どうも皆さん、ティンダロスを番犬に使う男。モードレッドです。
アサシンがアーチャーに瞬殺された、遠坂陣営による茶番のあった日の夜。
港の倉庫街にて、二人のサーヴァントが向かい合っていた。
一方は、両手に長槍と短槍を持った、ランサーであろう美丈夫。もう一方は、ドレスの様な鎧に身を包んだ姫騎士、ぶっちゃけ王さまである。
俺は拠点にて、使い魔との視覚共有を用いて二人の戦いを見守っていた。使っているのは勿論ティンダロスの猟犬である。
え?お前行かないのかって?
だって俺キャスターよ?前衛じゃなくて後衛職だよ?
何?武闘派キャスター?それ言われちゃぁ御仕舞い何だけど…。一応、戦闘用の魔術礼装とか用意してるけどもさ。
あ、ランサーが宝具の封印を解いた。
「魔力を打ち消す紅い魔槍か…相性悪過ぎだろオイ」
王さまとランサーが打ち合うと、王さまの剣に掛かっている不可視の魔術が一時的に解け、その姿が露になる。
ランサーが使う紅い魔槍は魔力を打ち消す為、魔術メインで戦う俺には相性が悪い。…物理的に叩くしかないか。ただ、打ち消せるのは触れている部分だけの様だから、点じゃなく面で攻撃すれば行けるかも。
ランサーの槍によって、魔力で編まれた鎧を無視して攻撃され、傷を負った王さま。直ぐ様後ろのホムンクルスに治療を受けて回復する。その後…。
「あ、馬鹿、今魔力の鎧を解除したら…」
何と魔力の鎧を脱いで突撃してしまった。相手のもう片方の宝具の効果も分からないのに突撃すんなよ…。
「あ~言わんこっちゃない」
王さまが魔力放出のスキルで高速接近すると、ランサーは足下にあったもう一本の槍を使って迎撃した。
王さまはこれにを回避するものの、左手を切られた。あの出血と位置から、恐らく親指の腱を切られたのだろう。
「もう一本の槍は不治の呪いか」
治療をしているホムンクルスが動揺しており、王さまの左手の傷が治っていない。
魔力を打ち消す紅い魔槍と不治の呪いを付与する黄色い魔槍…輝く貌のディルムッドか。
「何でランサーのマスターは、
絶対アホだろ。ディルムッド召喚するなら、フィン呼んだ方が良いのに。まぁ触媒が無かったからなんだろうが。
王さまとランサーが再び打ち合おうとした時、雷が降り注ぎ、ライダーが乱入してきた。
『我が名は征服王イスカンダル。此度の聖杯戦争ではライダーのクラスを得て現界した』
いきなり出て来て真名名乗りやがったぞ、こいつ。
ライダー曰く、聖杯を使う権利を分けてやるから、自分の軍門に降れとの事だ。当然の如く二人はこれを拒否。ランサーは主への忠義のため、王さまは王としての誇りから。……こんな馬鹿に、一度世界は征服されかかったのか。
この時のモードレッドの思考は奇しくも、衛宮切嗣と同じものであった。
その後、ランサーのマスターがライダーのマスターを嘲笑するような言動をするが、ライダーの"お前は俺のマスターに相応しくない"的な発言で逆に笑われた。
『おいこら!まだ居るだろうが、闇に紛れて覗き見している連中は』
『どういう事だ?ライダー』
王さまがライダーの発した言葉について質問すると、ライダーはサムズアップしながら答えた。
『セイバー、それにランサーよ。うぬ等の真っ向きっての競い合い、誠に見事であった。あれほど清聴な剣劇を響かせては、引かれて出て来た英霊がよもや、余一人ということはあるまいて』
確かに。王さまとランサーの剣劇は素晴らしく、キャスターじゃなかったら乱入したい位だった。
『聖杯に招かれし英霊は、今ここに集うがいい!!尚も顔見せを恥じるような臆病者は、征服王イスカンダルの侮蔑を免れぬものと知れ!!』
……あ"?
