂であり、現在この体の支配者である男の様子をうかがう。予想通り、――顔が見えているわけではないが――彼の機嫌を損ねてしまったらしい。

 男は憮然とした口調で問う。

 

(……以前俺はお前に「一日のうちどれくらい、寝る時間が必要か」と聞いた。その時お前は「二刻(四時間)あれば十分」と答えたな)

(……はい)

(お前の身に憑依して一週間が経つが、日に日に行動の精度が下がり疲労の蓄積も早まっている)

(……)

(仲、再び問うが、何時間必要か)

 

 仲と呼ばれた男は、心の中でうつむいた。前にその問いを発せられたとき、男はできることなら睡眠などとらずに動きたいのだと察してしまった。しかし眠らなければ人間は死ぬし、仲の肉体は短い睡眠時間で人並みに動けるようにはできていない。

 多分これくらいなら大丈夫だろうと勝手に信じて二刻と伝えたのだが、数日はそれでよくとも連日の睡眠不足は様々なところに影響を及ぼす。その上、男の行動――彼曰く神秘の行使というものは運動以上に体を疲労させる。

 

(……できれば、三刻はお願いしたい、です)

 

 彼は大きくため息をついた。だが既に機嫌の悪さはきえていた――その代り呆れていたが。

 

(まだ本格的に戦争は始まらない。三刻と少しは眠る――察するにお前は悪意を以て偽ったわけではなかろうが、以降は俺に対し偽ることを許さぬ)

 

 一つの体に二つの魂。このような不可思議な状態になってから、既に一週間が経過している。この一週間の出来事はあまりにも奇天烈すぎて、仲自身飲み込み切れていない。

 

 

 

 仲は今年十六歳になる。もともと安徽省――上海は江蘇省と南北に接しているが、その江蘇省の西に隣接する――の東端に位置する宣城市に暮らしていた。裕福な中国人家族の下働きをしていたのだが、ある日村落が土匪に襲われた。そして仲を含む何十人もが連れ去られたのだ。

 

 土匪とは、地方に巣食う群盗で、無頼の民や職にあぶれた農民が身を投じたものである。ことに安徽省はこの土匪の被害がひどい地域で、以前から賊の噂は絶えることがなかった。彼らは群れを成して裕福な村落を襲い略奪・強姦・放火・殺戮を行うこともままあるが、最も安全で利益をもたらすのが誘拐であった。

 裕福な家の子供や主人――儒教においては子よりも親が優先される――を攫い、身代金を求める。人質は「肉票(ロウピャオ)」、いずれ金になる人形の金券と呼ばれるが、金になるがゆえに概ね優遇はされる。だがそれはあくまで金になれば、の話で、仲のようなただの下働きが金になるはずもない。

 そもそも何十人も一気に誘拐するのは、たくさん攫っておけば何人かは肉票たるだろうという下手な鉄砲数撃てば当たる方式の為だ。食料も有限、抵抗されるのも面倒、結局攫ったものの金にならない者は殺すことになる。

 

 

 土匪のアジトは山に築かれることが多い。銃火器を所持している賊に対し完全に素手丸腰、他の人質未満と見做された者たちと、死を待つしかなかったその時。仲はその声を聞いたのだ。

 

 ――ここで殺されるか、自由を奪われても生きるか。

 

 生家は貧しく、売りに出されて今の下働きとなっている。実の両親とほかの兄弟は、これまた土匪による略奪の惨禍に会い全員死んだと聞いている。姉がいたが、彼女も仲と同時期に別の家に売りに出された。

 

 自分は今まで死ななかったから、生きていた。生きたいと思うのは人間としての本能。この先によいことなどなくても。

 

 だから、「生きたい」という至極簡単な理由で、仲は自分でも気づかないうちに頷いていた。

 

 

 

「――――ここに契約は成立したッ!」

 

 瞬間、仲の意識は体の主権を喪失して奥底に押しやられた。仮にこの意識を魂とするのならば、己のモノより遥かに巨大な魂が無理やり押し入ってきたようなものだ。一つの体には一つの魂――二つが在れたとしても、片方の魂は体の主導権を失う。

