深夜の冬木の道路を一台の車、メルセデス・ベンツが駆けて行く。その速度は道路交通法なぞ知らんとばかりに速く、時速100キロは出ていた。
「ね!ね!結構スピード出るもんでしょ、これ!」
「お、思いの外、達者な運転ですね……」
顔をひきつらせながらセイバーは応えると、ガゴンッ!と、車が大きく跳ねる。
「でしょ~!こう見えても猛特訓したのよ♪切嗣が持ってきてくれた玩具のなかでも、これが一番のお気に入りなの!」
「玩具ですか……」
セイバーは思う。
こういった、使い方によっては凶器にもなり得る物を無邪気に笑いなが扱う姿を見るとモードレッドを想起させる。
「お城じゃあ中庭をぐるぐる回るだけだったから、もう最高!」
「専門の運転手を雇っても、よかったのでは?」
「だめよ、つまんなi…じゃなかった。危険ですもの!」
それが本音か。
「ここで敵に襲われたらどうするの!」
「それは、そうですが」
絶対に言いかけた方が本音だ。
時折注意しつつも、アイリスフィールに運転を任せてセイバーは思考する。内容は勿論モードレッドとランスロットの事だ。……といってもモードレッドの割合の方が大きいが。
自らのせいでバーサーカーに堕ちてしまった無二の親友。モードレッドが語った通りなら、彼は私に裁かれる事を望んでいる。
ならばその役目は、必ず果たさねばならない。
ギネヴィアとの不倫に関しては、今でも自分は恨んではいない。寧ろ、彼女の事を思うならば感謝している程だ。男ですらない私に嫁がされた彼女を支えていたのは他でもないランスロットであり、私もまた二人の関係を容認していた。
そういえば、一時期モードレッドが良く不審な行動を取っていたが、それは丁度二人の関係が始まった頃ではなかったか?もしかするとモードレッドはあの時既に二人の関係を知っており、他の騎士達に知られない様に動いていたのかもしれない。
そう考えると流石はモードレッド、自慢の息子だと思う。
………………何時からだろうか?私がモードレッドを本当の息子として見始めたのは。
初めに会った時は変わった騎士という認識だった。
騎士であるにも関わらず騎士道を重んじず、剣と魔術を用いて戦い、時には徒手空拳で戦う事もあった。
出身から素顔に至るまで、素性に関する事は名前以外誰も知らないが、数年の内に円卓の騎士を含めた名うての騎士を次々と打ち負かし、イングランド統一戦争でも活躍することで円卓の末席に名を連ねる事になる。
その後、モードレッドが円卓会議に初参加した際の不用意な発言が切っ掛けとなり、全ての騎士達に私が女である事が知れ渡ってしまう。
モードレッドは責任を感じていたのか、私が女であると知った、現状に不満を持つ豪族達の反乱を率先して鎮圧していく。
サー・ガウェインとの決闘。
反乱の切っ掛けとなったモードレッドを処罰せぬ訳にはいかなかったが、私が性別を秘匿していたのが悪かったのではないか?と口に出す者もいたため、騎士らしく決闘の勝敗で処罰の有無を決める事となる。
この決闘によって、正体不明だったモードレッドの素性が明かされる。
その正体は、姉、モルガンが王位簒奪の為に作った私のクローンのホムンクルスであった。
私のクローンの筈なのに男として産まれている事に若干思うところがあり、つい睨んでしまった私は悪くない筈だ。
…たとえ私の血を引いていようと、不義理の子である事には変わりは無く、それ故に王位を譲る気は無いのを話したとき、彼はあっけらかんと言った。
「俺別に王位とか興味ありませんよ」
衝撃的だった。モルガンの手によって私から王位を奪う為に作られた存在が、自分からその在り方を否定したのだ。
この時から、だろうか?明確にそう思ってはいなくとも、僅かだが心を許しかけていたのは確かだ。
その後蛮族どもの侵攻があり、マーリンからの追求をうやむやにして回避していたのは純粋に凄いと思ったが。
その後も、というか素性がバレてからは今まで以上にフランクに皆と接し始め、それは私に対しても変わらなかった。一部の騎士(ガウェイン等)はそれに対し反感を抱いていたりしたが。
そんなモードレッドと共に過ごしていると、ギネヴィアとの間に子供がいたら、こういう物なのだろうかと思考したりもした。