「んだとゴラァ!!誰が臆病者じゃぁ!!」
ライダーが挑発した港街にて、一匹の犬?が吼えた。
「なんだ…あれ…」
犬と呼ぶには余りにも不気味で、醜悪な容姿。怪物が犬の姿を取ろうとして、誤って成っているかのようだ。
皆がその姿に注視する中、セイバーにはその姿に見覚えがあった。
「…(あの怪物、モードレッドが以前召喚したものに似ている)」
「ほう、これはまた随分と面妖な。して、お主はキャスターか?」
「そうだよ!魔術で言葉伝えてんだよ!つかテメェ等、今家の番犬の事気持ち悪いと思ったな?…俺もそう思う」
『(お前もかよ…)』
この場にいない者を含めて、聖杯戦争関係者全員の思いが統一された瞬間だった。
そこに更に新たなサーヴァントが加わる。アサシンを瞬殺したアーチャーである。
「俺を差し置いて王を称する不埒者が、一夜に二匹も沸くとはな」
「難癖付けられた所でなぁ…イスカンダルたる余は、世に知れ渡る征服王に他ならぬのだが」
「戯け。真の王たる英雄は、天上天下に俺唯一人。後は有象無象の雑種に過ぎん」
「そこまで言うなら先ずは名乗りを挙げたらどうだ?」
「問いを投げるか、雑種風情が。王たるこの我に向けて!我が拝謁の栄に目して尚この面貌を見知らぬと申すなら、そんな蒙昧は生かしておく価値すら無い!」
アーチャーが怒気と共に、背後に二つの宝具を展開する。
「成る程、アレでアサシンを殺ったのか…」
セイバーがアイリスフィールを守ろうと傍に寄る。アーチャーの宝具が、ライダーに向けて照準を定められたその時。
「英雄王ギルガメッシュ」
「え?」
不意に、アーチャーの怒気が止んだ。
「ほう、我の名を知る者も居るではないか。それが斯様に醜悪な者では、些か不愉快ではあるが」
「そいつはすまなかった。こいつは俺の使い魔の中で一番機動力が有るから偵察に使っているだけだ。今別のと交代させよう」
そうキャスターが言うと、ティンダロスの猟犬は消え去り、代わりに黒い猫が現れた。
「何分俺はキャスターなもんで、あんたの前に堂々と姿を晒すのは怖くて怖くて」
「フッ……、良かろう、貴様のその知識に免じて赦す」
キャスターがおどけた様に言ったが、アーチャーはその様子を気に入ったのか、特に咎めはしなかった。
それよりもセイバーは気になる事が有り、キャスターに声を掛けた。
「m……キャスター、何故アーチャーの真名が分かった?」
「ん?んなもん簡単だぜ?アーチャーとアサシンの戦闘を見れば、大体は予想が付く(あ、これバレかけてるわ。モって言ったもん、モって)」
キャスターは何でも無いかの様に話し出す。
「先ず第一に、アーチャーのあの大量の宝具。普通サーヴァントが持つ宝具の数は、多くても5~6個位だ。だから、アーチャーの正体はそれだけの
キャスターが話した内容に唖然とするも、直ぐに油断ならない者だと気を引き締める一同。(アーチャー除く)
その時、黒い影が現れた。
「バーサーカー!?」
「なぁ、征服王。彼奴には誘いを掛けんのか?」
「誘おうにもなぁ…ありゃ、のっけから交渉の余地が無さそうだわなぁ。で、坊主よ。サーヴァントとしてはどの程度のもんだ?」
「……分からない、まるっきり分からない」
「なぁんだ?貴様とてマスターの端くれであろうが。得てだの不得手だの、色々と、見えるものなんだろ?」
「見えないんだよ。あの黒い奴、間違いなくサーヴァントなのに、ステータスも何も全然読めない!」
「……むぅ」
ウェイバーが唖然とした様子で声を挙げ、ライダーが唸った。
「どうやら、アレもまた厄介な敵みたいね」
「どうやらあの英霊は、自らの正体を隠す呪いや特殊能力を持っている様です。……ですがあの姿、何処かで見覚えが」
アイリスフィールがセイバーに声を掛け、それに応答するセイバー。
「テメェ………何やってんだ?」
先程までおどけていたキャスターが、初めて怒りを示した。それを見た面々は、キャスターの生前の知人か何かだと推測する。
「そこは…………バーサーカーのクラスは俺のポジションだろうがぁ!!何でテメェが成ってんだよ、セイバークラスで現界しろよ!そのせいでキャスターになっちまっただろうがぁ!!」
