俺は死んでしまった彼女を、あの泉の近くに墓を作り、そこに埋葬する事にした。
モードレッドとアーサー王の死により、両軍は急速に瓦解していく。最終的には、史実と同じくブリテンは滅びる事になった。
呆気ないものだった。俺と彼女が
モードレッドが死んでから、俺は死者蘇生の研究に没頭していた。たとえ倫理に反する事であっても、俺は止められない。
幸いにして、俺は実現可能な蘇生手段を知っている。
そして俺が今行っているのは、その前段階として必要な技術。鋼の錬金術師に出てくる禁術、人体錬成だ。
原作鋼の錬金術師に於いて、人体錬成では死者蘇生は不可能だとされているが、俺自身それに反論する気は無い。錬金術の家系出身であるからこそ、それが不可能である事が分かる。
だが、人体錬成を行っても死者蘇生は出来なくとも、副作用として真理の扉を見ることは出来る。俺の目的はそれだ。
これはあくまで俺の予測に過ぎないが、恐らく真理の扉の向こうに在るのは根源か、それに準ずる物だと思っている。俺はそれによって根源へ到り、魔法を会得する。そして、モードレッドを蘇生する。
真理の扉を開けても、此方側に戻って来れなければ意味がない。錬金術の基本は等価交換。扉を開けて、魔法を得てから戻って来るには相応の対価が必要になる。それこそ、莫大な量の命が。
だがその心配は無い。何せ此処には、蛮族という
待っていろモードレッド。必ず生き返らせてみせる。
研究を続けて早20年。大勢の蛮族を使って賢者の石の生成を試みて来たが、あまり芳しく無い。生きた人間100人を材料に石を作ると、殆どが消え、僅か2~3人分程のエネルギーが限界だ。これでは余りにも効率が悪い。
こうなってしまう原因は、賢者の石の生成段階で大半の魂が運用すら出来ずに、壊れて消えてしまう為だ。もっと強度の高い命でなければ、高ランクの石を作れない。
……………そうだ、確か死徒とかいう、人間の上位種が居た筈だ。そいつらを材料にすれば可能かもしれない。早速捕獲して来よう。
三人程捕獲して来た。中々強かったが、こちとら円卓の騎士相手に鍛練を積んでいたんだ、そう簡単には負けん。それでも一人捕まえるのに一年掛かったが。
コイツらを賢者の石にしようとして気付いた。別に賢者の石を作らなくても、複数の死徒を捕まえて対価として使えば良いんじゃね?いや寧ろその方が速かったんじゃ………俺の20年は何だったんだ…orz
まぁ良い。早速人体錬成を行い、真理の扉を開けるとしよう。
人体錬成用の魔法陣を用意し、生け贄要員として三人の死徒を陣の中に入れる。
「頼む!助けてくれ!!」 「くっ…殺せ!」 「WRYYYYYY!?」
一人変なのが居る気がするが、気にしない方向でいく。人間の上位種である死徒という極上の対価で扉を開き、魔法を手に入れる。失敗すれば死ぬという緊張から、体が震えてくる。
「スゥー…ハァー…良し、いくぞ」
魔術回路を起動。陣に魔力を流し込んでいく。すると陣の中央に巨大な目が現れ、周囲には黒い影の様な手が浮き上がって来る。
同時に
あぁ後、序でに三人の生け贄もしっかり居ます。
「やっぱり有ったか、真理の扉。俺の仮説は正しかった」
扉が開いて中から目が除き、沢山の手が飛び出して来る。それらは俺と死徒どもを捕まえ、引き込もうとする。
「さぁ、真理よ!この死徒どもが通行料だ!俺を向こうへ連れて行き、そして魔法を寄越せ!」
俺は抵抗せずに手に捕まり、引き込まれる。死徒どもは抵抗虚しく捕まって、一緒に引き込まれていた。
扉の中には何もない。光も闇も、人も物も、時間も空間も………いや、認識出来ないだけで、きっと在るのだろう。此所は根源なのだから。だが認識出来る様にする必要は無い。必要なモノ、魔法を持ってさっさと帰還するだけだ。
俺が魔法を望むと、俺の中にナニカが入り込んでくる。だが不思議と嫌な気はしなかった。まるでそれを当たり前の様に受け入れている自分が居る。俺はそれを持って扉から……………出れない、だと!?
バカな!?何かをミスしたのか?いや、陣も完璧で魔力も足りていた筈……まさか、対価が足りなかった?行きの分は有っても、帰りの分は無かったのか?
…まだだ、まだ諦めるな。対価が無いのなら、作れば良いんだ。無から有を作れば良い。そうだ、俺の魔法は無の否定。
モードレッドの居ない、この世界を否定する!モードレッドの死を否定する!その為の魔法だ!
魔力を使って根源に干渉。本来そこに在る筈の無い命を作り上げ、それを対価に扉を抉じ開ける!