 それでも仲にも外界の様子は把握できた。粗末な服を着ていた筈の自分の体は、いつの間にか黒い質素な、しかし素材は上等な僧衣を纏っていた。頭には頭巾をかぶり、手には金の錫杖。

 

「――戦争に関係のない者を殺す気はなかったが、降りかかる火の粉は(みなごろ)す」

 

 

 そこからの展開は圧巻の一言であった。仲、否仲の肉体を得た知らぬ男は、銃火器や鈍器、刃物の武装をした土匪たちを一人残らず(みなごろし)にしたのである。武器は手にした錫杖ただ一つだけ、防具の類は身に着けていない。それにもかかわらず、男が操る体は走る刃をかいくぐり、降り注ぐ銃弾を一つもその身に受けず無傷のまま、錫杖を槍の如くに操り数百人を突き殺した。

 ついでに仲と共に攫われた村落の人間を解放し、各々を元の村に帰らせた。勿論仲の顔見知りもいたのだが、普段と全く違う服装に血塗れとあっては彼と気づく者がいなかった。むしろ行動も唐突過ぎて敵か味方かもわからぬと思われ、蜘蛛の子を散らすように人気はなくなり、土匪のアジトには一人と、二つの魂だけが残った。

 

 アジトは妙に湿って暑く、そして臭かった。死にたてほやほやの死体と、それにまき散らされた血潮と糞尿のためだった。血塗れの僧衣はいつの間にか消え、仲がきていた粗末は中国服の上下に戻っていた。

 仲は――男は何かを探して人っ子一人いなくなったアジトを歩き、そして地下へと続く階段を見つけた。そこで見つけたのは、食糧庫と金庫であった。

 

「とんだところに召喚されたと思ったが、これはこれで悪くない。寧ろ野原で憑依していたら上海まで、また乞食でもしながら進まねばならないところだった」

 

 錫杖を使い、頑丈な南京錠で閉じられた倉庫を力ずくで破壊する。食料庫から日持ちしそうな干物などを回収し、金庫からは札や小銭、金まであったために持ち運べる限り風呂敷に詰めた。アジトを出ると、仲はここで初めて、体を奪われてから話しかけられた。

 

「おい、現代には鉄道とやらがあるのだろう。駅はどこだ」

 

 

 

 

 仲は鉄道に乗ったことがなかったため、駅を見つけるのも一苦労だったのだが、何はともあれ鉄道に乗り込み上海へと向かうことになった。車窓から流れゆく景色を眺めながら、ごみごみした等級の低い客車においてやっと仲はこの男が何者かを知った。

 

 正確に言えば、結局仲にはよくわからなかったのだが。男に名前を言われても、はあそうですかとしか答えられない。その時点でも信じられんと半ば怒られていたのだが、かつて皇帝だったから陛下と呼べと言われてもやっぱり仲にとっては、はあそうですか、でしかなかった。

 幾ら学がないとはいえ、皇帝というものは知っている。今の中華民国となる前、清の国はその皇帝が治めていたらしい。だからとても偉い人だということは知っているが、もう皇帝はいない。そして仮にいたとしても、仲の感想は変わらない。

 ただその感想を言いにくかったのは、命を救ってくれたこの男が「皇帝」であったことに誇りと自信を持っているように思えたからだ。

 だが、強く「申せ」と言われたから、仲は正直に答えた。

 

 

「だって、その「皇帝」って、僕たちに何をしたんですか?」

 

 

 姿かたちは見えなくとも、この男がどんな性格なのかは仲にはなんとなくわかっていた。一つの体の中で隣り合って魂――意識が存在している。そんじょそこらの人間よりも、よっぽど近くに感じるのだ。

 

 気が強くて、負けず嫌いで、一人正しいと信じているのに否定されることが大嫌い。

 たとえ一人きりになっても、何を言われようとも幻想(ユメ)を叶える――とてもとても強い人。

 

 だからこういえば、怒るのだろうと仲は思った。しかし予想に反して、男は逆に黙ってしまった。怒っているのとも違う、何か。

 

(……あの、陛下様?)