キャスターの何処かズレた怒りに、『あぁ、コイツはこういう奴なんだ……』と、納得する一同。
「待ってろやテメェ!今すぐそっち行ってぶち殺したるからなぁ!!」
そう言ってキャスターの使い魔は消えた。
そんなキャスターの様子を気にも止めず、バーサーカーは街灯の上に立つアーチャーへと視線を送る。
「誰の赦しを得て我を見ている?狂犬めが」
視線を投げられたアーチャーは、さも不愉快だと言わんばかりに宝具をバーサーカーへと向ける。
「せめて散り様で我を興じさせよ、雑種」
アーチャーからバーサーカーへと二挺の宝具が射出される。それは着弾し、
宝具によって起こされた爆煙を見ながらランサーは言う。
「奴め、本当にバーサーカーか?」
「狂化して理性を失っている割りには、えらく芸達者な奴よのう」
「え?」
ランサーに続いて言ったライダーの言葉の意味が分からず、疑問の声を挙げるウェイバー。
煙が晴れたそこには、アーチャーの射出した剣を持ったバーサーカーが居た。
「まさか…」
「そのまさかだ。奴は先に飛来した剣を掴み取り、後から来た槍を打ち払ったのだ」
圧倒的な絶技、バーサーカーと成って尚失われぬその武勇。だが、アーチャーにとってはそんなもの関係無い。自らの決定に逆らったばかりか、その宝物に許可無く触れたのだ。アーチャーにとっては、万死に値する。
「その穢らわしい手で我が宝物に触れるとは、……そこまで死に急ぐか、狗!!」
「そんな!?」
アーチャーは不届き者へと裁きを下すため、更なる宝具を出現させる。
「その小癪な手癖の悪さをもって、何処まで凌ぎきれるか。…さぁ!見せてみよ!」
標的へと射出される大量の宝具。バーサーカーはそれらを的確に防いでいき、時には手持ちの武器を交換していく。
最後の宝具が射ち終わった時、バーサーカーは手に持つ二つの宝具をアーチャーが立つ街灯へ向かって投げつける。
ヒュンッ カキンッ
寸断された街灯からアーチャーは飛び降り、地面に着地する。
「痴れ者がッ……天に仰ぎ見るべきこの我を、同じ大地に立たせるか!!」
圧巻。
アーチャーの背後に恐ろしい数の宝具が展開される。その種類はは様々で、剣に槍、斧に矢、どれをとっても一級品だと一目で分かる物ばかりだ。
「その不敬は万死に値する!そこな雑種よ、もはや肉片一つも残さぬぞ!!」
バーサーカーはこのままアーチャーによって討たれると、誰もが思った。しかし。
「貴様ごときの諫言で、王たる我に退けと?大きく出たな時臣」
不満はあるものの、令呪を使ってまで言われれば仕方なく退く事にする。
「命拾いしたな、狂犬」
バーサーカーへと吐き捨てる様に言うと、他のサーヴァントへと視線を向けて言った。
「雑種ども、次までに有象無象を間引いておけ。我とまみえるのは真の英雄のみでよい」
そのままアーチャーは霊体化して去って行った。
「フム、どうやらあれのマスターは、アーチャー自身程豪気な質ではなかったようだな」
アーチャーが去った後、残されたバーサーカーに視線を向けるセイバー。バーサーカーもまた、セイバーへと、視線を向けていた。
「A……Aruuuuuuuuッ!!」
先程アーチャーが立っていた寸断された街灯の鉄柱を持ち、セイバー向かって吼えながら突進するバーサーカー。
セイバーが迎撃しようと構えたその時。
「テメェ、何やってやがる!!」
ドゴォン!!
突如ロケット弾がバーサーカーに飛来し、吹き飛ばした。
突然の出来事に茫然とするも、声がした方向、すなわちロケット弾を撃った者がいる方向を向いた。
「………どうやら、アーチャーはもう帰ったらしいな」
そこにはキャスターと思しき鎧姿のサーヴァントが、片手でバズーカ砲を担いでコンテナの上に立っていた。キャスターはアーチャーの姿を探して周囲を見回した後、帰ったと結論付ける。
キャスターの正体を知るセイバーは動揺して声を溢した。
「あ、貴方は……」
それを聞いたキャスターはセイバーへと向き直り、使い魔の時の様に軽い調子で言った。
「よっす王さま。久し振り!」