いつまでもこんな時間が続けば良いと、そう思っていた。
ゾスの星の
奴が居なければ私は、愛する息子を失わずに済んだのだ。
だから私は聖杯に願う。たとえ死後の自分を売り渡してでも、奴の存在をこの星の歴史から抹消する事を。
「……バー、…イバー!セイバーたら!」
「ッ!」
「もうセイバーったら、聞いてるの?」
「…すみませんアイリスフィール。少し考え事をしていました」
「………それって、あのキャスターの事?」
「ええ……彼、モードレッドの事です」
「モードレッドってあの?でも彼に魔術師の伝承なんて有ったかしら?」
「…この時代に彼についての文献は余り多くは無いですし、大分捻じ曲げて伝わっていますから、知らないのも無理はないでしょう」
「そうなの?私が知っているモードレッド卿は、貴女とモルガンの不義の子で、国を滅ぼした叛逆の騎士という事なのだけれど」
「いいえ、寧ろ逆です。彼は国を救うために、一人死地へと向かった英雄です。それに彼はマーリンに認められる程の魔術の腕を持っていますから、キャスターのクラスでも不思議は無いかと」
召喚されてから知った事だが、この時代にモードレッドは叛逆者として伝わっている。その事に対して私は怒りを禁じ得なかった。
「あら?何かしら?」
「どうしました?」
「後の方から追ってくる車がいるみたい」
バックミラーを確認すると、一台の自動車が追って来ている。僅かながら魔力を感じる為、敵の可能性が高い。
「アイリスフィール!速度を上げて!」
「もうやってるわ!」
アイリスフィールは更に速度を上げ、160キロを越える。
セイバー達が乗るベンツにぴったりと付いて走る車、AE86はベンツが速度を上げれば上げる程、更に速度を上げ、今にも追い越そうとしていた。
この小説の読者の皆さんならもうお気付きかもしれないが、このAE86の運転手は勿論のこと〔イニシャルD〕を真似たモードレッドである。
実はモードレッド、既に全ての陣営のマスター及びサーヴァントを使い魔を通して監視しており、アイリスフィールが車で爆走しているのを見て自分も走りたくなったのだ。
但しモードレッドは、モードレッドに転生する前の生に於いてバイクの運転経験はあるが、自動車は親が運転している所を見たことしかない。
つまり
「アクセルとブレーキしか分からねぇ」
ほぼ運転出来ないのである。
分からない部分は全て魔術で補っている為、魔力によって周りには魔術師が乗っている事がもろバレである。
ハチロクは、直線でベンツの前に易々と躍り出ると、速度を落として左に寄り、並走し始める。
ハチロクが窓を開けて運転手が顔を出す。全身鎧の騎士甲冑である。
「その程度の腕じゃ、公道最速は名乗れねぇぜ」
そう言い残してそのまま速度を上げて走り去って行き、見えなくなった。
謎の貫禄を醸し出しながら放たれた言葉にセイバーは呆然とするも、モードレッドが運転手だと知るや否や特に疑問は浮かんでこなかった。
バカを相手にする時、深く考えてはいけない。
セイバーが騎士王時代に得た真理の一つである。
しかし、モードレッドの言葉に異様に反応した人物がいた。
「………言ってくれるじゃない。良いわ、その挑発に乗ってやろうじゃないの!」
「え、ちょ、アイリスフィール?一体どうしたんですかって何でそんなにアクセルを全力で踏んでるんですか!?」
アイリスフィールはアクセルを深く踏み込み、速度を上げる。時速は200キロ以上出ており、最早安全など気にも留めていなかった。
しかしどれだけ速く走ろうとも、結局ハチロクの姿を再び見る事はなかった。
※後で切嗣にみっちり叱られました。
「あ~!楽しかった!」
遅れ馳せながら、どうも皆さんこんばんは。モードレッドです。
たった今王さまと聖杯の器をおちょくって来た所です。そして現在は、冬木ハイアットホテルの正面玄関へと来ています。
やはりランサーのマスターは、魔術によってバズーカ砲を防いでおり存命中の為、トドメを刺しに来ました。
え?今回の俺の出番これで終わり?
アイリスフィールがモーさんについての伝承を詳しく知らないのは、単に無知なだけです。
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