(……様はいらん。ふむ、しかしお前もかわいそうな奴だ。この俺の治世に生まれていれば俺の尊さもわかり安寧に暮らせたろうに。生まれるのが遅すぎたな)

 

 不安になって声をかけると、すっかり男は元の様子に戻ってなぜか仲は安堵した。しかし少々話がそれてしまっていたのを、男の方が修正した。男が何者かはわかったが、結局彼が何のためにこんな奇妙な状態になりながら上海に向かっているのか、仲は知らないのだ。

 

 そして更なる未知なる世界への話――魔術師、英霊、全ての願いを叶える九鼎――など、到底仲に飲み込みきれるものではなかったのである。あらゆる荒唐無稽・奇妙奇天烈・奇想天外を詰め込んだ話で、まともな神経をしているなら到底信じられるものではない。男は九鼎戦争という英雄たちの戦いにおいて、戦いに秩序を与えるべく仲の体を借りて危険極まりないその戦いの裁定をするという。それさえ終われば、彼は仲の体から出ていく――正確に言えば消えざるを得ない――という。

 

 モノを知らない仲も半信半疑であったのだが、それでも「そういうこともあるのかもしれないな」と思った。

 

 

 この「陛下」がどんな人かはよくわからない。この体を使って、あっという間に情け無用で土匪数百人を殺した。だからもしかしたら、よい人ではないのかもしれない。

 

 

 それでも。死が目前に迫っていたあの時に、助けてくれたのはこの「陛下」で。

 

「お前が戦争で死ぬことはありえない。今やお前の全ては俺の物。そして俺は俺の物は自分で守るからだ」

 

 身売りされ、下働き先でも粗雑に扱われ。それでもどこかにいるだろう姉を信じて、自分を売っても儚く死んだ親に比べれば、生きているだけでもよかった。

 

 

「皇帝は、発した言葉をなかったことにできぬし、しないものだ」

 

 だから、仲は生きるためにこの「陛下」に身をゆだねると決めたのだ。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 何故死んだにもかかわらず食事が必要なのだろうか。霊体であるため、通常のサーヴァントは睡眠・食事共に不要であるが、ルーラーは違う。

 まず前提として、霊体がこの現世に残るためには憑代が必要とされる。通常のサーヴァントにとっての憑代は、召喚者であるマスターだ。しかしルーラーはマスター不在のサーヴァントである――それでも霊体には変わりなく、憑代も必要とされる。

 

 憑依顕現。マスターなきサーヴァントであるルーラーを現界せしめているのは、この特殊な方法による。これは現代を生きる人間の一人に憑依――体を借りて行動をする方式である。本来の体の人格も決して抹消されているわけではないが、憑依している間の主導権はルーラーに存在する。

 

 憑依先が学も富もない十六歳の少年だったことは、ルーラーにとって幸いなのか不幸なのか判じかねる。だがいけ好かない魔術師や商人に憑依するよりは、はるかに快適な憑依生活であることに間違いはない。

 憑依先に現在問題はない。しかしルーラーを困らせていることがある。

 

「――腹が減った」

 

 路銀を使い鉄道で上海にたどり着き、知識通りに教会を訪ねた。戦争の開催を知っている教会の神父や修道女はルーラーを快く受け入れた。

 

 九鼎は中国伝来の器。その戦争で何故神の子を崇める教会が一枚噛んでいるのか。それはこの九鼎戦争の原型は、東の島国である日本で企てられた聖杯戦争の仕組みをごっそり換骨奪胎したものである。九鼎となってしまった聖杯は最早聖杯でもなんでもないのだが、それでも願いを叶えサーヴァントを呼ぶ奇跡の釜に変わりはない。

 よって、極めて関心が薄くとも、教会は神秘の漏えいを防ぐという名目で仮初の監督役を置いているのだ。しかし前述のように興味が薄いため、監督役はおよそルーラーの兼任となっている。

 