開いていく扉の隙間から光が差し込んでくる。そして……
「ぅ………ハッ!…………成功、したのか?」
人体錬成を行った研究室で目を覚ます。辺りを見渡すと対価に使った死徒が消えており、それ以外には特に変化は見当たらなかった。
だが、明確に違うと分かる物がある。俺は、魔法が使える。
「は、はは…はははは、あっはははははは!ついに、ついに手に入れた!モードレッドを、彼女を蘇生する手段を!」
あぁ、最高だ。最高の気分だ。…そうだ、彼女を蘇生する前に魔法について色々と調べておかねば。もし、まかり間違って彼女の蘇生に失敗し、苦しめる様な事になれば、俺は罪悪感から自害しかねん。
あれから数ヶ月掛けて調べてみて分かった事を纏めておく。
無の否定はその名の通り、無を否定する。つまり、そこに存在しないという事実を否定し、存在するという事実に変えてしまう魔法だ。これを使えば質量保存の法則など無視して物を生み出せるし、少量の魔力で大量の魔力を生成するという無限機関みたいな事も出来るのだ。
創れる物質は一応制限は無く、とある魔術に出てくる未元物質の様な物質も生成可能だった。ついでにそれで肉体を改造、未元物質に置き換えて若返っておいた。これで俺も不老不死である。
脳を破壊されれば普通に死ぬけど。
一通り調べ終った所で、俺の本来の目的を果たす為に行動を開始する。
嘗て彼女を埋葬した場所へ行き、遺体を掘り起こす。彼女の遺体は既に白骨化していた。そっと遺体を地面に寝かせる。
魔法で肉体を元に戻し、彼女の死を否定する。モードレッドの死、そのものを無かった事にする事で、彼女を生き返らせる。
魔法を発動すると、モードレッドの体から心臓の音が聞こえ始め、血色が徐々に良くなっていく。手を握ればそこには、俺がずっと求めていた彼女のぬくもりがそこに有った。
彼女は、息を吹き返した。
「……ぅん…………セシ…ル?」
「ぁ、あぁ、ぁぁ…モード、レッド……会いたかった。ずっと、ずっと!会いたかった!」
「え?ちょっ、いきなり抱き付くな!」
俺は我慢出来ずに、彼女を抱き締める。もう二度と放さない様に、失わない様に。強く、強く抱き締める。
「モードレッド、モードレッド!モードレッド!!あぁ、良かった、本当に良かった!」
「セシル、いい加減落ち着けって!ちゃんと状況をむぐっ………ぷはっ…い、いきなりキスすんな!」
「もう二度と、二度と放したりしない!ずっと一緒に居よう!」
「~~~このっ、いい加減に、しろ!!」
ガンッ!!
「~ッ痛!」
モードレッドに思いきり頭突きをかまされた。
「その、愛してくれるのは嬉しいけど、ちゃんと状況を説明しろ……オレは、父上と相討ちになって、死んだ筈だよな?」
「あぁ、確かにあの時お前は一度死んだ。その後、俺がお前を生き返らせたんだ………あの戦いからもう、20年以上も経っている」
「そんなにか………父上は?国はどうなった?」
「アーサー王はお前に負わされた傷が元で死んだらしい、詳しい事は分からんが。それから、ブリテンは滅びた。呆気ない程直ぐに、な」
「そう、か………」
彼女は王と国の末路を聞くと、そのまま黙り込んでしまった。彼女なりに、色々と思う事が有るのだろう。
「……なぁ、セシル。これからどうするんだ?」
「これから、か……考えた事も無かったな。…………なぁ、モードレッド。これから一緒に、世界を見て廻らないか?」
今思い付いた事だが、俺は二人で世界を旅したい。そうすればきっと彼女の心も癒せるだろうし、このままブリテンに留まっていても、何も変わらないから。
「…世界を?」
「あぁ。俺たち二人で、色んなモノを見ていこう」
「……良いな、それ。面白そうだ」
モードレッドの了解も得た事だし、早速準備して旅立とう。
旅始めて早十数年。移動手段として魔法で創った自転車を使い、日本を目指して旅している。日本を目指す理由には、俺の前世の故郷という事もあるが、目的地も無く旅をするのはキツイので適当に決めただけだ。
町ごとに泊まって少しずつ旅しており、今は中国の辺りに居る。
旅をしている途中で会った病人や怪我人を魔法で治療していると、いつの間にか通ってきた地域で神として崇められていた。驚きだぜ全く。
後の世に、俺の伝説が架空の英霊として形を持ったりして………んな訳無いか。
ただ、この時代だと西洋の人間ってのはこの辺りには居ないからか、すげぇ目立つ。町を歩くだけで奇怪な物を見るかの様な目で見られる。
居心地が悪いので、早々に旅立つ事にする。
海を渡って日本の佐賀県の辺りへ到着。クルーザー創ったから楽だったぜ。
日本に渡って気付いたが、此処、神秘が結構残ってる。ブリテン程じゃねぇけど。
異国から来た旅の術師と名乗り、治療しながら本州を目刺し、着いたら国を巡って行く。
富士山を見掛けた際に、世界で一番最初に登った人になろうと登山を決意。モードレッドを説得して行ってみたら先客が居た。
青いジャージを着た男と赤いジャージを着た男だ……何だろう、凄い見覚えがある。
青い方は面倒臭そうだし、赤い方に話し掛けよう。
「あのーすいません。もしかして、もうこの山登りました?」
「いえ、まだですよ。もしかして、あなた方も登山ですか?」
「ええ、そうなんですよ。そうかーまだ登って無かったのか~良かったー…これで一番最初に富士山を登った人が、俺になるんだからなぁ!!」
ダッ!