 話を戻すが、そういうわけでルーラーは教会にて食事や寝所も供されており、その質もなかなかのものだった。

 ただ、いくら食べても腹がへり、いくら寝ても眠いのが問題だった。おかげで常に背負った風呂敷に饅頭やパンを詰めているありさまだ。先程仲に向かって睡眠時間を偽ったことを叱ったが、おそらく仲とて予想以上の疲労に驚いている。

 

(……昨夜の大明律のせいか、今日は酷い。錦衣衛も何体出せるかわからんな)

 

 まだ戦争が本格的に始まるまでには猶予がある。今は体を休め、効率の良いこの体の使い方を考えなければならない。

 何と不便な人間の体だと、かつて自分も地に足をつけて生きた人間であったことを棚に上げて、ルーラーは毒づいた。

 

 

 




ルーラー顕現したのがもしなんもない野原とかだったら、apoルーラーよろしく木の根をかじるか「乞食坊主からのスタートだぁ!ヒャッハー」状態で、出会った人間片っ端から宝具ぶつけかねないくらいに機嫌最悪恐怖の上海道中になるところだったので、本当に匪賊のアジト顕現でよかったですね!


ルーラー「本来は凌遅三千刀だが、相手は中華に名だたる英霊たちだから敬意を払ってゼロ1コサービスしておいた。ありがたくうけとれ」
セイバー「サービスの意味知ってる!?」
ルーラー「特に俺はお前をマジリスペクトしてるから三万刀か草人形か選ばせてもいいぞ」
セイバー「ねえ君本当に狂ってないの??そして何で私にぶっぱする前提!?もうやだこいつ怖い」

※凌遅三千刀……凌遅刑は生きた人間の肉を少しずつ切り落とし、長時間にわたって激しい苦痛を与えたうえで死に至らす刑。かつ三千刀とは三千回切り刻んで殺すこと。
ぶっちゃけ三千回に達する前に死ぬ。四百くらいらしい。ちなみに一日で行われるのではなく、二日三日かけて行われる。一日分が終わって生きてたから牢に戻され、そのまま夕食を食べて次の日の続きで死んだ者もいるとか。
滅九族は九族皆殺し。ググって!

※草人形……全身の皮を剥いでその皮に草を詰めて人形にする。ググって!

ルーラーの選定条件って『現世に何の望みもない事』『特定の勢力に加担しない事』諸々のため、聖人が呼ばれやすいそうな。まあこいつも三分の一聖賢だからな(震え

身長:172cm/体重:60kg(※仲の体)
属性:秩序・狂

クラススキル

真名看破:A 
サーヴァントの真名を知ることができる。
知覚能力:A+
十キロ四方に及ぶサーヴァントに対し知覚が可能になる。この知覚能力はサーヴァントの生存・消滅を確認するためのもので霊基盤を上回るほどの精度があるが、『気配遮断』を持つアサシンの場合、存在することは分かっても具体的な座標をを掴むことはできない。
天帝決裁:A
命令やペナルティを執行するため、召喚された聖杯戦争に参加する全サーヴァントに使用可能で、絶対命令を下せる特殊な令呪を各サーヴァントごとに二画保有する。(要するに神命決裁中華版)

固有スキル
皇帝特権:EX
自分がスキルを得るのではなく、敵サーヴァントの如何なるスキルも一時的に消失させる。Aランク以上であれば神性など肉体面のスキルも消失させる。
中国史上最強の皇帝専制政治の実行者であり、朝野の人材を殺し尽くした史実による。

混沌の魂:A
後世の歴史家に「聖賢・豪傑・盗賊を兼ねたり」と評される複雑な魂によるスキル。これにより狂化しても正常な思考能力を保つことができる。また、同ランクまでの精神汚染を完全に防ぐ。

高速思考:B
 物事の筋道を順序立てて追う思考の速度。
 一日で約六百件の案件を皇帝として処理しうる思考速度を持つ。

カリスマ:A-
 大軍団を指揮する天性の才能。
 恐怖による支配なので能力・統率力こそ上がるものの、兵の士気は減少する。

適合クラス:バーサーカー

そういや1930年代はルーラーの後輩というか青は藍より出でて藍より青しみたいな、けざわひがしという方が生きておりましてね。
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