「なにぃー!貴様もそれが狙いだったのか!」
「そうさ!さぁ行くぞモードレッド!」
「あ、おい待てよセシル!」
富士山頂へ向けてダッシュ!魔法で肉体は強化しねぇ、素の身体能力だけで登ってやる!
「待てぇー!この私をどなたと心得る、恐れ多くもカレー大好き…………カレー大好き…何だっけ?「聖徳太子」彫刻太子だぞー!待てー!……あれ、彫刻?いや聖徳太子だぞ!待てー!」
ピタッ
「今、聖徳太子と言ったか?」
俺は動きを止め、振り返る。
「そうだ、私が聖徳太子だ!だから富士山には私が先に登るんだ!分かったらそこを退け、この、えーと、…異邦人め!」
「散々考えてそれか、おい。……本当にお前があの聖徳太子?冠位十二階を作った、あの?」
「そうだぞ、私が冠位、冠位…「冠位十二階」そうそれだ!それを作ったのだ。どうだ凄いだろう、崇めても良いんだぞ?」
俺は青ジャージを無視して、確認する様に赤ジャージの方を向く。青ジャージが文句を言って来るが、尽く無視する。
「ええ、非常に残念な「何だよ残念って!」事に、この人があの聖徳太子です」
「無視か~お前ら全員私を無視するのか~、ちくしょー!こうなったらお前ら全員極刑にしてやる!罪状は道端の花を踏んだとかそんなのでだー!」
「「うるさいですよ太子/ぞ青ジャージ」」
「ちくしょう、ちくしょう…」
青ジャージ改め、聖徳太子が体育座りで落ち込んでいる。誰も気に掛けないけど。
「なるほど、アンタがあの小野妹子か。会えて光栄だぜ」
「え?僕有名なんですか?」
「有名も何も、隋の皇帝になりすましてた宇宙人を倒して、国を救った英雄として称えられてたぞ?」
「ええー!そんな事になってたんですか!?」
太子を置いて、他愛もない世間話をしながら三人で富士山を登り始める。
「二人とも、あの人置いてって良いのか?」
モードレッドが太子を心配そうに見ながら訊いてくる。が、妹子の態度は素っ気ない。
「良いんですよ、あの人はあれで。そのうちひょっこり付いて来ますから」
そうこうしてる内に山頂付近。
「へぇー遥か西の方から旅して来たんですか」
「ああ、中々楽しい旅だったぞ?……おっ彼処じゃないか?頂上」
「そのようです「シャッオラー!私が一番乗りだーい!うっひょひょーい!」nって速ぁぁ!!」
頂上が見えた瞬間、いつの間にか一緒に居た太子が全力疾走して登り始めた。
「ちょっ、何やってんですか太子!折角仲良く頂上を目指してたってのに、何てことを!」
「うっさい、この芋子め!私が一番最初に富士山を登った人として、歴史に名を残してやる!」
「あーもう、太子ってば………そんなんだからモテないんですよ」
「ウワアァァァァァァ!!」
「うお!?物凄い勢いで滑り落ちていった!」
妹子が太子を罵倒した瞬間、太子が高速で山を滑り落ちていった。何だったんだ、アレ。……まぁ良いや。
「ふぅー、登頂完了」
「あー疲れた。セシルー、後でマッサージしてくれよー」
「分かった、後でな」
「お二人共、折角山に登ったのでアレをやりませんか?」
「アレか…良いんじゃないか?」
「じゃあ1、2の3でいこうか。……1、2の、3!」
『『『ヤッホォーー!!!』』』
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!
何だ今の揺れと音は。雪崩でも起きたか?でも大丈夫だろう。この山には今、俺たちの以外に人はいないし。
「うぅー酷い目に会った。くそう!あいつらめぇ、もう山頂着いてるんだろうなー、ちくしょー!後で靴になめこ入れてやる!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!
「ん?何の音だ?………雪崩!?」
うわぁぁぁぁぁぁ………………
その後雪崩に呑み込まれた太子は、数時間後にセシルによって救出された。